表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/62

第47話 ヤクザの乱入を阻止

 さて。目当てのキャバ嬢と、ダイニングバーで同席出来たのはラッキーだった。もちろん俺達がアフターに誘ったわけでなく、どこぞの社長さんと一緒に出て来たところで後をつけたわけだが。


 しかし年越しカウントダウンのような特別な日に、ここで一緒になれたのは俺達が筋肉ヤクザを縛って来たからだろう。カレンはあの男から人一倍、目を掛けられて育って来たらしいので、俺達がああしなければ、きっとカレンはここにいなかったかもしれない。


 そしてカレンがリリスを見て言う。


「ていうか、流星君の知り合いにこんなかわいい子がいるなんて知らなかった」


「いや、知り合いって言うか。超偉い御方なんすよ!」


「ははは、なーにボケてんの?」


「マジっすよー」


 カレンが笑いながらもリリスに聞く。


「お名前を聞いてもいいの?」


「リリス」


「素敵な名前! 本名?」


「ホンミョウ?」


 俺が脇から言う。


「本名ですね」


「かわいいー」


 リリスはぶっきらぼうに話しているが、もしかしたらカレンが苦手なのかもしれない。正直なところ、俺も住む世界が違いすぎて何を話して良いのか分からない。


 すると今度はカレンがハヤシダに言う。


「林田社長の所でスカウトしたら? 彼女、逸材じゃない?」


「まあリリスちゃんにその気があればだけどね。結局は、やる気だから」


「リリスちゃん、インフルエンサーに興味ある?」


「インフルエンサー? 良く知らないわ」


「ネットの動画とか写真で有名な人の事と言ったらいいかな? 影響力のある人の事よ」


「影響力…それはどういう?」


「例えばファンが多いインフルエンサーが、良いと言った物が売れたり真似をされたりとか?」


「よくわからない」


「まあ気が向いたらだけどね」


 確かにリリスは容姿的な部分で言えば、バズりそうな雰囲気がある。考えてもみなかったが、紫の髪の毛と瞳もそれっぽい。


 するともう一人のキャバ嬢が言う。


「もしくは、キャバやっちゃう?」


「キャバ?」


「私達と同じ仕事」


「やらない」


 多分向いてないと思う。リリスが男を褒める姿が全く思い浮かばないし、そもそもこの世界の事が分からないからビジネス的な話も出来ない。第一リリスはまだ未成年なのだ。


 そんな事を話している時だった。店員の掛け声がかかる。


「いらっしゃいませー」


 こんな時間でも客が来るらしい。ふと俺が入り口を振り向くと、ちょっとガラの悪そうな男達が店内を見渡していた。


 なんとなく嫌な予感がする。


 案の定、店員を押しのけて二人は真っすぐにこっちに歩いて来た。


「困ります!」


 店員が言うが、全く耳を貸さない。


「いたいた!」

「ようやく見つけたぜ」


 男二人はずかずかとやってきて、カレンの前に立った。


「カレンちゃん。探したぜ」


 カレンがキッと睨んで言う。


「なんですか?」


「いや。用があるのは俺達じゃなく、木島さんだ」


「弘樹? 今日はすっぽかされたわよ!」


「ちょっといろいろあってな。とりあえず来てもらおうか?」


「はあ? 嫌よ! 見て分かる通り私は、お客さんと飲んでるの。すっぽかした人の所にいくわけないでしょ!」


「はあ? 木島さんが呼んでるんだぜ?」


「嫌よ。店にも来なかったのに、なんでいかなきゃならないの?」


「散々世話になってんだろ!」


「それはお店での話でしょ!」


「んだお前?」


 そう言って一人の男がカレンに手を回した。嫌がっている人にこんな事をするなんて許せない。


「嫌がってますよ」


 つい立ち上がって口から出てしまった。ぎろりと睨まれて俺の膝が震え出す。


「あん? なんだお前?」


「いや。とにかくカレンさんが嫌がってるみたいです」


「なんだと! コラ!」


 そう言って男が俺の胸ぐらをつかもうとした時だった。バシッとその手を掴んだ奴がいた。


「ん?」


 後ろに立っている男は、全くしゃべらずにその男の腕を握っている。


「なんだぁ? てめえ!」


 唐突に後ろの男が、つかんだ腕をグイっとねじり上げた。


「いでででででで!」


 もう一人の男が言う。


「おい! 放しやがれ!」


 だが、その男もいきなり後ろから羽交い絞めにされた。


「なんだ! クソ!」


「おい! 放せ!」


 男達の後ろに立っていたのは、護衛用のリリスが使役した反社ゾンビの二人だった。そいつらが怪力で男二人を押さえている。


 いつの間にか反社ゾンビを店内に呼び込んでいたらしい。とにかくヒロキから差し向けられたヤクザは、身動きを取る事も出来ないでいる。さらに腕をねじり上げ、これ以上やったら折れると思った瞬間に俺が言った。


「ストップ!」


 すると反社ヤクザがぴたりと止まる。押さえられている男達は脂汗を浮かべ、もがく事も出来ないでいた。


「とりあえず。お店に迷惑がかかるから外に出た方がいい」


 反社ゾンビに向かって言っているが、もちろん俺はリリスに言っている。リリスは俺の言葉を聞いて二人の男達を放してしまった。すると今まで捻り上げられていた男は咄嗟に、テーブルの上のワインボトルを掴んで反社ゾンビを殴った。ガラス瓶は派手に割れる。


 だが…反社ゾンビはびくともしなかった。もちろん死んでいるのだから痛みもへったくれもない。


 殴られた反社ゾンビが、いきなり前蹴りで殴った相手を蹴り飛ばした。


「ぐあ!」


 男は、通路を数メートルも吹き飛ばされて気絶してしまった。


「お! おい!」


 もう一人が駆け寄って倒れた男のほっぺたを叩くと、目を覚ましてゆっくりと起き上がった。


「く、くそ! お前らどこの組だ!」


 もちろん反社ゾンビは答えずに、ずっと虚ろな目で睨んでいる。じりじりと反社ゾンビが近づいて行くと、男二人は後退りながら一人が肩を貸して入り口に向かう。


「こんなことしてタダですむと思うなよ!」


 捨て台詞を吐いて出て行った。すると反社ゾンビ二人も黙って入り口から出て行ってしまった。


 俺はドサリと椅子に座り込んでホッと一息ついた。すると流星がいう。


「兄さん! 痺れましたよ! チンピラ相手にあんなこと言えるなんて」


 いや…何故かまた俺の人助けの癖が出てしまった。これがこじれてヤクザ事務所に攫われた事もあるくせに。


「嫌がってたから」


「しかも、押さえた奴らも出て行きましたし!」


 するとカレンが俺の手を取って言う。


「ありがとう! 嬉しかった!」


「い、いやいや」


「凄い勇気だわ!」


 ひと悶着を見ていた店員が、慌てて駆け寄って来る。


「すみませんでした。追い払おうとしたのですが、無理やり入ってきて」


「まあ出て行ったんだし、いいんじゃないかな?」


「とりあえず警察を呼びましたから!」


 えっ? マジで? そいつはヤバい。


 俺がどうしようかたじろいでいると、横からハヤシダが言った。


「おおごとにされるのは困るな」


「ですが…」


「我々は怪我もしていないし、被害はワイン一本だ。そう言う事は店の方で処理をしてもらえればいいんじゃないか?」


「わかりました」


 そしてハヤシダが言う。


「どうだろう? こんな事があったばかりだし、外で飲むのは危ないかもしれない。皆でウチに来ないかい?」


 もう一人のキャバ嬢が言った。


「えっ? 林田社長の家?」


「と言っても、別宅だが」


「だよねー。奥さんと子供がいるところに行けないよね」


 そしてハヤシダが店員に言う。


「会計を頼む」


「は、はい!」


 ハヤシダが会計を済ませて外套を着始めたので俺が言った。


「いや、今日知り合ったばかりですし、僕らがお邪魔して良いものなんでしょうか?」


「いいんじゃない? カレンちゃんを守った立役者だし」


 いや、守ったのは反社ゾンビの二人。つーかリリス。


 するとカレンが言う。


「せっかくだから行こうよ! 私も行くのは初めてだけど」


 するとハヤシダが言う。


「やっとカレンちゃんのアフターのオッケーもらって、家にまで来てもらえるなんてラッキーだ。それもこれも君らのおかげだよ」


 なんかめっちゃ感謝された。とりあえず俺達がコートとブルゾンを羽織って、表に出ようとしたら男の店員がやって来た。


「すみません。ご迷惑をおかけして、これはお店からです」


 高そうなワインを一本進呈して来た。


「お! 分かってるね! また利用させてもらうよ」


「ありがとうございます」


「ハッピーニューイヤー!」


「ハッピーニューイヤー!」


 俺達は挨拶を交わし店を後にするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ