その11
ぜんが殺られた。ぜんの横の扉から部屋に入る。そこには達吉と秀平の姿があった。この部屋も酷く争った形跡がある。この2人をもってしても1人しかやれないのか。この部屋にあるもの全てが「もの」と化していた。
私達下っ端の最後の部屋。ここにはまだ人の気配がする。慎重に扉を開く。そこには誉の姿があった。
「誉!」
「…ののちゃんだけでも逃げろ…かなう…相手じゃ…ない…。」
「喋らないで!出血が酷い。動脈切られてる。」
私は落ちていた布で止血した。
「…もう…いいから…」
「良くない!」
「ののちゃん…オレ…ののちゃんに出会えて…良かった…」
そう言い残し誉は旅立った。
残るは俊哉さんと棟梁。私はさらに急いだ。客間のさらに奥が棟梁の部屋だ。この辺りから物音と声が聞こえる。まだ間に合いそうだ。しかし客間にも気配がある。気を引き締めなくては。客間から誰かが這って出てきた。俊哉さんだ!慌てて駆け寄る。
「俺はいい!棟梁の所へいけ!」
「はい!」
棟梁の部屋の扉を開ける。が、開けたと同時に血しぶきが上がる。棟梁を囲んで敵が5人。身の毛がよだつ。おのれ。
「お前は誰だ。運のいい生き残りか?いや、運は悪いな。目の前で頭が殺られその後殺されるんだから。」
敵の頭らしき人が言い放った。それを聞いた4人は私を嘲笑った。
こいつらを殺る。棟梁や仲間の仇を討つ。もうその事しか頭に無かった。
「我が名はアゲハ。殺し屋だ。」
「バカ言うな、たかがガキが何を言う…」
シュッ。ドサッ。私が投げたナイフは見事1人に当たった。刺さったところは心臓ど真ん中。
……気がつくと私は棟梁の部屋で泣いていた。敵5人は倒れている。我々棟梁含め17人のうち生き残ったのは私のみ。その事実はいくら泣いても変わらなかった。そこへ感じたことのある気配が近づいてきた。もういいや。私はナイフを持とうとしなかった。私もみんなの後を追いたかった。
「泣くんじゃないよ。それよりお前さん、これ1人で殺ったのか。今屋敷中見てきたがみんなダメだった。」
この声はばあだ。力強い声。今の私にとってどれだけの安心感をくれたか。ただ私は泣き止む事で精一杯で返事なんてしなかった。
「そうかそうか。お前はよくやった。まだ12なのに。辛かったな。」
いつも力強いばあの声は少し震えていた。
「棟梁にもう少しお前が大きくなってもしこの仕事をしたいと言ったらお前を預かるように言われている。どうだ、私の所へ来るか?」
私は悩んだ。やりたくないと棟梁に告げた日から悩んでいた。ここで悪夢を終えることもできる。でも私は決意した。この仕事で誰かを救えるなら。殺し屋が人なんて救えないと言われても殺し屋なりの救方があるなら。
「やるよ。私やる。」
そう。これが殺し屋アゲハの始まり。