これが噂の異世界というやつか
ようこそ、妄想の世界へ、楽しんでいただけたら嬉しいです。
「ここはどこだ?」
目が覚めてフロントガラス越しに見えた景色に思わず言葉が漏れた。見渡す限り赤茶けた荒野が広がる、例えるなら昔映画で見た西部劇を思わせる何もない景色。
「父ちゃん?」
半ば思考が停止しているところに後部座席から声をかけられた。振り返ると息子の幌影が不思議そうなポカンとしたような顔で自分を見ていた。
「どうした?幌影」
「ここってどこ?」
再びフロントガラス越しに外を見る、赤茶けた荒野が視界に入る
「少なくとも高速道路じゃないな」
「うん」
いまだこの異常な状況に脳の処理が追い付かず、よく分からない会話をする。
「うぅん~、もう着いたの」
重たそうなまぶたを擦りながら妻の深雪が助手席から聞いてきた
「まだ、というか…迷った?」
「なんで高速で迷うのよ、着いたら起こしてよね」
眠いのか体の向きを変えて寝直しはじめた。そんな様子を見ていつも通りの妻の仕草に思わず笑いが込み上げてくる、息子も同じだったようだ。
「ママはママだね」
息子の一言に二人して笑い声を上げた。止まっていた思考が少しずつ動き始めた。幌影の近くに寝息をたてて起きる様子のない次男日向と末っ子長女澪もいる。目の前に荒野が広がる異常な状況でも家族全員いる。
「とりあえずみんな乗ってるな、怪我も無さそうだし」
「でも父ちゃん、ここってどこなの?何にもないよ」
「わからん、確か運転中に凄い揺れて…」
。そう、確か高速道路を走行中に地震と思われる激しい揺れに遭い、それから──。
「そうだった、道路が陥没して落ちたんだ」
「でも、道路なんてないよ?」
見渡す限り道路どころか人工的な物が一切無い。地震で崩壊したとしてもアスファルトなりコンクリートの破片が見当たらないのはおかしい。そもそも帰郷中に地平線まで続くような荒野の上に高速はなかったはずだそんな事を考えている最中。
「もしかしてゲームの世界だったりして」
幌影がとんでもない事を言い出した。
「ゲームの世界に迷い混んだってか?あり得んだろ」
「でもさ、ママと父ちゃんとゲームのジョブの話した後だったじゃん、ゲームの世界だよ」
「中二病かお前は」
訳のわからん事を言い出した幌影に額に手を当てながらため息をはいた。不機嫌になったのが見た目で分かる。一応息子も気難しい年頃、頭ごなしに否定するのもどうかと思い話を合わせてみた。
「殺風景なゲームだな、幌影はここで何かできそうか?」
「うーんとねぇ、やっぱりゲームならモンスターを倒したり魔法が使えたりするんじゃない?」
「魔法か出来たら楽しそうだな」
「でしょ!見ててよ父ちゃん」
そう言うと幌影は窓を開けて右手を外に出した。
「出でよ炎!」
「…」
「ファイアーボール」
「…」
「アイスバレット」
「…」
「…」
どうしよう、否定た方が良かったような気がしてきた。いろいろな魔法の名前を詠唱(?)してみたはいいが、全く何も起きない起きる気配もない。幌影も何やら暗くなりはじめていた。
「…幌影、魔法が最初からは使えないのはゲームなら当たり前だよな」
「そうだよ! やっぱりレベルが上がらないと魔法も特技も覚えないしね」
とりあえず気持ちが切り替わったのか、何やらブツブツ言い始めた。「レベルを上げる為には」とか「ジョブは」とかなにかを考えているようだ。ゲームの世界って言うのは非現実的な考えだし、今の置かれた状況を理解したくない心境が働いてるのかも知れない。問題のこの状況を打開しなくては、そうこう考えていると──。
「ねぇ、父ちゃんはどんな魔法知ってるの」
現実問題の打開策を考えていると幌影が運転席に顔を出して聞いてきた。魔法か──。
「そうだなぁー、魔法といえばマジックアローとか、キュア、サイクロン、後はライデ…じゃなくてライトニングかな」
「ふーん、マジックアロー、キュア、サイクロン…!?」
突然車が大きく揺れた、まるで何がぶつかったような衝撃。フロントガラス越しに渦が見えた? 揺れが大きかったのか隣で寝ていた深雪も驚いて目を覚ました。
「なっ!なに?事故!?」
一瞬で目が醒めたようだ。慌てて回りを見渡している。次の瞬間真っ青な表情でこちらを振り向いた。
「ぇ、実家消えちゃった?」
「なんでやねん」
どうやら起きて早々に荒野のど真ん中というあり得ない光景に混乱しているようだ。
「ママ!ママ!僕、魔法使えたよ!見てて」
「サイクロン!」
興奮気味の幌影は窓から出した右手に先ほどよりも大きな渦を作り撃ち放った。唖然とする私、混乱する妻、揚々として追い打ちをかける息子、未だに起きない子供二人。わかったのはどうやらゲームの世界に迷い混んだと思われる事だけだった。
素人が気ままに執筆してますので誤字脱字、文法は読者が補完して想像してもらえたらと思います。読んで頂きありがとうございました。