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第40話 究極の選択を迫られる

 カフェの客らが道向かいで起きている交番の乱闘に気づき始めた。近くに座っているカップルの男が、窓の外を見ながら言う。


「お、おい! 見ろよ。警察官とヤクザみたいなのが殴り合ってるぞ」


「やだー、怖ーい!」


 その言葉を聞いた店員や、他の客までが野次馬になり窓の外を見下ろしている。


「えっ! どういう事?」

「ちょ、ヤバいよ」


 うん。ヤバい。あれをやらせてる人、ここに居るし。


 背の高い警官をボコボコにしている黒づくめの二人を、交番の中から出てきた警官達が取り押さえようとするがブンブンと振り払われて取り付けない。背の高い警察官もどうにか逃げようとするが、立ち上がる事すら出来ずにボコボコにされている。


 それを見た流星が目を見開いて言う。


「な、なんで? 捨て身で? あの人ら捕まるぜ! おかしくなったんか?」


 するとリリスが言う。


「私の言う事は絶対よ」


 そう言うと、流星がめっちゃ青ざめた顔でリリスを見た。


「ど、どれだけ上の人なんだ…あんた…。絶対って…」


 流星はリリスの事を更に勘違いしたようだ。だが彼らは権力的な指示に従ってやっているのではなく、物理的に支配されてやっているのだ。にしても黒ずくめの反社ゾンビの力は常軌を逸している。一人に警察官が三人がかりで抑えても、ボコボコにするのをやめないのだ。


 隣りで見ていたカップルの男が言う。


「あのままじゃ…背の高い警官死ぬんじゃないか?」


 確かにまずい。俺はリリスの耳元でそっと呟く。


「ちょっとやりすぎかも」


「わかったわ」


 すると暴れている黒ずくめの反社ゾンビが力を弱めた。一方的に殴られていた長身の警官が、ゴロゴロと転げてそこから脱出する。すると警官はふらふらになりながら立ち上がり、腰から拳銃を取り出して叫んだ。


「ふざけやがって!」


 それを見た他の警官が制止する。


「お、おい! やめろ!」

「おちつけ!」


 パン! 黒ずくめの反社ゾンビの眉間に弾が当たり、操り人形の糸が切れたように崩れ落ちた。それを見てリリスが言う。


「一体、破壊された」


 自分達も被弾する危険性がある為、警官がバッと反社ゾンビから離れ長身の警官に言った。


「やめろ! 拳銃を下ろせ!」

「こんな事をしたらタダではすまないぞ!」

「落ち着け!」


「あらら、危ないわね。押さえなくちゃ」


 パン! 長身の警官が、もう一人の反社ゾンビの胸に打ち込む。だが反社ゾンビは止まる事無く、長身の警官を取り押さえようと動いた。警官にとりついたものの、もみ合っているうちにまた銃声が鳴る。


 すると反社ゾンビは顎から頭を撃ちぬかれて倒れてしまった。長身の警官が呆然としているところを、仲間の警官がわっと取り押さえて拳銃を取り上げる。


 それを見ていた流星がガタガタと震えはじめる。


「あ、あ…死んじまった…。あんたの指示は絶対なんだ…」


 いや。もう死んでたんだけどね。でも見た感じは警官に撃ちぬかれて死んだように見えるか。


 するとそれを見たリリスが、冷静に冷たく言い放つ。


「まあ、少しは役に立ったかしら」


 カチャカチャカチャカチャ。リリスの言葉を聞いた流星が震え、手に持ったコーヒーカップとソーサーが鳴り始める。恐ろしい物を見るような目つきで、リリスから目が離せなくなってしまった。下では警察官達が緊急要請をしており、見物人を遠ざけようと必死だった。


「あ、あなた様のいう事は絶対という事ですか?」


 よく見れば、ホットコーヒーを飲んでいるはずの流星の唇が紫色になっていた。口調もだいぶおかしなことになっている。


「そうね」


 カチャカチャいわせながら、コーヒーカップをテーブルに置いて流星がリリスに言う。


「お、俺は、な、なにをすれば助けてもらえますか? 何でもします」


「別に。ただクジョウに殺された奴らを知っているだけ教えてほしい」


「じ、実はあんまりよく知らないんです。そうじゃないかと言われている噂程度でして」


「それでいいわ」


「はい…」


 だが流星は震えすぎて、すぐに話をすることが出来ないでいた。今はカフェの客が外を見ているからいいけど、こんな話を聞かれるわけにはいかない。


「えっと、一旦出た方が良いんじゃないかな?」


「そう?」


「巻き込まれたら大変だ」


「…そうね。移動しましょう」


 俺達はカフェの会計を済ませて階段を降り外に出る。警察署から見ると死角にカフェの出口があるので、騒ぎが起きている場所からは見えない。俺達が歩きだすと、突如後ろに六本木の反社ゾンビがついて来ていた。


「ひっ!」


 流星が縮みあがっている。本当なら俺も震えそうな事件だが、流星があまりにも怖がっているため冷静でいられた。歩いているうちに後ろの方で救急車とパトカーのサイレンが鳴り始めた。


「少し離れた方が良いかも」


「そうね」


 俺達があても無く歩いていると赤い神社が見えて来た。するとリリスがそれを見て言う。


「これは…神殿?」


 おや? 感覚的に何か分かるのかな?


「神社って言う場所さ。神殿みたいなものだよ」


「そうなんだ」


 リリスが考えこむようにした。


「えっと、何かマズい事でも?」


「いえ。問題ないわ、どうやら信仰する神は違うらしいし」


 すると流星が言った。


「えっと花園神社っていいます。俺、たまにここに手を合わせにくるっす」


「そうなのね。いい事だわ」


「そうなんすか?」


「信じる者は救われるよ」


 リリスと俺と流星、そして反社ゾンビが神社に入った。するとリリスが反社ゾンビに言う。


「あなた達は、このあたりを見張ってなさい」


 ぴたりと止まるゾンビに流星が言う。


「本当に、あなたの言う事は絶対なんですね?」


「そう。わかった?」


「はい」


 神社に入ると広い階段があり、赤い御社殿が奥に堂々と構えている。その階段を数段登って、階段にリリスが座り流星に言う。


「あなたも、ここに座りなさい」


「はい」


 二人が座ったので俺もその隣に座る。すると流星が話を始めた。


「教えるのは、佐嶋さん以外に殺された奴で良かったっすよね?」


「ええ」


「うわさっすよ? 俺もそっちの界隈はそんなに知らねえんで。まあホストとかやってると、噂話が聞こえてきたりしてって程度っす」


「いいわ」


 流星は緊張の面持ちで話し出す。


「九条が殺したのは花山組の岡田ってヤクザと、その女の美奈代ってホステスっす。あと岡田の舎弟の安武っつう組員っすね」


「なんで殺されたの?」


「純粋に敵対してる組っすからね」


「敵を殺した?」


「九条を使ったのは恐らく伍堂会っていう武闘派ヤクザっすね。伍堂会ってのは敵が多いっす。ヤクザの道理も通らねえみたいな暴力団なんですよ。花山組が邪魔だったんじゃないっすかね?」


「そうなんだ。サジマはどうなの?」


「ちっさいっすけど、佐嶋組つう組をもってたっすね。花山組系と言う奴です」


「他にはいるの?」


「他に殺されたってのも噂では聞きますけど、俺が知ってるのはそのくらいっす」


「わかったわ」


 言った後で、流星がもじもじしている。


「あ、あの。それで、俺は本当に殺されないんですか?」


「なんで? あなた悪いコトして無いじゃない。それにいろいろ教えてくれた」


「はい…しかし、ビックリしました」


「なにが?」


「あんたの為に命を懸けるヤクザがいるんだなって、俺をボコったぐらいの警官に制裁を加えるためにあんな…命がけで」


「命をかける?」


「はい」


 するとリリスはフフっと笑った。俺からしたらいつもの笑いだが、流星からしたら悪魔に見えているだろう。


「殴らせにやっただけなのに、あんな風になっちゃって。まあ、あなたを刺した罰よ」


「俺を刺した罰?」


「殺そうとしたじゃない」


「まあ…そうっすね。まさか…そのケジメですか?」


「まあそんなところね」


「は、はは…」


 リリスが空を見上げて何かを考え始める。きっと俺や流星からすればあまりいい話ではない。そんな時、神社につむじ風が起きてビュゥと吹き付けた。神社の境内を見れば、初詣の準備がなされており屋台の準備などもしているようだ。


 初詣か、ちょっと早いけどお参りでもしてこよう。


「リリス。お参りしてくるよ」


「ええ」


 俺は祭壇の前に行って、財布からお賽銭を取り出して賽銭箱に入れる。二礼二拍手し願い事をかなえる。


 どうか…無事に年を越せますように。そしてリリスが元の世界に帰れますように。ついでに流星さんも生き延びますように。


 …あと…


 美咲さんと仲良くなれますように。祈りを捧げ一礼して目を開くと、俺の隣りでは流星もお祈りをしていた。お参りをすませた俺と流星がリリスの所に戻る。するとリリスが名案が浮かんだように俺達に言って来る。


「ハナヤマグミとゴドーカイとケイサツショどれがいいかしら?」


 どちらも地獄。


 予想はしていたが、流星は完全にノックアウトされてしまう。もしかしたら流星の願いは、早くこの二人から逃れられますようにだったかもしれない。


 俺と流星は固まって、究極の三択に頭を悩ませるのだった。

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