犬じゃないもんッ!
その世界は、少し違う世界。
ほんの一年前、異世界との扉が開いた。
そこから現れた人々・・・
「亜人」は、人間と交流を持つに至った。
エルフ、ドワーフ、獣人・・・
彼らは、使節を各国に送り・・・
留学生や移住・・・
そういった「異世界移民」が続出。
「よーちゃーんッ!」
僕・・・
仁科洋一は、女の子の声で振り向く。
そこに・・・
ブレザー姿の・・・
「ワンコ」がいた。
「犬。」
ガーン!とでかい書き文字で、固まる女の子。
彼女は、大神正子。
「いちおう」、人狼である。
まったく・・・
僕たちはもう高校生なんだ。
「よーちゃん」はないもんだ。
「よッ!
犬ッ!」
お返しに言ってやる。
「犬じゃないもんッ!
狼だもんッ!」
ムキになりつつ、尻尾を振っている。
まさに「犬」だ。
彼女は、「こっち」に技術研修にきた夫婦の娘だ。
両親は、事あるごとに僕に正子を預けた。
なんでも、僕のことが気に入ったらしい。
ときどき、僕のにおいをかいでくる。
「「犬」だよなあ・・・」
僕は、正子を抱きしめて、そのふんわりとした髪をぽぷぽふと撫でる。
「犬じゃないもんッ!」
僕はかわいい「狼」の唇にキスをした。
「ごめん。
かわいい狼さん。」
これが「初恋」ってもんか・・・
正子の胸から、いつもより強めの鼓動が伝わってくる。
世間一般のロマンスとは程遠いけど・・・
これが、分相応なんだろうなあ・・・