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第59話 ヴァンパイアの本性

 しかし俺はヒーローとはかけ離れた存在、こんな非力な男がどうやって銃を持った警官からリリスを守るというのだろう? そんな疑問を持ちながらも、銃を持つイナダに向かって飛びかかって行く。


「馬鹿め! 非力な人間があ! 我に敵うと思っているのかあ!」


 パン! パン! パン!


 イナダが持つ銃が光っている。恐らく発砲しているのだと思うが痛みが一切ない。俺は銃が外れたのだと思い、そのままイナダにタックルをかました。あの強力なゾンビを投げ飛ばす力を持つバンパイアであれば、俺のタックルなどでびくともしないかもしれないが、少しの隙でも生まれればリリスに勝機が出来るかもしれない。


 だが次の瞬間。


 ドッッゴォォォオオ! と、俺はイナダを押し切ったまま、屋上の壁に激突していた。


「ぐえっ!」


 イナダがたまらず声を漏らすが、俺自身も何故こんなことが起きているのか分からない。俺は動きを止めるためにタックルをかましただけのはず。だが反対側の壁に突き刺さってイナダが半分潰れかけていた。


「あれ?」


「な、なんだあ! なんだおまえはああ!」


 俺は必死にしがみつくが、ヴァンパイアになったはずのイナダは振りほどく事が出来ないでいる。暴れて逃げ出そうとしても、俺ががっちりと掴んでいるので逃げられない。


「レンタロウ!」


 扉からリリスが飛び出して来たので、俺はリリスに言った。


「ゾンビをもっと集めた方が良い!」


「レンタロウを置いてはいけない!」


「俺が抑える事が出来ている! 行ってくれ!」


「だめ!」


「早く!」


 するとリリスは少し考えて、咄嗟に走り出して行った。するとヴァンパイアのイナダが俺に言う。


「けっけっけっけっ! ネクロマンサーを離して、どうやって我に勝とうというのだあ!」


 イナダがバタバタと暴れ出した。だが俺はがっちりつかんで離さない。


「離せ! はなせ! ハナセええええ!」


 少しの間暴れていたイナダが静かになる。だが俺はそれでも力を込めイナダを話す事はな無かった。その俺の周りに幽霊のキムラとキリヤとミナヨがやって来た。


「やっと捕まえたんだ! 放すなよ!」

「耐えろ!」

「レンタロウさん頑張って!」


 そこに流星もやってきて俺に声をかける。


「放しちゃダメですよ! 兄さん!」


 だがその時だった。イナダが不敵に笑った。そして大きな声で何かを叫んだ。


「チャームパーソン!」


 ん? なに? よくわからないが俺はしっかりとイナダを掴む。だが突然後ろから、何かで思いっきり殴られた。


「痛て!」


 俺が一瞬ひるんだ隙に、イナダが俺の手からすり抜けてしまう。一体何が起きたのかと後ろを振り向くと、鉄パイプを握った流星が虚ろな目で立っている。


「やれ!」


 イナダが叫ぶと、流星は鉄パイプで俺に殴りかかって来た。


「どうしたんだ? 流星!」


 すると幽霊のキムラが言う。


「これだよ。稲田警視はこうやって操るんだ!」


 まじか。これがリリスが言っていた魅了と言う奴か。


 まずい。このままだとイナダに逃げられてしまう。仕方がないので俺は流星が振るってきた鉄パイプを掴んで取り上げる。そして胸のあたりを軽く突き飛ばした。すると流星は床を数メートルほど吹き飛んで気を失った。


 うしろでイナダが言う。


「うけけけけけけ! 仲間を痛めつけるなんて良い趣味だなああ」


「クソ!」


 俺がイナダを追うと、突然イナダの背中から漆黒の羽が生えたのだった。なんとか掴もうとしたが空振りしてしまい、よく見ればイナダは空中に浮かんで俺を見下ろしている。


 マジでヴァンパイアだった。


 パン! パン! パン! カチッ! カチ!


 イナダが空中から銃を撃ちおろしていたが、どうやら弾が切れたらしい。俺を見てイナダは首をかしげる。


「なぜ死なん? お前は一体何だ? 何故、我のチャームパーソンが効かんのだ?」


 するとイナダが俺の右手首に目を止める。


「それは! 隷属の腕輪! そうか! リリスの隷属になっているのか!」


 グダグダと食っちゃべっているイナダを前に、俺はじりじりと後ろに下がっていく。ビルの端から数メートルほど外にいるイナダが俺を見て笑った。


「逃げろ逃げろ! どうせお前になすすべはない!」


 だが俺は次の瞬間、後ろの室外機に足の裏をつけてダッシュした。距離にして七、八メートルを一瞬で詰めて空中のイナダに抱きつく。するとイナダが面食らったように空中でじたばたした。


「おわあ! 放せ!」


 俺が背中に生えている羽を見て言う。


「その羽か? その羽で飛ぶのか?」


「離れろ! くそがあ!」


 俺はイナダともつれながら、右手を片方の羽にかける。そして力の限り引っ張った。


 ままよ!


 ベリリ!!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 取れた。イナダの羽が一つとれてスパイラルで地面に落下していく。そのまま数階下の地面に激突したが、それでも俺はイナダを放す事は無かった。


「ぐはっ!」


 イナダがじたばたしているが、そこにリリスがやって来た。


「レンタロウ!」


 俺が見上げると、リリスの後には燃えるゾンビが大量に蠢いている。それが一斉にこちらに向かって来た。するとイナダがリリスを見上げて行った。


「くっそ! もう来たのか!」


「逃がさないわ」


 するとイナダがリリスの手元を睨みつけて言う。


「それは! アイテムボックス! それをよこせ! くそ! はなせええええ!」


「まさか、お前はこれを通じてこっちに来たのか?」


「そうだ。抜け出した魂が消える前にそこを通ってきた!」


「そうだったのね」


 ゾンビ達が到達し俺がイナダから離れる。ゾンビ達はイナダをバリバリと食い始めたのだった。


「やめろおおお!」


 しかし数が多すぎてイナダは逃げる事が出来ない。


「よし!」


 もう少しでイナダを殺せると思い叫んだ時。


 ドン! とゾンビ達が弾き飛ばされた。するとその中心には、片羽をもがれながらも黒いオーラに包まれた異形のバケモノが立っていたのだった。

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