第43話 初めてのキャバクラ
久しぶりの更新となります。お待たせしてすみません!
警察署に到着して俺達はビルを見上げていた。歩道を歩く人がちらほらといるくらいで、警察署の前にはワゴンパトカーが並んでいる。繁華街と違ってそれほど人の数も多くなく、道路の向かいには高層ビルが建っていた。
「周りをまわってみましょう」
リリスに言われるがままに、俺達は警察署の周りをぐるりと回る。すると裏手に大手のファーストフード店があった。その店は二階席もあるようで警察署が見渡せる場所にある。裏通りには居酒屋や食事処もあって、その向かい側に警察署のシャッターが見える。
流星がリリスに聞いた。
「どうですかね?」
「四方に入り口があるのね」
「緊急車両の入り口かなと思います」
「そう。この中にイナダイゾウケイシがいるのね?」
「えっと、いつもいるとは限らないと思います。会議とかもあると思いますし」
「そうか」
警察署を一周した俺達は道路を渡り、向かい側のビルの前に行ってベンチに座った。そしてリリスが俺達に聞いて来る。
「イナダイゾウをどうにかするには、ちょっと大変ね」
「そう思います。稲田警視が出て来たところを狙うしかないでしょうね? タクシー捕まえるか車用意しないといけないと思います」
「わかった。こいつら二人じゃどうしようも無いことが分かったわ」
そう言ってリリスが反社ゾンビを見上げた。反社ゾンビは焦点の合わない視線を遠くに向けている。反社に向かってこいつらと呼ぶリリスに流星が引きつった。
「で、どうするんです?」
「次はゴドーカイとやらの事務所ね」
「ああ、そんならさっきの名刺の束に何かヒントがあるかもしれないっす」
リリスがバッグから筋肉ヤクザの所で回収して来た名刺を取り出す。それを流星に渡すと、流星がパラパラとめくって言う。
「流石に事務所とはかいてないっすね。いろんな店の名刺があるだけです」
「店の名刺ね」
「もしかしたら、これのどれかは伍堂会の運営かもしれねえっすけど」
「そう…じゃあ調べるしかないわね」
俺も流星もある程度予想はしてた答えだが、一応俺が釘をさしておく。
「リリス。まあ一応言っておくけど調べるのは危ないし、無差別に攻撃してはまずいと思う」
「わかっているわ。さっきの筋肉男と女は傷つけなかったでしょ?」
「そう言えばそうだね。縛ったけど」
「あれは私達に危害を加えようとしていなかったし、何もしてない人をどうこうしないわよ」
「うん」
「明らかにこちらを殺そうとした時だけ、報復としてやっているわ」
なるほどなるほど。どうやらリリス的なルールがあるらしく、自分らに危害を加えて来た奴らだけをゾンビにしているらしい。
「そういうことか」
「だってクジョウに殺された人達と親しかったわけでもないし、私はただ恨みを持っ殺された人を探しているだけだから」
「わかった」
「じゃあ、そろそろ」
リリスが流星に目配せをした。すると流星はリリスを見て頷く。
「キャバにいくんっすね」
「連れて行って」
「はい」
再び新宿の街を歩きだす。二体の反社ゾンビが目立つのが気になるが、俺も少し慣れてきたようで平然と歩くことにした。
でも…キャバクラって行った事無いけど、いくらくらいかかるんだろう? 俺はだんだんと不安になって来てしまう。
「あー、流星君」
「なんすか?」
「キャバクラってどのくらいもってけばいいかな?」
「まあ女に貢ぐわけでもないんで、五万から十万もあれば問題ないっすね」
えっと、と言う事は俺がもともと持っているお金と、六本木反社事務所でもらった金の残り三万ちょっと。ATM探して金を用意した方が良いだろうか? どうしよう?
するとリリスが俺に向かって言って来る。
「レンタロウ。私はいくら持ってるのかしら?」
「あ、見てない」
どうやらリリスは俺の心情を読んで、金の心配をしている事が分かったらしい。リリスが自分のバッグを俺に差し出してくるので、ふたを開いて中を見ると十分すぎるほどの金が入っていた。
「私が払うから」
すると流星が言う。
「あの、助けてもらったんで、俺もいくらか払います」
「大丈夫?」
「高いシャンパンとか酒を入れなきゃ大丈夫っす。頼むのは俺が頼むんで安心してください」
良かった。流星が歌舞伎町のホストなので任せればいいらしい、その界隈の事はそのプロに任せるしかない。再び繁華街に戻って来た俺達は、流星についてあるビルの前に到着した。
「このビルの七階っすね」
するとリリスは反社ゾンビに対して指示を出す。
「お前達は適当にうろついてなさい」
反社ゾンビ二体は夜の街に消えて行った。と言っても適当にグルグル歩きまわるだけなので、リリスが呼べばすぐに戻って来る。
「いきましょう」
「うっす」
流星を先頭にして、ビルに入りエレベーターで七階に降りた。するとすぐ前の落ち着いたドアに、アルファベットでサハラトーキョーと書いてあった。
「入るっす」
「ええ」
流星が入り俺達がついて行く。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「三人」
「かしこまりました」
いわゆる黒服という人に案内されて、俺達は席へと案内された。そこに座ると店舗を利用したことがあるかと聞かれる。すると流星は言った。
「あるよ。今日は接待で」
黒服が俺とリリスを見て、変に納得して頷きオーダーを聞いて行った。するとすぐに綺麗なドレスを着た女が二人、俺達の席に座って挨拶をする。
「いらっしゃいませ~! ことはでーす」
「マキでーす」
どちらも筋肉ヤクザが持っていた名刺の子じゃない。女の子たちは、手拭きを俺達に渡してくれた。そしてリリスをがん見して言った。
「ちょっとー! 可愛いんですけど!」
「ほんと! なんかビックリするほど均整がとれてて羨ましいわぁ」
いきなりリリスを褒めて来たが、リリスはそれには何も答えなかった。ちょっと気まずいかなと思った時、流星がフォローを入れる。
「こちら、まだ日本に慣れてないんだよね。日本語は話せるんだけど、なんていうか面食らってるみたいな?」
「そうなんだー! かわいいー!」
「緊張しなくて大丈夫だよー」
リリスは緊張しているのではない。恐らく目的としている対象じゃない為、興味を持っていないだけだ。だが彼女らも何かを知っているかもしれない。俺は超アウェー感を感じながらも、何を話すべきか必死に考え始めるのだった。




