優美という少女
「おじさん、誰?」
「え…?」
俺と少女の間に少しの静寂が訪れる。
「ここ、優美の家。おじさんは誰?」
「ここは俺の家なのですが…」
「そうなんだ」
………。
またも静寂。
本当に何なんだこの子…。
ここに住んで何年かたっているがこんな子見た事がない。
一体どこから来たのだろう。
「優美ちゃん…?」
「ん?なーに」
「お父さんとお母さんは、何処に行ったのかな?きっと心配してると思うよ」
まだ小さな女の子とおじさん…。
こんなところ丸山さんや加藤さんに見られたら要らぬ誤解を与えてしまう。
ここは早急に親を探してこの子を送り届けなければ。そう思って質問したのだが…。
「お母さんとお父さんはね。いないよ」
「え…?」
「2人とも戦争に行ったんだって。おばあちゃんが言ってたんだ」
優美ちゃんはそう話した。
「だからおばあちゃんの家に来たんだけど、おばあちゃんが見当たらなくて」
その時、家の前から丸山さんの声が聞こえた。
「佐藤さーん。そっちにうちの孫が行ってたりしないかーい?」
「あ!おばあちゃんだ!」
優美ちゃんはどうやら丸山さんの孫だったようだ。
「おじさんまたね!」
そういって丸山さんの元へとかけていった。
その日の夕方。
丸山さんが家を訪ねてきた。
「お昼はすまないねぇ、優美が間違えて家に入っちゃったみたいで」
「あぁ、そうだったんですね」
「ここらの家は何処も似たような古い家だから間違えちゃったんだろうね」
丸山さんはそう話す。
「佐藤さんはテレビが無いんだったよね」
「えぇ、あんまり好きじゃなくて」
「じゃあ今九州国で何が起こってるのかも知らないんだろうねぇ」
「何かあったんですか?」
「実は…徴兵制度がね」
丸山さんは九州国が情勢悪化に伴って徴兵制度が変更されたと教えてくれた。16歳から60歳までの男女は戦場に招集がかかると言うものだった。
「うちの娘夫妻もこの招集にかかっちまって…。あと2.3ヶ月も訓練したら戦場に駆り出されるって話さ…!」
丸山さんは涙を堪えながらそう話した。
「だから、娘である優美ちゃんがうちに送られてきたってわけさ。全く戦争なんて最低だよ…!戦場に行く人も、残された人も悲しい思いしかしないじゃ無いか!」
「丸山さん…」
「佐藤さんに言ってもしょうがないよね…!ごめんね、佐藤さん落ち着いてるから話しやすくって」
「いいんですよ、俺も同じ気持ちですから」
「おばーちゃーん。ご飯まだー?」
隣の家から優美ちゃんの声が聞こえた。
「今行くよー!」
丸山さんはそう答えた。
「じゃあまた明日ね。おやすみ佐藤さん」
「丸山さんおやすみなさい。あ、それから」
「ん、なんだい?」
「俺で良ければいつでも愚痴りに来てください。丸山さんには野菜作りを教えてもらった恩もありますし」
俺がそう言うと丸山さんはニコッと笑い
「そうさせてもらうよ」
と言って隣の家へと戻っていった。
それから数週間が経った。
集落にはサイレンが鳴り響いる。
家は燃え、ところどころで爆発が起こる。
死の匂いが辺りを満たしていた。
2222年5月1日。
九州国、大分山脈全域に正体不明の戦闘機による大空襲が行われた。