光と弓と狼と
シャドウウルフの先頭集団が音もなく疾走してきた、しかし縮尺倍率を限界まで上げた脳内マップ正面に8つの赤い点がこちらに向かって来ている、そして
(……入った!)
ヘッドライトをハイビームで照射、ついでにフォグランプも同時に照射される。
その光が天井、壁に反射し正面の入口が眩い光で包まれる
「総員!!放て!!」
昼間の様に明るくなった入口に怯むシャドウウルフ、弓兵隊が放った矢は次々にシャドウウルフを射抜き、息の根を止める。
脳内マップに8つ有った赤い点が全て消えたのを確認ののち照射をやめる
時間にして10秒にも満たない第一陣の攻防はこちら側の圧勝に終わった
再び暗闇が辺りを包む、シャドウウルフは低い唸り声を上げながらこちらを警戒している
(何とか上手く行ったな)
(報告、第二陣、時間差で強襲……来ます)
安堵したのも束の間、間髪入れずアルの報告が重なる
脳内マップに前方から二つの塊に別れた赤い点が7つ、シャドウウルフがこちらへ向かって疾走してくる、しかし先程の一直線に向かって来たのとは違い不規則な動き、弓を警戒しているのだろう左右に振れながら向かって来ている。
(来た!)
再び、ヘッドライトを照射、辺りが眩い光に包まれる
「総員!放て!」
先程と同じく照射直後に一斉に射出、前方を走るシャドウウルフが次々に倒れ伏せる
二つの塊に分かれていた後方のシャドウウルフが前で崩れ落ちる同胞を盾に一気に跳躍、弓を躱した
(ゴウキさん!)
(おまかせあれ!)
待機していたゴウキさんが前に出る、飛びかかるシャドウウルフを前に腰を少し落とし、柄に手を添える
チン!
鞘に収まったままの青凍刀から金属音が僅かに鳴る。
直後シャドウウルフに青い一閃が疾走り、一太刀の下、成すすべなく地面に転がる
しかし、敵性察知の赤い点がまだ残っている
他のシャドウウルフに重なるように動いていた一匹が殺意をむき出しにゴウキさんを喰い裂こうと牙が目前まで迫る
「グルガァ!」
「ぬんっ!」
向けられた牙がゴウキさんに届く事はなかった
目にも止まらぬ早さで抜刀し口元から胴体まで真っ二つに切り裂いたのだ、
抜身の刀身が青く輝きを放つ
(大丈夫ですか!)
(お心遣い感謝致しまするが、心配無用でござる)
刀に付いた血糊を振るうことで綺麗にし再び鞘に収め構えを取る、視線は目の前に集まるシャドウウルフの群れを注視している。流石に2回も攻撃を凌がれて警戒したのか唸り声を上げ、しかし、入口には入って来ない。
このまま停滞状態が続くかと思われた矢先、群れを割って一匹の巨大な狼が現れた。
真正面に姿を見せた一際巨大な狼は唸り声を放つわけでもなく、戦闘態勢をとるわけでもない。だが、その存在感は他のシャドウウルフと一線を画している
ヘッドライトに照らされても尚、威風堂々した立ち振る舞いは何事にも屈しない王者の風格、その両目から注がれる視線は鋭い
(この群れのボスでござる……が、ちと某には厳しい相手でござる)
柄を握る手に一層力を込めて構えを取るゴウキさん、対象的にボスと思われる巨大な狼はこちらを歯牙にも掛けない様子でこちらを見ている
ヘッドライトに照らされる毛並みは金色に輝き、漆黒のシャドウウルフとは違う美しさに思わず見惚れてしまう
(報告、群れが森の奥へ移動してます)
アルからの報告で奪われかけた意識を戻し、脳内マップで急ぎ確認する。
確かに群れが森の奥へ進行している。
「総員!弓を下げよ!」
(ゴウキさん?)
(あ奴から殺意を感じぬでござる、某にお任せを)
(わかりました)
指示に従い、護衛隊の弓兵が構えを解き、次いでゴウキさんも柄に添えていた手を離し戦闘態勢を解除する。
鋭い視線を向けていたボスと思われる巨大な狼は悠然とこちらに背を向け森に消えて行った。
暫し、敵性察知のマップに有った赤い点は徐々に索敵範囲から外れていく。
最後にはすべての赤い点はなくなり残ったのは緑と青の点のみ
(アル、どうだ)
(回答、敵性察知に反応が有りません)
どうやら完全にシャドウウルフの群れは姿を消したらしい、長いようで短い戦闘も幕を閉じた
(ゴウキさん、脅威になりそうな魔物は居なくなりました)
(畏まりました)
「総員!勝鬨を上げよ」
『おおぉー!!』
歓喜に満ちた歓声がシェルター内を反響し車体が震える。後で聞いた話、シャドウウルフと対峙して一人の犠牲者も出さずに撃退することに成功した事は快挙だったらしい。
興奮冷めやらぬ状態がしばらく続いた。正直うるさいが喜びを分かち合う護衛の方々に水を指す野暮はしないで見守る事にした
戦闘シーン終了です。
お読みいただきありがとうございます。
次回は戦後処理のなはしになります