第13話 反社に拉致られる
俺とリリスはタクシーで三軒茶屋に向かい、キャロットタワー前で降りた。もう今年も終わりだというのに車どおりは多く、どこに行っても人だらけだった。人酔いするリリスに俺が声をかける。
「人が多いけど大丈夫?」
「問題ないわ。もうすっかり調整出来てる」
「そう言う事ができるんだ?」
「そうね」
相変わらず歩く人がリリスをちらちらと見ている。まあ分からんでもない、美少女過ぎるので多分俺でもすれ違えば見ると思う。リリスを連れて駅方面に向かって歩いている時だった。
「おい」
突然声をかけられ、目の前のカフェから男が出て来た。こんなところで知り合いに会う事は無いと思っていたが、その男の顔には見覚えがあった。
「あ、昨日の…」
それは電車で美咲さんに絡んでいた酔っ払い男だった。俺が美咲さんを守るために注意した結果、電車の乗務員に強制的に下車させられた奴だ。ガラが悪く普段なら全く接点のない男だが、この場合どうしたらいいものだろう? 俺は自宅までタクシーを使わなかったことを悔やむ。定期を持っているので節約になるからと、せこい考えを持った結果がこれだ。
「まさか昨日の今日で捕まえられるとは思わなかったぜ」
明らかに目が座っている。どう考えても怒りを抑えているような顔だ。もちろん大勢の前で恥をかかせたのだから、怒っていてもおかしくはなかった。
でもこんな人通りの多いところで、こいつは何をする気でいるんだろう?
とりあえず俺は無視して、リリスの手を引っ張り男の脇をすり抜けようとした。すると男が突然俺を蹴り飛ばして来た。俺がよろけてカフェのウインドウに肩をぶつけてしまう。
「無視かよ。つーか、随分綺麗なねーちゃん連れてんじゃねえか。お前なにもんだよ」
「いつつつ…」
それでも無我夢中で、リリスの手を引っ張って逃げようとした時だった。突然大きな黒のワゴン車が前に横付けされる。
「えっ?」
すると突然、数人の男らが下りて来て俺とリリスを車に押し込んだ。俺が身の危険を感じ大声をあげようとする。
「たすけっ!」
ドガ! 突然横っ面に肘鉄を喰らって、ソファーに倒れ込んでしまう。バン! と、ドアが閉められ、そのままワゴン車は走り出すのだった。
まずい! まずいぞ! り、リリスだけでも何とかしなくちゃ!
そう思って起き上がると、俺の目の前に光るものが突き付けられていた。俺はすぐにそれがナイフだと分かる。
「動くなよ」
俺が動きを止めリリスはただ俯いていた。
「な、なんでこんな事するんだ?」
ドガッ! また俺は殴られる。理不尽な暴力になすすべも無く、俺とリリスは連れされられて行くのだった。
「いやあ…昨日はとんだ赤っ恥かかせてくれたからな。あの女なら風俗でもAVでも稼げたってのに、邪魔をしてくれやがって」
なんだ…こいつら学生とかじゃないのか? 一体何なんだ。
「彼女はそんなことはしない」
ドガ! また殴られた。その上にピッ! っとほっぺたをナイフで斬られる。
「しゃべるな。殺すぞ」
「‥‥‥」
車は都心部へと向かっているようだ。
「しかし、またいい女連れてんじゃねえか」
「この子は関係ない!」
ドガ!
くぞ! ボカボカ殴るな! 話くらいさせろ!
「いい女だ。この前のより売れそうじゃねえか。こっちで良かったかもしれねえ」
すると車内にいる男達が下卑た笑いを浮かべる。どうやらまともな集団じゃないようで、全員がこんなことをしているのにへらへらと話をしていた。
「だけどよ。やっぱ学生のふりして電車で女の勧誘は無理があったな」
「いいじゃねえかよ。他の電車ではうまくいったんだ」
「ローカル過ぎたんじゃね? やっぱ都心部とは違う」
「都心部じゃ簡単に逃げられっからな。でも女も同じ駅で降りて部屋までついて行けば逆らえねえ」
「確かにな、家突き止めちまえばどうにかなるからな」
なるほど。こいつらは綺麗な女の人に声をかけて家を突き止め、悪い斡旋をしている奴ららしい。闇の仕事なのだろうが、こんな奴らがいると安心して電車にも乗れない。それよりも今のこの状況を何とかしないといけない。だが話をしただけで殴られるし、リリスが傷つけられでもしたら大変だ。
いったい…どうしたら。
小一時間ほど走っていると、車は立派な邸宅の前に到着した。四階建てのビルで玄関が普通の住宅のようになっている。脇にシャッターがあり、助手席に座っていた男が下りてシャッターをあげた。ワゴンはそこにバックで入たのだった。
「降りろ!」
男が恫喝し俺とリリスは車を降ろされ、男達について行く。ナイフを突きつけられているので、おとなしく従うしかなかった。
中は事務所のような雰囲気だが、黒皮のソファーにやたらときらびやかな装飾。熱帯魚のような水槽があるものの、どことなく生活感がない。そこには誰もおらず男ソファに座るように言う。
「ちっとまってろや」
そう言って一人の男が部屋を出て行った。周りを男らに囲まれ、身動きも取れずに待つ。
「しっかし、この女かわいいな。なんでおまえみたいなんが、こんな美人といっしょにいるんだ? つーかこういうのゴスロリファッションつーんだよな。おねえさーん、こう言うのが趣味なの?」
リリスの周りに寄って男達がじろじろ見る。
「んー、良い匂い。いいメスの臭いだ」
「随分若いけどな。いくつだ?」
だがリリスは下を向いて何も答えなかった。もしかしたら恐怖で固まってしまっているのかもしれない。
「はは、俺達がこえーのか? なーんにもしねえよ。大人しくしてれば、可愛がってやるからよ」
俺は立ち上がって叫んだ。
「やめてください! その子は関係ない!」
「お、女の前だからってイキがってんのか? こら!」
ドガ! と蹴られて俺が床に転げてしまう。すると男達がやってきて、俺をガシガシと蹴りつけた。俺は頭を守るようにして丸まったが、男達は蹴るのを止めなかった。
俺達はヤ〇ザの事務所に連れてこられたのだった。




