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信念の旗

「国の紋章の意味って知ってる?」

「いや、知らない」

「あれって、寄り添い合う二人なんだって」


 隣のベンチに座った若いカップルが、パン屋の軒先に飾られた国旗を見ながら会話をしている。


「ふーん、蛇じゃないんだ」

「最近聞く話だから、本当かどうか分からないけど。でもそうだとしたらロマンチック」

「あー。女はそういうの、好きだよな」


 町娘の方は楽しそうにお喋りをしているが、男の方は買ったばかりのパイを食べるのに夢中で返事に熱が籠もっていない。


 ――駄目だよ、そういういい加減な扱いは。興味のない話でも、熱心に聞いて相槌を打ってやらなければ、そのうち怒られる。


「アンタはもう少し女心を勉強なさい!」

「はいはい」


 ――ほらね。


 本当に好きな子相手なら、例えつまらない話でも、楽しそうな姿を見ているだけで癒やされるものだ。愛情が足りないのではないか。横目で観察しながら、セヴィリオはそんなことを考える。


「ライアス様は亡くなられたお妃様を一途に想い独り身で、セヴィリオ様はそれはもう、妃を溺愛なさっているそうよ。何でも一日一回は愛を囁き、口づけるのだとか。いいなぁ、羨ましいなぁ」

「うるせぇ、そんな恥ずかしいことやれっかよ。俺は王子じゃないんだから」 

「そうでしょうね。私の王子様じゃなさそう」


 女は低い声で言い捨てると、立ち上がり、男を置いて足早に去っていく。世間一般からして可愛らしい女の子だったと思う。置き去りにされた男にとって、どうでもいい相手という訳ではなかったようで、彼は慌てて後を追った。


「パパ、はずかしいことしてるの?」


 一連のやりとりを見ていた息子が、大きなアイスブルーの目をぱちくりさせてセヴィリオに問う。誰に似たのか、なかなか賢い子のようで、幼いながらも隣のカップルが自分の両親について話していたことを理解したらしい。


「どうかなぁ」


 笑いながら、息子の口元についた食べかすを拭ってやる。


「さてと、食べ終わったし帰ろうか。間食したこと、ママには内緒だよ」

「うん。私もできたて食べたかったー! ってママおこるもんね」


 息子の物真似に、セヴィリオは声を出して笑ってしまう。母親のことをよく分かっている。本当に賢い子だ。セヴィリオは妻ご所望のパン屋の袋を息子に持たせ、肩に担ぐようにして抱き上げた。


「街の様子をよく見ておくといい。いずれお前がこの国を治めることになるだろう」

「ぼく、ライアスおじちゃんみたいなすごーい王さまになるんだ」

「……それは賛成できないな。きっと、もっと素晴らしい王様になれるよ」


 きゃー! っと声を上げ、足元を街の子どもたちが駆けていく。市場は賑やかな声で溢れかえり、人々の表情は希望に満ちている。


「パパ、弟か妹が生まれたら、みんなであそびにこようね」

「そうしよう。パパは女の子が良いな」


 風に旗が靡く。国の紋章の意味。あれは少し前まで、呪いの模様だった。意味を変えたのは、二人のリアナだ。


 リアナ=キュアイスには感謝を、リアナーレアストレイには愛を。


 シャレイアンの未来はきっと明るい。


<了>

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