第55話 火だるまゾンビの行進
燃え上がるビル街に進み、俺達はどこにいるかもわからないイナダを探し始める。だがこんな騒動の中で、どこに行ったら見つけられるというのだろう? だがリリスは、そんなの関係ねえっ! と言わんばかりに燃えているビル街に進んだ。
すると幽霊のキムラが言った。
「かなりの人間が逃げ遅れたようだな。こんなに死んでいるのに、火に油を注いでるって自分らでは分かってないんだもんな。恐ろしいぜ」
キリヤがキムラに答える。
「これを、やらせてんのはアイツっすよね?」
「間違いない」
だがリリスはそんな話を一切聞かずに、燃え盛るビルの前に立った。そしてその目が赤く光ると、次の瞬間リリスから透明な手が大量に出て、一階から順に上に向かって多数の手が伸びていく。
まさか…
俺はリリスの力を知っているので、これから起きる光景に恐れを抱く。だがそんな俺の心を知ってか知らずかリリスは力を行使した。しばらくすると、燃え盛る炎の中から何かが歩いて出て来る。
その光景に、俺も流星も幽霊のキムラもキリヤもミナヨも度肝を抜かれる。幽霊なら平気かと思いきや、こんな光景は見たことないらしくただただ唖然としていた。
燃える人間が火をまといながら、普通に歩いて入り口から出て来たのだ。それも一人ではなく、次々に現れる。肉が燃え焦げながら歩く人、骨が出てもなお歩く人など様々だが、炎に包まれながらも平然とリリスの前に整列していく。
流石に、ヤクザじゃない燃えた人間が平然と動いているのを見て流星が尻餅をついた。
「う、うわ」
だがリリスはお構いなく、次々に燃え盛るビルからゾンビ化した人間を連れだした。俺も青い顔をしつつそれを見つめている。すると幽霊デカのキムラが言った。
「なんてこった…。もしかしたらアイツと同じ能力か?」
それにリリスは冷静に答える。
「違うわ。これは死霊術、死んだ人間を操っているだけよ」
「死霊術…」
「そうよ」
するとキムラは考え込むようにして腕組みをする。幽霊でも考える時には腕組みをするんだと感心してしまう。
「そんな不思議な力は稲田警視だけだと思っていた。なぜ君はそんな力を使えるんだ?」
「それは私がネクロマンサーだからよ」
「ネクロマンサー?」
「死霊術。これが商売道具なの」
するとキムラが言った。
「もしかしたら、奴と似たような力なんじゃないのか?」
「魅了とは違うわ。魅了とは生きた人間を自分の意のままに操るもの。私にそんなことは出来ないわ」
「そうか…。君は稲田の事を知っているのか?」
「全く知らないわ。見たことも無い」
「そうか」
そんな話をしている間に、焼けた人間が勢ぞろいしていく。ある程度集まったところで、リリスは次の焼けたビルに向かって歩いて行くのだった。まるで、焼けた死者を連れたハーメルンの笛吹きだ。隣のビルに着くと、リリスは再び透明な手をビルに忍ばせていく。しばらくすると同じように焼けたゾンビが次々と出てくるのだった。
するとリリスはキムラに向かって言う。
「あなた。イナダ警視の顔は知っているの?」
「当然だ」
「見たいわ」
するとキムラが少し考えて言う。
「動画配信のSNSで見れるはずだ」
「レンタロウ。スマホを見せて」
そして俺はスマホを取り出した。するとキムラが俺に言う。
「検索窓に、新宿 歌舞伎町 特別警戒 巡視 って入力してくれ」
俺が言われた通り入力すると同じような動画がいくつも出て来た。それを見たキムラが指を指す。
「この動画をひらいてくれ」
「これは何です?」
「警視庁がやるイベントみたいなもんで、年末年始に警視総監が来て新宿の巡回をするんだ」
動画が流れ始める。そこではいろんな警官が新宿の街を歩いていた。それを指さしてキムラが言う。
「これが警視総監、これは警視庁のお偉いさん、これが新宿署の所長」
動画が流れていくと声を上げた。
「ちょっと戻してくれ!」
俺が少し動画を戻して再生するとキムラが言った。
「止めてくれ! これだ! これが稲田だ!」
キムラが指さすのは大勢の警官の一人だった。警視総監の後ろに並んでいるうちの一人で、ニタニタと笑いながら歩いている。スーツを着て白髪交じりの髪の毛をオールバックにしている男だった。
「コイツね?」
「ああ」
するとリリスが俺から携帯を借り、画面を燃えるゾンビの前にかざした。そして指をさして言う。
「この男を探しなさい!」
リリスの言葉を聞いて、燃える死体達はぞろぞろと歌舞伎町の街へ消えて行くのだった。煙が蔓延して危険なため人がいないのが救いだが、こんなものが歩いていたらパニックになる事間違いないだろう。ゾンビを送り出してリリスが言う。
「待ちましょう」
幽霊すら驚愕の表情を浮かべているがリリスはいたって冷静で、俺達はただ待つ事にするのだった。




