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第38話 焼肉食べ放題で企む

  目についてすぐ入った焼き肉屋は食べ放題の店だった。九十分いくらの食べ放題でコースによっては良い肉が食べられるっぽい。俺達が入って行くと店員が血相を変えて駆け寄って来た。


「お、おそれいりますが、ただいま混みあってまして」


 店員はチラチラと反社ゾンビ達を見ている。多分店に入ってほしくない雰囲気だが、なんとしてもいったん落ち着きたい俺は店員に言う。


「えっと。じゃあここで待ちます」


「えっ! えっと、一時間半ほど待つと思いますが」


「構いません」


 すると店員は顔を青くして言った。


「しょ、少々おまちください!」


「あ、はい」


 俺達がそこに立っていると、次々入って来るお客さんが出て行ってしまう。別に立っているだけなので営業妨害ではないと思うが、並んでいる人もいなくなってしまった。それから少しして店長らしき人がやって来る。


「あ、どうも。ようこそいらっしゃいました。ご用件は?」


 ご用件って…ご飯を食べに来たんだけど。


「昼食です」


 ランチ時に来て昼食ですってのもおかしな話だ。


「わ、わかりました。今回は特別に四階の個室でと言う事で、本来は予約いただかないと入れないのですが事情がおありのようですので」


「ありがとうございます」


 俺達は混みあう店内をスルーして階段を上がっていく。一階と二階が通常の店舗のようだが、三階を通り越して四階の個室に通された。店長が先に行き部屋を開け俺達が後から入って行く、するとリリスが四人の反社ゾンビに対して言う。


「あなた達は立ってなさい」


 反社ゾンビは壁際にずらりと立った。そしてリリスが店長に言う。


「こいつらは護衛なので食べません」


「いや…まあ、はい…そうですか、わかりました。本来はテーブルに着いた人数分となるのですが」


 そりゃそうだ。店長も言いたくても言えない感じだが、この際ゾンビの金なんて払えないので俺もスルーだ。


「テーブルにはつかせないわ」


「…そうですか。わかりました。それでは三名様と言う事でさせていただきます」


「そうして」


「はい」


 たぶん早く食べてもらって早く出て行ってもらいたいのだろう。本来は個室に入った人数だけの料金が発生するところを、食べる三人分にしてもらった。完全に特例だと思うのが申し訳ない。


 席に通されてリリスと俺が座り、対面に流星が座った。流星の後ろの壁際に反社ゾンビが並び、真っ青になっている流星を店長が可哀想な目で見ていた。恐らく流星が何かヘマをして反社ゾンビ達に連れてこられた構図になっている。そして店長がメニューを渡してくる。


 リリスが言った。


「これから話をするから適当に、そうね…」


 メニューを見たリリスが一人九十分八千円コースを選んだ。


「このお肉が美味しそう」


「八千円コースを三人分ですね? お飲み物は?」


「つけて」


「アルコールは?」


「じゃあそれもお願いします」


「だとプラス千五百円で、一人様九千五百円になります」


「はい」


 するとリリスが流星に言った。


「あなた血を流したんだから、肉を食べなさい。体力を戻す必要があるわ」


 血を流したフレーズで、焼き肉屋の店長が凍り付くのが分かる。


「いいんすか?」


「私のおごりよ」


 流星は小さくなりながらもお辞儀をした。そして俺がメニューを見ながらよさげな肉を頼んでいく。


「えっとつぼカルビにつぼハラミ、特上カルビ、黒毛和牛カルビ、厚切り上タン、ネギタン塩、味噌ホルモン、ユッケ刺、冷やしトマト、白菜キムチ、ライス、カルビスープを全部三つずつ」


 そして流星に飲み物を聞く。


「何を飲む?」


「び、ビールとか?」


「じゃあビールとコーラとグレープフルーツジュースを」


「かしこまりました」


 店長はオーダーを聞いてすぐ部屋を出て行った。流星は相変わらず青い顔をして硬くなっている。


「えっと、流星さん。いいっすか?」


「な、なんだ?」


「我々は敵じゃないです。むしろ本気で流星さんを安全な場所に連れていきたいと思っています。でもそいつらがいきなり襲って来たんで、こうなってます」


 流星が後ろを振り向いてすぐに目を逸らす。するとリリスが言った。


「大丈夫。私には絶対に逆らわないから」


 流星がおしぼりで汗を拭きながら言った。


「えっと、あなた様はいったい何者なんですか?」


「依頼を受けて仕事をするのを生業にしてる」


「えっ! まさか…殺し屋?」


「殺し屋じゃないわ。まあ何でも承るのよ」


「なんでも?」


「今回は依頼じゃないけどね、とにかく私は、あなたを安全な所に送り届ける代わりにクジョウにやられた奴を知りたいのよ」


「もしかしたらだけど、言ったら俺を殺します?」


「殺さないわ。あなた悪い人じゃないもの」


「ほんと?」


「本当よ」


「ホントのホントに?」


「本当の本当に」


 すると流星はテーブルに突っ伏して大きくため息をついた。


「はー…そうか。俺はてっきりあんたらは殺し屋なんだと思ってた。クジョウを始末しに来たけど、警察にパクられて失敗したので俺を殺しに来たのかと」


 なんと言う壮大な勘違い。クジョウに関しては俺達が警察にパクらせたんだけど。


「違うわ」


「でもなんでこの人らは、大人しく従ってるんです?」


 流星が反社ゾンビを指さした。


「なんでも言う事を聞くわ。私の為なら何でもする」


「それに、さっき俺が刺されたと思ってたけど気のせいかな? 一瞬痛かったんですけど」


「服が血でよごれているわ、それはあなたの血よ」


「た、確かに」


「だから肉を食べる必要があるわ。なるべく血になるもの」


「わかりました」


 コンコン! ドアがノックされ注文した品が届いた。横一列に直列で立っている反社ゾンビを横目に、店長自らがテーブルに品物を並べていく。そして、そそくさと部屋を出て行った。


 リリスが流星に言う。


「食べて、お金ならあるわ」


 確かに。今のリリスは、ぼったくりバーの金庫の金を持ってるのでお金持ちだ。


 そして俺が付け加えて言う。


「どうせ食べ放題だし、好きなの頼んでいいと思う」


「あ、ああ。はい」


 それから流星は肉を焼いて無心に食い、リリスも負けず劣らずに肉を食っていた。


「美味い。やっぱ国産黒毛和牛は最高です」


「それはよかった。殴られた顔の傷も癒えたみたいだし」


「本当だ…痛くもねえし」


「あの薬のおかげよ」


「あれ、変な薬じゃ無かったんだ」


「傷薬よ」


「すげえな…」


 リリスはグレープフルーツジュースを一口飲んでいう。


「で、誰を始末すればあなたは安全になるの」


「ブッ!」


 流星が口の中の物を噴き出しそうになって耐える。


「い、いや。刺したそこの二人が所属している組の上のやつとか?」


「そう。この人達の仲間があなたを痛めつけたの?」


「違うんだ。痛めつけたのは…」


 そう言って流星が黒ずくめの男をチラリと見る。それを見たリリスが言った。


「こいつらはもうしゃべらないわ。二度と」


「そ、そうなんだ?」


「言いなさい。解決策もみえて来る」


「わかった。言うよ! いずれにせよ、今の俺は鳥かごの中の鳥みてえなもんだしな」


「で、だれ?」


 すると流星はリリスに頭を寄せて小さい声で言った。


「サツです」


「サツ?」


「サツに、悪いやつが紛れてるんです」


 今度はそれを聞いた俺が言った。


「マジか…イシワタだけじゃないんだ…。あれが捕まって安心してたのに」


「石渡を知ってるんすか?」


「ああ」


「石渡は現場じゃ幅を利かせてる野郎で、俺の店でも好き放題やっていきやがる。そいつを裏で操ってるやつがいるんです」


「名前は?」


「稲田伊三警視です」


「イナダイゾーケイシ?」


「そうです。あんたらでも警視じゃ手が出せないんじゃないですかね?」


 俺はリリスに言った。


「確かに流星の言うとおりだ。俺達が追われる立場になるかもしれないよ」


「なるほどそう言う奴がいるのね」


「石渡警部補は、アイツの手駒の一人なんです」


「それで、流星を殴ったのは?」


「稲田の息がかかった下っ端の警察官です。難癖をつけてボコボコにされた」


 俺が流星に言う


「違法じゃないか」


「アイツらにそれは通用しねえし、ホストのいうことなんか通らねえんです」


「クソだね」


「ああ、クソっす」


 困った。ヤクザだけでもかなりマズいのに、警察内部の汚職警官まで相手となると厄介過ぎる。そもそも流星を襲った二人組はなんだ?


「その二人は?」


 俺が聞くと流星が言う。


「伍堂会っすよ」


 リリスが聞く。


「ゴドーカイ?」


「本当に知らねえっすか? こんな業界に居るのに?」


「知らない」


「ま、いいや。伍堂会は武闘派ヤクザっすよ。クジョウもそこに雇われた殺し屋だ。伍堂会は稲田と繋がってて好き放題やってるんす。俺が務めているカヴァリエロの上も迷惑してんっすよ」


「カヴァリエロの上?」


「神崎グループホールディングスすよ。神崎さんっていい人が俺を拾ってくれたんす」


「そうなんだ」


「辞めるって言ったあと、帰っている時に俺は警察でボコられたんす」


 それを聞いたリリスがネギタン塩を頬張りながら言う。


「警官ってどこにいるの?」


 すると流星が言った。


「は? 何言ってんだあんた!」


「だって殴られたんでしょ。仕返しに行かなくちゃ」


「いやいやいや! 警官っすよ?」


「私達が手を下さなきゃ良いわけでしょ?」


 そう言ってリリスは流星の後ろに立っている反社の男を睨む。その目線に気付いた流星が言った。


「まさかこの人達がそんなことはしねえっしょ?」


「やらせるわ」


 そう言いながらリリスは特上ハラミを口の中に放り込む。何やら不穏な空気が漂って来るが、俺はさっぱりした冷麺をちゅるちゅるとすするのだった。

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