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第42話 筋肉ヤクザを脅す

 反社ゾンビが筋肉ヤクザの部屋に進入してから、俺達は廊下でじっと待っていた。誰かに目撃されるんじゃないかとひやひやしていたが、今のところは誰も来ていない。


 リリスだけが集中するように部屋の方を見て黙っている。


「兄貴。どうするつもりです?」


 突然、流星から兄貴と呼ばれて戸惑う。こんな金髪の人から兄貴って呼ばれる事なんて、人生で一度も無かったしこれからも無いと思っていたから。


「あ。とりあえず黙って」


「すんません」


 俺もどうしたらいいか分からないから。しばらく待っているとリリスが俺達に向かって言った。


「入るわよ」


「え? 入るの?」


 俺は思わず言ってしまう。分かりきった事だったが、改めて危険だと思ったから思わず口から出た。だがリリスはお構いなく半透明の腕を出してドアを開いた。


俺の意思など関係なく、リリスは高級マンションの一室へと足を入れた。中に入るとなんと武闘派ヤクザと綺麗な女がグルグル巻きにされていた。ご丁寧に目隠しまでされている。


 どう考えても反社ゾンビの方が弱そうで、筋肉隆々の武闘派ヤクザに勝てるような体系をしていないが、何故か制圧し二人をぐるぐる巻きにしていた。


「お、おまえら! いったいなんだ!」


 筋肉ヤクザが聞いてくる。女のほうは怯えているようで、ただ震えていた。なんとなくだが、殺されるとか思っているような気がする。まあ返答や、リリス次第でどっちに転ぶか分からんけども。


 リリスが男にしゃがんで聞いた。


「あなた、クジョウが捕まったのは知ってる?」


「な、なんだ? サツか? サツがこんな事をして許されると思ってんのか?」


 筋肉ヤクザがどうにか逃れようとするが、きっちりと縛られていて動けない。反社ゾンビはどんだけ力があるんだろう。リリスが筋肉男の頭にブーツの足を乗っける。


「ぐっ」


「とりあえず、クジョウが殺した奴を覚えている限り言いなさい」


「な、裏をとりに来たのか?」


 ゴツン! とリリスが筋肉ヤクザの頭を蹴飛ばした。


「ぐっ! 本当に知らねえって、俺はそっちの方には関わってねえんだ」


「同じ組の仲間なのに?」


「九条は組の人間じゃねえ、アイツはただの殺し屋なのは知ってんだろ?」


 するとそれを聞いた流星がまたリリスに耳打ちする。


「なら、伍堂会で指図した殺しだけでいいから言いなさい」


「知らねえって! 殺しなんか関与してねえよ」


 正直なところ俺ですらリリスが怖い。次にリリスは女の所に行って、グイっと髪の毛を引っ張る。頭を起こされた女が声を発した。


「きゃっ!」


 それに対して男が反応する。


「な、なんだ? なにしてる?」


「弘樹! 早く助けてよ!」


「お、おい! 円花から手を放せ」


 するとリリスが冷たく言い放つ。


「あなた、マドカがどうなってもいいの?」


「…お、お前らサツじゃねえな?」


「違うわ。ただクジョウが殺した奴を知りたいだけよ」


「…知らねえ」


「オカダとヤスタケ、ミナヨは知ってるわ。そのほかによ」


「だから! 知らねえって」


「なら仕方ないわね。マドカ、あなたは、もういらないって」


「やだ! 助けて!」


「や、やめてくれ! 円花は関係ねえ!」


「なら言いなさい」


 すると筋肉ヤクザが諦めたように言った。


「佐嶋とホステスの結子。あとキリヤってホストと、木村って刑事だ。後は知らねえ! 本当だ!」


「本当?」


「マジだ! 後は本当に知らねえ!」


「終わったわ」

 

 すると流星が怒りに満ちた顔でヒロキの所に行き、顔面を蹴っ飛ばした。


「ぐあっ!」


「弘樹!」


 結子が叫ぶ。


「用はすんだ?」


 リリスが言うと流星はぺこりと頭を下げる。


「はい」


「じゃ、行きましょう」


 皆で玄関を出るとすぐに流星が言った。


「くそ! マジかよ! 桐谷さんも殺されたのかよ!」


「それは誰?」


「ホストの先輩っす。行方不明になったので、田舎に帰ったんだと思ってました」


「それは悔しいわね」


「はい」


 俺達は急いでそのマンションを出て雑踏に紛れ込んだ。するとリリスから半透明な手がするりと出て来て、ポイっと何かを捨てる。


「えっ? なに?」


「入れ物よ。あのヤクザは流星と同じく名刺を持っていたわ」


 リリスの手には何枚かの名刺が握られていた。どうやら名刺入れを盗んで中身をぬいたようだ。あまりにもの手際の良さに、俺はもう何も言う事が無かった。きっとこうやってヴァンパイアの屋敷からも、隷属の腕輪を回収して来たんだろう。


「一旦公園で話そう」


 俺が言うとリリスは反社ゾンビに道路で待つように言い、公園に入ってブランコに座った。俺もその隣のブランコに座り、流星は直立不動でその様子を見ている。


「リュウセイ。名刺から何か分かる?」


「あ、見せてもらってもいいっすか!」


「いいわ」


 そして流星が名刺を見始める。


「あ、これ…美奈代が働いていたキャバクラすね」


 俺が流星から名刺を受け取る。


「サハラトーキョー 水上花憐 Karen Mizukami」


「サハラトーキョーのカレンちゃんって言えば、ナンバーワンキャバっすね」


「ナンバーワン?」


「サハラトーキョーのナンバーワンっすよ、結構有名でテレビとかも出たことあるっすね」


 なんでそんな人の名刺を持っていたんだろう? リリスが俺をくるりと見る。ああ、なるほど…次に言う言葉は想像つく。


「サハラトーキョーに行きましょう」


 やっぱり。


「どうするつもり?」


「ミズカミカレンの顔を覚えられればいいわ。後はしるしをつけるから」


 すると流星が慌てたように言う。


「花憐ちゃんに何かするんっすか?」


「大したことじゃないわ」


 そして名刺に書いてある開店時間を見ると、あと三時間後だった。


「まだ三時間ある」


 俺が言うと、リリスが流星に聞く。


「ケイサツのイナダケイシは何処にいるの?」


「そ、そりゃ。新宿警察署っすよ。たぶん」


「なるほど。あとゴドーカイは何処に?」


「それも新宿にあるっす」


「わかったわ。場所だけ回りましょう、位置を確認しておきたいわ」


「まさか殴り込まないっすよね?」


「ちょっと、兵隊が足りないわ」


 兵隊って言葉…サジマの入れ知恵か?


「わかりました」


 俺達は再び流星について新宿警察所へと向かうのだった。


「警察署ってどっち?」


「西新宿っすね」


 うわあ…だと、反社ゾンビを連れてまた街中を歩くのか。時間が時間なだけに人ごみの中を歩かなきゃならない。しかもこんな派手な金髪男と紫の髪のリリスを連れて


 どう考えても普通の会社員には荷が重い。おれは、ただただ同じ会社の知り合いに会わないようにと祈るのだった。

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