その9
私のナイフをあの人は投げ返した。パッと見だがナイフが刺さった形跡は無い。あの人は何者なんだ。私の思考はぐるぐる回る。すると俊哉さんが私を呼びに来た。俊哉さんはヒエラルキーで言うと棟梁の次に当たる人で、普段は棟梁の側近みたいな感じでいつもそばにいる。私もあまり話た事が無い、というよりなんだか近寄り難い。そんな人が私に何の要件があるのか。
「のの、棟梁が呼んでる。すぐ応接間行って。」
「はいっ。」
え、応接間って言ったよな。嫌な予感しかない。絶対さっきの人いるじゃん。そんな事を考えながら応接間に向かう。
「失礼しま…」
「遅い!何秒かかってる。いつもより5秒も遅いぞ!」
「すみません、考え事してました。」
応接間には小柄だが存在感は一際大きいおばさんがいた。
「さっきナイフを投げてきたのはお前か?」
このおばさんの声ずっしりと重い。
「はい。申し訳ありませんでした。お怪我ございませんか?」
「バカが。私を誰だと思っている。それと私も同業者だ。お前の素を見せな。」
私がかしこまったのがバレている。なんなんだこのおばさん。
「それで棟梁、私をここに呼んだ理由は?」
「ここに居るばあに呼べって言われたからだ。」
棟梁はこのおばさんをばあと呼んでいるらしい。するとばあが口を開いた。
「お前、ナイフを持って何年だ。」
「10歳で持ち始めて…2年です。」
「2年であれだけ出来ればたいしたもんだ。いい才能を見つけたな。」
「だろ。」
棟梁は誇らしげに笑った。
「乃々葉。もう戻っていい。」
「はい。」