鷹と呼ばれた男
俺の名前は佐藤太郎。
かつては「日本の鷹」だのなんだの言われていたが、それもすべて「過去」の話。
今は大分県の山の中にある小さな集落で野菜を販売している。
「佐藤さん、こんにちわ~」
隣の家に住む丸山さんが声をかけてくれた。丸山さんは俺に野菜作りを教えてくれた人でもある。「今」の俺があるのはこの人のおかげと言っても過言ではない。
「丸山さん、こんにちは!」
俺がそう挨拶を返すと、丸山さんはニコッと笑ってゆっくりと家の前を通り過ぎていった。俺は丸山さんを見送ったあと、空を見上げた。
真っ青な空だった。山の中ということもあって雲の流れが早く感じる。家の近くを流れる小川からチョロチョロと水の音が聞こえていて気持ちが良かった。
そのあとも空を眺めながら、ゆっくりと流れる時間を過ごす。そうしている間に昼になっていた。
「そろそろ昼飯を作りましょうね~」
俺は自分の庭に戻り漬物の様子を確認した。
「うん、いい出来だ」
漬物をいくらか皿によそい、漬物石を被せ木製の蓋で塞いだ。
家の中に入り、一番広い居間に向かう。
そこで少し驚く事がおきた。
見た事のない人間が居間に居座っていたのだ。年は10といくつかだろうか。
髪を横に束ねた少女がキョトンとした目で俺を見つめていた。