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第37話 二人組の刺客

 身支度を終えた金髪男と一緒に俺達はヤクザマンションを出た。そして俺が金髪男に声をかける。


「不動産は近いの?」


「新宿駅まで歩かなきゃいけねえ」


 うわあ。てことは反社ゾンビを連れて、また新宿を歩かなきゃいけないんだ。


「何て呼べばいい?」


「流星でいいよ」


「流星をボコボコにした奴って誰なの?」


「こんな人の往来が多い所じゃ言えねえよ」


 ま、確かに。


 そして流星はチラチラと反社ゾンビを見ている。ラリっているような表情に血色の悪い顔色、それに出会ってから一言もしゃべっていない。それは不気味としか言いようがないだろう。


 しばらく黙って歩いていたが、流星はぽつりと言った。


「あんたらの事は、誰にも言ってねえぜ」


「誰にも?」


「ああ。佐嶋さんのこともあるし、金を置いてってくれたろ?」


「ああ、なるほどね」


 日中なので路地裏はそれほど人通りが多くないし、まずは早く不動産にたどり着きたいところだ。俺が前を見て歩きだした時、スッと二人の男が両サイドから追い抜いた。別に何も気にしていなかったが、その二人の男が流星に近づいた時一人が流星を抑えた。


「なっ!」


 するともう一人の手にきらりと光るものが見える。


「ヤバイ!」


「うっ!」


 なんと流星が刃物で腹を刺されてた。だが次の瞬間、流星を襲った二人の男はばったりとその場に倒れ込む。


「流星!」


 俺は倒れた流星に駆け寄る。


「う、うぐぐ。やられた…、クソ。ぐほっ」


 かなりの出血なので、思いっきり深く刺されてしまったらしい。


「レンタロウ、どいて」


「あ、ああ」


 リリスはバッグから、ピンクの液体の入った瓶を取り出して言う。


「飲みなさい」


「ぐっ」


 俺は後ろから流星に言う。


「痛みが引くから!」


 流星は諦めたように小瓶のピンクの液体を飲んだ。ゴクリゴクリと一本を飲み干す。


 シュウシュウ! と音をたてて傷が埋まっていき、あっという間に血が止まった。


「あ、あれ?」


 流星が腹を探る。


「うそ。いま俺刺されたよな?」


 道路に落ちている血まみれのナイフを見て言う。そして自分の両脇に目を見開いて倒れている男らを見た。


「な、し、死んでる?」


 周辺にちらほらいた通行人もそれを見ていた。どう考えても、カタギじゃないその二人は微動だにせずに寝っ転がっている。


「リリスもしかして?」


 だがリリスはそれに答えずに、自分の中からぽわっと何か魂みたいの物を出した。それらが二人の体に沈み込むように消えるとムクリと二人が起きだす。それを見た流星が青い顔をして尻餅をつきながら後ずさった。


「お、おりゃ言ってねえ! なんもタレこんでねえ!」


 そんな流星に対し、今しがた流星を刺してきた二人はボーっと前を見つめたままだった。


 また増えてしまった。反社ヤクザが。


「リュウセイ、気付くのが遅くなってしまってごめんなさい。痛かったでしょ?」


「へっ?」


「もうこの二人は私に逆らわないから大丈夫よ」


 すると流星はリリスを見上げて言った。


「あんた…若いくせに…幹部クラスなのか?」


 なるほど。そう来たか。目の前の二人が大人しくなったのは、ただリリスの言う事を聞いてだと思っているらしい。ただゾンビになっただけなのに。


「カンブクラス? 私の職はネクロマンサーよ」


「??????」


 流星の頭の上に、めちゃくちゃハテナマークが浮いている。俺は慌てて言う。


「とりあえず、この場を離れた方がよくない?」


「そ、そうだな!」


 俺達は血まみれのドスをそこに放置し場を離れるのだった。周りの人達も何事も無かったように去っていく。


 そして俺と流星とリリスが、反社ゾンビ四人に四方を囲まれて歩き出した。完全に目立ちすぎており、町ゆく人も何事かとこっちを見て慌てて目を逸らす。


 うはあ、目立つ。反社に囲まれて歩く紫髪の美女とリーマンと金髪ホスト、絶対に俺が彼らに連れていかれてるという構図だ。どことなく道行く人の視線に同情の色が混ざるが、もちろん誰も助けてくれはしなかった。


 俺は新たに加わった反社ゾンビを見ながら、二人の事を流星に聞いてみた。


「この刺した二人を知ってる?」


「見たことはあるけどよ」


「誰?」


「なんであんたらが知らないんだよ? 幹部なんだろ?」


 するとリリスが言った。


「あなた刺されたけど、何か悪いコトしたの?」


「…勘弁してくれよ。俺の口を封じる為だろ? でも頼むよ。殺さないでくれ。俺はいちホストなんだよ、あんたらの世界とは関係ないんだ。本当に誰にも言ってねえし、もちろん言うつもりもない」


 なるほど…流星は完全に、俺とリリスが反社だと思っている。無理もない。いきなり刺されて、刺した奴がいきなりリリスの言う事を聞きだしたのだから。


「あんたらの世界? 私の世界を知っているの?」


 うわ。リリスもややこしいことになってる。あんたらの世界って金髪が言っているのは、完全に歌舞伎町の裏社会の事を言っている。さっきからずっと微妙に会話がずれてる気がする。


「本当に知らないんだ。俺はただホストとして頑張ってただけだ」


 何故かリリスは納得したように言う。


「安心なさい。あなたはサジマから頼まれているから、危害を加えるような事はさせないわ」


「ほ、本当かよ?」


「神龍に誓って」


「し、神龍なんて組、聞いた事ねえけど? 漫画?」


「信仰しているのよ」


「な、何か知らねえけど、もしかしたらカルトか何かなのか?」


「カルト? 何かしらそれは? 私はネクロマンサー、それ以上でも以下でもないわ」


「ネクロマンサーなんて団体知らないし、もしかしたら店かなんかか?」


「店? あなた何か知っているの?」


 永遠に話がすれ違いっぱなしだが、それを聞いた流星がフルフルと首を振る。


 するとリリスが歩を止めて言った。


「あなたを狙っている人、まだいるの?」


「し、知らない。生きてると分かったら殺られるかも」


「なら私が始末してあげるわ」


 その言葉を聞いた流星が震えあがった。既に声を発する事も出来ずフルフルと震えている。あまりにも可哀想だったので俺は流星に言った。


「と、とりあえず。飯でもどう? 焼肉でも食って落ち着いたらいい」


「そうね。焼肉は私も好きよ」


 流星はただひたすらに、首を上下に振って飯を食う事を了承するのだった。

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