三幕
自由気ままに更新
第三幕 欲の果て 開幕
『どうするつもり!』
『どうもこうも殺すんだよお前を』
『お前も死ぬぞ!』
『・・・怖いか』
『!』
『俺と死んでもらおう』
『やめっ・・・いやーーーーーーーー!』
・・・・・こんな事が起きる数時間前
零はいつも通り依頼の資料を見ていた。そんな中、声を掛けた男
「零さん、いいんですか?引き受けて」
「しゃーないでしょ」
「めっちゃ顔に出てたぞ」
「マジか」
最初に喋ったのは狛犬の右神と次に喋ったのは同じく狛犬の左神
共に零の手伝いをしている。そして先ほど面倒ごとを押し付けられた。
数分前・・・・・
「私に?・・・何考えてる」
「そう言うな、直接依頼したいって言ってるだけだぞ?」
いつものように閻魔が依頼を持ってきたのかと思ったら、今日はいつもと
違く、神が直々に依頼したいとの話。しかし零はめんどくさそうに閻魔を
睨みつけ話をする。そんな様子に左神は
「断れないのか?」
「無理ね。断ったら何言われるか・・・はぁ」
「悪い奴じゃない嫌なら断ってもいいとの事だし」
「ふ~ん・・・」
断ってもいいなどと言われたら、嫌とは言えない性格をしているのを
知っている閻魔。零の扱いはなれたもの。
「話だけ聞く」
「(負けず嫌いだなホント)」
「なんか思ったでしょ」
「いえいえ、んじゃいくか」
閻魔の心を見抜き、さらに眼光鋭くなる零に笑う狛犬達と焦る閻魔だった。
依頼者である神の元に行く最中零が話し出す。
「嫌がらせでいい?」
「話を聞いてからにしろって・・・結構。評価してるみたいだぞ」
「へ~」
「興味なさそうだな」
「信用がないのそれだけ・・・直接の依頼ってよくあるの?
私今回、初めてだけど」
「たまにあるぞ、お前もカラスや狛犬達がやりやすいように
神も信用してる奴をよく依頼してる」
「へー」
「自分から聞いといてその反応ひどくない?」
「・・・」
「え?もう聞いてないの?ね?ねぇ?ちょっ」
そんな二人を後ろから見ていた右神は、口を手で押さえ笑い堪え
左神は大爆笑していた。
・・・・
しばらく歩きたどり着いたのは、妖炎塔と呼ばれる建物。
ここでは会議や審判、休憩などに使われる人の世でいう集会場でもあり
閻魔などの上級の神が住むマンション的な所でもある。あまり来たく
なかったのか零の顔が歪む
「マジかよ」
「マジだ。行くぞ」
零はてっきり下級の神かと思ったが予想外で、妖炎塔にはいい思い出が
一つもないので来たくなかった。中に入れば嫌な視線の数々そんな視線に
狛犬達はなんだと思い首を傾げ、零は鼻で笑い飛ばし睨み返すと
視線を避ける様にそっぽ向く神々
「相変わらずね・・・・ふふ」
「あんまりいじめるな」
「どちらかといえば私の方だと思うけど?視線背けるなんて、やましい事
でもあるのかしらね?『私以上』に」
なんて大声で言うと、睨みつけていた神々は歯を食いしばり悔しがっていた。
そんな様子に左神は閻魔に問いかける
「なんかあったのか?」
「そうか二匹は知らんのか」
何かを話そうとする閻魔を止めるように零が話し出す。
「そのうち嫌でもわかる時がくる」
「・・・まぁそういうことだ」
と後ろを振り返りながら二匹に言った。
あまり納得してない二匹だが、零の物言わせない雰囲気に黙り
込んだのだった。
・・・・・
四階に上がった先にある部屋の前にたどり着き閻魔がノックする。
「(コンコン)居るか?獅戸?」
「おう待ってたぞ」
扉が開き中に入ると、武士のような成り立ちをし、白髭を蓄えた老人が
出迎えた。好きに座れと言われ、零は中に入って扉の前に背を預け立った。
その様子に閻魔は
「座ったら?」
「ここで結構お前らは座れ」
「「はい・・・(怖)」」
二匹は素直に椅子に座り閻魔は獅戸に謝った。
「いや~すまんなこんな奴・・・こういう女で」
「いやいや話に聞いてた通りだ。それに仕方ないだろう」
そう言って獅戸は笑った。
「で、私にご用件は」
一応、相手は上級の神なのでそれなりの態度をとる零
「簡単ではないが・・・引き受けるかは判断してよい」
「内容は」
「私の子孫を守ってほしい。何やら不穏な感じでな・・・人ではない
『もの』を感じる」
「何故子孫を?血を絶やしたくないとかですか」
「それもあるが子孫を守るのも先祖の役目」
「そうですか・・・して「あの」」
二人の話を聞き右神が話に割って入った。
「何かな?」
「貴方様は神ですよね?子孫がいるんですか?」
「彼は元人間よ」
「人が神になる事ってあるのか?」
左神の言葉に閻魔が少し説明する
「ある。半数とは言わないが上級、下級の神は元人間だ。人柱や生贄
英雄などは、人を救ったとして神になることが多かった昔はな
今は数える程度だがたまにいる」
「まだまだ修行が足らないわね」
零の言葉にしょんぼりする二匹だった。
その後、獅戸の話を聞く
「で、人以外の気配がすると」
「あぁというより怨念に近い」
「なぜ私に依頼を」
「うん、他の者でもいいが・・・私は他の元と一緒にしてもらっては困る
皆『平等に扱ってる』そのつもりだ。少しばかりお手並みを拝見したくてな
どうじゃ?やるか」
「直接の依頼断るほどの者ではございませんので、最初から引き受ける
つもりですよ」
その言葉に閻魔は少し驚き、獅戸は嬉しそうに声を掛けた
「そうかやってくれるか!ありがたい」
「いえ」
「これが資料だ役に立つといいのだが」
「助かります・・・閻魔、二匹を連れて行きたい後カイラ達も」
「構わん」
話を終えすぐに部屋から出て行った零の後を慌てて追いかけた二匹。
部屋に残された閻魔と獅戸は
「すまんな」
「いやいや、あれがあの子じゃろ?気にしとらん」
「それならいいが・・・」
・・・・・その後
資料を読み終え。たどり着いた仕事場は豪華な屋敷だった。
かなりの金持ちなのだろう。家というより城、よく見れば教会のような
ものまであるし離れもある。これ見よがしに置いてあるというより
展示している数台の外車。辺りを見渡した左神が言う
「西洋の城だな。こりゃスゲー」
「見たことあるの?」
「アズナさんが好きだったから知ってるの」
「なるほど・・・さて数人いるが娘っ子だったな?名前は「きゃーーーーーー!」」
「「「!」」」
資料を読み返そうとした時、屋敷から悲鳴が聞こえすぐに向かった。
悲鳴の聴こえた場所に着くと男が、まだ未成年だろう娘に跨っていた。
その光景に目を見張り、直ぐに零は回し蹴りをしようとしたが足がすり抜けた。
「何⁈」
驚いたが、男はこちらを見ていないが少女はこちらを見ている事に気が付き
直ぐに行動にうつした。
「(見えていないのか?けどこっちは見えてるな・・・ならば)」
男に向かい手を向けると術を唱えた。
「『元凶ニ幻聴 幻 ヒト時ノ夢ヲ』・・・行くよ!」
驚く娘を横抱きにし外に出て、いったん屋敷から離れようとしたが
それは止めて人気のない教会に避難した。
・・・・・・
少女を右神達に任せ外を見てくると外に出てった零。娘を連れ外に出た
瞬間違和感を覚えたのだ。
しばらく歩き続けると、屋敷からおよそ2.5kぐらいだろうか
そこに結界が張られていた
「・・・おかしいね上にも張られてる」
まるでドーム状に張られた結界、自分ではない誰かが張ったのは確か。
しかし、力が使えるような奴の気配などみじんも感じなかった。
首をかしげながらも神経を研ぎ澄ませながら来た道を戻っていった。
その頃、教会では少女と二匹が会話していた。
「だ・誰ですか」
「怖がらんでいいよ。味方だから、さっきの人もそうだ」
「うんうん、君を手助けしに来た」
娘を怖がらせないよう一定の距離を取り話しかける
「もしかして・・・狛犬?」
娘の言葉に二匹顔を合わせびっくりする
それもそうだ、まだ何も話をしてないし確かに狛犬だが見た目は人と一緒
何故分かったと尋ねると娘は答える
「その・・・予知夢かな」
「なるほどじゃさっきの女の人もわかる?」
「うん」
「そっか、あ!僕右神で」
「俺は左神だ。よろしくな」
そう言うと娘は安心し自己紹介をした。
「私は斎藤奏といいます。あの女の人は?」
「零っていうんだ、愛想ないけど「誰が愛想無いの?否定はしないけど」
おかえりです。な~んも言ってねぇよ」
いつの間にか帰って来ていた零に左神は、冷や汗を流しながら固まった
どうやら自己紹介の時には側に居たらしい。
「結界が張られて出れない。改めて私は零といいます。奏って呼んでも?」
「あ、うん」
「結界って?」
「それを解明すんのが二人の仕事、行ってこい」
「「えぇ「あぁ?」御意」」
文句を言う二匹に対し圧力をかけ無理やり行かせ零は奏に向き合い
先ほどの事の話をした。
「あれ誰?」
「へ?えぇ~と、従兄弟です。」
「付き合ってるようではないが、何故?」
「その、脅されて・・・その最終手段的にあんな行動に」
「脅し?」
「あの・・・もしかして神さ「じゃないけど似てる者だ」あ、はいすいません」
先ほどの圧力が直に来たので、少々縮こまった奏。零は神の言葉に反応した。
「私を知ってるの?」
「そのよく予知夢を見るもんで。両親が出てくると、いつもそうなるから
今回も『大丈夫、助けがくる』って」
「ふ~んそう・・・」
聴いといて興味のない返事をする。これが零の性格
しばらく話をしていると、調査をし終えた二匹が帰ってきて、調査報告をする。
やはり零の言う通りドーム状に結果があり出れなくなっている
しかし出れないだけで、術は使える。大きさ的には東京ドーム二個半と言った所
そこまで話すと、奏が言う
「その大きさ土地の大きさと一緒だ」
「たしか?」
「うん、お父さんが話してたの聞いてた」
お父さんの言葉に零が聞く
「・・・今はいないのね。二人」
「行栄不明なの。遺体も無くて、でも必ず『遺言状』の場所に居るはずなの!
お願い探して!両親とお祖母ちゃんを!」
「ちょい待ってて(どうすっか?)」
奏との会話をやめ、心の中で狛犬達と話をする。
「(いや、そう聞かれてもな)」
「(仕事内容としては、この子を守ればいいんでしょ?
なら問題ないんじゃない?)」
「(まぁね、願いを聞くのも私の仕事か・・・亡骸がないのはかわいそうだな)
まぁいいか」
二匹と一人が面と向かって真顔の姿は何とも言えない光景、零が喋り終えた
のを見計らい声を掛ける奏。
「で、どうですか?」
「あぁごめんごめん、両親捜すの手伝うよで遺言は何処に」
「部屋にある・・・けど」
「・・・まだ効果切れてないから、さっきの奴まだ(ピーーーーーーー)
してるわ。」
零の言葉にそれぞれ反応する
「うわぁ」
「放送禁止用語だね」
「吐きそう」
「まぁまぁ終わるまで詳しい話を。」
その後、時間的に二時間ほど、どうやら獅戸の話通り遺産争いがあり
本家の血筋である奏に親戚が目をつけ、いつの間にか親戚達が家に住み着き
毎日探し回ってるらしく。なかなか見つからなくイライラが募り毎日奏を
脅すようになったとか、脅しの内容は言葉から行動になったらしい
その話を聞き
「聞いてるだけでイラつくね」
「うわぁ俺殺っちゃうかも」
「ダメよ。」
二匹は話を聞いて腹が立ち零は先ほどの事を思いだしていた。
そんな中、奏は
「なんか後味悪いから止めてね・・・でも北さんは優しいよ。北さんは
私の執事で、名前は佐藤北次さん」
北次は奏の祖父が連れてきた仕事人で、奏にとっては信頼できる
一人であって、生まれる前に祖父が亡くなったので祖父のような存在でも
あった。そんな話をしてる中
「きゅっ」
カイラとカミラが巻物をもって零の元にやってきた。右神が巻物を受け
取りながら話す。
「あれ、巻物?いつの間に屋敷に行ってたの二人共」
「あぁ・・・ごめん置いてきてたわ」
「きき」
「気にしてないってさ」
気にしてないどころか奏の部屋を捜索して収穫してきた二人。巻物を見て
奏が驚き話す
「それ!遺言書!よくわかったねぇ・・・可愛い」
「きゅっきゅ♪」「き♪」
褒められたのが嬉しかったのか、フキを持ってくるくる回り喜び
右神が、巻物を零に手渡した。
「これが遺言書?何とも古風ね」
「「・・・(自分も結構古風だよ)」」
二匹の視線に零はにっこりとすると、顔をそらした二匹。巻物の遺言書を
見るとこう書かれていた
『くちなしの花 花びら 相手は美しい 妻は三歩後ろを歩く
火葬 妻の亡骸 好奇心 人の群れ 恥ずかしがり屋の妻
永遠に守りたいわがまま 嫉妬 私は妻のすべてを知る 同じ床
永遠に守る 知れば死 皆同じ床 永久に 成長を見守れ
家出を探すな 自害』
「なんだこれ?」
「暗号になってるの・・・皆私が知ってると思ってるけど、私も何が何だか」
「まぁ本家だしねぇ。そう思われても仕方ないね」
そう言いながら巻物を見て考えるが、どう解読していいか解らない
そんな時ふと獅戸に貰った資料に何かヒントになるものが
描かれていたはずと、懐から取り出し見てみるとヒント処かほぼ答えがあった。
『遺言書の巻物の解読をトキがしている』
「トキって知ってる?」
「私の父方のお祖母ちゃん。お祖母ちゃんも行栄不明で」
資料の事を尋ねるが、奏の祖母としかわからず、資料に解読書の場所は
書いてないので、広い敷地を探さなければならない。得意の気音を使えば
いいのだが結界のせいか、気音がつかえない状況に舌打ちしつつ屋敷に
向かった。
「場所ぐらい書けや」
「まぁまぁ零。どうどう」
イラつく零を抑える右神、その後ろを歩く精霊二名に狛犬一匹と奏
歩きながら奏に尋ねる
「あの襲ってた男の名前は?」
「え~と省吾と言う従兄弟らしいです」
「らしい?」
「実際わからないの。みんな親戚、親戚って言ってるけど・・・北さんも
知らないみたいなんだけど、なんか証明書あるから何もいいようないって」
「ふ~ん・・・カイラ、カミラ」
「きゅ」「き」
二人の名前を言うと、二人は風のごとく消え去った。
「さて従兄弟の名前は・・・山内省吾であってる?」
「うん」
「術がかかってるか確認も含めて会ってくれる?私らいるし」
「え~・・・うんしょうがないよね」
襲ってきた相手に会うのは、嫌だろうが。零が言うなら仕方がないと
承諾した奏。
・・・・
しばらく歩き屋敷に着いた時、北さんと思われる執事がこちらに走ってきた。
「お嬢様!」
「北さん?どうしたの?」
「部屋に行ったら、中から省吾様が出てきたので探していました。」
「あぁ~と」
なんと説明していいのかわからず零に目線を向けると零が自己紹介した。
「初めまして友達の千沙といいます。後ろは弟の空と海斗です」
「?新しい友達ですか?」
「そう!言ってなかったねぇあはは」
北次は不思議そうに零を見つめる。零はその視線に何故かはわからないが
嘘が通じてないように感じた。話をしていると北次の後ろの方に省吾の
姿を確認した。術はどうやらかかっていると判断し零が奏に目配せする。
それに気が付き、奏は北次に部屋にお茶を持ってきてと頼むと北次は
承知しましたと言いその場を離れた。
「奴がいた行くよ。大丈夫?」
「うん、零がいるから大丈夫」
「まぁ話せないときは私がどうにかするから」
さっそく山内省吾に近づくと、奏に気が付き気持ちの悪い笑みを見せた。
その瞬間、奏は自分がいない間あんな事があったと考えたら恐怖を感じ、
口が思うように開かない。零達がいないかのようなふるまいに、零は眉間に
しわを寄せる
「やぁさっきはよかったね」
「えっと・・・『口合わせ』んぐ!『さっきとは、何のことです?』!」
術を発動し奏の口を操る
「は?なにいって」
『何言ってるのはそちらでは?部屋にでも行きましたか?』
「何を・・・あれ?」
「私ずっと外にいましたよ。まさか部屋でも漁りましたか?」
「いや・・、また食事の時に」
山内は頭を傾げながら、どこかに行った。
それもそのはず奏の部屋は南の端の部屋、ここは北にある玄関、あんな事が
あったのにその数分後には玄関にいるのは不可能。奏の部屋は三階だし
何より距離がある。走るにしたって少々無理だし、何より奏の態度に疑問が残る。
「『解除』すまんね」
解除すると奏は口を触りパクパクする
「なんか変な感じ」
「それより二匹どう思う」
「どうもこうも『見えてない』よな」
そう何故か無視されていると言うより、存在してないかのような扱いに
首をかしげる一人と二匹。しかし北次には見えている、どういう事か聞こう
にも閻魔に連絡できなければカラスを呼ぶこともできない。とりあえず
奏の部屋に行く事に。
部屋に入り窓を開けると遠くの方に、まるでシャボン玉のような薄い膜の
結界が見えた。すべてはこの結界のせいだが、誰が何のためかけたのか
しばらくすると北次が部屋に来た。
「お嬢様紅茶とクッキーご用意しました」
北次が部屋に来たのを確認し二匹を部屋に出す零
「北さんでもいい?」
「はい」
「見えてる」
「はい見えていますが?」
「そう・・・千沙は偽名、零といいます。奏を手助けに参りました。
私は人ではありません」
やはり北次には見えているが他には見えていないらしい、突然の自己紹介に
少し驚く北次だが、さすがは執事あまり動じることなく素直に受け止めた
「さようですか」
「疑わないの?」
「はい、お嬢様のお友達ですから」
そういいニッコリと笑った北次。
「ふふ、それは助かる後、表にいる礼儀正しいのが右神で乱暴な方は左神
・・・あとカイラ、カミラいる?」
「きゅきゅ」
「あららゴミだらけじゃないどこに「きー!」挟まってたの」
どうやら箪笥の隙間から出れなくなっており助けてやると北次に挨拶をする
「きゅきゅ」「きき」
「これはかわいらしいお客様で、しばらくお待ちをこれではサイズが
大きいですね」
そういうと北次が部屋から出て行った
「ん~この状況わからん」
「初めてなの?」
精霊と握手しながら問う奏に、難しい顔でうんと答える零。どうしたものかと
北次の持ってきた紅茶を飲みながら外の結界を見た。その時ふと思った
気音は使えない連絡もできないが、術は使えた。どの程度の術は
使えるのか気になり左神を部屋に入れ、どこまで術が使えるか試してみる事に
「左神悪いが実験台になって」
「なんで俺!」
「筋肉馬鹿だから」
「なんて理『物足リヌ人魂 燃エ尽キヨ』うわぁ!」
シーン
「あれ?」
炎の術を繰り出すが、何故か出ないので次の術を唱える
「う~ん『蜘蛛の糸は地獄の楔』これは出るか、投げるぞ」
「(ビュン)話しながらやるなよ!」
次は武器を出す術を口にすると、手に鎖が出たそれを左神の右腕に投げつけ
巻きつけると術を口にする
「『蜘蛛ニ捕マリ者ハ焼カレル』「ちょいまっ・・・あれ?」やっぱり出ない」
鎖を解いてやると、あとが付いていたのでカイラに治させると、それはできる。
攻撃性の術は使えないが、それ以外の事はできることが分かった。
しかしこんな事ができる結界を作れるのは、かなりの技術がいる。
そんじゃそこらの者ではないと判断した
「ん~ますますわからん」
「俺に対する謝罪は」
「いいでしょそんなにケガしなかったんだから」
零に何を言っても無駄なのは昔から知っているので、がっくりと肩を落とす。
そんな左神を慰める、カイラとカミラだった。
「さっきの術やべーやつじゃん・・・なんで俺ばっかり」
「きき」
「ありがとうカミラ」
「いつまでウジウジしてんの、出なかったからよかったでしょ」
「でもさぁだってさぁ」
いつまでもボソボソ言う左神を置いといて、カイラに話しかける
「どう解読書、見つかった?」
「きゅ~」
「この部屋にはないか・・・しかたない探索するか。分かれて探すよ。
左神と右神にカミラ付いてって」
「きき」
「私らはこのあたり探すから、そうだな東の方頼む」
「・・・了解です」
カミラとともにとぼとぼと部屋を出て東の方にいく左神達。零達は南の方の
部屋を探すため部屋を出ようとすると左神達と入れ違いざまに北次が
戻ってきた
「おや?お茶を用意したのですが」
そう言われ北次の手元を見ると、ミニチュアサイズの紅茶のカップに小さな皿に乗った小さなクッキーわざわざカイラ達に用意してくれたらしい
「あ~すまんカミラは探し物に出ちゃった。せっかくだからカイラ
ごちそうになりなさい。」
「きゅ~♪」
零に言われ嬉しそうにクッキーを頬張るカイラ残りの半分は懐に入れてカミラに渡すようだ。カイラがお茶をしている間、北次と話をする零
「北さんいくつか質問よろしい?」
「えぇ何なりと」
「この子の祖母は知ってる」
「えぇトキ様ですね」
「遺産を狙ってた。とか話は」
「いえ、どちらかといえば守ると言っていました。」
「守るね・・・で、部屋はある?」
「ありますが・・・トキ様は今だ行栄不明、鍵はトキ様が片時も離さず持っていまして、スペアもありませんので入れません」
「壊すとかは」
「壊すにも特殊な扉ですから」
「あぁなるほど」
この家の扉はすべて特殊で弾丸も通さないほどの特殊な扉。開けるためには
鍵が必要、ピッキングもできなくはないが、それをすると電撃が発生し気絶するとかでピッキングもダメ
「誰かピッキングしたの」
「えぇ、お嬢様の叔父にあたります。剛志様が」
「ちなみに親族何人いるの」
「そうですね・・・・八人ですね。叔父の山内剛志様、奥様の南様、従兄弟の
省吾様、同じく叔父の伊藤栄人様、奥様の百合様、従兄妹の朋樹様に綾様
叔母のトキサ様です。」
「全員遺産狙いでいいかしら?」
「そうですね」
「あら、意外とはっきりと」
「私の役目は旦那様と奥様の約束一つ。お嬢様をお守りすることです」
「そう」
はっきりと言い切った北次を零は痛く気に入った。まっすぐに見つめ
ウソ偽りのない眼、堂々とした性格、執事だからか、それとも親心の様なものか
北次に迷いはない
「カイラすぐ行くけど?」
「むぎゅ」
カイラはお茶を飲むと返事をした。
そして北次を連れ四人でトキの部屋に、移動中に北次にいくつか話をする零
「どうやら私らが見えているのは、二人だけの様なの。他の者が来たら
いないように扱って」
「はい」
「それと、獅戸という人物を知ってる?」
「さて?・・・・あぁお嬢様のご先祖様ですねたしかこの家の、6代目でした」
「結構知ってる感じ?」
「一応それなりに、たしか六代目はいわれなき罪で切腹でしたかね」
「濡れ衣で死んだの?」
「確か記録ではそう・・・お持ちしましょうか?」
「お願い」
「わかりました。トキ様のお部屋はこの先の角を曲がってすぐです。私は記録をお持ちします」
そう言うと北次は記録を探しに行き零達はトキの部屋に向かった。
・・・・
トキの部屋に辿り着きドアノブをひねるがカギが掛かっている、いつもなら術でどうにかするが、結界の為か簡単な術ができない
「簡単なのもダメか」
「どうするの?鍵って言っても・・・」
「ピッキングだ」
「でもそれじゃ電撃が!」
「簡単な術は無理なら高度な術を使う『これ』で開ける」
「え・・・それ輪ゴム?」
零が取り出したのは、どこにでもある輪ゴム。そんなもので一体どう開けるのかと奏が心配そうに見つめる中、零が術を唱えると形が変わりそれをカギ穴に入れる。奏はビックリするが、何も起こらない
「なんで?」
「ゴムは電気通さないでしょ、輪ゴムを固く針金の強度にしただけこれなら
電撃は食らわない・・・ちょっとピリピリするが」
そう言う零の手は確かに痙攣しているが、それに負けずカチャカチャと
いじっていると
「(ガチャン)開いた、入るよ」
ものの一分ほどでピッキングに成功し中に入り素早く鍵を閉めた。
トキが居なくなって数年。部屋の中は埃だらけ。
「窓・・・いや見つかったらめんどくさいなこのまま探そう・・・ケホっ」
「そうだね・・・わたしベット近く見るね」
「わかった、カイラは壁周り見て私は机のあたり探すから」
「きゅ!」
手分けして解読書を探す三人だったが、何処にも見つからない、ベッドを
ひっくり返すも無し、机やタンスをの中身をぶちまけるが無い、怪しい所も
無い奏からは、弱気な言葉が出る
「本当にあるのかな?」
「あるとしたらココが本命だけど・・・ないとすると面倒だね」
零の中では本命はこの部屋、この部屋が無いとすればあとは心当たりはない
すぐに見つかると思ったが、そうはいかなかった。もう少し探そうとすると
ノックする音がした
「私です北次です。居ますか?」
「奏、開けてあげて」
「うん」
扉を開け北次を中に入れると、先程話をしていた記録を持ってきてくれた
ようで、一休みしつつ記録を拝見することに。
記録は古い巻物で初代の事から今の代までの事が事細かくぎっしりと書かれていた
「随分と細かいのね・・・出生から没年までこれは誰が書いてるの?」
「代々この家を受け継ぐ者だけです最後は鉄也様ですお嬢様の祖父です」
「でも次の代は父親では?」
「そのはずなのですが、なぜか旦那様である和也様に受け繋がなかったようで」
その話を聞き奏が話をする
「それなのになぜ北さんが知ってるの?」
「執事にも場所は知らされているんです。例えばこのような時があった場合」
「なるほど、もしもの事があったら書いていけないからね。でもこれがあると
いうのは皆知ってるの?」
「はい、しかし場所は知らない筈です」
巻物の中身を拝見していくと、確かに獅戸は六代目当主『切腹により没・・・』と書かれているが不明な点が一つ
「(・・・おかしいな切腹ではないのか?)」
これを書いたのは筆跡が違うので、次の代の瀬戸と呼ばれる人物と推測
したがなぜか、『切腹により没』と書けばいいものの。没の後に点々が描かれている、そこに少し疑問を持った零。瀬戸の自分自身の事に関しては、点々は
見当たらないので癖ではない、何故点々が描かれているのか少し引っかかるが、たいしたことではないだろうと思い疑問を頭の中から消した。
一通り巻物を読み、確かに奏の曽祖父である作久間は、遺産を隠したと記されており遺書を次の代の奏の祖父に渡したと記されている
「しかしその遺書は・・・」
「誰かが持ち去った模様ですが・・・遺書の場所は金庫の中にあったはずですが大旦那様が亡くなると同時に無くなりました。私としては・・・奥様のトキ様が持ち出したのではと」
「理由は」
「奥様からは何も聞かされておりませんが遺書の場所を知ってるとしたら、
大旦那様と常に一緒にいた奥様しかいないかと」
「ちなみに祖父の死因は?」
零の言葉に北次は予想外の言葉を漏らした
「病死です・・・そう医者は言いましたが私はそうではないかと」
「どういう意味?」
零の言葉に奏が答える
「病気だけど原因不明の病だと、他の医者にも見せようって言っても
お爺ちゃんが嫌だって、でも・・・言葉を喋ることができないから本当か
どうか私は怪しいって思ってる」
「祖父の言付けは誰が?」
「トキ様ですが、私たちも本人が嫌だと首を振ったのを見ましたから」
「でも!もしかしたら誰かが!」
「お嬢様・・・」
「う・・・ごめん熱くなった」
そういうと埃をかぶった布団に座った奏。
どうやら、奏は祖父は病死ではなく誰かが遺産のために殺したのではと
思っていた。
「医者は」
「大旦那様が亡くなった翌年に無くなりました。交通事故と聞いております」
「そう」
話を終え、北次も含め四人で部屋中をひっくり返すように探し出す。
・・・・数時間後
「きゅ?・・・♪~♪~」
カイラがカミラの笛の音を聞き、笛でここにいることを知らせると、右神達が
木箱をもってやってきた。
「見つけた!」
「よくやった。その中?」
「でも開かない、かなり機密だよ。見て鍵穴もなければ切り目もご覧の通り。
でも聴いて」
そう言い木箱を振るとカラカラと音が鳴った。
手のひらサイズの木箱、しかし切れ目が見えないくらい密着しており開けようにもどう開けていいかわからず。力自慢の左神が壊そうにも壊せず。捻っても
押しても壁にたたきつけても壊れない
「どうなってる?」
「貸して・・・・特殊すぎるな、ちょっとどいて」
皆が離れたのを確認し木箱を切る零しかし
「切れない⁈」
「術がかかってるのかな?」
「そうは見えないがカイラ、カミラどう?」
「き」「きゅ~」
二人に見せるが術はかかっていないの返答。刀でも切れないこの木箱は何なんだと、みんなで考えていると、北次があることを思い出す。
「もしや『剣のからくり箱』ですかね」
「剣のからくり?特殊なの?」
「はい大昔この周辺には鋼のように固い木が生えておりました。名前は確か
「剣の木」と呼ばれていました。」
北次が言うには、大昔この周辺ではその木は切ることができず。むしろ
弾き飛ばしてしまい切るためにはノミで地道に削り切るしかできなかった。
削ることでしか切れないのを利用し、ノミで削りからくり箱を作り貴重品を
入れる箱を作り商売していたのだと。しかし年々剣の木は無くなり商売も
数年しか持たず、今や幻の品なんだとか
「じゃ削るのか?」
「でも厚さがあるよ?それにノミあるの?」
右神の言う通りコンコンと、たたくとかなりの厚さがある音がする。
削るのが、賢明だが零はそんな面倒ごとは嫌いなので
「意地でも切る。退け「体切り心残」(スッ)(パコっ)」
見事に真っ二つ切った零しかし箱だけ切れ中身は切れていない
中からは紙が一枚折りたたまれて入っていた。中を開き確認すると
こう書かれていた。
『話をしない君の口は美しい 君は美しい
後ろを歩く君 死んでもなお美しい
けれど君は弱い 君の姿を見ようと大勢集まると
君は隠れてしまう 私は君を 独り占めしたい
わがままを許してくれ 私は嫉妬深い 君はよく知っているだろう
君とともに眠ろう 君を一生 永遠に 永久に守ろう
私たちを知れば 死ぬだろう その時は 私たちとともに眠ってもらおう
だからそっとしてくれ 探さないでくれ 死んでくれ』
「よくできてる・・・うん解読に間違いはないけど、さらに解読が必要ね
場所か、思い当たりある?」
「ううん」
「これの解読任せてくれないかしら。そっちもいい」
そう指さすは解読前の巻物
零が言うと奏は頷き零に解読を任せた。
「解読の解読か?」
「そうまず暗号にしてる時点で誰かに向けてへのメッセージ・・・
この場合は、私らに違いないね
『話をしない君は美しい』解読前は『くちなしの花』
『妻』の事を指してるだろうね『花』=『女』
『くちなし』=『話をしない』と『口がきけない』
『話をしない』もそうだろうだが、これを・・・そうだなこうか?
『話をしない』=『はなしをしない』=『はなし』=『葉無し』」
「なんでそう読み取れるの?」
「うん・・・『死んでもなお』や『火葬』これは=『骨』だと思う
骨でも美しいでしょ、『口は美しい』って事は、たぶん色の事
骨は白、口は赤、葉がない花は「『彼岸花』の事ですね」そう北さんの言う通り」
彼岸花は赤が一般的だが、白い彼岸花もある
それに一度、芽を出したところを踏まれると咲くことが無くなる
『大勢が見に来ると君は隠れてしまう』ということは踏まれ咲かなくなる事
踏まれただけで花が咲かない。これで『弱い』も読み取れる
零は話をしながら着々と解読し続けた。
しばらく北さんと解読している最中ふと後ろを見ると、疲れていたのか奏と
二匹と二人が眠っていた。その様子を優しげに見つめ、また解読に戻った。
・・・・
解読をし終え、五人を起こし部屋に戻り。北さんが入れてくれた
お茶と茶菓子を食べながら休憩することに
「すいません寝ちゃって・・・」
「いいのよ。ただ二匹は例外だけどね」
「「すいません」」
「まぁいいや、北さんのお蔭で解読終えたし」
「きゅ?」
「あぁどうやら彼岸花がキーワードみたいだけど、何処かわかる?」
そう尋ねられ奏が口を開く
「彼岸花・・・もしかしてお墓の事かな?ひい爺ちゃんのお墓は森の中にあるの確かだけど彼岸花が咲いてた記憶があるけど・・・北さんに聞けばわかるかも」
今、北次はお茶のお代わりを持ちに行ってしまったので戻ってくるまで
待つことに。しかし、左神が音に気がつく。
「音がする」
「・・・構えろ」
そう言った瞬間、誰かの悲鳴が屋敷に響き渡ったと思ったら今度は、何かを
引きずる音が少しづつこちらに向かってくる。奏を背中に隠し右神達に
目配せすると、奏以外が頷く
「奏、少し覚悟して」
奏は零の言葉に震えながらもうなずき扉を見つめた。
引きずる音と共にからからと音が鳴っている、しばらくすると、扉の前で止まりかちゃりと扉が開く
(ギィー)
「あぁ此処にいたの奏ちゃん」
扉を開けたのは奏の叔父栄人
「叔父さん?・・・ひっ!」
奏は一瞬で血の気が引いた。叔父の左手には鉄バットそして右手には首に
包丁を刺されたまま血を流し死んでいる叔母のトキナの姿
首からはどくどくと血を吹き出し引きずられていた。
「どうしたの?」
「あ、、、いや・・・いやーーーーー!」
「奏!こいつはもう『死んでる!』」
奏に言った瞬間小刀を取り出し栄人の頭に投げつけ殺した。
頭に命中しそのまま倒れたが、栄人は狂ったように笑って言った。
「ふは、ははは、あははははははははは。お前が零か・・・あは」
そう言うと、力尽きた栄人の体から黒い靄が現れたと思ったら分裂し零達に
攻撃仕掛けた。皆奏を守る様に戦いが始まった。
「右神!左神!私らは外に出る!頼んだ」
「「御意」」
奏の手を引き隙をついて扉から脱出する。扉を出た瞬間扉の死角から従兄弟の省吾が何かの木の棒で攻撃するがカイラが防ぎカミラが切りつける
「きき!」
「カイラ!カミラ!北さんに伝えて!」
「きゅ!」
カイラ達を置き去りにし外に逃げることにすると、後ろから右神が叫ぶ
「零さん!気をつけて!」
右神の声に後ろを振り向くと、人位の大きさの黒い靄が追ってきていた。
それを見て奏を横抱きにし、術を口にする
「『触れれば焼け落ち触れなければ爆死・・・呪縛蜘蛛ノ糸』」
唱えたのち、そこら中に手を触れると蜘蛛の巣ができる
触れれば触れた場所は焼け、触れなくとも通り過ぎるだけでも爆破するのだが
反応がなく術が消える。それを見た零は舌打ちをし苦虫をつぶしたような
顔になる
「生きてない・・・死人か?」
そんなことをつぶやきながら屋敷を走り外に出た。
・・・・・
屋敷の外に出て、林に身を隠した二人
「「・・・・」」
二人身を潜め黒い靄を探すが今は何処にもいない
どうやら振り切ったようで黒い靄は二人を見失ったらしい
「零、あれは何?」
「わからない・・・生命反応がないのは確か、でも死人とも違う」
「ねぇ・・・死んじゃったの三人」
「えぇというより『すでに死んでた』ようだったが」
「さっきの奴?」
「それ以外考えられん。あんなに血眼になって遺産探ししてたのに。
見つかってないのに殺し合いなんてしないでしょ・・・見つけたらわか(ガシッ)がっ!」
喋ってる最中に黒い靄にいつの間にか見つかり首を捕まったと思ったら、その辺に投げ飛ばされる零
(ブンッ!)
「零!」
「しまっ(ドカッ!)うぐ・・・逃げろ奏!」
「・・・む・・り」
零は大きな木の幹にぶつかりすぐに逃げるように声を上げるが、すでに
黒い靄に頭を捕まれ動けない奏
だんだんと奏の瞳から生気が無くなっていくのを見て、慌てて駆け寄ろうと
するが、体中に激痛が走り立てない零、まずいと思った矢先
「!」
(スー・・・パァン!)
奏の体が光、黒い靄が吹き飛ばされた。
それを見て驚き、気絶し倒れている奏をよく見ると霊魂が二つ奏の周りを
浮いている。すると頭の中で声が聞こえた。
『大丈夫この子は私らが守る』
「任せます」
声の主は奏の母親だった。霊魂の正体は奏の両親。奏を二人に任せ吹き飛んだ
黒い靄の所に痛みを我慢しながら走り出した。
・・・・・・
吹き飛んだ方に走りたどり着くとそこには『人の形』をした何かがいた。
『・・・・』
「何者だ?」
『・・・・・(ニヤ)』
(ゾク)
相手が笑った瞬間、零は全身に鳥肌が立った。その瞬間わずかに止まったのを
見逃さす相手が零の懐に入るが間一髪で手で止める。しかしそれが
いけなかった。
「っ!」
手で捕まえたと思いきや相手が零のつかんだ手から零の体内に侵入してしまい自由が利かなくなった。相手に体を侵食されてしまい動きが封じられた。
「く・・・そ・が」
そう言ったきり口すらもきけなくなったてしまった。
すると、頭の中に声が響く
『どうだ?自由を奪われる感じは?』
『何するつもり!お前は誰から生まれた!』
『言えないねぇ・・・死んだら教えてやるよ』
そういうと零の体が崖に近づく
抵抗しようも『死神に体を乗っ取られては』どうしようもない
そう彼は死神・・・『誰かから生まれた』死神。足はどんどん崖先に近づく
頭の中で抵抗しても体も力も死神に主導権を握られては零もどうしようも
ない。すでに崖先、あと一歩で昨日の雨で増量した川に落ちてしまう
高さもあるので衝撃か、おぼれて死ぬのは確実
『どうするつもり!』
「どうもこうも殺すんだよお前を」
『お前も死ぬぞ!』
『・・・怖いか?』
『!』
『俺と死んでもらおう』
『やめっ・・・いやーーーーーーーー!』
(スッ・・・・バッシャーン!)
「・・・・・・グブッ!」
『まだ生きてるか・・・まぁご愁傷さまだな』
零は死んだ 終わり
「なーんてね」
『は?』
川の中で目を開き口を開きしゃべる零。状況が読み込めず死神は唖然とした
「死んだと思った?残念でした。死ぬのはてめぇだ死神『邪心滅』」
そう唱え親指を心臓の位置に突き刺すと、体から黒い煙が出ていく
『どうなって!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
・・・・・・・
川から上がり一息つく零
「知らなかったようだな私の事を・・・聞いてる?」
そういい手のひらにある黒い球体に話しかけた
『・・・何が何だかだ、要するにお前の中に入ったのは間違いだったってことか』
「大正解、頭いいな・・・で誰の死神だ?」
『・・・・』
これ以上答えるつもりは無いのか口を閉ざすが、零の言葉に思わず口を開いた。
「ふ~ん・・・なぁ取引しない?」
『なんだと』
・・・・・・
得体のしれない者たちを片付け、匂いを辿り零の元に急いできた右神
「零さ・・・!」
「あぁ待て待て、安心しろ」
何かに気が付き近づくのをやめた右神に安心させるように言う
右神が警戒したのは、先ほどの死神の気配を感じたからだ、しかし姿がない
だが零は安心しろと言ったことに疑問を感じたが一応安心し零の近づく
「どういうことです?」
「それは仕事が終わったら話す。安心して『私に逆らえないようにした』
だけだからそれで奏は?」
「みんな無事だよ」
「そう、一度戻るよ」
そう言い屋敷に戻ると面倒なことになっていた。
・・・・・
奏の部屋に戻ると左神達は申し訳なさそうにしょんぼりしており
奏は北さんの胸の中で大泣き。そばには、三人の遺体に荒らされた部屋
暴れたにしては、物は壊れておらずまるで泥棒でも入ったような荒らされ方
だった。どうなってると右神達に説明を求めると、どうやら騒ぎを聞きつけた
伊藤家が来て最初は驚いたようだが、従妹の綾が解読書を見つけてしまい
そこから大騒ぎ。死体の驚きと恐怖は何処へやら、狂ったように奏に詰め寄り
部屋を荒らし始め、奏は恐怖で場所を言ってしまい今の状況に至る
「奏仕方がないよ」
「うぅ・・・でも」
「で、三人は何しょぼくれてんの」
「いや、ねぇ」
「き・・・」「きゅ~・・・」
「いやいや、姿が見えないんだから止められないのは仕方ないだろ」
かなりの状況だったのか止められなかったのが悔しかったようだ。
「だー!過ぎたものをめそめそ引きずるな!北さん!」
「場所ですね」
「北さんは悪いが警察呼んで、ここで待機を奏は任せて」
「・・・わかりましたお気を付けを」
「えぇ信じて、場所は」
「場所は・・・」
北次から場所を聞き奏を抱き上げ急いで遺言書の場所に向かった。
・・・・
「それにしても遺体を見ても金が大事かねぇ遺産ってどのくらいなの?」
「えぇっと・・・数百億らしいけど」
「そりゃ人の命何てちっぽけに見えるわね」
「・・・」
「貴方もこうなるまでは欲しかったでしょ・・・少し」
「うっ・・・・・・・・・・・・はい」
「素直でよろしい」
奏自身も遺産を欲していた。こんな事態になるまで、それもそうだ数百億の
遺産、誰だって喉から手が出るほど欲しい物。しかし人の命を犠牲にしてまで
金を欲する奴らは外道だと零はそう思った。
北次に教えてもらった。場所に着き木の陰からそっと覗くと、そこには
墓一つに群がり土を掘り返す外道たちと野原が広がっていた。
「ぎゅ~!」
「墓荒らしかよ・・・最低だな」
「最低も何も外道だからあれが普通よ」
カイラ達は怒り零は呆れ奏は少し泣いた。
これが同じ『人間』だと心底呆れつつ様子をうかがうと、墓に異変が起こった
それはひとりでに動いたのだ。それを見た外道たちは、驚き離れたが墓が動き
その下は下り階段になっていたそれを見て従兄弟の智樹は喜んだ
「この下に金があるんだ!」
その言葉に我先にと暗い穴に飛び込むように駆け下りた。
それを見て、零達も墓の近くまで来た
「どう入る?」
零の言葉に奏は暗い穴を見て恐怖し首を振り言った。
「・・・いらないお金なんて財宝何ていらない家も自由が欲しいんじゃない
ただ・・・ただ・・・生きていたい両親を見つけたい、それだけ」
「賢明ね」
そういった瞬間ガタンと音が鳴った。音の正体は墓石が戻った音だった
「おい!」
左神が慌てて墓石を動かそうとするがなぜか少しも動かない
「どうなってる⁉」
慌てる三人と違い零は冷静に声を掛ける墓石に宿ってる人物に
「居るのだろう?何人閉じ込めた?やり方があまりにもだが?」
「なんじゃ知ってたか?」
「いや、今の今まで知らんかったよ。さすがに力を使えばわかるだろ
さて、亡霊になってもなお此処を守るか説明願おうか?斎藤作久間」
「この人が私の先祖?」
「そうじゃ正確には曽祖父だ。さて何人かね?確かめるかい?」
そう言いクスッと笑う作久間に零は眉間にしわを寄せた。
「結構飢え死には勘弁してくれ」
「そうかい」
「待って!何人って事は・・・まさか」
「なるほどね。財宝の話を知ってる奴と知り合いがこの下に眠ってるんだね」
右神の話に「そうだ」と作久間は答えた。
「警察も殺したの?」
「あぁそうだ殺した私が」
「そこまでするのはなぜ?」
「遺言通りだ。」
作久間の話に一つ疑問を覚えた奏は質問する
「何故、私を殺さないの?なぜ私の両親を殺したの⁉」
「二人も財宝を探していた」
「違う!財宝何て探していない!探していたのはお祖母ちゃんよ!」
「最終的には、ここにたどり着いたお嬢さんのお祖母ちゃんは探していたよ
それに言ったはずだ遺言通りだと」
「財宝は知らなかったが、ここにたどり着いた時点で遺言通り殺した
ということね」
「そんな・・・」
崩れ落ち絶望する奏にもう一つの質問に答えた作久間
「もう一つの質問だが、さすがにこれ以上は無理かと思ってな、そこにいる
三人がいるからねぇいや一人と二匹か」
「嫌なくらい祖先に似たわね」
「いい意味でかい?」
「さぁ・・・さて奏、貴方の本当の願いかなえよう・・・いいわね作久間」
「嫌だと問うた「今すぐ抹殺して下にいる奴ら全員出す」よい・・・一つ
約束してくれさすれば私は手出ししない」
「わかってる・・・二人出すだけだ」
零の言葉に奏は、はっとした。なぜなら二人とは親の事、祖母は含まれていない
「まって!お祖母ちゃんは!」
「貴方の今の願いは何?」
「それは家族を!」
「作久間の話で心は変わったようだが?素直に生きていかないなら
この仕事なかった事にしてもいいのよ」
「!」
零の言葉に言葉をのむ奏
そう作久間が先ほど話した祖母も財宝を探していた。その言葉に心変わり
していた。祖母を見損なっていたのだ。それを見透かされ何も言えない奏
そんな奏を置き墓石の前に行くと術を唱える
「『斎藤彩音 斎藤和也 二人の亡骸此処に』」
唱え終えると、二人の遺体亡くなったままの体制で地上に出てきた
見るに堪えない姿。ミイラ化し二人抱き合い亡くなっていた。その姿に二匹は
顔を背け零は哀しそうに見つめ、奏は抱き着き大声で泣いた。
その姿を見ていた作久間に話をする零
「さて、貴方はどうする?」
「もうここを知るものはいないお嬢さん一つ真実を話そうそれで私を恨むか
どうかは自分で決めなさい。遺言だが巻物の存在は知らん本当の遺言は
お嬢さんの祖母の父が焼いた。巻物は祖母が描いたものだ。」
「「「!」」」
作久間の言葉に驚きを隠せない右神、左神そして奏
「妙に似てると思ったらそういうことか・・・なら合点がいく」
「わかってたの?」
「確かに筆跡は似てたけど、似てるだけで確信がなかったから言わなかった。
どちらにしろ最終的にはわからなくてもいいかと思ったが・・・本当に祖母が
描いていたとは」
「あの女もずる賢い、どこでかぎつけたのかねぇ」
「まだここを知る人間がいると思ってるの?」
「火のないところに煙は立たないっていうじゃろ?」
「悪いがその火は消えてもらおう」
「悪あがきはせん・・・どうせ終わりだからな」
「そうか・・・では私らはこれで、右神左神、頼んだ」
「「御意」」
零がそう言うと二匹は奏の両親の亡骸を抱きかかえ
零は、奏を引っ張り墓場を後にした。
・・・・・
家に着くと執事が急ぎ駆け付けた
「無事でしたか!」
「『私ら』はね」
(バシッ!)
奏は零の手をたたき離れると部屋に駆け込んでしまった。
「お嬢様!」
「いいのそっとしといて・・・まだ子供だ。北さん火葬の準備と墓の準備を」
「承知しました」
そういい背を向けた執事に零は質問する
「私らの存在を最初から知ってたのかい?」
会った時から警戒心のなさ、そしてまるで主人のような扱いに疑問を
感じていた。北次は振り返らず答えた。
「貴方のような存在に会った時があります。その方は甲斐真という
方です。私もお嬢様のような時がありました」
それだけ言うと、零に言われた準備をしに奥に消えた
「甲斐真って甲斐真さんの事」
「みたいだね・・・そうか、そういう時もあるな」
甲斐真とは零と同期の者、唯一零も珍しく認めてる人物である
『この屋敷に来る前に亡くなりました。幸せを与えて挙げられませんでしたね』
「そんなことはないけどねぇ」
「ん?」
「こっちの話」
・・・・その後
警察が来て、色々調べ帰ったその後、部屋にいる奏の元に零がやってきた。
「(コンコン)寝てる?起きてる?」
返事がないだが気配でこちらを探っているのは容易にわかる
「ふー・・・米が何処にあるかわからんし、時間かかるからホットケーキ作った
後で食べな・・・まったく和服でホットケーキ作ってたら左神に爆笑されたわ」
それに付け加え殴ったと言ったら、小さく部屋の中から笑い声が聞こえた
それに安心し部屋の前に置いていこうとすると、ドアが開いた。
「零」
「食べる?」
「一緒になら食べる」
「そういいよ」
部屋に入ると二人ベットに座りホットケーキを無言で食べた。
奏の言いたい事も思ってる事もわかっているが、あえて何も言わない本人から聞かれるまで、奏も言いたい事聞きたい事はあるけどあえて聞かない
もうわかってる気がしたから
二人無言のまま外が明るくなるまで寄り添っていた。
・・・・次の日
彩音と和也は火葬され奏と北次だけの葬式になった。零達はいつの間にか
帰ってしまった。
遺骨を墓に収め、今後の話をする奏。
「北さん私この家を捨てようと思う」
「はい」
「一人で出来るし・・・いややっぱり北さん・・・一緒に暮らしてくれないかな?おじいちゃんとして・・・・」
奏ではそういうと下を向いて北次の返事を待った
北次はにっこりと笑い奏の手を取り言った。
「それは、お嬢様としての願いですかそれとも個人的な」
「どちらかと言えば・・・個人的」
「フフ・・・そうですか。可愛い孫の願いを聞き入れないお爺ちゃんは
いないでしょうね」
「!それじゃ一緒に暮らしてくれるの!」
「もちろん」
「ありがとう!」
そういうと奏は北次に抱きつき、北次は優しく抱きしめ返し頭を撫でた。
そんな様子を遠くから見ていた零達
「よかったですね」
「えぇ・・・けどこっちはまだよくない」
「きゅ?」
「私は、まだ終わってないのよ仕事報告しなきゃいけないし」
「でもいい結果だろ?」
「そんなんだから半人前にもなんないのよ」
そう言われ暴れ出す左神を抑える右神と二人が止めに入る
「ふっ子供だな」
・・・・そんなこんなで、数時間後
閻魔と獅戸に仕事報告をしている零。仕事結果に満足そうにほめる獅戸
「そうかそうか、よくやった。見事だ」
「ありがとうございます」
「・・・」
閻魔は何故か黙ったまま二人を見守っていた。
「今後もぜひ依頼を願いたいが・・・よろしいか?」
「えぇ是非。けっこう・・・やりがいのある仕事でしたので」
「それは頼もしい今後ともよろしく頼む」
「はい、ではこれににて失礼いたします」
そう言い閻魔と零は部屋を出た。異動している最中、閻魔は話を切り出した
「何かあったな」
「何が?」
「報告していない事があるだろう」
「そんなことより、お前はどう思うあいつを」
あいつとは獅戸の事、二人は思ってることは違うが、最終的な答えは一緒
「あまり好かんが」
「そうかい、ならこれ以上聞くな・・・忘れた事があるそれじゃ」
そう言いまた獅戸の部屋に又向かう零を呼び止めた閻魔
「零!」
閻魔の言いたいことは分かっているのだろう零は何も言わず手をひらひらと
振った。その様子にため息をつく閻魔だった。
・・・・
獅戸が部屋に入り扉を閉めると先程の表情は何処にもない悔しそうに顔をゆがめ傍にあった苗木をけ飛ばす
「くそっ何故だ!・・・いやこれからも機会はある又考えれば・・・」
そう言いイスに座り指をかんでいるとスーっと風が入ってきた。
風が入ってきた場所を見ると、扉がなぜか開いていた
戸締りが甘かったのかと思いイライラしながら立ち上がり扉を閉めると
後ろから声を掛けられた
「やぁ死んでなくて残念だったね」
「!・・・何のことかな?」
後ろにいたのはイスに座ったっ零。零の言葉に首をかしげる獅戸
「よくあるとぼけ方ね『最初から全部知ってたでしょ』・・・いや最後まで
ではないか・・・私が死ななかったのは想定外だし」
「だからなんの!「まだとぼけるか貴様」!」
零の発する冷たい声質に言葉が詰まる獅戸。そんな獅戸に零は話をする
「まぁ座りなさいな悪いようにはしない・・・抵抗しなければの話だけど」
その言葉に素直に零の前にある椅子に座り話を聞く
「で、殺そうとしたでしょ?つか殺すつもりで依頼したわね」
零の言葉に顔を背ける獅戸
「何を根拠に」
鼻で笑いながら言うが零の後ろからスッと出てきた男が話しかける
「俺を見てもそういえないだろ?獅戸」
(ガダッ)
獅戸は驚き椅子から勢いよく立ち上がった。それもそのはず零の後ろから
出てきたのは『自分が作り出した死神』だったのだから。
「お・まえ・・・なぜ」
「こんなんたやすい、魂を接着させた要するに継ぎはぎを私がしたの。
悪いが、こいつは私のだ・・・取引をした。私的にはどちらでもよかったが」
「こいつにこのまま『無駄死に』するか、『生きるか』聴かれた。
だから生きることにした。こいつと」
死神の言葉に獅戸は怒りを表し本性を出した。
「なんだと貴様!私を裏切るか!」
「フッ認めたわね。死神とて感情がある意思がある。お前はただの道具としか
見てないようだが、それとこいつの名前は七無だ。いい名だろう?」
獅戸は冷や汗をかきながら零と七無をにらみつけ聴く
「・・・何が望みだ」
「話が早くて助かるさすが軍師と言われた事だけはある。私に逆らうな
それだけだ、そのうち願い事もするからよろしく。いくぞ」
「悪いな此奴のほうが面白そうだしな『お前だけ生きているのは』なんだか
癪に触ってな、じゃあな元気で」
(バタン)
零達が出ていくと獅戸は力なく座り込み悔しそうに唇を血が出るほど噛み締め
手が震えるほど握りしめた。
・・・・・
「というわけで、七無だ仲よくしろ」
「へぇ死神初めてだ!」
「こいつは右神だ俺は左神よろしくな七無」
話を全てしたが、二匹は快く仲間に迎えてくれたことに七無は呆気にとられた
握手する右神に肩を組む左神に七無は
「話聞いてたよな?」
「「聞いた」」
「何したのかわかってんのか此奴に?」
「「うん、でも零がそうしたいなら悪い奴じゃ(ないよ)(ないだろう?)」」
なんとも純粋な二匹に七無は零を見る。
「なんとなくだが・・・大丈夫か?」
「何なのその目は、これでも今は見る目あるわ」
「昔はなかっ「うるさいコロスゾ」すみません」
二匹と一人は仲よく話をする様子に安心し
「ふふっ・・・あぁあ増えちゃったな」
空を見上げる呟く零だった。
・・・・・
その後、奏と北次は他の者たちも弔おうと、作久間の墓に来たがそこには
季節外れの彼岸花しかなかった。
地獄の沙汰も金次第というが、本当のところはどうなのだろうか?
誰が地獄を見たのか?誰が金が要るといったのか?
まぁそんなことより欲に狂った人間はまさに外道
貴方は道を外れないようにお気を付けを
第三幕 欲の果て 閉幕