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りばーすわーるど!  作者: 哀愁みかんす
1000年に1人の美少女(仮)爆誕
5/8

#4  労働環境にバンザイ、女神様にカンシャ



 目覚まし時計のけたたましい音で目が——覚めない。いや、覚ませるが覚まさない。だって眠いし。

 寝不足は肌へのダイレクトアタックだからね。世の美少女を背負って立つこの私は、そういう細かいところにまでも気を配らなくてはいけない。


 「ん〜、あと10分〜」


 んはぁ〜、誰が時間通りに起きるかい、こんな気持ちいい朝に。

 気持ちのいい朝とは、気持ちよく起きるためにあるんじゃなくて、気持ちよく寝るためにある!

 んじゃ、おやすみ〜。


 (すぅ〜——小夜凛様!起きてください!)


 「うわぁぁ!も〜、バカっ!何回言ったら止めるんだ、その最悪のモーニングコール!」


 (小夜凛様がアラームで起きないからですよ。それに、毎朝私の名前を呼んで起こして、って言ったのは小夜凛様じゃないですか)


 おいおいノインよ、何踏ん反り返っているんだい。全然言った通りじゃないんだが。


 「私は、美声を活かして、脳が溶けるくらいの萌えボで名前を呼んで起こせって言ったんだ!脳が吹っ飛ぶくらいの雑音で叩き起こせ、なんて言ってないぞ!」


 (既にいくらか脳が溶けてる小夜凛様にはこれくらいがちょうどいいかと)


 何が、ちょうどいいかと、だ。主人を馬鹿にしやがって。

 長い付き合いだし、数年前からこういう態度を取っていたが、最近になってますます酷くなっている気がする。


 「はぁ、主人の威厳というものを見せなくちゃなぁ」


 別に気にしてないけど、一応、私の威厳回復のために、どうしたものかと色々画策しながら、ベッドから降りる。


 


 


 ——私流、朝からモチベーションと活力アップを期待できる、カンペキ美少女のモーニングルーティーン!

ステップ1、朝起きたら、まず最初に顔を洗うのではなく、パジャマ姿の寝起き美少女を鏡で確認。

 長く美しい黒い髪、夜空に浮かぶ月のようにきれいな黄蘗(きはだ)色の瞳、そして左目にある、控えめな泣きぼくろ。

 太陽よりもまぶしい美少女に、思わず失明!セロトニン分泌が促されるぞ。

 

ステップ2、次は、顔を洗い、寝癖を直し、服装を整え、身嗜みを確認。それとともに、美少女も確認。

 うーん、120点。おっと、いかんいかん、全ての毛穴からヨダレが……


ステップ3、これで最後だ。ご飯を食べて、歯を磨き、ランドセルを背負って、最後にもう一度鏡を確認。

 鏡に向かって笑顔の練習。素晴らしい!鏡も耐えきれず粉微塵に。


 さぁ、明日から君もやってみよう、鏡粉砕ルーティーン!


 (何ですか、その泥酔しきった自己陶酔ルーティーン。常人ならステップ1で吐きますよ)


 (分かってないな、ノイン君。君は早起きは三文の徳ということことわざを知らないのかい?)


 (知っていますよ、朝早く起きれば、健康の他にも色々な良いことがあるというものでしょう?)


 (私も社会人だったときまではそうおもっていたさ。いいことなんて一つもなかった。しかし今気づいた。三文の徳っていうのは、美少女の三つの可愛い姿を見れる、このことだったんだなって)


 (今日はキモボルテージが上がるのがいつもより速いですね。今日一日もちませんよ?私)


 (不敬すぎない?君)


 外に出たので、念話に切り替える。ノインは私と、視覚と聴覚を同調させているので、念話でなくても、私の声は聞こえるらしい。

 家には兄貴しかいないし、兄貴に聞かれない程度で、会話しているが、家の外となれば念話に切り替えなければならない。

 虚空に向かって話しかけているところなんて見られた日には、また精神科に連れて行かれかねないからね。

 

 こうして外を歩いていると、やはりこの世界を異質だと思ってしまう。それは何年経っても変わらない感覚だった。

 今歩いているここも、この世界では東京らしいのだが、前世のものとは異なっている。

 以前確認したことがあるのだが、前世で私が暮らしていたアパートや行きつけの定食屋なんかは存在していなかった。

 しかし、全てが変わっているわけでもなく、東京スカルツリーや、アパート近くのオーソンなどは変わらずそこに存在していた。

 つまり、本当にパラレルワールドみたいなものなのだろう、この世界は。

 

 そうこう考えているうちに、気づいたら学校のすぐ近くまで来ていた。

 

 うん、頭が痛くなるような話は止めよう。折角のモーニングルーティーンが台無しだ。学校は、授業は面倒だが、美少女ムーブをキメるのには最適な環境だ。その機会をボーッと過ごすなんてあり得ない!美少女に転生して、一度はドブに捨てた青春を、今世では満喫する、そう決めたんだ。

 改めて自分の決意を固めてから校門をくぐり、上履きに履き替え、教室に向かう。


 今世の私は無深月 小夜凛(むみづき こより)。前世の経験もあり、そしてこの容姿もある。

 

 「おはよう」


 余すことなくそれらを活かし、今世では青春の先端を突っ走っている——わけでもなかった。

 

 「あ、ぅん」


 隣の席の男の子に、朝練習した笑顔で挨拶したものの、その子は返事とも言えぬような濁した言葉を残し、露骨に目をそらしながら、席を離れていく。


 (いつも通り、今日も一日が始まりましたね)


 (——して……。——どうしてだよ!何でいつもこうなんだ!何故目も合わせてくれない!?)


 しかしまぁ、これはいつも通り。私にとっては、毎日の歯磨きみたいに当たり前のことだ。今更どうこう嘆く問題じゃあない。

 学校以外の所ではこんな事ないのに。しかも何年か前まではこんな事学校でもなかった。


 (いじめ——ではないよな。特に何かした覚えはないし。待てよ……まさか完璧すぎる私に嫉妬して——)


 (そういうところじゃないですか?小夜凛様のナルシストな部分が無意識に漏れ出てるんですよ)


 (マジで?)


 (どうでしょうね)


 ちょっと自重するか。——明日から。

 チャイムが鳴り、朝のホームルームの後授業が始まったが、それらを適当に乗り切り、今日も何事もなく、やりたい事も出来ないまま、放課後になってしまった。


 


 (このままじゃだめだよなぁ……)


 帰り支度をしながら私は考えていた。今のままでは、私の美少女になったらやりたいことリストの半分も達成できやしない。

 私は思わず溜息をついてしまう。理想の美少女としては、こんな嫌な溜息などついてはいけないのだが、今日の私はそれを忘れてしまっていた。


 (いつものことじゃないですか。どうして今日ばかりそんなに——)


 確かに自分でも不思議だった。最近は、今日みたいなことなんて日常茶飯事で、それを特段気にすることなんてなかったのに。


 しかし、今日の私は自分でも良くわからないくらいセンチな気分になっている。

 手鏡を取り出し、自分の顔を見るが、何故かいつもより気分が高揚しない。むしろ、余計に悲しくなってきた。

 

 (ああ、もう!美少女に悲しい顔は似合わん!ノイン!あそこ行くぞ、こういう日はあそこに限る!)


 (——そうですね、行きましょう。と言っても先週ぶりですが)


 

 




 「——なぁなぁ、俺、今日めっちゃ良いことあったんだけど」


 一人の男の子が、皆が帰り静まり返った教室で、まだ残っていた、彼の友人と思われる二人の男の子に話しかけた。

 男の子は、小夜凛の席の隣の子だった。


 「良いことって、どうせあれだろ?無深月さんの話だろ?おまえ、隣になれてからその話しかしてないもんな」


 「もう自慢話は聞き飽きたって」


 「でも、今日はほんとに凄かったんだよ。今日の朝、俺にめっちゃ笑顔で挨拶してくれてさ〜。もう緊張しちゃって。禄に返事できなかったし、目そらして逃げちゃったよ」


 「ハハ、絶対嫌われたな」


 「ほんとにそうかも。マズいよなぁ」


 ひとしきり話した後、男の子達は教室を出ていった。




 


 (着いた着いた。ここも変わんないねぇ)


 (私、ツッコミませんよ)


 やって来たのは学校と自宅の中間地点くらいに位置する私の行きつけの和菓子屋"我楽"。

 店舗の見た目は決してきれいとは言えないが、ぼろぼろというわけでもなく、むしろこの方が古風な雰囲気がでており、そういった点から私はこの店を訪れている。まぁ、それだけではないのだが。


 「おばあちゃん、こんにちは!」


 「あらあら、また来てくれたのかい?小夜凛ちゃん。今日も相変わらず可愛いねぇ」


 「えへへ、ありがとうございます。えっと、いちご大福ください」


 そう、この店に良く行く最大の理由、それはズバリ、可愛いって言ってもらえるから!

 あと普通にいちご大福が美味い。


 「毎回そればかりで飽きないのかい?」


 「うん、美味しいからね」


 「そうかい、良かったよ」


 しかし何でなんだろうな。和菓子屋の婆ちゃんとなら普通に話せるのに、何で学校では……

 その後も婆ちゃんと話していたが、長居しすぎては迷惑だと思い、帰宅することにした。


 (少しは気が楽になりましたか?)


 (ああ、もう大丈夫だよ)


 (そうですか。——すみません)


 何だかやけに静かだなと思ってはいたが、どうやら少し責任を感じているらしい。十中八九朝のことだろうな。

 ノインは責任を感じるとあまり喋らなくなる。この世界に来てからずっと一緒にいた甲斐あって、ノインという人物が(人なのかはわからないが)何となくわかってきた気がする。

 口調は強いくせに、いざ人を傷つけたら人一倍責任を感じる。おまけに、自分に関係のないことまで責任を取りたがる。

 まったく、面倒くさいことこの上ない。でも——


 (いいんだよ、お前はそれで。私は自分の好きなようにやる。それを制御したり、手助けするのが、相棒のお前の任務だろ?)


 (——そうですね。私の任務、任務……。あ——)


 (ん?)


 ——自分で言ってて何か違和感が……。お前の任務——じゃあ私の任務は?


 「あ——」


 今更になって思い出す。その瞬間、一気に血の気が引く。

 待てよ…。いつから忘れてた?いつから活動してない?二年前?それとも五年前?いやもっと——


 「——もしかして私、この世界に来てから一度も任務を進行してない…?」


 ——そういえば、あのとき以来、魔刻印を発動していない……?——なんなら魔力すら使ってない!?


 (どどど、どうするんですか!?フルネス様、多分、今頃カンカンに怒ってますよ!私知りませんからね!?)


 「い、いったん落ち着いて考えるんだ!どうする!?何か——ってか、お前のせいでもあるだろ!何知らん顔して、責任逃れしようとしてるんだ!」


 前言撤回。まったく分かってなかったわ。

 ——とにかく落ち着こう。通行人が何人かこちらを見ている気がするが、気にするな。

 思い出せ、女神様はちゃんと仕事しないと魔刻印を没収すると言っていた。

 しかし、反転の力で手に入れたこの姿は未だに保たれたままだ。つまり、魔刻印を没収されてはいないんじゃないか?

 そうなると、仕事してないのに没収されていないのは、今は任務開始の猶予期間中ってことか?それなら、色々と納得できる。この世界に転生してすぐ、身体能力や体力がまだ十分に備わってない時期に任務を進行しろなんて、今思い返せば無茶ぶりもいいとこだ。

 

 そう、猶予期間だったんだ。多分。

 ノインに私の推測を伝えると、ノインもなるほどと納得した。というか、お前が忘れてちゃだめだろ。

 というわけで、TS美少女、任務忘れて気づいたらまた美少年に、みたいな展開にならなくて良かった。

 猶予期間最高!恵まれた労働環境に万歳!


 (でも明日からはちゃんと仕事しましょうね)


 (あぅ)


 (まずは、体力をつけましょう)


 (うぅ)


 (ということで、明日から毎日ランニング10キロ)


 (ムリ)


 明日で死ぬかも。


 


 


 

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