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その10
中に入ると鉄の匂いが充満していた。初めて大量の血の匂いを嗅いだ。吐き気がする。前方の茶の間から血が流れている。私はそっと様子を見に行った。そこにはいつもの楽しく賑やかな雰囲気の茶の間は無かった。壁には血が飛び散り、床は血で汚れ、いつも笑顔の仲間の顔には覇気が無かった。血の気が一気に引く。棟梁は?俊哉さんは?誉は?達吉、ぜん、秀平は?また一人気配が消えた。家の奥の方だ。廊下を走る。この家の廊下は足音がわかりやすくなっている。この廊下を音を立てずに走ることは結構難しい。訓練しておいて良かったと感じた。私達のような下っ端の部屋に入る。
「ここもダメか。」
知らない顔2人に対して仲間が5人。明らかに相手の方が格上だということを思い知らされる。さらに奥へ進んだ。そこにはぜんが居た。居たと言うより座っていた。ただ、ぜんの顔にも覇気は無かった。涙すら出ない。私よりも断然修行を積み、実力のある仲間が命を落としているのだ。何も感じなかった。たださらに奥の棟梁や他の仲間の安否を確認したかった。