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第57話 警視を追い詰めた先で

 イナダの行動は明らかに普通ではない感じがした。普通あのゾンビに遭遇して逃げるのであれば、現場から離れ完全に手の届かないところに行くだろうと思っていた。ところがイナダは、再び歌舞伎町の中に入って行ったのだ。


 それを見た幽霊のキムラが言う。


「おかしいな」


 確かにおかしい。しかも歌舞伎町はいたるところで火災が起きており、危険な場所なので警察官がひとりで突入する事はない。だがイナダは火災が起きている方向へ必死に向かっているのだ。


 そのうちにイナダが雑居ビルに入って行くのを見た。俺達は向かいのビルの陰から様子を伺う。


「火災現場の近くだし、もうビルの人は逃げてると思う。なんであんな所に入って行ったんだろ?」


 俺が言うとリリスがキムラに聞く。


「あいつは人を操っていると言っていたわね?」


「ああ」


「ならばここから離れられないのは当然ね、きっと何か目的があってやってるはず」


 それを聞いたキムラが笑っていう。何か心当たりがあるようだ。


「燃えているビルを見て分かったよ」


「どういうこと?」


「あいつの息がかかったぼったくりバーとか、違法風俗、違法賭博のビルを焼いてんだ。恐らくアイツは証拠隠滅を図っている」


 うっそ。と言う事は、俺達がぼったくりバーを潰したり息のかかった警官を襲わせたり、関連したヤクザを監禁したりしたから、自分に手が回る前に証拠隠滅してるって事? だとしたら、俺達がイナダを追い詰めようとしているから燃やしているのか? 


 俺は焼け死んでいる人間がいる状況に複雑な気持ちになる。半分は俺達のせいで人が死んでいるのだ。しかも火を消す仕事の消防団員を使って証拠隠滅をしている。恐ろしい奴だ。


「許せない」


「ああ」


 そしてリリスが言った。


「兵隊を向かわせて様子を見るわ」


 俺達がビルを見ていると、リリスに操られた焼けたゾンビがウロウロとやってきて次々に雑居ビルに入って行った。リリスはゾンビと視覚共有しているので聞いてみる。


「中は、どんな感じ?」


「まだ見つからないわ」


「隠れているのか?」


「かもしれないわ」


 少し待っていると、突然雑居ビルからゾンビが落ちてきて地面で潰れた。


「投げ飛ばされたわ。ゾンビを投げるなんて、なんという力かしら」


 確かにそうだ。反社ゾンビが交番を襲った時は、警官達はひとたまりも無く蹴散らされていた。あの力のあるゾンビを投げ飛ばすとなると尋常じゃない。


 だがそれも一体だけじゃなかった。次々にゾンビが落ちて来る。


「行ってみるしかないわね」


「危険じゃないか?」


「一体ずつじゃ埒があかないし、まとめて襲わせるには私も行かないと」


「わかった。なら行こう!」


 とにかく火災を止めないとどんどん人が死ぬ。今はイナダをどうにかするしかない。


 俺は流星に言った。


「流星君はここで良いよ。ここからは命の危険が伴う君まで死ぬことはない」


「なーに言ってんすか? 姉さんと兄さんが行くなら行くしかないっしょ。命の恩人を放って逃げるなんて出来ないっすよ」


「でも」


「ま、勝手について行くっす」


「無理はしないで」


「わかったっす」


 そして俺達三人と幽霊三人は、イナダが逃げ込みゾンビが大量に入ったビルに向かうのだった。雑居ビルに人はおらず、リリスが送ったゾンビだけがウロウロしていた。その辺にいるゾンビを連れて、一階ずつ階段を上がっていく。


 結局最上階までイナダを発見できずにいると、幽霊のキムラが言った。


「屋上に逃げたかもしれん」


「行きましょう」


 階段を上り、屋上のドアにたどり着く。すりガラスになっており、外のネオンが見えるもののイナダがいるかどうかは分からない。


 俺がそのドアの取っ手に手をかけてゆっくりと開いた。屋上には室外機などがたくさん置いてあり、電気系統の機械なども置いてあるようだった。


 すると幽霊のキムラが言う。


「銃を携帯している可能性があるぞ」


 銃? そりゃまずい。


「ならば兵隊をやるわ」


 リリスは火傷したゾンビ達を次々にそのドアから出してやった。ゾンビを全て出してやると、リリスも後に続いて出て行く。俺もそれについて外に出た。


 屋上には焼けたゾンビがウロウロしているものの、イナダが何処にいるか分からない。俺もゾンビと一緒になって探し始める。すると一体のゾンビが、突然屋上のフェンスから外に放り投げられるのを見た。俺が急いでそこに向かうと、室外機の陰から光るものが出て来た。


「ヤバ!」


 パン! パン!


「うぐ!」


 腹に火箸が突っ込まれたような激痛が走る。


 咄嗟にリリスが操る火傷ゾンビが次々にやってきて、室外機の裏に飛び込んでいった。俺は腹を抑えそこに尻餅をついてしまう。


「レンタロウ!」


 リリスがやってきて俺の腹を見た。俺も見るがかなり出血しているようだ。リリスは真っ青な顔をして、ポーションの瓶をバッグから取り出した。


「足りないわ!」


 リリスは泣きそうな顔をしながらも、ポーションの蓋を開けて俺に飲ませる。少し痛みが引いたが少しずつ力が抜けていくのが分かる。


「兄さん!」


 リリスが流星に言う。


「リュウセイ! 一緒に連れて行くわ!」


 リリスと流星に連れられて、俺は最初に入って来たドアをくぐる。ドアを閉めるとリリスがとうとう泣き出してしまった。流星も俺を見て真っ青な顔をしている。


「ごめん。リリス、失敗しちゃった」


「話しちゃダメ」


「リリスと流星は逃げろ。ここに居ちゃ殺される」


 ゴボッ! 


 と大量に血を吐き出した。


「だめ! 置いて行かない! ゾンビを補充するわ!」


 するとパンパンと銃声が鳴り、俺達の居る場所のドアのガラスが割れた。


「早く逃げろ!」


「ダメ!」


「リリスゥゥゥゥ! なーんでおまえがぁこっちの世界にいるゥ!」


 その声を聞いてリリスがピクッとした。


「その口調…」


「けっけっけっけっ!」


「ドラグロス…、ドラグロス・ブラッドクロウ…」


 どうやらリリスは声の主を知っているようだ。事は俺が思っているよりもっと複雑だったようだ。リリスの顔は怒っているが、俺の意識は失血により朦朧としてくるのだった。

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