見た感じは江戸の町
「よし、車ごと向かう旨を伝えてくるから食器類片しといて」
妻にお願いしドアを開き車から降りた、いっせいに膝を着きサクヤさんの隣に居た老齢の男性が声を発した
「神様!リンボクへのご助力、誠に感謝申し上げますのじゃ」
それに続いて全員が頭を下げる、まだ何もしていないからな、そんなに畏まらないで欲しい
「神様とお付きの方々はこちらの馬車へご搭乗をお願い申し上げます、皆の衆!」
「はっ!」
サクヤさんの号令と共に家臣達がサッと一矢乱れぬ動きで左右に別れ馬車への道を作り再び膝を付いて頭を下げる、精練された動きにびっくり、だけど車があるからなぁ
「お気持ちは嬉しいけど、私達はこの車で行くから」
「では、馬をお繋ぎ致します。爺や!」
「はいですじゃ」
サクヤさんの隣にいた老齢の男性が動き出す、しかし車に馬は要らないから止めるように促した
「馬は不要です、このままで走行出来ますので」
「なんと!馬無しで方舟は陸も進めるのでございますか!」
どうやら自動車って概念はないらしい、見た目からして近代国家前の日本みたいだし仕方ないか
「サクヤさん、案内だけ頼むよ」
「・・・」
あれ?返事が無い、サクヤさんは何故か車を見つめたまま惚けているようにも見える
「サクヤさん、もしかして乗りたいの?」
「!滅相もありません、そような畏れ多い事」
いやね、さっきまで乗ってたし、中で会話してたでしょうに、意外としっかりしてそうで実は天然だったりして
「お付きの爺さん、サクヤさんも乗せて行って良いかな?」
「お願いしますのじゃ」
「爺やっ」
「神様の御心を無駄にするでないのじゃ、お呼びじゃぞ」
早いところ誤解を解いて神様呼ばわりされるのを止めないといちいちめんどくさいかんじだなぁ
「もう、出発するんでしょサクヤさん早く!」
「わっ、わかりました。爺や先導を」
「承知しましたじゃ」
サクヤさんを連れて車に戻り後部ドアから中へ入れ、自分は運転席に乗り込む、エンジン始動、ぶぅーんと重低音が響き数名の驚いた表情がフロントガラス越しに見えた、出発を促すように手を振り合図を送る、進めの合図とわかったらしく先導を開始する、ゆっくりと方向転換をし、どうやら車の後ろに見える山に向かうようだ
「父ちゃん!どこ行くの?」
「さっき話してたリンボク国って所、詳しくはサクヤさんに聞いてくれ」
「はーい」
幌影がサクヤに話しかけようと顔をみたがサクヤさんは振り向かない、目線が前を向いたまま一点を見つめてる状態
「サクヤさん?」
「・・・」
「サクヤさーん」
「・・・」
「返事がないただの屍のようだ」
「こら、幌影!」
「っ!言ってみたかったんだごめんなさい」
「サクヤさんも緊張してるかもしれないし、茶化すなよ」
「はーい」
まるで聞こえていないように動かないサクヤさんは確かに置物のよう、そうこうしている内に山の麓に町らしき物が見え、置物が動いた…じゃなくてサクヤさんが動いた
「前方に見えますのが我が国の都、ギノにごさいます」
おおっ、良く見たら山の上に城らしきものも有るじゃないか、徐々に町並みもハッキリしていき、瓦屋根の家が並んでいる。さながら時代劇のセットのようだ
「異世界っていうより昔の日本って感じじゃん」
「そうだなぁ、言葉使いからなんとなく想像してた通りだな」
町の入り口に守衛らしき人が居るがなんか驚いてるな、あっ膝を付いて頭を下げた
「門をくぐりましたら屋敷まで後少しでございます」
サクヤさんは特に気にした様子もなく、そのまま行くように指示してきた。そういえばサクヤさん王女様だった、しばらくすると塀に囲まれた立派なお屋敷に着いた
「ご足労頂きありがとうございます。。奥に馬車の停泊所がごさいますのでそちらにお願い致します。」
丁稚らしき人に案内され車を止めた。そこからはサクヤさんが屋敷内を案内してくれている。家族みんなキョロキョロしている、こんなデカイ屋敷見たこと無いから仕方ないか
「こちらにて暫しお待ちください」
そう言って、襖を開け部屋に入るように促された、部屋の中はザ和式って感じだ畳の良い香りに日差しを取り入れる障子、床の間には一輪挿しが飾ってあるなんか落ち着く部屋だ
「何か御座いましたら外に部屋付きの者を控えさせておりますので何なりとお申し付けください、では失礼します」
一礼をしたサクヤさんは部屋の外に出ていった
「父ちゃん!すごいね高級旅館みたいじゃん!」
「あなた、障子の向こうに池が有るわよ!立派な鯉も」
「良い匂い」
おうおう、家の家族は緊張って言葉を知らないのか、幌影は広い部屋に興奮中、妻は庭の景色を堪能中、下の子供達は畳でゴロゴロ、これから多分詳しい内容を聞かされると思うに緊張の欠片も無いな、とは言うものの
「やっぱり畳の香りは落ち着くなぁ」
他人の事言えないな、いろいろ有り過ぎたからやっぱり畳の香りは最高だ