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第21話 臨時ニュースです

 ああ、なんだろう? とっても心地が良い。このままずっといい香りに包まれたまま寝ていたい。なんでこんなに気持ちが良いんだろう? ふっかふかだぁ。 天国? なんて気持ちが良いんだ。夢…じゃない? やたらとリアルだ。


 な、なんか。くるしい!


 パチッと目を開けると、目の前に柔らかな二つの山がそびえたっている。俺はその山に顔をうずめて寝ていたのだった。


 ぷっはあ!


 俺は二日連続で、リリスの胸に顔をうずめながら目を覚ましてしまった。見ればリリスは、薄いキャミワンピースのような下着一枚で寝ているではないか! やばい! 見ちゃいけない! とりあえずベッドの掛け布団をリリスにかけてやる。そしてあえて冷静さを取り戻すように言った。


「か、風邪ひくって」


 なんでリリスは毎日ベッドから落ちる? 俺が昨日の夜に気を使って床に寝たというのに、目を覚ますとリリスが添い寝をしている。しかも位置が悪くて、今日もリリスの胸に顔をうずめて目を覚ましてしまった。邪念が浮き上がりそうになったので、俺は頭を振った。


 顔を洗おうっと。


 シャキッとする為、ユニットバスに行き顔を洗って鏡を見る。


「ちょっと疲れてるな、目の下にクマがある」


 タオルで顔を拭いて部屋に戻ると、リリスが起き上がって目をこすりながらあくびをしていた。しかしその服装が白の薄い下着一枚だったので、俺は慌てて昨日リリスが来たスエットを渡す。


「寒いからこれを着た方が良い」


「あ、うん。ありがとう」


 リリスが立ち上がると、足にかかっていた掛布団が落ちてすらりとした足が見えた。


「えっと、コンビニでリリスの歯ブラシと歯磨き粉買ったんだけど」


「それは何?」


 俺は自分の歯ブラシと歯磨き粉を持って来て、口に入れてシャカシャカし始める。


「こういう口の中を洗う物」


「ああそうなんだ。じゃあこれと一緒だ」


 そういってリリスは自分の服のポケットから、葉っぱのようなものを取り出した。


「なにそれ?」


「噛むと口の中が綺麗になる薬草よ」


「そうなんだ」


「でももう残りが少ないから、大事に取ってたの」


「じゃあ、歯ブラシを使うといい」


 俺はプラスチックからリリスの歯ブラシを出す。俺のと区別するためにピンク色の物を選んだ。それをリリスに渡すと、そのまま口に入れようとする。


「ちょっと待って」


「ん?」


 俺はリリスの歯磨き粉をニューっと出してやった。


「どうぞ」


「うん」


 シャカシャカと磨きだして、またリリスの目が光る。


「これ気持ちいいわ! スースーする」


「でしょ」


「うん」


 リリスが口を泡一杯にして磨いている。俺は新しいコップをリリスに渡して、うがいをするジェスチャーをしてみせた。俺が蛇口を捻るとリリスは水を汲んでうがいをした。


「どう?」


「すっきり!」


「でしょ?」


「うん」


 平和だ。とっても平和な朝だ…何故か俺は未成年の美少女と一緒に平和に歯を磨いている。


 そんな時だった。隣りの部屋からガチャガチャと音が聞こえて来る。どうやら美咲さんが出かけるようだ。


 美咲さんだ!


「えっと、リリスはここに居てね!」


「うん」


 俺は玄関に走りドアを開けた。すると美咲さんが、丁度部屋のドアに鍵をかけているところだった。


「美咲さん! おはようございます!」


「あ! 蓮太郎さん! おはようございます! 昨日は遅かったみたいですね」


「ちょっと野暮用で! あの、羊羹ありがとうございました!」


「あれ、大家さんがお見舞いにってくれたんです。でも二本も入ってたからおすそ分けです」


「美味しかったですよ!」


「もらいものだから」


「それで、お店のほうはどうなりました?」


「一月五日から着工みたい。それまでは買い付けとかいろいろと準備があるかな。大みそかと正月三日は何も出来ないですけど」


「でも良かったです」


「はい!」


 ニッコリと爽やかに笑う美咲さんの表情はだいぶ明るくなっていて、朝の明るい日差しの下で見ると殊更美人だった。俺の胸はつい高鳴ってしまう。


「お出かけですか?」


「はい。こんな火事なんか起きたものだから、私が実家に帰られなくなってしまって。そしたら親が心配しちゃって、急遽、実家から母が来る事になったんです。年末だから来なくていいって言ったんだけど、いろいろ手伝ってあげるって。でも母は東京は初めてで右も左もわからないから、東京駅に迎えに行くところなんです」


「そうなんですね! すっごく優しいお母さんですね!」


「子離れできなくて困ってます」


「美咲さんが大切なんですよ」


「まあ…そうですね」


「気を付けて行ってらっしゃい!」


「はい」


 美咲さんはコクリと頭を下げて階段を降りていく。すれ違いざまにすっごくいい香りが漂い、ちょっとだけ大人の色気を感じた。ナチュラルな服装だがセンスが良くて後ろ姿で美人だと分かる。


 曲がり角を曲がるまで美咲さんを見送って、俺は部屋に戻った。


「寒っ」


 俺はぶるっと震えて自分の体を抱くようにした。リリスが俺をじっと見る。


「ん? どうかした?」


「なんかレンタロウ楽しそうね」


「えっ? いや! 羊羹のお礼を言ってたんだよ」


「そうなんだ」


「それより、遅いけど朝ごはん食べよう」


「うん」


 俺はコンビニで買ったパンとおにぎりと飲み物を並べ、冷蔵庫にあった卵で目玉焼きを作った。それを皿に乗せて醤油と一緒に部屋に持って行く。


「卵?」


「そう」


「高いんでしょ?」


「そんなでもない」


「そうなんだ」


 リリスにフォークを渡し、俺は自分の目玉焼きに醤油をかけて食うとリリスも醤油をかけた。そして目玉焼きを口に入れるとニコッと笑う。


「おいし」


「よかった」


 俺は何気なくテレビをつけると朝の情報番組が流れていた。


 だがいきなりテレビから音が流れる。


 キンコンキンコン!


 ニュース速報だった。


「なんだ? 地震か何かか?」


 突然朝のバラエティの映像が消え、テレビの画面にはニュースキャスターが一人で映っていた。


「番組の途中ですが、ニュース速報をお伝えします。東京消防庁によりますと、霞が関にあります国会議事堂で火災が発生した模様です。かなり大きな火が出ており、近隣には避難勧告が出されているとの事です。出火原因は調査中で分かっておりません。繰り返します…」


 いきなり画面が変わって、火が出ている国会議事堂が映っていた。結構な勢いで燃えており、どう考えても一大事だった。キャスターのナレーションは繰り返し火事の模様を伝えている。


「国会が燃えてる!」


「ここはどういうところなの?」


 リリスが分かっていないので、俺は国の行政をつかさどる機関だと伝えた。


 リリスはテレビをじっと睨むように見て、パンを食べる手を止めている。俺も黙ってテレビの画面を見つめて、この一大事を凝視していた。


 するとおもむろにリリスが言う。


「ここに行けるかしら?」


「えっ? 霞が関に?」


「気になるの」


「…分かった。行こう」


「うん」


 リリスはパクっとパンを口に入れ、俺も残りのおにぎりを口に入れて立ち上がる。するとリリスが言った。


「昨日買ってもらった服。着ても良いかな?」


「あ! そうだね!」


 リリスは先に下着の袋を手に取り、中からレース遣いのおしゃれな下着を出した。俺が目を背けるとリリスが聞いて来る。


「これは何?」


 見ればタグが付いていた。俺はハサミを用意してそれを切ってやる。すると突如リリスがガバッと、着ているキャミソールをまくり上げた。慌てて目を背けるも、俺はリリスの下着姿を見てしまう。


 俺は気を使って、自分の服を台所に持って行って着替えた。少しして部屋に戻るとリリスは昨日買ったおしゃれな服を着ている。あと疑惑の皮のバッグは今日も肩からぶら下がっていた。


「そう言えば昨日コートも買えばよかったね。俺のダウンジャケットじゃそれに合わない」


「気にしないわ」


「いや。今日、国会議事堂に行く前に買うよ」


「分かったわ」


 そして俺は財布と、ヤクザからもらった札束をポケットに突っ込んだ。エアコンを消して外に出ると天気がいいのでそれほど寒くはない。だけど今日も長時間行動するなら、やはりコートはあった方が良いだろう。


 俺はリリスを連れて世田谷線の駅に向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
国会議事堂って霞が関でしたっけ
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