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第45話 充実の年越し

 通りに出ると沢山の人通りがあり、年越しのカウントダウンを楽しみたい人達でにぎわっている。キャバクラを出てすぐリリスが周辺を見渡して言った。


「とりあえず、店に入りましょう」


 そして流星がそれに答えた。


「じゃ、そこの店で御馳走させてもらっていいっすか?」


「いいわ」


 すぐ近くの店に入ると、暗めの店内を派手な照明が照らしていた。店内の匂いを嗅いで俺が言う。


「ここカレー屋さんなんだ?」


「そうっす。酒も出しますけど、本格カレーで美味いっすよ」


「いいね。俺本格カレー好きなんだ」


「よかったっす!」


 すると店員がやって来て言う。


「ちょっと込み合ってて四十分くらい待つかもしれないです」


 俺と流星がリリスを見ると、リリスは淡々と答える。


「好都合ね、じゃあ並ばせてもらうわ」


「わかりました」


 やはりこちらの店内も、年越しを仲間とすごしたい若者でいっぱいだった。その光景を見てリリスが言う。


「今日はやたらに人が多いみたい」


「年越しイベントがあちこちでありますからね。若い奴らが集まってるっす! 本来は俺も店に出てたっすけど、もう辞めたんでなんか新鮮っすね」


 流星はそう言うが、俺はそもそもイベントになど参加したことがない。年越しイベントやクリスマス、ハロウィンに至るまで華々しいイベントとは無縁で生きて来た。まさか歌舞伎町で美少女と金髪ホストと共に、大晦日を過ごす事になろうとは夢にも思わなかった。


「俺はこういうの初めてだ」


「兄さんは堅いっすねえ。やっぱそうじゃなきゃ務まらねえっすか?」


 なにが? どう言う事? 


 もちろん仕事は真面目じゃないとダメだと思ってるけど、間違いなく流星は何かと勘違いをしている。


「はは、流星の言う意味が良く分からないけど、まあ華やかな世界は苦手かもね」


「かっこいいっす」


 えっ? 地味で遊びを知らない俺を、金髪のホストがカッコイイって? 何か勘違いしてる?


 俺達が並んでいる後ろにも、次々人が来て並ぶ。どうやらこの店は結構な人気店らしい。店内からは賑やかに話し声が聞こえ、陽気な人達が酒を酌み交わしていた。


 こう言う世界が苦手って言うのがカッコイイって言う意味が分からないが、流星は本気で言っているらしい。


「いい匂い」


「是非食いましょう」


 すると四十分かからずに席に通された。メニューを渡されてリリスが流星に聞く。


「どれを頼めばいい?」


「なんでも美味いっすよ」


「じゃあこれ」


 リリスが頼んだのはチキンバターカレーライスというメニューだった。俺も同じものを頼み、リュウセイがマトンカレーライスを頼んだ。適当に飲み物も頼んで食べ物が運ばれるのを待つ。


「しっかし、年越しイベントでドタキャンとかカレンちゃんも災難だ。恐らくその人で結構売り上げを見込んでいたと思うけど、今日は一位取れねえかもしれねえっすよ」


「どう言う事?」


「恐らく太客を引っ張ろうとしたけど、すっぽかされたんですよ。俺らは客だから愛想よかったっすけど、内心は怒ってたと思います」


「一位を取るのは大事なの?」


「店の顔っすからね、顔に泥を塗られた感じになるんじゃないっすか? カレンちゃん、今ごろ必死で営業してるっす。まあカレンちゃん目当てで他に客が来るんで、同伴が一人減ったところで最低にはならないでしょうけど」


「彼女も災難ね」


「そうっすね」


 少し待つと俺達の前に本格カレーライスが運ばれてくる。


「いい匂いだわ」


「食欲そそりますよね!」


「じゃあ、食べよう!」


 三人がスプーンでカレーライスをすくって口に入れる。香辛料がふんだんに使われていて、物凄くコクがありめちゃくちゃ美味い。


「うんま!」


「でしょ! 姉さんはどうっすか?」


「凄く香りが良くて、刺激があるのね。初めて食べた感じだわ」


「よかったっす!」


 店の見た目がガチャガチャだし店内が派手だったから、こんな本格カレーが出てくるのは想像していなかった。年末にこんな美味いものが食えるなんて幸せだ。


 食いながら流星が言う。


「ひょっとしてっすけど、カレンちゃんと同伴しようとしたのって伍堂会の筋肉ヤクザじゃないっすよね?」


 それを聞いて俺とリリスが顔を合わせた。その可能性は大きいかもしれない。カレンちゃんからはうっすらとしか話を聞いていないが、携帯もつながらなかったとか言ってたし。


「だとしたら、縛った縄からまだ抜けれてない?」


「いやまあ、あいつと限った訳じゃないっすけど可能性はあるっすよね?」


「まああんなことがあったらキャバクラに来ないと思うけど」


「でも、ぽくないっすか?」


「あるかもね」


 そして流星がポケットからカレンの名刺を出す。


「名刺持ってたっすもんね」


「高級マンションに住んでたしね」


 もしそうだったとしたら、俺達のせいでカレンちゃんの売り上げが減ったって事になるか。


「それでリリス、これ食ったらどうするつもり?」


 俺がリリスに聞くと、ニッコリ笑って答える。


「サハラトーキョーが終わるのを待つわ」


 それを聞いた流星が驚く。


「えっ? マジで歌舞伎町で年越しするんすか?」


「どうやらそう言う事になりそうだ」


「なんか、うれしいっすよ。こんなすげえ人らと年越しなんて」


 いや、俺なんか全然すごくないけど、流星はやたらと勘違いしている。


「なるべくここに居たいわ」


「任せてください!」


 カレーを食い終わってドリンクを飲み干し、流星は追加でアルコールとつまみを頼んだ。


「姉さんは酒のまないんっすね」


「え、どうかしら? レンタロウ?」


「うーん。やめておいた方が良いんじゃない? これからまだ動くんでしょ」


 するとリリスが流星に向かって言った。


「と言う事よ。レンタロウが言うから飲まない」


「あ、そっすか? 兄さんは?」


「コーラでいいよ」


「わかりました」


 流星はここで時間を稼ぐため、一人でアルコールを頼んでいた。若干酔っぱらってきたようで陽気になって来る。昼間まで悲壮感いっぱいで心配だったが笑顔も戻ってきてなによりだ。


 リリスもカレーやポテトサラダ、ビリヤニなどをパクパクと食べている。


「美味しい」


「気に入ってくれて何よりっす」


 あまりしゃべらない俺とリリスの代わりに流星がぺらぺらと話してくれるので、間が持たないという事も無かった。本来流星は根っから明るい人間で、クジョウの殺しを知ってしまいこんな事になってしまったらしい。本当はそういう事件からほど遠い暮らしをしていたそうだ。


 店内が賑やかになって来たと思ったら、もう間もなく年を越すらしかった。俺達もスマホをテーブルの上に乗せて、時間を見つつカウントを始める。


十、九、八、七、六、五、四、三、二、一


「「「「「「ハッピーニューイヤー!!」」」」」」」」


 店内で一斉に言うと、クラッカーが鳴らされ年越しをみんなで喜んだ。流星も喜んでリリスも楽しそうだった。今まで俺は、友達もおらず親とばかり年越しをしていたが、歌舞伎町のカレー屋で美少女とホストと共に年を越した。不思議な出会いと怖い事件に巻き込まれたものの、俺は何故か充実していたのだった。

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