第46話 ナンバーワンキャバ嬢に接近
客を送り出すために、サハラトーキョーのキャバ嬢が何度か表の道路まで出てきていた。流星が言うには見送られているのは太客らしく、特にお金を使ってくれる人達らしい。流星がキャバ嬢と一緒に出て来た男を教えてくれる。
「あれが社長っすね。サハラトーキョーの会社、オメガグループのトップっす」
「なるほど」
「さっきから何回も出て来てるんで、そろそろ年越しカウントダウンのイベントも終わるっすよ」
「ようやくね。待ちわびたわ」
俺達はカレー屋を出て、見通しのいいコンビニの書籍コーナーで店の入り口を見張っていた。女の子がちらほらと男の人と出て行く。そうしているうちに目当てのカレンが出て来た。
「男の人と一緒だ。あと女の子もいる」
「社長達と打ち上げすると思ったっすけどアフターっすね。恐らくまた飲みに行くか、ご飯に行くかってとこっす。恐らく出勤の時、同伴でご飯食べようと思って食べそこなったからかな」
「いくわよ」
ずっと書籍コーナーに居たので、コンビニに悪いと思い俺はミントを買ってから外に出る。慌ててリリスについて行くと、その先をカレンと男とキャバ嬢が歩いていた。
「たぶん、このコースだと居酒屋かBARっすね」
俺達が距離を取りながらついて行くと、流星の言った通りに飲み屋のあるビルに入って行った。そこにはおしゃれな看板が出ており、それを見た流星が言う。
「ダイニングBARっす」
「入るわ」
「うっす」
そして俺達が入ると、店員が声をかけて来る。年越しカウントダウンが終わったので、ちらほらと席は空いているようだった。店員はカレン達と遠く離れた場所に俺達を案内しようとしたが、流星が店員に言う」
「窓側がいいな」
「かしこまりました。ではこちらへ」
そして店員に連れていかれたのは、カレン達が座る斜め後ろのテーブルだった。そこに座ると店員がカゴを差し出してくる。
「お荷物はこちらに入れて、椅子の下に置いていただけます」
俺達はコートとブルゾンを脱いでそのカゴに入れ、メニューを受け取って選び始めた。メニューを開くとイタリアンの料理が並んでおり、ノンアルのソフトドリンクもある。
適当に料理を頼んで、俺と流星は後ろの話を聞き取れるようにスマホをいじるふりをした。
後ろの席でカレン達が話をしはじめる。
「お腹減ったぁ!」
「どんどん食べてよ」
「うれしい! 社長ありがとー!」
「まったく、カレンちゃんをすっぽかすなんてアホだな」
するともう一人のキャバ嬢が言った。
「あの人、金払いはいいのよね」
するとカレンがキャバ嬢を諫める。
「こらこら。お客様の前だよ」
「あ、すいません」
「まあいいさ。レマちゃんはそういうあっけらかんとしたところが良いんだ」
「へへへ」
「でも珍しいんですよね? あの人が、すっぽかすって」
「そのおかげで、僕はこうしてカレンちゃんとアフターが出来てるし。オールオッケー!」
「林田社長は特別ですよ。昔っからの付き合いですし、うちの社長とも仲がいいですもん」
「井原さんとは昔から仲がいいからね。井原さんがカレンちゃんに、僕に付き合ってあげてって言われたから来てくれただけでしょ?」
「そんなことないですよー」
そんな話をしているうちに、カレン達のテーブルに料理が運ばれて来た。
「マジでお腹減ったー」
「どうぞどうぞ」
カレン達がイタリアンを食べ始める。それを見ながらハヤシダはカレンに言った。
「まあカレンちゃん。人のお客さんにどうこういうのもあれなんだけどさあ」
するとカレンが呆れたように言う。
「あーそれ、うちの社長に言えって言われたんでしょ?」
「それもあるけど、僕も老婆心ながら忠告しておこうと思って」
「はいはい。大事な太客の言う事は聞きますよお」
「今日すっぽかしたあの弘樹って社長なんだけどさ」
「あ、やっぱりそれだ」
「そう。あれはやめておいた方が良いと思うなあ。店に来た時だけの付き合いにした方が良いよ、同伴もアフターも無しで」
「うーん…」
カレンが眉間にしわを寄せている。そして俺達もピンときた。やはり今日カレンと同伴しようとしてた男は、あの筋肉ヤクザのヒロキだった。高級マンションに住んでいるし金まわりは良いと思ったが、同棲する女性がいるのにキャバにも貢いでるようだ。
「お金払いが良いのはわかるけどさあ」
「うちの社長も林田社長も…ユマちゃんの事を言いたいんでしょ?」
「まあ、そう。火のない所に煙は立たないって言うしさ」
「分かってるんだけどね。私がナンバーワンに慣れたのは弘樹社長のおかげなんだよね」
「わかるけどさあ。あの金の使い方は尋常じゃないし、いろいろ噂も聞くからさあ、何の仕事してるか分かんないし」
「社長だっては言ってるけど」
「いや。僕らの社長コミュニティーでも、彼は良く知らないんだよね。何かで儲けていれば、同じ界隈にいたら話くらいは聞くはずなんだけど」
「まあね…うん。社長にも心配かけられないし少し考える」
人のテーブルの話を盗み聞きするのは申し訳ないが、もしかしたらヒロキが伍堂会だと知らないような気がする。そして何やら含みのあるような話し方だし、皆も薄々気が付いているような雰囲気もある。
すると俺達のテーブルに料理が運ばれて来た。その状態で黙っているのもおかしいので、とりあえず料理について話をする。
「おお、美味そう!」
「本当ね。こんなの食べたことないわ」
「さあ、姉さん。食ってください」
俺達が料理に手を付け始める。しばらく食っていると、後ろのテーブルのカレンが席を立った。
「お化粧直し」
小さいバックを持ったが、コートは着ていないのでトイレにでも行くのだろう。そしてカレンがトイレから戻ってきた時だった。
「あら?」
カレンがこちらを見ている。そしてつかつかと近づいて来て、リリスを見て言った。
「あらぁ! 偶然ね!」
「どうも」
するとカレンはハヤシダに向かって言った。
「今日お店に来てくれた子で、めっちゃくちゃ可愛い子いたって言ったでしょ! この子!」
ハヤシダがくるりと振り向いてリリスを見た。
「嘘じゃなかったね。ハリウッド女優なんてめじゃないくらい美人って言ってたけど、半分眉唾だと思ってた。マジでこんなに可愛い子がいるんだ」
カレンが店員を呼ぶ。
「すみません」
「はい」
「隣の席って空いてますか?」
「はい」
「この人達と隣にしたいんですけど、いいですか?」
「かしこまりました」
カレンがくるりと振り向いてニッコリ笑う。
「って、勝手に言っちゃったけど良かった?」
「うん」
リリスが控えめに了承すると、今度はカレンがハヤシダに言う。
「社長~! 彼らのご飯も一緒に払ってー」
「ああ、もちろんもちろん。君らは一緒で良かったか?」
俺と流星が立ち上がって、ハヤシダに頭を下げて言う。
「すみません突然!」
「ごちになります!」
「いいよいいよ。全然全然!」
俺達が席に座ると、カレンもご機嫌になりグラスを持って言う。
「パープルの美少女にカンパーイ!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」
そうして俺達はカレンと一緒に飯を食う事になった。さっきまでの話が気になる所だが、まずはこの人らと近づくことが先決だ。そうでなければリリスの必要とする情報に近づけない気がした。
地味だった俺は異世界のネクロマンサーと一緒に動くうちに、歌舞伎町でナンバーワンと称されるキャバ嬢と元日を過ごす事になったのである。




