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第58話 蘇り

 ありゃ? ここはどこだ?


 薄暗く古臭い部屋の一室のようだが、目を凝らしてもぼんやりとしか見えてこない。俺は古びたソファーの上にごろりと寝転がって、天井を見つめている。天井にはシャンデリアがぶら下がっており、その上の天井の木目がやたら古めかしく感じる。


 なんだっけ?


 なぜ自分がこんな場所にいるのか分からない。俺はソファーから起き上がって室内を眺めた。家具も何も古びていて、既に何年も使われていないような雰囲気だ。しかしどこを見ても埃が積もっている訳でもなく、きちんと手入れされているかのような部屋だった。


 だがその部屋は何かおかしい。その不自然さがなんなのかをしばらく考えてみる。だがよくわからず、とにかく俺はその部屋から出ようと思った。そこで初めて部屋のおかしさに気づく。


 その部屋には入り口のドアが無かった。ログハウスのような木の壁をぐるりと見渡しても、入り口が見当たらない。ただ一角に窓があり、その窓から光がさしているのが見えた。その光は点滅しているのか、いろんな色に光っているように見える。


 変だな。とても落ち着いた空間で静かにしているのに、さっきからずっと胸騒ぎがする。何か大切な事を忘れているような、すぐにやらなければならない事があったような気がしてきた。俺は窓際に行って開けようとするが、その窓は開閉できるような構造になっていない。ジッと外を見ると、暗がりで誰かが手招きをしているように見える。


 なんだ?


 よく見えない。だが何か大切なものを忘れている気がする。ぽっかり心に穴が開いたような。俺はその暗がりにいる誰かを思い出そうと必死に考える。しかし良い所まできてそれが誰か思い出せず、無駄な努力をせずに諦めてソファーに戻ろうとした。


 ソファーに戻って寝よう。そうすればこの焦りも消えてぐっすり眠れるはずだ。


 そう思った時、窓の外から声が聞こえた。


「レンタロウ!」


 レンタロウ? それは何だ? 誰かの名前だったような気がする。


「レンタロウ!」


 また言った。鈴が鳴るような美しい声だが、何故かその女の声は悲しそうだ。俺は胸騒ぎがして、再び振り返り窓の外をじっと見つめる。


「レンタロウ!」


 俺を呼んでいるのか? 恐らく俺の名前はレンタロウだ。誰かが暗闇から呼んでいる。再びじっと目を凝らしていると、突如暗闇から二つの手の平がでてきた。その手のひらは、俺の頬に触れて優しく撫でてくれる。


 心地いい…。とても優しい手の平だ。凄く心地よくてうっとりする。


 と思った次の瞬間だった。


 ズボッ! その両手は俺を引っこ抜いた。突然窓から引っこ抜かれて、表に出されてしまう。


「り、リス…」


「レンタロウ!!」


「リリス! 大丈夫か!」


「それはこっちの台詞よ」


 俺はガバッと起き上がった。そう言えば腹を拳銃で撃ちぬかれたはずだ。俺は咄嗟に腹に手を当てる。服は血で濡れているが痛みが無い。


「なんだ? もしかしてポーションの効果かな?」


 するとリリスがフルフルと首を横に振った。


「なんで傷が塞がってるの? 銃で撃たれたのに」


「ごめんなさい。実は呪いを行使したの」


「呪い?」


「不死の契約」


「どういうこと? 傷を治せるの?」


「蘇らせちゃった」


「俺死んじゃってたの?」


「そう」


 俺が周りを見ると、流星も心配そうな顔で俺を見ていた。さっき割れた窓ガラスはそのままで、外では何かが争う音が聞こえる。


「ゾンビを補充したのだけれど、相手は強いわ。数が足りないかもしれない」


「あの警視ってそんなに強いの? 拳銃持ってたけどあれで?」


「ゾンビに拳銃は効かないわ。だけどあれはゾンビと対等以上に戦えるみたい」


「どういう事?」


「さっきの感覚で分かったの、あれは私が前世で討伐したと思っていたヴァンパイア。その隷属の腕輪の元の持ち主で、私の最後の討伐相手」


「嘘…」


 俺達が警察の上の人間だと思っていた、イナダがヴァンパイア? どういうこと? 


「嘘じゃないわ」


「なんでヴァンパイアがこの世界にいるの?」


「分からないわ。確かに肉体は滅ぼしたはず。でも、恐らくあれはヴァンパイアが憑依した警察官だと思う。それ以上の事は捕まえて吐かせてやるわ」


「ゾンビが足りないんじゃ?」


「だから協力して。今のレンタロウなら何とかなる」


「どういう事?」


「それは…」


 リリスが説明しようとした時だった。外の争う音が突然消える。俺達が耳を澄ましていると、屋上に出る為の鉄の扉がバン! と引きはがされ投げ捨てられた。


「リリィィィィス! 欲も我を葬ってくれたなぁぁぁぁぁ!」


 入り口から、制服を着た中年の警官のおっさんが入り込んで来た。見た目は中年だが目が赤く輝いており、にやりと笑う口元には長すぎる犬歯が生えている。テンプレート的なヴァンパイアの表情そのものでこちらを睨んでいた。


「ドラグロス。もう逃がさないわ」


「けーっけっけっけっけっ! もうダメかと思ったら、魔神の天秤は我に傾いておったわ! まさかこの世界にお前も来ていたとはなあ!」


「今度こそお前を消滅させてやる!」


「お得意のゾンビもいないではないか! あとあの剣士はどこ行った? あれがいなくてどうやって我を消滅させるというのだあ!」


 リリスの表情には危機的なものが漂っている。だが俺の心は決まっている。俺がどうなろうともリリスを守ると決意したのだった。

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