片想い中の女騎士とドラゴン討伐に行くはずが、何故かお父さんが女装して来やがった。
王国に伝わる一対の双剣。剣を極めし男女が一振りずつ手にし、末永く安泰を授からん──
「明日は西の岩山に潜むレッドドラゴン討伐だ。今日はこれくらいにしておこう」
剣を下げ、陽が遠くの森に掛かるか掛からないかの時刻。女騎士パルフィとの稽古を早めに切り上げた。
「ええ。レッドドラゴンはかなりの強敵と聞くわ。決して油断しないようにね」
「ああ」
額から垂れるパルフィの汗が、キラリと光って地面へと地面に弾けた。荒い息遣いと揺れる肩、そして何より輝かしい銀色の髪と凛々しい顔が、俺の決意を寄り強固な物へと押し上げてくれる。
「あ、あのさ…………」
口を開いたものの、直ぐさまに言葉に詰まる。
「なんだ?」
「……いや、何でも無い」
「…………そうか。ならばまた明日」
「ああ……」
去り行くパルフィの背中にこっそりと手を振った。
(明日、レッドドラゴンを倒したら……パルフィに想いを告げよう)
パルフィと双剣を分かつまでに登り詰めた剣の道。レッドドラゴン如きに遅れを取るわけには行かぬ……!!
俺はその後も一人で剣を振り、家に着いた頃には陽がすっかりと落ちていた。
岩山のふもと、パルフィは約束の時刻ジャストに現れた。
「いつもは十分前に現れるパルフィが珍しいな、どうかしたか?」
「…………」
パルフィは無言で険しい表情をしていた。
「緊張しているのか? まあいい。俺が居れば大丈夫さ」
俺は岩山の山頂へ向けて足を踏み出した。立ち止まると震えているのがバレると思い、少し足早に山頂へ急いだ。何だかんだ言いつつも、俺は緊張している。
レッドドラゴンは強敵だ。万全の俺でも勝率は七割強。パルフィに情け無い姿を晒すわけにも行かぬ。今日だけはしくじれない……!!
そして山頂へと辿り着くと、レッドドラゴンの巣が顔を出した。巣には卵を守るレッドドラゴン。そしてドラゴンからしてみれば、俺達は失礼この上ない侵入者なのだ──!!
「行くぞパルフィ!!」
剣を構え合図を送る。しかしその刹那、俺の頭上を跳び越え、パルフィがレッドドラゴンへと襲い掛かろうとしていたのが見え、視界が何かで塞がった。
──ベチャッ!
「──何だ!?」
俺が慌てて顔からソレを剥ぎ取る。掌大の柔らかいゼリー状の肌色の半球体。全く以て謎の物体がいきなり俺の顔目掛けて落ちてきたと言うのだ。
──ギィィン!!
レッドドラゴンの爪とパルフィの剣が弾き合った音が鳴り、俺の隣にパルフィが手を着いて着地した。そして俺は突発的な異変に気付かざるを得なかった。
なんと、パルフィの片乳が無いのだ!!
戦闘服の胸部が片側、あからさまに凹んでおり、どう見ても損失したようにしか見えなかった!
「──!?!?!?」
パルフィが慌てて視線を泳がせる俺と、俺が手にしていた半球体のゼリー状物体に気が付いたのか、素早い手付きで俺から半球体を奪い取り、後ろを向いて戦闘服の中の胸部へと押し込んだ。
「な、なぁ……それ、パルフィのお乳なのか──?」
「…………」
俺とパルフィの間に無言の空気が流れた。
しかし、レッドドラゴンはお構いなしに1480°の炎を吐いてきやがった!!
「おっと!」
慌てて飛び越し、炎を回避した。パルフィは俺より高く飛び上がり、岩の上へと着地すると思った瞬間、視界が何かで塞がった。
──ボスッ……
「──何だ!?」
慌てて顔からソレを剥ぎ取る。銀色の長い髪の塊が、何故か俺の顔目掛けて落ちてきたと言うのだ。
レッドドラゴンの尻尾がパルフィの居る岩を粉砕。パルフィは華麗なる跳躍で俺の隣に着地すると、俺はまたその突発的な異変に気付かざるを得なかった。
なんと、パルフィの頭部に毛髪が無いのだ!!
一糸まとわぬパルフィの頭部に、慌てて掌の銀色の塊を乗せた。するとパルフィは慌てて後ろを抜いて髪を整え始めた。
「な、なぁ……それ、パルフィの髪なのか──?」
「…………」
二人の間に気まずい空気が流れ始めた。
しかし、レッドドラゴンは我関せずと、2980°の炎を吐いた!
「危ないっ!!」
反応が遅れたパルフィの体を掴み地面へと伏せる。
そのまま転がり起き上がると、パルフィの戦闘服の胸部が破け、地面にはゼリー状の半球体が二つ、銀色の塊が一つ無残にも焼け焦げて悪臭を放っていた。
「…………」
冷静にレッドドラゴンを見据えたまま、ポケットから携帯を取り出すパルフィ……いや、コイツ誰だ?
──プルルルル……
「あ、母さんか? ちょっと帰り遅くなる。パルフィにも宜しく伝えてくれ」
──ガチャ……
「──えっ? も、もしかして……お、おお、パルフィのお父さん!?」
「違う!!!! 私はパルフィだ!!」
突然低い怒鳴り声でパルフィだと主張する人物。いやいや、どう考えても別人ですよ。もしくは記憶喪失か変態か……どちらにせよ問題だらけだ。
「あのー……流石に無理が…………」
「ボヤッとするな!! ブレスが来るぞ!!」
「──!!」
レッドドラゴンの容赦無い税込4980°の灼熱。僅かに近付いただけで身が焼け付くような熱さだ!!
「私はパルフィだが、貴様がパルフィに相応しい男かどうか! それを確かめに来た!!」
「──!!」
そうと分かれば話は早い。偽乳やズラに戸惑っている暇など無いと言う事だ。
「喰らえぇぇぇぇ!!」
今こそ日頃の修行の成果を発揮する時!
レッドドラゴンの額に剣を突き立て、持てる力の限り、レッドドラゴンの顔を切り裂く──!!
顔に深い傷を負ったレッドドラゴンは咆哮と共に巣から逃げ出した。
俺は……勝ったのだ!!
「宜しい! その力、申し分無しだ!!」
いつの間にか無精ヒゲが生えていたパルフィのお父さんが、親指を立てて俺の健闘を褒め称えてくれた。
「父上!!」
岩山の下の方から聞き慣れた声が耳に届いた。何やら小包みを持ったパルフィが走って山頂に現れたのだ。
「お弁当だ。遅くなるならと、母上が……」
「おお! パルフィどうした!? 今丁度レッドドラゴンをやっつけたぞ! やっつけたのは彼だがな! ガッハッハ!!」
俺はレッドドラゴンを倒した事で、ようやくパルフィに思いを告げる決心が着いた。
「パルフィ……」
「何だ? 改まって」
「好きだ!! 俺と付き合ってくれ!!」
俺はついにパルフィに告白をした。自分でも体が熱くなっているのが分かる。きっとレッドドラゴンの炎よりも熱いだろう。
「彼は見事にやってのけた。彼はこの国一の剣士だ!」
お義父さんが俺を持ち上げる。
レッドドラゴンも倒したのだ。間違いだろう。
「父上…………」
「ん? 何だ?」
「……先日、恋仲が出来たと申し上げた筈だが?」
「…………へ?」
「そうだっけ?」
「向かいに住む売れないラッパー……」
「──あ! アイツか!!」
「え? 誰!? 何の事!?」
二人の会話に俺だけがついて行けず、お義父さんは申し訳なさそうに、俺に頭を下げた。
「ゴメンゴメン。そう言えば、彼氏出来てたわ(笑) てっきり今日男とレッドドラゴン討伐に出かけるなんて言うから、君かと思って娘になりすましちゃったよ!」
「父上…………アホ……」
「…………」
二人が笑いながら岩山を降り始めた。
──ピーッ
「レッドドラゴン帰って来ーーーーい!!!!」
指笛を鳴らすと、レッドドラゴンが豪快な羽ばたきと共に帰還した。
「お呼びで?」
「さっきは俺が悪かった。下取りも分割も要らないから、コイツらに税率100%でお値打ち価格の19800°を喰らわせてやってくれ……」
「オッケー!」
レッドドラゴンのブレスで二人は瞬く間に消し炭となり、俺はレッドドラゴンに跨がりこの国を滅ぼす竜騎士となった──!!
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