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第39話 交番オブザデッド

 焼肉屋の会計は三万円でリリスが支払った。俺がヤクザの金を使い切りたいので支払いたいと言ったが、ぼったくりバーで盗った金があると拒否された。どうやらリリスがご馳走する意味があるらしく、これで契約成立だとかなんとか言っている。


 リリスが支払っている時も、焼き肉屋の店長は真っ青な顔をしていた。どう考えても反社が、店に迷惑をかけていそうな構図ではあった。普通に食事代を払っているだけだけど。


 リリスが流星に言う。


「その警察官がいる場所に連れて行って」


「本当に行くんですか? 俺は何とかこの町から逃げて、行方をくらませればそれでいいんすけどね」


 いい年の大人が未成年の美少女に敬語を使っている。刺されてから焼肉迄の流れで、流星の中でリリスがかなりの格上だという認識になったようだ。


「あなたは何も悪くないのに、あなたの方が出て行くのは間違っているわ」


「えっ? でもいたら危ないですよ」


「それをなんとかしましょう」


 確かにリリスの言っている事は正論ではある。だが黒幕は警察のお偉いさんと武闘派ヤクザであるからして、どう考えてもリリスの主張は通らない。おかしな話だが、とにかくここはおとなしく逃げた方が良い。そう思うのは俺だけだろうか?


「助けてくれたあんたらが危ない目にあうのは、俺としては避けたいんですよ」


 流星はチャラチャラしているように見えるが、道理は通すタイプらしい。


「とにかく問題ないから、殴った警官がいるところに連れていきなさい」


「わかりましたよ。どうなっても知らないですよ?」


「いいわ」


 俺達は流星の案内につき従い、新宿の街を歩き始める。流星は逃げる為の重たいボストンバッグを持っているので、ちょっとしんどそうではある。俺が流星に言った。


「それ重そうだね。少し持ってあげるよ」


「いい! いい! 恩人にそんなことさせらんねえっす」


 そのやり取りを聞いたリリスが、六本木から連れて来た反社ゾンビに言う。


「おまえ。それを持て」


 すると反社ゾンビが流星からバッグを取り上げて、そのまま歩き始める。


「あ、すんません」


 流星が反社ゾンビに頭を下げると、リリスが流星に言う。


「こいつらに礼なんかしなくていいわ」


「こ、こいつらって…」


 未成年の美少女が、反社をこいつ呼ばわりしたらそりゃ驚くよな。


 街角をいくつか曲がってしばらく歩くと交番が見えて来た。その交番を指さして流星が言う。


「あの交番にいる警官にやられたんだ」


「じゃあやろうかしら」


「交番襲撃なんてダメですよ」


 うん。間違いなく流星の言うとおりだ。俺もリリスに言う。


「本当にやるの? 確かに無実の人をボコボコにしたのは悪いけど、これからやる事はもっとまずいと思うよ?」


「だって、流星は無実なのに立てなくなるくらい殴られたんでしょ? だったら立てなくなるくらい殴り返しても良いと思うの」


 すると流星が言う。


「とはいえ…。あの交番の全員じゃないんすよ? あの交番の警官一人にやられたんです」


「えっ? そうなの? 全員やるところだったわ」


 俺は慌てて言う。


「ちょっ! ちょっと! もっぺん打ち合わせしよか?」


「わかったわ」


 俺がぐるりを見渡すと、交差点の向かいの二階にカフェが見える。


「あそこに行こう」


「ええ」


 するとリリスが反社ゾンビ達に指示を出した。


「お前達。このあたりを適当にうろついてなさい、店に入ると目障りだわ」


 リリスも学習したようだ。さっきの焼き肉屋でかなり目立ってしまった事を反省しているらしい。それは俺も正解だと思う。


 俺達三人は、対面のカフェ二階の窓際に陣取って交番を見下ろした。特に警官が出てくるわけでもなく、しばらくは通行人ウォッチをする事になる。リリスが流星に言うのは、対象の警官が現れたら教えるって事だった。


 しばらくして流星が言う。


「戻って来た。あの背の高い奴っす」


 俺達が下を見ると、普通の真面目そうな警官二人組が道の向こうから戻って来た。そしてそのまま交番に入って行く。その背の高い方が流星をボコボコにしたらしい。


「わかったわ」


 リリスは警官の顔を確認して、交番をじっと眺めている。


「えっと…リリス。どうするの?」


「どうって、ここに居るわ」


「何もしないって事?」


「するわよ」


 俺と流星の頭の上にハテナが浮かんでいる。リリスは頼んだミルクティーを優雅に飲んで、ただ道路を眺めているだけ。仕方なく俺はアイスコーヒーを飲み、流星はホットコーヒーを飲んでいた。


 その時だった。流星を刺した黒服の反社ゾンビ二人が交番に向かって歩いてくる。


「あ、彼らが戻って来た…」


 と俺が何気なく見ていると、躊躇なく反社ゾンビが派出所に入って行った。


「なになになになになになに!」


 俺と流星が目を見開いている先で、交番から突然、ガッシャーン! という音と共に、背の高い例の警官が窓を突き破って飛び出して来た。


「「ブッ!」」


 俺と流星が思わずコーヒーを噴き出してしまう。だがリリスは冷静にその光景を見つめるだけだった。俺がリリスの目を見ると、瞳が赤く輝いているのだけがわかる。俺達が呆然とその光景を眺めていると、交番の中から黒ずくめの反社ゾンビが出て来る。


 交番の前で、流星をボコった警官を反社ゾンビがボコりはじめたのだった。それこそ容赦なく。

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