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第48話 社長の別宅にて

 まさか普通のサラリーマンである俺が、正月からインフルエンサー事務所を経営している社長の家に行くなんて思いもしなかった。平凡な人生を脱却しようと東京に転職して来たとはいえ、これはいささか飛躍しすぎている気がする。


 その面子も凄い。歌舞伎町ナンバーワンキャバ嬢とその店の子、歌舞伎町のホストと異世界のネクロマンサー。もちろんリリスが異世界のネクロマンサーだという事は誰も知らないが、そんな人らと歩いている。


 午前三時の歌舞伎町はいささか静かになり、しゃべる息が白い。そして一区画ほど歩くとハヤシダが言う。


「ここだよ」


「えっ? ここですか?」


 俺は思わず聞いてしまった。と言うのも、ここは筋肉ヤクザのヒロキが住んでいる高級タワーマンションだ。まさか、一日のうちに同じマンションに来ることになるとは思っても見なかった。


「自宅じゃないけどね。事務所から近いところに借りたんだよ」


 ハヤシダがオートロックを解除して、俺達が後について入って行く。エレベーターに乗り込んだ時、俺とリリスと流星は顔を見合わせた。もしかしたら同じ階層に行かないよな?


 到着した階層は更に上でホッとする。もしかしたら鉢合わせするんじゃないかとドキドキしていたのだが一安心だ。部屋に入るとカレンがハヤシダに言う。


「アフターで人の家にはあまり来ないけど、林田社長もいいところに住んでるんですね」


「まあ金には困ってないからね」


 ヒロキの部屋の間取りとは少し違っているらしく、若干広いようだった。リビングに行くとその違いがはっきり分かる。


 ハヤシダはワインとグラスを持って来た。


「とりあえず仕切り直しで乾杯といこう」


「はーい」


 カレンが皆のグラスにワインを注いでいく。そこで俺が言った。


「彼女はアルコール抜きで」


「あ、そうなんだ。水しかないけどいい?」


「はい」


 するとハヤシダは高そうな水のボトルを持って来た。それを見たもう一人のキャバ嬢が言う。


「林田社長の所には、水も高い奴を置いてるんですね」


「まあ、食べ物にはこだわってるからね」


 それを受け取り、蓋を開けてリリスに渡してやる。するとハヤシダが言った。


「今年は元日から良い出会いがあった! 乾杯!」


「「「かんぱーい」」」


 皆でワイングラスを交わす。


「林田社長のおかげで嫌な事を忘れられたわ!」


 カレンがニッコリ笑っていう。


「そいつはよかった」


 ここは聞きどころだと思ったのか流星が聞く。


「カレンちゃんを、すっぽかした人ってなんて言う人?」


「ああ、木島さん?」


「あのさ、カレンちゃん。そいつやめた方が良いと思う」


「確かに…さっきの店に迎えに来た人らもチンピラみたいだったもんね?」


「そうっす」


「あの助けに来た二人組っていったい誰なんだろう? すぐに居なくなっちゃって」


 ギクッ。あれはゾンビです。


 とは言えない。


「そうですね」


 するとハヤシダが流星に尋ねる。


「君は何か知ってるのか?」


「いや。俺は歌舞伎でホストやってたんっすけどね。良からぬ噂を聞いたもんで」


「どんな?」


「あれは反社っす」


「やっぱりそうなのか? 名刺では不動産関係の仕事っぽかったけど、経営者仲間では聞いた事が無かったから。変だと思ってたんだよ」


「だからカレンちゃんは、やめた方がいい」


「わかったわ。いずれにせよ大みそかにすっぽかすなんてありえないし、うちの店は反社お断りだからね」


「ああ」


 カレンが流星を見て聞く。


「ていうか、流星君。今日店は? 忙しかったはずでしょ?」


「あ、俺。ホスト辞めたっす」


「うそ! いつ?」


「今日」


「社長、怒ってなかった?」


「いろんな絡みがあったんで理解はしてくれました。せめて今日くらい最後にやってけって、神崎さんも言ってくれたんすけど。ちょっといろいろあって。でも選別をくれたっす」


「そうなんだ。なんか寂しいわー」


 俺がハヤシダに聞いた。


「このマンションは昔から住んでたんですか?」


「いや。最近借りたばかりだよ。だからあまり生活感もないだろ、仕事で遅くなった時に泊まるだけだから。日中は居たことが無いんだ」


「そうですか…僕は初めてこういうところに来ました」


「そっかそっか」


 皆で名前を教えつつ、話題はリリスの事になる。流石にリリスの美貌は誰も見たことが無いらしく、なんで大みそかにキャバクラにいたのかも不思議がられた。そこは流星が適当に誤魔化してくれたが、次に俺の話になった。


「で、蓮太郎さんは何をしているの?」


「普通の会社のサラリーマンです。ほんっと平凡なんです」


「二人の関係は?」


 カレンが痛い所を突いて来る。


「あ、それは」


 俺が言葉に詰まってしまう。するとリリスが隣から口をはさんだ。


「レンタロウとは一緒に暮らしているわ」


「えっ? お付き合いしてるの?」


「ここしばらくは、付き合ってもらっているわ」


 確かに間違っていない。俺はここんとこずっとリリスに付き合っている。すると皆が俺達二人を見て目を丸くする。分かっている…どう考えても二人は不釣り合いだ。


「えー、そうなんだー。まあそうだよねー! 一緒に大晦日に遊んでるんだもんね」


 すると流星が言う。


「まあ野暮なことはいいじゃないっすか! せっかくの正月ですし!」


「そうね」


 そんな話をしているうちに、皆も酔っぱらって来たのかざっくばらんな話になってきた。カレンと一緒に来たキャバ嬢が言う。


「この前のぼったくりバーの摘発凄かったですよね!」


 ハヤシダが答える。


「あー、見た見た。あの動画で拡散されていたやつだろ?」


 ギクッ! 俺とリリスはそれに映っていた。まあ一瞬で顔は映ってはいないはずなのでバレてはいないと思う。


「あれ、私見たんですよ! 出勤前にたまたま通りかかって!」


 ギクギク!


 俺のこめかみから汗が一筋流れた。その張本人がここに居る事を、俺とリリスしか知らない。あんなヤバい事件に関わってるなんて知られたらまずい。


「物騒よね」


「まあ歌舞伎じゃ時々あることさ」


「でもユマちゃんの件もあるし、実際怖いわ」


 カレンの言葉を聞いて流星が尋ねる。


「ユマちゃんの件って?」


「ユマって言うキャバ嬢が殺されちゃったのよ」


 そこで俺が尋ねた。


「ユマさんって本名なんですか?」


「違う違う源氏名。本名は確か…」


 カレンと一緒に来たキャバ嬢が考えている中、カレンが言った。


「美奈代ちゃんよ」

 

 でた。ここにきてやっとつながった。九条に殺されたキャバ嬢の名がこんなところに出て来た。やはり同業者の情報は同業が知っていたのだった。

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