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第52話 新宿炎上

 部屋で酒盛りをしているうちに日が暮れてしまった。まあ正月なので、すごし方としてはだいたい正しいとは思う。隣の外国人も一日中うるさかったので仕事は無かったようだ。テレビでは正月の特番が延々と流されているが、俺達はテレビも見ずにウトウトと居眠りをしていた。


 酒も瓶の半分くらいまでなくなり、テーブルの上にはビールやチューハイの空き缶が転がっていた。幽霊のミナヨだけが、体育座りをして部屋の片隅にいる。俺が目を覚ましてチラリと見るとミナヨと目が合った。


「幸せよね。まったく」


「ごめんね。正月だし、こんな感じになっちゃって」


「いいと思うわ。正月ぐらいゆっくりするものでしょ」


「まあ、そうだよね」


 俺はいつしか幽霊と話をしているのを忘れていた。ミナヨは優秀なキャバ嬢だったらしく話し上手だった。リリスは俺に寄り添って寝ており、流星はごろりと床に大の字になっている。


 すると唐突に玄関のベルが鳴る。


 ピンポーン!


「ん?」


 俺が玄関に出ようとすると、先に流星が飛び起きて出て行ってしまった。


「ちょっ!」


 俺が慌てて追いかけると、玄関から顔をのぞかせた美咲さんと流星がいた。そして俺が美咲さんに言う。


「す、すみません。友達と家飲みしてました!」


「あらいいじゃないですか。お正月はやっぱり楽しく過ごさないと! ちょうどよかった! これお土産です! 御神酒です! 母がお友達と飲んでるだろうからって買ったんです」


 俺はダッと部屋に戻って、まだ手を付けていない栗きんとんを持って来た。


「あの! これお返しです! お母さんと食べてください!」


「いえいえ! 悪いですよ!」


「貰ってばかりなので! いいよな流星?」


 俺が流星に言うと、流星がニッコリ笑って答える。


「食べてください! お隣同士じゃないですか! 俺達じゃ食べきれないんで!」


「ありがとうございます。ではありがたく頂戴いたします」


「あまりうるさくないようにしますね」


 そして美咲さんはぺこりと頭を下げて、部屋に戻って行った。すると流星がボソリと俺に言う。


「兄さん…あの子に惚れてますね」


「あ、いや…」


「でも、リリス姉さんがいますよね?」


「……」


 なんと言っていいか分からないので俺は答えなかった。俺達が部屋に戻ると、リリスは俺が手に持っている酒を見て言う。


「それは?」


「お土産でもらった酒だよ」


「気が利くわね」


「気にかけてくれてありがたいよ」


 そんな話をしている時だった。


 特番のお笑い番組の上にテロップが流れた。俺達がふとテレビを見ると、そのテロップにはこう記されていた。


 新宿にて大規模な火災発生。広範囲に広がっているため、地域住民は指示に従って避難してください。


 とうとう動き出したようだ。せっかく正月を楽しんでいたが一気に酔いが吹き飛ぶ。


「出ちゃった…」


「そうね」


 俺とリリスが顔を見合わせて言う。すると流星が言った。


「どのあたりっすかね? 大規模って言ってましたけど」


 それには俺が答える。


「とりあえずみんな上着を着てくれ。行くぞ」


「へっ! 今からっすか?」


「ああ、とりあえずタクシーを呼ぶ」


 そして俺はすぐさまタクシー会社に電話する。路地から出た所のコンビニの前で待ってもらうように言い、準備をして三人と一幽霊は部屋を飛び出すのだった。


 俺は歩きながらもスマホのSNSをチェックした。すると新宿の火事現場から、どんどん動画や写真がアップされている。コンビニの前には、すでにタクシーが待っており俺は行先を告げる。


「新宿まで」


「はい」


 流星が助手席に、俺とリリスが後ろに乗ってリリスの隣りにミナヨが座っている。正月の夜だけあって、道は空いておりスムーズに進んでいった。ニ十分もすると前方に黒い煙が上がっているのが見えた。


 それを見て流星が言う。


「マジだ。すっごい煙」


 タクシーが近づいて行くと、どんどん渋滞に巻き込まれて来た。するとタクシーの運ちゃんが言う。


「なんだ? 通行止めか?」


 十分待ってもそこから車は動かなかった。俺は運転手に言う。


「ここで降ります」


「すいませんね。全く進まなくて」


「いえ」


 お釣りを受け取り、俺達は煙が上がっている方角に進んだ。すっかり酔いも冷めてしまい、俺達は足早に目的地へと急ぐ。するとどうやら警官が通行止めしているようで、歩行者達も先に進むことが出来ないでいるようだった。


「進めないんだ」


 すると流星が言う。


「ならこっちから行きましょう。きっと抜けれますよ」


 流石は歌舞伎町のホスト。抜け道を知っているようだ。通行禁止になっている道は車も人もおらず、俺達はそこを足早に横切って向かいの路地に紛れ込む。どうやら警察も全部は見張れないようで、流星の言うように抜け道はあった。


「こっちっす」


 俺達が進んでいくと、路地と路地の間から大きな火の手が上がっているのが見えた。


「えっ! 相当っすよ!」


 流星が言うが、俺達もそれを見て驚いている。


 リリスが言った。


「街が…燃えている…」


 なんと歌舞伎町全体から火の粉が上がり、あたりは黒い煙が充満していた。消防隊が多数いて、必死に消火活動を続けている。俺達が近づいて行くと消防隊員が大きな声で怒鳴る。


「君らはどこから入って来たんだ! 立ち入り禁止だ!」


 だがリリスは全く聞いていない。真っすぐ行こうとするが、消防隊に阻まれて進むことは出来なかった。


「何を考えているんだ! 危険だぞ!」


 俺がリリスに言う。


「ちょっとこっちに」


「なに?」


「変に騒ぎ立てるとまずい、別なルートを探した方が良い」


「わかったわ」


 俺達は消防隊から離れ、進入できそうなルートを探し始める。火災は留まる事を知らず、次々に建物に燃え移っているようだった。するとリリスが言う。


「ビルの屋上に上がって見ましょう」


「そうしよう」


 俺達は燃えていない区画の商業ビルに足を踏み入れて、そのまま屋上に上がっていく。最上階に行くと梯子が見えて、そこから屋上に登れるようだ。


「ここから登れる」


「ええ」


 そして俺達がビルの屋上に登り、歌舞伎町方面を見渡した。すると流星とミナヨが驚愕の表情を浮かべた。


「火の海だ」


「何よ…これ」


 ビルとビルの間を炎が駆け回り、次々に建物に燃え広がっていた。


「人が!」


 流星が指さす先には逃げ惑う人達がいた。まるで空襲でも受けたように街は燃えている。それを見たリリスが言う。


「おかしいわ。いくらなんでもサラマンダーはこんな事しない」


「なんとか出来ないかな!」


「原因を突き止めないと」


 リリスはしばらく静かにしていたが、何かを思いついたように言った。


「流星。キリヤの家は知ってる?」


「もちろんっすよ」


「連れて行って」


「わかりました!」


 俺達はビルを出て、キリヤの家に向かうのだった。何故か不安そうな顔を浮かべる、幽霊のミナヨを尻目に俺達は走り出した。

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