第49話 エレベーターで殺された女
俺は何気なく、興味がありそうでなさそうな感じにキャバ嬢の娘に訊ねてみる。
「どんな事件?」
「あー、ちょっと待って」
キャバ嬢はスマホを取り出しニュースサイトを指で流していく。そして俺にスマホを見せてくれた。
「これこれ」
ニュースの記事を要約すると、飲食勤務のA子がマンションのエレベーターで射殺されたが、犯人は捕まっておらず恨みを買っていた感じでも無かったという事だ。
「エレベーターで射殺って怖いですね」
「しかも殺害現場はこの近くよ」
それを聞いた俺達はピクリと眉を動かす。いきなりの情報にチラリとアイコンタクトをとった。
するとようやくリリスが口を開く。
「そんな怖いことがあるなら気をつけなくちゃ。触らぬ神に祟りなし、近寄りたくないわ」
「え、だとしたらここからめっちゃ近いのよ。もしかしたらベランダから見えるんじゃないかしら」
キャバ嬢が言うとカレンも乗って来た。
「多分見えるはず」
二人が立って窓際に行き、ブラインドを開けると綺麗な夜景が広がった。
「ここの部屋が上層階だからはっきりわかるわ。あそこのビルよ」
「あそこ?」
「コンビニの道向かいよ」
俺達はそのマンションを確認した。このマンションからの距離にして四百メートルも無いだろう。こんな目と鼻の先で、射殺事件があるなんて新宿は本当に怖い。
するとハヤシダが言う。
「新宿はやはり事件が多いが、利便性が良いから集まって来るんだよな、まあ自分の身は自分で守るしかないかもしれない。私だって運転手をつけているし、一人ではあまりウロウロしない」
そんな話を聞きつつも、リリスの意識は既にあのマンションに飛んでいる。そしてリリスが俺に言った。
「そろそろ帰るわ」
「あ、そうだね」
「じゃ俺もそろそろいくっす」
カレンと付いて来たキャバ嬢も言った。
「じゃあ、私達もそろそろ帰る。林田社長またお店に来てくださいね」
「ああ。そうするよ」
そしてハヤシダは自分のバックを取って、スッと財布を取り出した。そして中から金を取り出して、一人一人に渡してくる。
「お年玉だ。タク代にでもしてくれ」
渡されたお金は一人三万円。俺達は同じ客と言う立場なのに申し訳ない。
「俺らは貰えませんよ」
「なにいってるんだ。カレンちゃんをアフターに連れ出してくれた幸運のひとじゃないか、それにそっちの君は本当に美人だし」
ハヤシダがリリスに言っているがリリスはもう気もそぞろだ。それを見たハヤシダが、自分の名刺を取り出して裏に携帯番号を書きだした。
「気が変わったら連絡してくれ。君ならきっとすごいインフルエンサーになる」
「え、ええ」
とりあえずリリスがそれを受け取って、俺達はその部屋を出た。マンションの廊下でカレンが俺達に言う。
「本当にもう帰っちゃうの?」
流星が聞き返した。
「なんでっすか?」
「なんか興奮冷めやらぬって感じでさ、軽くどっかで飲まないかなと思って」
「なるほど。どうしますかね兄さん?」
流星が行きたそうに俺に聞いて来るが、これ以上リリスを引き留めておくことは出来ない。
「いや、今日はもう帰ろうと思う」
するとカレンが言う。
「そうかあ。残念だわ、じゃあまたお店に来てね」
そう言ってカレンも、自分の名刺を取り出し携帯番号を書いてリリスに渡した。リリスはとりあえずそれを受け取って作り笑いをする。するとキャバ嬢二人が言う。
「きゃああああ。かわいい!」
「マジで、女でもやられるわ」
「こんな人が彼女なんて、蓮太郎君は夜道に気をつけないとね」
「ど、どうしてです?」
「嫉妬って怖いのよー」
「わかりました。肝に銘じます」
カレンはエレベーターを待っている時に、タクシー会社に電話をしていた。俺達はただ黙ってエレベーターを待つ。
すると俺達が気にする、ヒロキの階で一度エレベーターが止まった。
「あれ?」
「どうすっかね? でも、住人はいっぱいいますよね?」
「まあそうだよね」
エレベーターが開いたが中には誰も乗っていなかった。それを確認した俺はホッと胸をなでおろす。俺達がそのまま乗り込むとカレンが言って来た。
「でもさ、すっぽかされて良かったわ。素敵な出会いがあったし」
流星が答えた。
「それは良かった。また…今度いくよ」
少し間が空いたが、恐らく流星はこの一件が終わったら田舎に帰ろうと思っている。もう二度と行かないと思ったのだろうが、突然リリスが言った。
「また行くに決まっているわ。リュウセイはここにいるでしょ?」
「まあ、そうっすね」
するとカレンが言った。
「そう言えば辞めたんだもんね。今日はどこに行くの?」
「まだマンションの鍵を持ってるから帰るよ」
「そっか」
俺達がマンションを出ると、またちらほらと雪がちらついていた。白い息を吐きながらカレンが言う。
「ハッピーニューイヤー! 今日はありがとう!」
皆がそれに答える。
「「「ハッピーニューイヤー!」」」
タクシーが来たのでカレンとキャバ嬢がそれに乗って行ってしまった。深夜と言うより早朝に近い時間かもしれないが、ちらほらと車通りはある。俺達はすぐに、先ほど聞いたマンションへと足を運ぶのだった。俺達が歩いていると反社ゾンビが合流して来る。流星が反社ゾンビに言った。
「あ、すんません! 俺の荷物持たせっぱなしで!」
するとリリスが言う。
「ずっと持たせていいわ」
「あ、はい…」
目的のマンションに着くと、まだ数部屋明かりがついていた。入り口を入ると中にオートロックのドアがあり、リリスは難なく内側から開く。
「いたわ」
リリスがエレベーターを指すと、綺麗な衣装を来た女がエレベーターに体育座りをしていた




