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2-2 恋愛相談も承ります

 リアナーレは本日の相談者である、王国軍第三部隊の隊長に苛立って、机の下で固く握りこぶしを作っていた。


「半信半疑だったが、勧めてもらった剣を試して良かったよ。腰の痛みが治まるどころか、戦いやすくなった。流石聖女様だ」

「それは何よりです」


 前から、扱いきれない大剣を使うのは止めろと言っていたのに。


 この男、マルセル=バルニエは戦女神を年下の女だと舐め腐って、ろくに意見を聞き入れようとしなかったのだ。


「本日はどのようなご入用で?」


 リアナーレは笑顔を引きつらせながら、刺々しい声音で尋ねる。


 恐ろしいことに、リアナーレの適当な占いは良く当たると評判になっていた。王宮の関係者に噂が広がり、徐々に依頼者が増えている。二度目の相談に来るも者も少なくない。


 件数が多い時、本物の聖女様は依頼を断っていたようだが、リアナーレは全て受けている。使命に燃えているわけではなく、暇つぶしに丁度良いからだ。


「今回は……女々しいことは承知しているのだが、プロポーズの成功率を占ってもらいたい」

「このままでは百パーセント玉砕します」

 

 リアナーレは即答する。占うまでもない。


 マルセル=バルニエは三十路の独身で伯爵家の次男だが、見栄とプライドの塊なのである。


 男らしい体格と、線のはっきりした精悍な顔つきは悪くないと思うが、女性を含め、弱者を見下したところのある人間だ。大した武勲を上げている訳でもなく、結婚したいと思える要素があまりにも少なすぎる。


「百パーセント!? まだ占ってもいないだろ?」


 マルセルはリアナーレの態度が気に食わなかったらしく、声を荒げる。威圧すれば、女性は何でも自分の言いなりになるとでも思っているのだろうか。だとしたら救いようがない。


 彼の想い人については軍にいた頃から把握しているが、彼女は百パーセント、この手の男を嫌うだろう。


「それしきのこと、私には占わなくても分かります。お相手はマリアン嬢でしょう」

「……その通りだ」


 聖女様は怯まない。想い人を言い当てられ、マルセルはようやく大人しくなった。 静かに紅茶を啜っていると、屈強な男は落ち着かない様子で、聖女様に縋ってくる。


「どうすれば成功する? 何でもするから教えてくれ」

「生まれ変わってやり直す覚悟はありますか?」


 リアナーレは彼の目を真っすぐ見つめて問う。本物の聖女様のように、紫色の中に煌めく星は浮かんでいないだろうが、戦女神時代に培った眼光の鋭さはそれなりの効力があるだろう。





 マルセルの想い人マリアンは、王宮に出入りする商家の娘だ。要するに、それなりに裕福な家のご令嬢である。


 彼女の父親とは戦女神時代から顔見知りで、娘も商いに携わっているという話を聞いたことがあった。しかし、直接マリアンと話すようになったのは、最近のことだ。


「リアナ様、本当に、本当にありがとうございます。占いの通りにしてみたら、見つかりました」

「マリアン様の日頃の行いが良いおかげです。神様も見ていらっしゃるのですわ」

 

 彼女が父親に連れられて最初の依頼にやって来たのは、マルセルに説教をした数日後のことだった。


 脱走したペット。猫の居場所を占ってほしいと依頼され、リアナーレは適当な回答をした。家から遠くは離れていないこと。好物の餌を庭に置き、数日待ってみるようにと伝えた。


 飼い猫ならそのうちお腹を空かせて帰って来るだろうと思っただけだ。見つかったということは、実際その通りだったのだろう。


 マリアンは感激した様子で何度もリアナーレに礼を言う。彼女は完全に聖女様を崇拝しているようで、恐縮の面持ちで新たな相談を持ち掛けた。


「あの、今日はその……人生相談と言いますか。私にアプローチをかけてくる殿方がいるのですが、その人のことが良く分からなくて」

「最近急にその男の態度が変わった。違いますか?」

「そうです! 女を見下しているような気がして嫌だったのですが、急に人が変わったようなのです」


 マルセルは聖女からの忠告を受け入れて、中々頑張っているようだ。生き方を変えることの難しさを身をもって知っているリアナーレは、少しだけ応援してやろうという気持ちになる。


「その人は愛する貴女のために、今までの生き方を否定してでも変わろうとしているのです」

「聖女様は何でも分かってしまうのですね」

「今の彼が嫌でないのであれば、もう少し様子を窺ってみては。感じたことはすぐ伝えるようにすると吉ですわ」


 マリアンは素直に分かりましたと返事をする。彼女の前向きな反応からして、マルセルの努力次第では上手くいくのではないかと直感した。


 リアナーレ自身の恋はままならないというのに、そう遠くない未来、新婚カップルを誕生させてしまうかもしれない。


「はぁ……」


 リアナーレは一人になった瞬間、背もたれに体重を預け、天井を見上げる。


 セヴィリオはまだしばらく帰ってこない。このタイミングでの北部行きということは、レクトランテ側への支援要請絡みだろう。


 甘いやり取りを回避できたことは喜ばしい。一方で、会いたいと思ってしまうのは、きっとあまりに暇だからだ。

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