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りばーすわーるど!  作者: 哀愁みかんす
1000年に1人の美少女(仮)爆誕
8/8

#7  二十二年後の世界

 

 

 2046年、前世の私が生きていた二十二年後の世界。

 小さい頃想像していた、空を飛ぶ車や月まで届くエレベーターなんてモノは、およそ二十年がたった今でも、まだ空想の域を出ていなかった。いや、空を飛ぶ車は発明はされたらしい。しかし、空を飛ぶことのリスクとリターンが見合ってないとかの大人の事情で実装には至らなかった。


 電車の窓から見える景色は二十年前よりも都市化が進んでいて、当時同じく電車の窓から見えた、一軒家や年代を感じさせるアパートが並ぶ街並みは、今では高層化が進んで、見えるのは規則正しく並んだ窓ガラスばかりだった。

 二十年の間でさらに都市化が進んだ東京だったが、それでも東京の街並みは、以前の記憶にそう遠いものではなかった。


 前世と最も異なっているのは、”模倣都市”と呼ばれる地域で、宮城、群馬、徳島、広島といった四つの県の都市部を、東京やその他の五大都市の街並みや重要施設の頒布を基にして再開発し、わずか十年という期間で模倣都市の完成を迎えた。


 それらの都市は政府から”疑似東京”とも呼ばれたが、新たな四つの都市は政府の考えとは裏腹に、どれも五大都市を凌ぐほどに凄まじい発展を見せた。

 

 また、模倣都市はそれぞれ、第一模倣都市:宮城、第二模倣都市:群馬、第三模倣都市:徳島、第四模倣都市:広島と新たに名付けられ、既存の、札幌を除く東京、大阪、名古屋、福岡を含んだ八つの都市間をリニアモーターカーが繋いで、都市間の迅速な移動を可能にした。

 これにより日本の経済状況は、一時は悪化したものの、すぐに大きく好転した。

 

 もちろん、模倣都市が所在する県の全地域が都市化してしまったという訳ではなく、宮城だったら仙台市周辺、群馬だったら前橋、高崎市の周辺だけだったりと、どの都市でも元の風景がそのまま残っている地域はある。

 東京でも、私が前世(まえ)に住んでいた地域なんかは、都市化が進む中、一向に手が加えられないで残されている。


 しかし、大きな変化には良い影響がある反面、当然悪い影響もその背後に潜んでいた。

 そういった、一部は大都市、一部は田舎みたいな地域が生まれてしまうと、当然人口は都市部に集まってしまうし、元々五大都市ほど発展していない地域が急激に発達したが故に、県内での都市部と地方の間で経済格差が広がり、また、新都市開発に際してのAIの積極的な採用による従業員の一斉解雇、都市部の地価の急激な上昇による、元の居住者の地方への移動など、様々な理由により、模倣都市郊外にスラムが形成されたり、職と住居を失ったホームレスが街に溢れたりで、現在の日本の治安は、戦後類を見ないほどに悪化していた。


 



 


 (——ですから、いくら中央都市街ではないといえども、小夜凛様はこれから東京の、しかも人がかなり多い場所に行くのですよ?危機感をしっかり持ってください)


 持っているとも!現に、今もこうして痴漢がいないか、危機感を張り巡らせている最中だぞ。


 小夜凛は今、電車に乗って、東京の割と都市部の方面に向かっていた。

 車内には、春休みの恩恵を受けられない社会人達が、通勤のピークはとうに過ぎたものの、それなりに見られた。

 南無三。


 (危機感ねぇ……。昨日の路地であった事覚えてる?奇襲されてもあの対応力だぞ?そんなものがこの私に必要だとは到底思えないんだけども)

 

 昨日のテレビの内容と夜ご飯の唐揚げの味しか頭に残ってないんじゃないのか?


 (よく覚えていますよ。特に、テンパって、はわぁ〜みたいな声を上げていた時の小夜凛様は、一生忘れないでしょうね)


 (よくそんな事覚えてたな。忘れていいぞ、私は今から頑張って忘れる)


 ノインのせいで嫌な記憶が蘇って来た……。中身はいい歳したおっさんだってのに、あんな声が無意識に出るなんて……。

 いや、この歳の少女なら普通、むしろ最高のリアクションなんじゃないか?

 やはり覚えておこう、私の美少女道の軌跡として。


 (ただ、そこ以外はとても完璧な対応だったと思いますよ、私も。訓練の甲斐がありましたね)


 本当に訓練の成果がよく出ていた、というか出過ぎていた、とノイン目線そう感じた。

 悲鳴を上げた後の、まるで人が変わったような切り替えと冷静さ、そして実践なんてしたことのない、習得したての技の数回による発動。

 何より、これらの全てが、対刻印入り(ホルダー)との()戦闘で発揮されたということに、ノインは驚きを通り越し、異質さを感じていた。

 

 以前——これは小夜凛には話していないが——フルネス様に、小夜凛のサポート天使に就任するに際して、小夜凛がどんな人なのかと話を聞いたことがあった。

 曰く、ずっと探し求めていた()、だと。

 今回のそれが、フルネス様をそう思わせる所以なのかもしれないと、ノインは思った。


 


 

 ノインの話を受け、私は昨日の戦闘を自分なりに振り返ってみた。

 思い返せば返すほど、よくやった、昨日の私!と自分で自分を褒めてあげたくなるような内容だった。

 最初は普段でもあまりないようなテンパり方だったが、上手く切り替えて、冷静に迎撃できた。

 喧嘩や、対人格闘戦の経験なんてものは一切無いが、相手がナイフを取り出した時に、頭の中が急にすっきりして、その後の行動に対処することができた。

 そして、——少し癪だが、ノインに言われてやっていた、刻印の能力を応用し、編み出した技がかなり役にたったと、感じた。

 私の魔刻印が示す能力は反転。

 この能力、結構応用が効き、開拓のしがいがあるのだが、取り敢えず現時点で使える技は二つだけ。

 一つは、二つの物体の()()を反転する技。つまり、物体の位置の入れ替る技、というものだ。

 私は昨日、この技を数回使用して、飛んでくるナイフや男の後ろに落ちていた石と自分の位置を入れ替えて、男を撃退した。

 もう一つは、昨日は使っていないが、飛び道具のベクトルの反転、要は、飛び道具を反射または逆行させる技だ。


 この二つの能力を使えば、機関銃だって怖くない。

 銃撃無効という、いささか美少女に似つかわしくないオプションが追加されてしまったが、これも任務遂行のためには仕方ない。任務を疎かにして、刻印を没収されてしまっては本末転倒なのだ。 

 

 (あ、そろそろ桐久保(きりくぼ)駅に着きますよ)


 ノインがそう言い終わるのとほぼ同時に、列車内にもアナウンスが流れた。

 

 (分かってて言ったの?)


 (はい、何分かかるか数えてました。時刻表との誤差は28秒程度です)


 (へー、暇をもて余すってのは怖いな)


 暇だったので、ノインをからかいながら列車を降りた。











 改札を出てすぐ、駅の周辺に立ち並ぶ多くの高層ビルが目に入った。

 このエリアは、地域全体で、新しくできた桐久保駅を中心に商業集積地を形成したらしい。

 これでもまだ、比較的都市化が進んでいないエリアだというのだ。群馬の商業中心地なんかは、もう別の世界みたいになってるんだろうなぁ。


 立ち並ぶビルを見上げるのもほどほどにして、目当てのシック・ハックス・マート、通称シッパクに入ることにした。

 ちなみにこの略称は、来る途中の電車内で話していた、いかにもなギャルの会話からトレースしたものなので、本当にそう略されているかは定かではない。

 

 シッパクに入ると、建物内には、今日は社会的に見れば一応平日なのだが、それを思わせないくらいの数の人が店内を往来していた。

 しかしよく見ると、それらの殆どが若い人達で、私と同じ理由で訪れている事がわかった。


 (小夜凛様、女子高生の方ばかり見てないで、早く用を済ませますよ)


 (おいやめろ、さも私が邪な目で見ているみたいな言い草は)


 (違うのですか?)


 (当たり前だろ!これは服装のチェックだ。現役女子高生は、この季節にどんな服を着ているのか参考にしているだけ!)


 (なるほど、カラダそのものではなく、あくまで肌の露出に興味がある、と。お陰で、一層変態への理解が深まった気がします)


 もうそういう解釈でいいよ。どうせ、下がることしかないんでしょ?私の威厳。


 私はデカめの溜息を吐いた。


 (早く用を済ませて欲しいんでしょ?だったら静かにしててね)


 さて、まずはどこに行こうかと、ショッピングモール内のマップを眺めていたら、都合良く近くに買い取り店があった。

 まずは真核の方を先に済ませることにしよう。


 今まで、買い取り店に誰かがちょうど依頼している場面なんて殆ど見たことがないが、例に漏れず、ここも依頼主は一人もおらず、それどころか店員の一人もいなかった。


 「すいませーん」


 呼びかけても一向に返事がなく、店員がいないのなら見てもらわなくてもいいかと踵を返そうとしたその時、カウンターの奥からドタドタと眼鏡のおじさんが姿を現した。


 「すいませんね、手と口が離せない状況だったもんで——って随分珍しいお客さんだね、お嬢ちゃん一人でなんて……。あぁ、すいません。それで、今回はどういった要件でしょうか?」


 なんだか、ぶつぶつ独り言が多い愉快そうなおじさんが出てきた。何だよ口が離せない状況って。

 

 「あの、この石の査定というか、鑑定というか……とにかくこの石の正体を知りたくて」


 「うちでは査定しかできないんだけどね。まぁ、とりあえず見てみるよ」


 ハンドバックから真核を取り出して、おじさんに手渡した。


 「あ、結構大きいんだね。じゃ、じゃあ見てみるよ」


 そう言うと、おじさんは丁寧な手つきで、なんかそれっぽい顕微鏡を眼鏡の右目の方に付けて、まじまじと真核を観察し始めた。

 しばらくして、おじさんは顕微鏡を外して溜息をついた。


 「ごめんね待たせて。うん、結論から言うと、分からない。だから査定はできない」


 先程までの雰囲気とは打って変わって、真剣な口調でそう言った。


 「あの、分からないっていうのは石の種類がですか?それとも値打ちですか?」


 「うん、それもなんだけど、そもそもこれが石かどうかも分からないんだ。見た感じ何かの結晶だと最初は思ったんだけど、こんな構造、今までに見たことがないんだ」


 この仕事は結構長い間やってるし、今でも勉強とかしてるんだけどねぇ……と、おじさんが呟いていた。

 そんなおじさんの様子を見て、他の所でもきっと同じ反応をされるのだろう、と予想がついた。


 (だから言ったでしょう。これは真核で間違いないって)


 (別に、本当に石の正体を疑ってたわけじゃないって。ただ、良い値で売れるなら売ろうと思っただけで、金額査定をしてもらうに当たって、正体もはっきりさせとこうとしただけだよ)


 とにかく、真核が査定できないことが分かったんだ、もうここに長居する必要もない。そしてすぐさま服を見に行きたい!

 よし、もういいや真核は。


 「すいません、お手数をおかけしました。結果が出なかったのはのは残念ですけど、今日のところは大丈夫です。それじゃあ、あの、石を……」


 とっとと真核を持って帰ろうとしたが、おじさんが、真核を今もなお真剣に観察していて、名残惜しそうな表情まで浮かべている。


 「……」


 「あの……」


 唐突に黙り込んでしまったおじさんに、少し不安を覚え、緊張が走る。

 まさかこのまま真核を持って逃げる気じゃないだろうな、と真核の希少性とそれが持つ力を念頭に置き、最悪の事態も頭に入れ、またおじさんを注視する。


 「……おじさん?」


 「——チャンスをくれないか?」


 「へ?」


 「もう一度だけこれを調べさせて欲しいんだ!正直このままじゃ——僕のプライドが傷ついたままじゃあ、気が済まないんだ!石を預かりたいなんて言わない。ただ、石の構造を記録して、これの正体を調べさせて欲しいんだ」


 警戒で張り詰めた自分の顔が、鳩が豆鉄砲を食らったような気の抜けた顔に瞬時に変わったと、鏡を見ずとも自分で分かった。


 「長くても三、いや二週間以内に結論を出す。その期間内、その石を調べる権利を僕に与えてはくれないだろうか?」


 「えぇっと、つまり、自分のプライドが許さないから、もう少しだけこれを調べたい、と?」


 おじさんの真っ直ぐこちらを見る目が、その熱意を伝えてくる。

 この申し出、普通の人なら、査定品を預けなくてもいいのだし、断る理由はどこにもない。

 しかし、私は場合、別にそこまで本気で調べて欲しいわけではないのだ。ただ、服を見るついでに、そこそこ良い値で売れたらなと、軽い気持ちで見せただけなのだ。

 親の形見でもなければ、一族の宝でもない、用途不明の奇妙な石。なんなら、さっきの話でこの真核が本当にやばそうなことを知ったので、売る気もなくなり、尚更調べてもらう必要がなくなった。


 しかし、人の熱意を無下にもしたくない。


 「分かりました。石を預ける必要がないなら問題ないです。こちらこそよろしくお願いします」


 「あ、ありがとう!必ずこのチャンスを活かしてみせるよ!」


 興奮気味のおじさんから真核を受け取り、連絡先を教えて、店を後にした。


 (さて、真核の用も済んだし、ここからはお楽しみタイムだ!)


 伸びをして、さっき溜まった筋肉の緊張を緩める。

 

 (さっさと済ませて帰りましょう?)


 ノインの戯言など完全無視して、近くの洋服屋に駆け込んだ。

 

 







 

 シック・ハックス・マート内を、平日のこの場所には珍しい黒いスーツを身に纏い、凛とした女性が一人歩いていた。

 女性は、真っ青の髪を高い位置でお団子状にまとめていて、その姿はすれ違う人全員を二度見させるような美しさなのだが、気恥ずかしさからなのか、誰一人、彼女を気にする仕草を見せない。


 



 「やっぱり無謀だ……何のあてもなしに真核を探そうだなんて……」


 私は周囲には聞こえない程度の声量で愚痴っていた。

 近くにある真核に反応して知らせるこの小型レーダーだって、そもそも真核の大体の所在地すら分からない今の状況では、全く機能しない。


 しかし、あれがないと大変なのは私もなのだ。今は黙って必死に探すしかない。

 引き続き、周囲に目を配らせていると、突然レーダーが反応した。

 

 しばらく反応することはないと思っていたレーダーがいきなり反応したのだ、普通なら不意を突かれ、驚くところを、彼女はすぐさま臨戦態勢に入った。


 「これは……真核の反応?まさかこんなに早く見つかるなんて」


 このレーダーは半径10メートル以内の真核に反応するらしい。つまりとっくに目視で確認できる間合いに真核はあるのだ。


 「いったい何処に——」


 周囲を見渡していたその最中、ある一人の少女が前方から歩いてきた。そして、真核の事も忘れ、少女に魅入ってしまった。

 長く美しい黒髪、それを際立たせるような純白のワンピース、この世のどんな人形とも比べ物にならないほどの整った顔立ち、そして、布の隙間から見える華奢な体躯。そのどれもが私にとって魅惑的だった。


 何秒間取り憑かれていたのだろう。

 気付いたときには、少女は眼の前から姿を消していた。


 「あの子……すごかったなぁ」


 カメラでも持っていればと、もう遅いと分かっていながらもスーツの内ポケットを探っていると——


 「——あ」


 例のレーダーを発見し、遅れて反応が消えていることに気がついた。

 刹那、自分がやらかしたことを理解した。

 






 

 

前回に引き続き、かなりの間が開いてしまいすみません。

連日忙しかった中、昨日だけは何故か予定が空いていたので投稿する暇ができました。

今後とも宜しくお願いします。

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