目は口ほどに君を言う。口は目ほどに僕を見る
家に帰った僕は部屋の椅子に座りぼーっとしていた。
たまさんのことが忘れられなかった。最後に言われたあの「あなた死のうって思ってますよね?」が頭の中を回る。
いつの間にか時計は18時を指していた。
電話をかけてみる。
一回目のコールも鳴り止まないうちにたまさんは電話に出た。
「あ、はや…もしもし。僕です…」
「本当に電話かけてきた!なんでそんなに怯えてるの?」
音を大きめに設定していたせいで耳元で爆音で声が聞こえる。悟られないように音を下げ、再度話し始める
「いやその、声で考えてることわかるんですよね…?」
何故か小声で話す。
「そうだよ。私、目が見えないから顔とか身振り手振りで人の考えてること測れないじゃない?だから声でわかるようになったんだ。だから君が死のうとしてるなって何となくわかって。」
「そうなんですね。それで電話番号渡したってことですか。」
「ん〜それはちょっと違うかな。私、君が好きなんだよ」
「…それはどういう?」
「そんなことより名前まだ聞けてないだよ!名前教えてよ」
僕が話始めるより先に遮って話が進む
「…知らない人に名前は教えちゃダメだなので」
「知ってる人でしょ、私の名前は知ってるんだから」
「…天津って呼んでください。」
「天津くんね。よろしく。」
こうして目が見えないのに声で考えてることがわかるたまさんと、目を見ると相手の考えてることがわかる僕の一方的に思考を当てられる関係が始まった。
たまさんは学生だった。歳が近いことは何となくわかっていたが立ち振る舞いやその落ち着いた様子から社会人かと思っていたが1個上の大学1年生だった。心理学について学んでいるらしい。
たまさんと会うのはいつも駅のホームだった。帰りの時間が同じだったこと、出会いがここだったこともあり1週間に3回はあって電車を待っている間や電車の中で話す仲になった。
普段人と話すと考えていることが伝わり嫌だったのだがたまさんは目が見えないので何も伝わってこないので心から楽だった。
学校の話や好きなことの話、悩みやなんで死にたくなったのか、10で100理解してくれるたまさんに気づけたなんでも話してしまうようになっていた。
たまさんと出会ってからの日数は学校のクラスメイトと比べても幼なじみや昔の恋人と比べてもとても短い。しかし普段から人と距離をとり、時間を人に使わない自分にはとても長く思え、たまさんとは昔からの知り合いのような気すらしてきていた。
そんな2ヶ月くらいしたある日、いつものように駅に行く。
今日はたまさんと一緒に帰る日だ。
最初は乗り気じゃなかったこの日も、今ではイヤホンを外して、たまさんが車から降りてくる駐車所で待っているのが日課になっていた。
8:05 いつもたまさんはとっくに来ている時間だ。
「遅いな…」
8:20 電車を三本見送ったがたまさんが来ることは無かった。電話をしてみてもでる様子はない。
痺れを切らし電車に乗って学校に向かう。ギリギリの時間だ。
でもそんなことも気にならないくらい心臓はドキドキとなり、いるはずもないのに窓から外見てたまさんを探す。
この日、そして1週間とたまさんから連絡が来ることも、電車で会うこともなかった。