第44話 目的達成
初キャバクラの俺は、きらびやかな衣装を着ている女の子に目が向いてしまう。純粋な見た目で言えば、リリスの方が完璧な容姿をしているとは思う。だがリリスはあくまでも未成年、大人の色気のある女性に目が行くのは仕方ない…よな?
そして何より褒めてくれる。馬鹿みたいに褒めちぎるわけでなく、褒められてうれしくなるような部分をくすぐってくるのだ。何故か気分が良くなって、これなら懐のひもが緩むのも分からんでもない。
俺の隣りの流星が言う。
「兄さん。気分良くさせて金を使わせるのが、この子らの仕事っす」
するとキャバ嬢のコトハが言う。
「やめてよー。営業妨害ー」
「社長がしっかり接客業の何たるかを叩きこんでるんっすよ。まあ俺も時おり付き合いでくるんすけどね、勉強になるなと思って」
「流星は偉いな」
「そんなことはないっすけど、でもいい子ばっかなんで好きっすね」
するとマキが言った。
「流星君はあんまお金落として行かないよね」
「俺はちょっと喋れればいいんだよ」
「ま、お金の大小じゃないけどね」
すると他の席から黒服がやってきて膝をついて行った。
「コトハさん。御使命です」
「はーい。失礼しまーす」
そう言ってコトハが他の卓に連れていかれると、入れ替わりで違う子がやって来た。
「めるです。よろしくおねがいします」
すると流星が言った。
「初めてだよね」
するとマキが紹介してくれた。
「めるちゃんは新人でーす。入ったばかりだけど、面倒見てあげてくださいね」
「めるちゃん。新人なんだ」
「はい!」
「初々しい」
そしてメルはリリスを見て目を見開いた。
「か、可愛すぎません?」
「でしょでしょ!」
キャバ嬢がリリスを見て盛り上がっているが、リリスは相変わらず大人しく座ったままだ。話しかけられれば答えるが、特に話を弾ませる事は無かった。とりあえず遊びに来たわけでもないので、俺は流星に目配せをした。流星はさりげなくマキに聞く。
「そう言えば、今日はカレンちゃんは?」
「まもなく出勤してくるかな。今日は同伴なんで」
「そっかそっか」
「あー、やっぱあれだ。カレンちゃん目当てな訳だ」
「いや。有名人だし、この二人に見せてあげたいと思って」
「ま、インフルエンサーだしね」
「まあ、俺はどっちでもいいんだけどね」
そんな他愛もない話をしながら接待を受けていると、ポロポロと女の子が入って来る。そして次に女の子が入ってきた時に流星が言った。
「あ、カレンちゃん。でも同伴してないぜ」
するとマキが振り向いて言った。
「あれ? 本当だ。どうしたんだろう?」
俺達の視線の先では、カレンが黒服に向かって何やら説明をしているところだった。そして店の奥に入って行った。
「同伴じゃないのに遅かったな」
「なんか様子が変だったわ」
「二人に会わせたいんだがな」
「わかった」
マキが手をあげると黒服がやってきて、俺達の側に座った。マキが黒服に言う。
「カレンちゃんどうしたの?」
「すっぽかされたらしいっす」
「マジ? カレンちゃんをすっぽかす奴いるの?」
「なんですかね? よくわからないです」
「わかった。ありがと」
そしてマキがこちらを振り向いた。
「変な感じだったけど、同伴してないならすぐに指名出来るかも」
それを聞いた俺が流星に耳打ちする。
「指名したら料金上がるんじゃ?」
「三千円くらいっすよ」
「じゃあ、おねがいしようかな」
流星がマキに伝えた。
「じゃあ、カレンちゃんご指名で」
マキが黒服に言うと、黒服は会釈して奥に行った。
「ごめんねマキちゃん」
「カレンちゃん、お客が増えたらすぐに指名入っちゃうし今がチャンスだから」
マキはとてもいい子だった。少し経つとすぐにカレンがやってきて挨拶をする。見た目もかなり美人で風格もあり、ナンバーワンと言われるのもうなずける。
「こんばんは。カレンです」
「ああカレンちゃん!」
「ど、どうも」
俺がどもりながら挨拶をし、リリスはぺこりと頭を下げる。するとリリスを見たカレンの顔がぱあっと明るくなった。
「なに~! かわいい! いや、美しい? かな? とにかくすっごくかわいい!」
カレンちゃんも美人だと思うが、やはりリリスは非の打ち所がない美人だ。カレンちゃんも素直にリリスを美人だという。
黒服が来てマキに言う。
「マキさん、ご指名です」
「わかった」
俺達の事を少しカレンに話して、マキは席を立って行った。流星がカレンに言う。
「二人が有名人のカレンちゃんを見てみたいって言うからさ」
「あらー、うれしいです! ありがとうございますー!」
「は、はは。どうも」
俺は綺麗な女を前にそれしか言えない。そして流星がカレンちゃんに聞く。
「すっぽかされたんだって?」
「あー! 誰に聞いたの?」
「まあいいじゃないか」
「そうなんですよー。待ち合わせ場所に行っても来なくって、いつも先について待っているのに! 少し待ったおかげで、遅刻しちゃったわ」
「そう言う事あんの?」
「初めてかも―!」
なるほどなるほど。凄い人気のキャバ嬢だけあって、同伴出勤に希少価値があるのだろう。それにしても誰がすっぽかしたんだか。
「ま、いずれにせよ指名入れれたし。とりあえず良かったよ」
「なんか人生で、こんなに綺麗な人見たことないけど、もしかしたら外国の女優さんかしら?」
えっと。なんて言ったらいいだろう? 俺が困っていると流星が笑って言った。
「そいつは内緒。お忍びだから」
「凄い人だったりして」
まあ…ある意味。
するとリリスが突然言った。
「ゴドウカイ」
すると流星が慌てて大声を出す。
「わー! これうまい? って言いました?」
「ん?」
リリスがポカンとしている。するとカレンがニッコリ笑って言った。
「果物好きなの?」
「ええ、まあ」
そんな時、黒服が来てカレンに告げた。
「ご指名です」
「あ、はーい。ごめんなさいねー」
そしてカレンは席を立って行ってしまった。残っためるがリリスに言う。
「お酒じゃない方が良いですか?」
「ミルクティーはある?」
「あ、用意できるか聞いてみます」
黒服が聞いてすぐにミルクティーを持って来た。メニューにないのに大したもんだ。そして流星がリリスに言った。
「姉さん。あの名前は言っちゃダメっすよ。店を追い出されます」
「ん? そうなの?」
「はい」
「まあ、でももういいかな?」
「へっ? まだ話はほとんどしてませんけど?」
「用は済んだわ」
リリスの言葉を聞いて、流星がメルに言った。
「そろそろ帰る」
「あ、もうお帰りですか?」
「ま、次があるんで」
「わかりました」
少しすると黒服が伝票をを持って来る。するとリリスがバッグを俺に渡して来た。
「払って」
「うん」
バッグから札を取り出してメルに渡すと、メルが黒服に渡した。すぐにお釣りが渡されたので、俺達は席を立った。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ち申し上げております」
「どうも」
そうして俺達はキャバクラ、サハラトーキョーを後にするのだった。
 




