第一印象は日本人?
「とりあえず飯にするか!」
まぁ、思い返してみても車ごと底の見えない地割れに落ちた記憶までしか残って無いし、死んだような感じもしないしお腹も減ってきたし、キッチンに向かい料理を始める
「あなたって、こんな状況で本当…そこが取り柄というのかしら」
ため息混じりにこぼした、聞こえてますよ奥さん!安心して下さい。旦那も現実逃避中です。
「腹が減っては戦は出来ぬ。糖分が無ければ脳は動かじ」
「それ何かの名言?」
「知らん、前半は良く耳にするが後半は父ちゃんオリジナルだ」
「あっ、そう」
幌影が適当な相づちをし再び窓の外に手を出した。
「むやみやたらに魔法放って人や物を壊すなよ」
「わかってるって!後、何が使えるか知りたいじゃん」
1つ魔法らしきものが使えたのがどうやら嬉しいようで何やらブツブツ呪文らしきものを唱え始めている、まぁ、ほおっといても大丈夫だろう。沸騰してきた鍋にレトルトパウチをいれながらレンジでご飯を温める。温まったレトルトカレーとご飯をお皿に盛ってさぁ完成
「ご飯出来たぞ」
「カレーかよ」
「嫌なら食うな、返せ」
「食べないなんて言ってないじゃん、頂きます。」
「頂きます」
幌影が食べ始めた、妻も少し遅れて口を付ける、さて、寝坊助二人はどうしてやろう
寝かせたままの方が少しだけ幸せかもしれない、実家に、おばあちゃんに会えないと知ったら絶対泣くだろうし、うーん、考え事をしながら子供の寝顔をみていると目が合った
「おはよ」
「…おはよう」
「おはよう、カレー出来てるぞ」
どうやらカレーの匂いに釣られて起きたようだ。のそのそと二人が姿勢を正す、「いただきます」「ます」と食べ始めた、さて、私も食べますか!
「分からないことだらけだけどカレーは美味いな」
「かんけーないじゃんカレー」
「静かに食べなさい二人共」
「「ごめんなさい」」
怒られた、我が家はご飯中のお喋り&テレビは禁止なのだ、以前妻の実家でご飯を頂いた時に無言での食事が私には食卓が重く感じ会話をして和ませようとした、しばらくするとお義父さんが急に怒り箸を机にドン!っと置き食卓から離れた。その後お義母さんに何か粗相が有ったか尋ねると「ご飯は感謝の気持ちを持って静かに頂くのが家のルールなの」と教えて貰った、そんな環境で育った妻だったが大学で一人暮しをするようになって友達と喋りながらのご飯にも慣れ、実家のルールを伝えるのをすっかり忘れていたそうだ、それ以降、我が家にも同じルールを持ち込んだ。理由は(感謝の気持ちを持ってご飯に向き合う…良いじゃないか)
別に和気あいあいと食べるのを反対している訳じゃないが、喋らずご飯と向き合うと感謝の気持ちが沸いてくるから不思議だ。
ご飯もすぐに片付くし色々良いことずくめである
「「「ご馳走様でした」」」
手を合わせて感謝の言葉をいい食器を片付け始める。さて、こられから何をすべきか。何やらすうっと窓から手を出していた幌影が引っ込み
「父ちゃん、何か来るよ」
「何かって?」
「多分、人の集団」
「…は?」
使った食器を片付けるのを一時中断し外を見た、確かに人の集団がこちらに近付いて来ている。着物?のような服を着た女性を筆頭に確実にこちらを目指しているのが分かる
「あっ、あなた?」
不安げな声、この荒野のど真ん中という状況はやはり精神的に良くないようだ、もっともそれだけじゃないだろう着物姿の女性の後ろには明らかに武器を携えた武士らしき人達が見えている。相手は20人前後、敵か味方かわからないこの状況、さて、どうしたものか
刻一刻とタイムリミットが迫る中、思考は絶賛パニック中、そうこうしている内に先頭の女性が一人でこちらに近付いて来た。両手を広げ何やらしゃべっている
「何をしゃべってるか分からんな」
「ヤバイよ父ちゃん、早く逃げようよ」
「あなた」
うーん多分、逃げるのはもう無理だ、道路の上ならまだしもここは荒野、ゼロ君には不向きだ、もう残る手段は居留守を使うか会話してみるかだけだか
「ちょっくら話してくるか」
「マジで言ってんの、ヤバいって!」
「そうよ、あなた逃げましょう」
盛大に引き止められた、不思議と危険な感じがしないのだ、白を基調とした薄ピンク色の服、落ち着いた雰囲気の多分未成年と思われる女性、ロングストレートな黒髪は地面につきそうだ。髪飾りと額のアクセサリーはむしろ神秘的に映った
「たぶん大丈夫だ、武器を持った人達から離れているのがその証拠だ、私達を襲うなら彼女一人でこちらに来たりしないだろうし」
そう言い残し車のドアを開けた、一瞬だけ女性が震えたのが見えた。
「あなただけじゃ心配、私もついて行くわ」
「深雪は子供達の近くに居てくれ、その方が安心だし」
見つめ合う二人
「分かったわ」
「じゃあ、行ってくる」
車から降りた私を見て10メートルほど離れた場所で待っていた女性が片足を地面につけ頭を垂れる。
「ΨΡΡΧδγΥΟΙΚΡ、ΚΧγΕΙΞβδσψφξιサクヤ」
…ちょっと待て、何語だ?服装からしてアジア人もしくは日本人だと思ったんだかまったくわからん言語で喋りやがる、流石に言葉が通じないとかあり得んだろ
難しい顔で考える、でも最後だけ聞き取れた。サクヤって言ったか彼女?花びらの刺繍のモチーフは桜かな?綺麗だ…っていかんいかん
「私の言葉分かりますか?」
「λδΧΚΩΜΜΚΞΥΡ!」
何やら真剣に私に向かって話しかけてるのは解るが内容がわからない。どうしたものか…
そうだっだ、コレが有る!最新式AIウォッチこれなら翻訳機能もあるし何とかなるか!
「アル起動」
私はAIウォッチの愛称をつぶやき起動させた。すると目の前の女性が急に血相を変えすがり付くように私の腰付近に飛び付いて来た
「ナルキドゥルナ、サマ、リン!」
「よ、良くわからんが離れてくれ!」
振り払おうとするが一向に離してくれる気配ない、これはたぶん不味い
「起動シークエンスを開始」
「システム構築、オールグリーン」
「ネットワークリンク、サーバー確認…エラー」
「δκβΞΠΛΔ!!」
必死なのは分かるけどこちらとしては妻や子供達が見ているんだ、何とかしなければ
「サーバー再確認…エラー」
「ネットワークに接続出来ません」
「どうしちまったんだ、アル?」
彼女はますます血相を変えて、と言うか泣きそうな表情をし出した
中々起動しないAIウォッチに焦りつつ、車を振り向くと表情の消えた深雪の姿、まずい早くどうにかしなければ
「新しい接続先をご命令下さい。」
「δΧΧΨΠйкаеУНΥΚΦ!,ΥΞΟδΨцчсΣβγ,λδΧΚΩΜΜΚΞΥΡ!」
「分かったから!真剣なのは伝わってるから。アル!」
「!!、ラグナ、ソル、ナルキドゥルナ!!」
「ラグナ…何だって?」
微かに聞き取れた言葉が知ってる単語だったのでつい口に出した。
「ネットワークリンク再実行、サーバー名ラグナ」
「サーバー確認完了、これより生体認証を開始します」
ちょっと待て、ラグナなんてサーバー契約してないぞ?
「生体認証完了、スキル神智学所持を確認」
いやいや、アルさんやそんな認証方法じゃないからな
「ラグナ接続完了、利用制限ランクの確認」
彼女の胸元から淡い青光が放たれる、流石に彼女もこの異常な状況に硬直したようだ
「神核位を確認、第1級接続権限を受諾」
「アカシック・レコードを使用できます」
「使用しますか?」
「はい・いいえ」 AIウォッチに表示された二つの言葉、とにかくサーバーに繋がれば翻訳機能が使えるし現状をなんとか出来るかもしれない、これしかないと直感的に「はい」を選択した
「起動シークエンスが完了しました。マスターおはようございます。ご命令をどうぞ」
何事もなかったかのようにいつもの抑揚のない音声が流れた
とりあえず
「これから目の前の彼女と話すから翻訳してくれ」