第41話 鉄砲玉オブザデッド
『花山組と伍堂会と警察署どれがいい?』という究極の選択をリリスから迫られ、俺の背中には冷や汗しか流れてこなかった。花山組は大きな反社でニュースで名前を聞く事もある。伍堂会の名前は知らないが武闘派ヤクザとして界隈では有名らしい。そして警察署なんぞ行ったら、それこそ戻って来れなくなりそうだ。
流星があっけに取られてリリスに言う。
「あのー、何をおっしゃってるんですか?」
「ああ、聞き方が悪かったわね。ハナヤマグミとゴドーカイとケイサツショの何処に行けば、クジョウが殺したオカダとヤスタケとミナヨの話が聞けるの?」
「えっ、あっ、ふーん。なるほどです、じゃあ俺が懸念した通りだ。そかそか…」
っと独り言を言いつつ、流星の顔色がだんだん悪くなってきた。
「どう?」
「いや、あのなんつうか」
どう? って言われても流星さんも困るよなぁ…
「えっと、俺の聞き間違いじゃ無ければいいんですが、花山組か伍堂会か警察署に白昼堂々乗り込むという事で間違いないですか?」
「そうよ」
「「…………」」
三人に沈黙が流れる。
「えっ?」
「どこに乗り込めば良さそう?」
「はは、はははは。心からの答えを申しますと、何処にも乗り込んじゃダメだと思います」
「何故? クジョウが殺した奴らの情報が取れるかもしれないのはそこなんでしょう?」
「まあそうっすけど、どうしても行かなきゃダメっすかね?」
「どうしても行かなきゃダメなのよ」
三人の間に沈黙が流れる。俺達の周りでは初詣の準備をする神社関係者と、屋台の建設をしている屋台関係者が作業をしている。もちろん俺達の事は、ただの若者が神社の境内でだべっていると思ってるだろう。話の内容さえ聞かなければ、トンカントンカンと機材を組んだりしている彼らは、俺達の事など全く気にしちゃいなそうだ。
流星が額の汗をぬぐいながらリリスに聞いた。
「あのー、もしかしたら俺。後戻りできないところまで来てますでしょうか?」
「ん? 戻るつもりなんてないわよ。とにかく回収する物はしないと」
「ですよね」
そしてまた沈黙が流れた。流星の額には汗が流れ、目がグルグル回って今にも倒れそうな雰囲気だった。どう考えても花山組と伍堂会と警察署のどれにも行っちゃいけない。
俺も心の中では流星頑張れ! とエールを送っている。何故ならば行く場所が決まれば、俺は隷属の腕輪により強制されるからだ。ここで流星が全く違う答えを出してくれたのなら、俺は組事務所にも暴力団にも警察署にもいかなくていい。
どうなるか。
「言いたくはないんですが、敷いて言えば伍堂会っすね。敵ですし」
あちゃー。言っちゃった。
「決まりね」
うひゃー。決まっちゃった。
もちろん俺に拒否権はないが、一応言ってみる。
「リリスやめよう! 武闘派ヤクザなんてヤバいって!」
「レンタロウも一緒に来なさい」
「仰せのままに」
俺達は反社ゾンビを連れて再び新宿の街を歩き始めた。不思議とそれには慣れて来たが、これから向かう場所の事を考えるとめっちゃブルーである。だがリリスはやると言ったらやるタイプだし、流星は逆らうと殺されると思っているから行くしかないのである。
出来るだけ遠いところだと良いな。もしかしたら途中で気が変わるかもしれないし、違う案が浮かんでくるかもしれないし。
「ここです」
約十分でついた。
「なるほど。随分背の高い建物ね」
「えっと、ここは組事務所じゃないです。幹部が住んでる場所っすよ。いきなり本部に行くより、幹部に話をつけた方が良いんじゃないかと思いましてね。さすがに」
流星が連れて来たのは、めっちゃ高級そうな高層マンションの前だった。明らかに金持ちしか入れないであろう物件で、俺達はめちゃくちゃ浮いてしまっている。でもこんなところに幹部が住んでるなんて、反社も儲かってるんだな。
「ふーん。リューセーなりにどうすればいいか考えてくれたのね?」
「まあそうっすね。いきなりチャカとか出されたら姉さんもハンパねえっしょ?」
リューセーはリリスを姉さんと言い出した。明らかに年下なのに。
「行ってみようかしら」
「えっと、ただ部屋までは知らないんです」
流星グッジョブ! それなら少し時間稼ぎが出来るし心の準備が出来そうだ。作戦会議も出来そうだし。
「調べなくちゃいけないって事ね?」
よし! 一旦話し合いだ!
ブォン!
突然、後ろから甲高いエンジン音が聞こえて来たので振り向くと、めっちゃ高級なスポーツカーが歩道から入って来てマンションの地下駐車場に降りていった。
「芸能人かな?」
などと、俺が平和な事を言っていると流星が言った。
「姉さん! あれっす! 伍堂会幹部の車っす」
嘘だろ…スムーズ過ぎる。どうもリリスと動くようになってから、悪いことを引き寄せているような気がしてきた。
俺が不思議に思っているとリリスが俺に言った。
「行きましょう」
更に、リリスは反社ゾンビに向かって言う。
「あなた達がいるとバレるわ、ここに居なさい」
そう言うと二人の反社ゾンビはそこに立ち止まった。それから俺達はまるで住人のようにマンションの自動ドアをくぐる。何事もなくリリスがオートロックのドアを内側から開けて、普通に中に入る事が出来てしまった。そしてエレベーターの前で待っていると、上の階からエレベーターが降りて来て地下に行った。すぐに折り返して来たので流星が上のボタンを押す。恐らく地下でさっきのやつらが乗っているのだろう。
流星は俯くようにして俺の後ろに立った。
「どうしたの?」
「もしかしたら顔を知られてるかも知れないですし」
なるほど。
エレベーターのドアが開くと、スーツの男とスタイルの良い女がエレベーターに乗っていた。スーツの男はサングラスをしており、スーツとシャツが張り裂けんばかりの筋肉で盛り上がっている。女もサングラスをして上品なワンピースを着ており、明るめの色の髪はメッシュが入り艶が良かった。
すると女が突然、リリスに声をかけて来た。
「あら? 美人さんね! タレントさん?」
うわ。どうしよう? いきなり声をかけれらたぞ。だがリリスは落ち着いて言う。
「ネクロマンサーよ」
「???」
女の頭にハテナマークが浮かぶ。だが気を取り直して聞き直した。
「ユーチューバー? ライバーとか?」
「まあそんなところよ」
なにが? 全然違うし!
「最近のSNSはいろいろあるからね。登録者とかはどれくらい?」
「登録者?」
「SNS全部の登録者」
チン!
最寄りの階に着いたらしく、エレベーターが開きスーツの男が女に言う。
「おい、くっちゃべってねえで行くぞ」
「あら、また今度ね」
反社と女の二人が降りて、スッとエレベーターが閉まりかけた時、リリスの半透明の腕が閉まるエレベーターのドアを止めた。俺達はそのまま二人をつけるように中に入って行く。二人が部屋に入って行き部屋番号を確認した。
「鮮やかっす姉さん! スパイ顔負けっす!」
流星はなぜか、すっかりリリスに心酔しきっている。だがここからが問題でリリスは一体どうするつもりなのだろうか?
「じゃあ彼らを迎え入れましょう」
「彼ら」
「アンデッドよ」
ああ、一階の外に置いて来たやつらね。俺達が一度一階に戻ってドアを開けると反社ゾンビが入って来た。そして再びさっき確認した部屋に向かう。
「リリス。何をするん?」
「いきなり入ってチャカを出されたら危険だわ。だからこいつらに行かせる」
なるほど、とりあえず身を危険にさらさないってことか。
それを聞いた流星が反社ゾンビに言う。
「鉄砲玉のお役目ご苦労様っす!」
だが反社ゾンビは何も答えない。
部屋の前に着くと、リリスは半透明の手で玄関を内側から開けた。もちろん流星にはその腕は見えていないだろう。そしてリリスが二人の反社ヤクザに命じた。
「行きなさい」
反社ゾンビは臆することなく、スッとマンションの玄関を入って行くのだった。




