二幕
第二幕 思いは儚く美しい 開幕
木陰で休んでいる零ただボーッと仕事がない日は休日
人の世界と似たこの世、遊び場や酒屋、買い物等あるし、日ノ本に行く事も
出来るがほとんど興味の無い零は、こうやってただただ、流れ行く雲を見つめる。
別に空が好きなわけではない興味がある訳ではない、やることがないだけ。
自分以外も同じ存在の者は居るが、零は嫌われている
何故なら他の『綺麗な者』と違い零は『汚れ』ている。その他にも理由は
あるが、とにかく零を認めない者が多い。しかし零に構う者達は
それなりに居るが、零はうざそうに対応する。しかし相手側はたいして
気にも止めず零に構う、特別だからではない零の事をわかっている
からこその対応。そして事情を知るからこそ心配もしている
仕事が有れば面倒だし暇なのは、平和の印だから喜ぶべきなのだろうが
零にして見れば、どっちもどっち、休みだろうが仕事だろうが
どちらも零にとって地獄。
変わらない空にほんのわずかに、自分を重ねたがすぐに止めた。
同じものなぞどこにもない、そう思った零がポツリと呟く
「・・・生死は変わらないか」
「暇そうだな遊ぶか?」
零の目一杯に広がる顔。特に驚くことなく冷静に尋ねた
「グーパンは・・・ありよね?」
「やだなぁ無しに決まっ(バキッ)グハァ!」
転がり池に落ちた男。零はため息をつきながら立ち上がり助けに行く
でないといつまでも死体ごっこをするからだ。
「早く上がれ、鶏が」
「・・・コケー」
以外と水温が冷たかったらしく、上がったら先程の元気がなかった。
これでも4獣神の一人、西の土地の守り神。名を炎空性格は
どことなく閻魔に似てるが、似てないのは零に攻撃を受けても、けろっとしてるところだろうか。ちなみに零は、鶏と言っているが炎空は立派な鳳凰である
いろいろ失礼な事を言うが、それなりに優しい零、どこからか毛布を
持ってきて投げつける、そんな優しさがある・・・多分優しさ
しばらくして体が暖まったのか炎空が話し出す。
「最近、仕事無いだろうと思ってさ遊びに来た」
「そう、ストレス発散させに来てくれたの?ありがたい」
「なんだよ~そんなに遊びたかった?言えばいいのに」
「連絡とろうにもそっちも忙しいでしょ。で?サンドバッグと的どっちがいい」
「あぁなんか神社荒らしだがでな、そうだなぁ久しぶりに将棋倒しするか」
「わかった的ね、最近投げないから腕、鈍ってんのよ」
「よーし、将棋どこだっけ?」
見事に噛み合ってない会話、しかし二人にとってこれが普通の会話。
炎空が自分の荷物から将棋を取り出し準備をしていると、零は本気で
手のひらサイズのナイフを投げつける
(パキッ!)
「ほーこれで鈍ってる、面白い」
ナイフは、将棋の駒で止められた。しかも、駒の先っぽでそれを見た零と
受け止めた炎空は、ニヤリと笑い攻防戦が始まった。
しばらくして攻防戦をしていると、なにも知らない閻魔が現れた。
「オーイ仕事・・・どんな状況」
「おー閻魔ちょうど駒もなくなったし止めるか」
炎空の言葉に零は、何も言わず構えていたナイフを片付け始めた。
その様子にまたかと、閻魔は苦笑いすると炎空は笑いながら
「『またか』とか思ってるだろ?(バギ!)ほれ遊んでないで資料見て
仕事に行け」
零は仕事に行くために片付ける振りをして、刀で思いっきり炎空に切りかったが、(ちなみに本気で殺りにきてます)碁盤で止められた。
思いっきり舌打ちをし刀を抜こうとすると、刀が碁盤から外れない。
わずかに目を見開き炎空を見ると、炎空はにっこり笑い
「鈍ってたんだろ?預かる」
その言葉に、零もにっこりと笑い・・・殴り飛ばした。肉弾戦は不得意な
炎空だった。刀ごと降っとばしてしまったので、刀は諦め閻魔から資料を
受けとる。炎空が飛んでいった方を見ながら閻魔は思った。同等ならまだしも『神様』相手にこんなに失礼な事出来るのは零だけだろうと
「懲りないやつだ」
「私の台詞」
少しイラつきながら資料を見てると、あるこ事に気がつく
「ん?精霊から依頼?珍しい」
「あぁただの依頼者ではないようだ。これは、お前にたのみたい・・・
少し特殊だ」
ちなみに資料に書かれているのは、助けを求める者と悪事をする者等の
詳しい情報が書かれているのだが、前の茜のように名前も土地も
わからない時は、ほぼ白紙の時もある。しかし、今回の書類に
書かれているのは、そのままでは内容が読めない手紙と、二枚目の書類には
解読され、誰が書いたのかが書かれていた。
特殊の言葉に内心面倒だと思ったが、手紙の内容と書いた者に興味をもった。
手紙と言っても紙ではなく、笹の葉、それには『たすけてほしい』と
小さく書かれていた。書かれていた文字は、ある地域の文字
「これって、アイヌ文字?しかもコロポックルが依頼者?」
「なんだ知ってたのか?」
「大昔に北海道で仕事した時この文字見たことある。それにコロポックルは
有名だし知らない奴いないでしょ」
「まぁそうだな、そんで確かに手紙の主はコロポックルだが、誰かの代わりに
手紙を出したみたいだ。」
「ふーん」
精霊には興味あるが、『誰かの代わり』と聞き一気に興ざめしたが、閻魔の
次の言葉にまた興味を示した。
「(なんだ代わりか…)」
「しかし、かなり珍しくないか?いや初めてだと思う。こんな切羽詰まった
手紙を書いて寄こすなど、よほどの事だと思わないか」
確かに神にも近しい存在の精霊が、誰かのために依頼をするのは、しかも
切羽詰まって。零も今まで初めての事、一体どれだけ代わりの者に『信頼』
『愛情』があるのだろうか?そんな事を考えていると思わず零の好奇心が疼く。零にとって仕事は9割、好奇心で動いている。
そんな零の性格を解って閻魔は、この仕事を持ってきたのもあるが二つ
理由があった。
「(ふっもう一息か?)神の代わりに出すことはある・・・俺の予想だが、
本当の依頼者は『人』と予測してる」
「ふーん根拠は?」
「永年の勘だ」
その言葉に零は少し黙り返事をする
「・・・引き受ける」
そう言うや否や、直ぐに仕事に向かった。
零の姿が見えなくなると、いつの間にか隣に炎空が立っていた。
「相変わらず仕事させるの、うまいな」
「あいつは分かりやすい、多分・・・いや気づいてないが、『人』と言った
瞬間から笑ってたからな難しいようで、案外表情に出るから可愛いんだけどな」
そう閻魔は何かを思い出すように目を閉じる閻魔に炎空は
「あいつは、未だに『嫌っているのか』」
「・・・あいつの『心』は『誰も』わからん」
そう寂しそうに呟いた。
・・・・・・その頃、零は目的地に着き辺りを見渡していた。
鳥居を抜けた先は、京都の町外れ。雰囲気が良く言い場所だと少し微笑む零
いつも通り、依頼者等を探すため『気音』を探すが
「?・・・厄介だな」
何故か全くといって良いほど、気音が聞こえない。かすかに聞こえる
気音を聞き取り歩きだした。
しばらく歩くと、先程よりは、聞こえるようになり立ち止まり辺りを
見渡すと、少し遠くに小さな小屋があり、近づくとそこはお店そこには
果物と山菜が売られていて、一人の老人が開店の準備をしているのが見えた。
老人からはかすかに気音が聞こえるが、『本人』ではない
「(んー関係者か・・・しかし聞こえずらいな)ん?」
考え事をしていると、スーッと心地よい風が吹いた。風の吹いた先を
何気なく見ると、雑草で隠れていた石段が現れた。長年の感で風が自然に
吹いたのではなく、誰かが意図的に吹かせていると感じ。零は迷うことなく
石段を登って行った。
長い雑草を掻き分けつつ急な石段だが、ペースを乱す事なく黙々と
上っていく。この先に一体、何が有るのか?誰が自分を呼んでいるのか?
どんな者が待っているのか?一歩一歩上がる度に、零はワクワクしていた。
後少しで頂上に着く所でふと、視線を感じ辺りを見渡すが何も居ない。
気のせいかと思い前を向くが、やはり何かがこちらを見ている視線を感じる。
それも子供のような視線。ダメ元で声をかけてみる零
「何処にいる?出てらっしゃい」
優しく問いかけると、カサカサと音が鳴った方を見が何も居ない
と、思いきや足元から声が聞こえた。
「きゅ」
草の中からピョコンと出てきた小さな精霊。零は視線を合わせるように
しゃがみこみ話しかける。
「コロポックル?」
「きゅ!」
零の問いかけに『そうだ!』と言わんばかりに、手に持っていたフキを上げる
コロポックル。その姿に堪らなく愛しく思い、優しく頭を撫でながら質問する
「どこから来た?この上に居る者の使いか?名は?仲間は?私を迎えに
来たの?どうなんだ?」
「きゅ~きゅきゅ」
撫でくり回され笑い転がり、質問に答えられないコロポックル
喋れないことに気が付くが、面白がって撫でるのを止めない零
そんな零の背後に気配がし振り返ると、そこには目を奪われる程
美しい狐の男が一人立っていた。
今までも、狐を見てきたが零だが、立ち姿に、こちらを見つめる優しい夕日
のような色の瞳に微笑む口元、ここまで美しい狐に会ったのは初めてで
一瞬心を奪われた感覚になった零。狐の男は、先程の零の質問をコロポックルの代わりに答えた。
「そいつの名は、カイラ私の友だ。仲間も居る此処に居るのはお前さんに
興味を持って見に来たんだ。他に質問は?」
「そうですね・・・私の名は零と申します。あなた様の名は?」
「焔と呼んでくれ。後、堅苦しいのはあまり好かない」
見た目は高貴なお狐様だったが、声を聞き中身は人なつっこいキツネさん
そんな印象を持った。
「さぁ上まで後少しだ」
そう言われ、零はカイラを肩に乗せ焔の後を着いていった。
頂上にたどり着いた零は唖然とした。それもそのはず、目の前には
ボロボロの神社、それを見て焔に問いかける。
「誰も来ないの?」
「仕方ないさ・・・まぁ『神忘れ』と言えばいいかな」
焔のいう『神忘れ』とは、言葉の通り、人が神を忘れ信仰が無くなる事
そうなってしまったら、選択肢は2つ。神としての力を無くしその場から
解放されるか。生きた年月と同じ年月を闇の中で過ごし生まれ変わるか。
とは言え、どちらも辛い選択、解放されても殆どが悪霊になる確率が高い、
かといって生まれ変わると言っても、生きた年月をじっと闇の中で
過ごすのはあまりにも辛い、長ければ長いほど暗闇を見続けるだけ。
生まれ変わっても神としての役目を果たせなかったとして一生
半端者扱いされるからだ。『神忘れ』は一番悲しく残酷である。
「さてカイラ、この手紙わかる?」
カイラに手紙を差し出すと、それを受け取り読み始めるカイラを見ていると
「「「・・・・」」」
「・・・ん?」
足元から複数の視線を感じとり足元を見ると、数人のコロポックルに囲まれ
零を見上げていた。零が珍しいのか、一生懸命顔を上げ見つめてくる
コロポックル達。そんなコロポックル達に話しかける零
「(可愛い)お仲間?」
「きゅ~」
「そう、何処に寝床があるの?」
「ききゅ」
そう言うと、コロポックル達は零の裾を引っ張り出し案内する
案内されたのは、神社の中そして一斉に皆フキで上を指し上を見上げると
そこは天井
「天井裏?外じゃないの?」
不思議そうに尋ねると、焔が代わりに答えた。
「昔は外にいたが、悪い子供が引っこ抜いたりしてな。それで東間達が天井裏に避難させてくれたんだ。」
「そうなんだ。「きゅ!」あら、どうだった?」
そんな話をしていると、カイラが手紙を読み終え零の着物を引っ張った。
零に手紙を渡すと、何もわからないという感じで、首を振る
「カイラ達ではないのね」
「きゅ」
「そう、わからないか・・・さて、どうしたものか」
文字は確かにアイヌ語、コロポックルに違いないが、カイラ達が書いた物
ではないらしく解らない。ん~と考えていると、焔から意外な情報を聞く。
「コロポックルは長にしか文字が、書けない。読むことは皆、出来るが」
「それは初耳。じゃカイラは一番偉いのね」
「きゅきゅ!」
零にそう言われカイラは自慢げにフキを振り回した。
「的は絞れるね・・・この辺に他のコロポックルは?」
「見たことがない・・・いや、私が知らないだけで、何処かに居るかもしれん。
カイラ一緒に行ってやれ」
「きゅ~!」
焔に言われカイラはヒョイっと零の肩に飛び乗る
「助かる。早速だけど行こうか」
「きゅっきゅ~」
どことなくお出かけ気分のカイラに焔は苦笑いし、零は微笑んだ。焔たちに
見送られ零とカイラは先ほどの店小屋に向かった。
小屋に戻ると、店は繁盛していて、忙しそうに老人が働いていた。
「店が終わるまで待とうか」
「きゅ」
数時間後、すべて完売したのかお客は居なくなり、老人が店じまいを
始めたところで、話しかけようと立ち上ると同時に、カイラが肩から降り
走り出した。いきなりの行動に零は驚き、慌ててカイラを追いかけた。
「ちょ⁉カイラ!」
カイラはそのまま店の中に入ると、何かを見つけ興奮しピョンピョン
飛びはねた。
「きゅきゅ!きゅきゅ!」
カイラが見つけたのは、キクラゲと椎茸の入った網。それを見て嬉しそうに
飛び跳ねるカイラに首をかしげていると
「おや?精霊さんか?よく来たね」
老人がカイラを見つめ嬉しそうにそう言った。零は驚きながら老人に尋ねる。
「失礼ですが、この子が見えるのですか?」
「えぇ見えますよ。お前さんはたしか、カイラだな?久しぶりだね」
「きゅきゅ」
人間である老人は、カイラの姿が見え、そして会話まで出来る事に零は驚きを隠せなかった。昔は確かに老人のような者が多かった。しかし今の時代見えたとしても一瞬ましてや言葉まで理解できる。今の時代の者に会ったのは
初めてだった。
「(何百年ぶりかね。心が美しい人間に会ったのは・・・)カイラを
知ってるんですね」
「えぇ山の神様の場所に居る子たちでしょう?昔はよく行ってたが、ん?」
「きゅ~」
カイラは網を引っ張りながら老人の手を突く。老人はカイラの言いたい事が
解り微笑んだ。
「そうかそうか、食べたいんだな?そいじゃ中に入って待ってなさい。
さぁお嬢さんも」
そう言われ断る理由もないので、お邪魔することにした零
・・・・・
「狭い所だが、好きに座って待ってなさい。すぐ作ってくるからね」
そう言うと老人は台所に向かうと、カイラも後に続いて行った。
一人、居間に残された零は、あたりを見渡し観察しだした。その際に棚に
飾られた写真を見つけると、立ち上がり写真を手に取った。写真は古く白黒
若い男女二人が写っていた。
「(古いな、青年は老人だな隣は恋人・・・老人とこの家から気音が聞こえる・・・関係あるには違いない。となるとこれは恋人時代かな?今は奥さんか?)」
老人から気音は聞こえるが、依頼人ではなく関係者となると考え
考えが正しければ恐らく依頼者は妻。この家から依頼人と思われる気音を
感じるが、住んでる気配がない、写真を戻し座ると同時に
老人とカイラが台所からちょうど出てきた。
「出来たよ」
老人がそう言い持ってきたものは、先程の椎茸とキクラゲの卵炒め良い匂いで零は遠慮なくいただくことに
「いただきます。・・・ん、おいしい。それに立派なキクラゲですね。」
「むぎゅ・・・きゅ!」
「おいしいかい?このキノコは、この山で取れる天然物でね。味もいい・・・
そういえば、名前を言ってなかったね。私は加藤東間と申します」
好みの味付けと美味しさで、夢中になっていた零は食べるのを止め
自己紹介する
「あぁすみませんこちらこそ、、はサヤと申します。近場の宿に泊まって
いまして、散歩してたら、ここにたどり着きまして」
その後はカイラを含め三人で他愛もない話をし、食べ物が無くなった処で
本題を切り出した。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです。」
「それは良かった。久しぶりに誰かに食べて貰って嬉しいよ」
「所で精霊がお見えになるなんて、珍しいですね?いつから」
「昔からさ、若い頃は山に夫婦で登って、さっきの料理を子の達と食べてた
ものです。・・・懐かしい」
「・・・写真の女性は奥さまで?」
そう言うと、東間は写真を見つめ懐かしむように話し出す
「えぇ妻の智香です。・・・彼女が幼い頃、此処に引っ越してから
仲良く遊んでいて。それからカイラ達が見えるようになったんです。幼い頃から毎日神社に行って遊んでいました。」
「失礼ですが・・・奥さまは何処に」
「今は老人ホームです。五十年ほど前に私は、智香と婚姻しました。
その報告をカイラ達と神社の神様に報告した次の日に・・・事故に
あってしまって。その時、体は大丈夫だったんですが、二十年前に年を
取ってから事故の影響が出てきてしまったらしく記憶が無くなる様に
なりまして。二十年前に老人ホームへ・・・今では一日持つか持たないか・・・」
写真に写る若い頃の妻を撫でながら寂しそうに答えた。
「すみません。辛い想いを思い出すような事を・・・・」
「いやいや、いいんですよ。本当の事ですから。しかし私の事を
覚えていなくても、会いに行けばいつも初めて会った時のように彼女は
笑ってくれますから」
そう言い微笑む東間の姿に、心を痛めた零。暫くお互い黙っていると
カイラが零の膝を突く
「きゅ」
話をしている間どうやらカイラは、家の中を調べていたようで、その報告を
しに来た。時間もいい頃合いなので一度、焔の所に帰る事に
「日が暮れてきたので帰りますね。美味しい料理ありがとうございます。
すみません何のお礼も出来ず」
「お礼なら又、家に来て食べて行ってください。一人で寂しいからね」
「そうですか、では近いうちにカイラと来ますね」
「きゅ~!」
東間に見送られ、姿が見えなくなったのを確認してから神社に戻った。
・・・・・・
神社に戻ると、他のコロポックル達と遊んでいた焔。零達が帰って来たのに
気が付き微笑み迎える
「お帰り。どうだった?」
「それなりかな?カイラが何か報告したいみたいだけど」
そう言うと着物の袖の中から出てきたカイラが、二人に話し出す。
「きゅ~きゅきゅきゅ!きゅっきゅ~きゅきゅ!」
「「なるほど」」
二人にはわかるが、訳すとこう言っている
「家中を探し回って智香の物と思われる物から、かすかに自分と同じ気配を
感じ取った」との事
「そういや東間って朝方、言ってた人?」
「あぁ今、店やってるだろ」
「うん、智香は?知ってる?」
智香の名前を聞き懐かしむように目を細めた焔
「懐かしいな・・・最後に会ったのは、五十二年前だな」
「老人ホームには二十年前行ったと聞いたけど」
「無茶できない体になったんだ。そんな体で石段は体に負担がかかるから
来れないと、東間が一人で報告してきた。それいらい二人は此処に来ていない」
「そうだったの・・・そんじゃ明日の朝、智香に会ってくる」
今日は、東間の話とカイラの報告を整理し時間も遅いので焔の所で泊まり
明日老人ホームに行く事にした零
・・・次の日
朝日が出る前に老人ホームに向かった零とカイラ。気音を辿れば、大丈夫だろうと思っていたのだが、思いの他気音が不安定で、道を行ったり来たりしていた。と言うか、迷子状態
「焔に聞いとくんだった。不安定過ぎて辿れない」
戻って聞きに行けばいいのだが、大丈夫と言ってしまった手前、戻りずらい
少しばかり意地になっていた。
「今更もどってもなぁ・・・カイラどうよ?」
「きゅ~」
「わかんないよねぇ。」
なんとか、気音を聞き逃さず歩き続ける事二時間近く、ようやく気音が
安定してきた頃カイラが、何かに気が付き零の着物を引っ張り出した。
「・・きゅ?・・・・きゅきゅ!きゅ~」
カイラに引っ張られたどり着いたのは『ヒイラギの里』と書かれた
老人ホーム。建物の前で飛び跳ねるカイラに
「ここ?よくわかったね?」
「きゅ~」
零がそう言うと、カイラは持っていたフキを鳴らした。持ってるフキは
どうやら笛になるらしく、その音が聞こえたそう。零には聞こえないが
精霊同士にしかわからない音が出るらしい
「笛になるんだ、と言うか聞こえたってことは、ここに同士がいるって事?」
「きゅ!」
カイラは自信満々に零を引っ張り老人ホームの中に入っていった。
老人ホームの中は広いがカイラは笛の聞こえた場所に、迷わず進む
そんな中零は一つ疑問があった。気音は一体どっちから聞こえているのか
コロポックルか、それともコロポックルが代わりに手紙を出したその
代りの者か、今更ながら気音はどちらから聞こえているのか分からなかった。
というより閻魔に聞くのを忘れていた。
「・・・ん~この場合はコロポックルでいいのか?」
「きゅ?」
「こっちの話、でどうよまだ聞こえる」
「きゅ~」
「聞こえないか、でもさっきより気音が安定してる。か細いけど・・・
大丈夫かなこれ」
笛の音は聞こえなくなってしまったようだが、逆に此処に着いてから
気音が安定していたのだが、今はかなり弱っている今にも死にそうな音。
しかし今は、それしか頼れないので、探しまくることに。
意外と中は広く一階から四階まである老人ホーム片っ端から部屋などを
調べていく途中三階の非常階段の目に入って立ち止まる。少し空いている扉
少し気になり非常階段の扉を開くと、目の前の手すりにくくり付けられた
お守りが風に吹かれ揺れていた。
「お守り?なんで此処に?」
一瞬だけお守りから気音が聴こえた気がしたので、手すりから外し触ってみると、かすかに濡れている。誰かがここで乾かしていたのか?と首を傾げ
調べていると、中に入ってる物が札では無く何かの個体。確かめようと中を
開く直前、後ろから声を掛けられた。
「どうされました?」
声を掛けたのは此処の職員。零の持っているお守りを見ると安心したように
話し出した。
「あぁやっぱりここに」
「探してたんですか?」
「えぇ、智香さんって方の物で、いつも持ち歩いてるんですが・・・
お風呂にまで持ってきて洗ってここで乾かしているんですよ。でも記憶がすぐ無くなっちゃって、どこに置いたか忘れてしまうんです」
「へぇ・・・場所は忘れてもお守りは忘れないんですね」
「そうなんです。よっぽど大事な物なんですよ」
「そうですか」
そう言うと零はお守りを職員に渡すと、職員はお礼を言い智香の処に行った。
零は一度、屋上に行き閻魔に連絡を取るために、懐から取り出したのはスマホ
「・・・・はいどちら様?」
「私聞きたいこ「零!お前いつか「この仕事の場合気音はどちら?
精霊それも人間?」
「あぁ変わりとは言え、出した本人だろうせ「わかったもう用はない
「えちょ「じゃ」
聞きたい事を聞き終えた零はすぐに電源オフ
「さっきのお守りかな・・・少しだけ反応あるまで待ってみるか」
「きゅ」
カイラに聞こえた笛の音と気音。今は笛と気音の音が聴こえず。気音の
反応があるまで待つことに、何もなければ智香に会えばいいと思い屋上に
寝ころんだ。
しかし数時間たったが特に変わらない、このまま待ってもダメかと思い
智香の居るところに行ってみることに。部屋を探しながら歩くと、西側の
一人部屋に『加藤智香』と書かれていた札を見つけノックをするが返事がない
中に居る気配はあるので、そっと中に入り込むと、窓側で椅子に座っている
老婆の姿。静かに歩み寄り顔を覗き込むと、すやすやと眠っていた。
顔は写真で見た少女の時よりだいぶしわなどが、増えているが
可愛らしい感じが変わっていない
「ふふ、可愛い人ね」
「きゅきゅ」
小声でカイラにそう言うと、カイラは嬉しそうに智香の肩に乗った。
眠る智香の手の平には、先程のお守り。気持ちよさそうに眠る智香を起こすか
どうか迷っていると、智香がゆっくりと目を開けた。
「きゅ~」
カイラが智香にあいさつをすると智香はゆっくりと、肩に乗ったカイラを
見て微笑むと目の前にいる零に目を向け挨拶をした。
「こんにちはお嬢さん」
「こんにちは」
智香は特に驚くことなく零とカイラにあいさつをして、名前を名乗ろうと
したが
「初めましてかしら?私は・・・と、えぇと、と・・・・いやねぇ
すぐ忘れちゃって」
そう言い笑う智香に零は
「(自分の名前さえ忘れてしまう程とは)私はセナと言います。智香さん
ですよね」
「そうそう智香」
自分の名前を思い出しニッコリとほほ笑む智香に零も微笑。
暫く世間話をしていると、担当の介護士が智香の元に訪れた
「智香さんあら?お客様?」
「えぇかわいいでしょう。・・・あら散歩の時間かしら?」
「えぇでも話したいんであれば・・・」
「ずいぶん話をしたので、また明日来ます。用事もあるので」
そういうと、智香はすこし残念そうにしていたが、また明日来るの言葉で
うれしそうに「そうねまた明日」と言い、介護士と共に散歩に出かけた。
病室に残された二人はため息をついた。
「多分、智香が本当の依頼者だと思うが、どう思う」
「きゅ~きゅきゅ」
「だよね、にしても何処にいるのやら君の同志は・・・にしても少し厄介だな」
二時間ほど話をしていたが、その中に神社や精霊などの言葉を口にはしたが
智香からその話を聞く事ができなかった。記憶がないのなら仕方の
ない事だが思いのほか重症だと話をしていて分かった。
「あの様子じゃ・・・東間も分からないんだろうな・・・」
「きゅ」
零の言葉に、落ちこむカイラ、昔は仲よくしていたのに忘れ去られてしまう
というのは、寂しく辛いだろう。零はカイラを慰め一度戻って立て
直すことにした。
「カイラそう落ち込まないで、意外な時に思い出したりするだろうし。
同士もそのうち見つかる・・・ね」
「きゅ!」
カイラはやる気を取り戻し零と共に病院を後にした。
・・・・
帰り道また東間の元に寄ろうかと思ったが、少し山の周りを気分転換に
散歩する事に
「案内してくれるカイラ?」
「きゅきゅ!」
そう言うと、カイラは嬉しそうに零の肩から降りるとピョンピョン飛び跳ね
辺りを案内してくれた。
京都の街はずれとはいえ、自然も豊かで、人々はのんびりと暮らしている姿に零は一瞬故郷を思い出した。
「・・・似てるな」
しかしどこか違和感を感じた。人はそれなりに居るしかし老人ばかり・・・
若者が少ないというより見かけない
「(田舎離れ、にしては・・・)」
そんな事を考えていると、カイラが突然止まった。カイラに気が付き声を掛けると、カイラは何も言わず零を見つめ山の方に向かった。たどり着いた場所は
丁度神社の入り口の真後ろの山のふもと、何故かカイラは立ち止まり
神社がある方へ眼を向けた。零も何となく山の頂上を見上げカイラに話し
かけようとしたその時、村の者に声を掛けられた。
「どうしたんだい?そんな所で」
「いえ、散歩をしてまして・・・立派な山だなぁと」
「そうだろう?なんせ山菜が豊富に取れる山だからね。山菜、タケノコ、キノコこの山で獲れる物はおしくてね、よく売れる」
「へぇ」
そんな話を終えカイラをチラリと見ると、まだ山を見ているその様子に
不思議に思いなんとなく男に尋ねた。
「お尋ねしたいのですが」
「はい?」
「がけ崩れでもありました?」
「よくわかったね?昔道があったが・・・まぁなくても不便はないからね」
「そうですか(・・・)」
・・・・・
男と話を終え焔の所に帰る最中、零は思った。何故あんなことを
訪ねたのか、長年の感かそれとも女の感か、おそらくは長年の感だろう
二人はあれから何も話さず黙って歩いていた。
・・・・・
他のコロポックルと遊んでいた焔が零たちの姿を見つけ歩み寄り声をかけた。
「おかえり。どうだった智香は?」
「ただいま。まぁまぁかな・・・少し考えたいから一人にしてくれる?」
「あぁ晩飯できたら来いよ」
「わかった。おいでカイラ」
「きゅ」
そう言うと、焔は神社の中に零が消えたのを見て静かに言った。
「わかってくれ」
・・・・・次の日
零は顔を洗い背伸びをし「よし」と一言つぶやいた
「それじゃ行ってくるね」
行こうとする零を焔は呼び止めた。何事かと首を傾げ返事をすると焔は言った。
「他の奴らとは違うんだな」
「・・・見たことあるの」
『他の奴ら』の言葉に眉間にしわを寄せ答える
「たまに来てるのを感じ取ってるだけで、姿は見とらんが・・・
たいてい早くて半日、長くて一日・・・も、たってないか、お前は長いんだな」
「やり方は皆違う・・・一緒にしないで」
あまり触れてほしくなかった事のようで、零はそう言うと背を向け
歩き出した。クスリと焔は笑い零の背中に「いってらっしゃい」と声をかけると
零は何も言わず、背中越しに手を振った。
・・・・
今度は迷うことなく老人ホームに着が、まだ早朝なので屋上で智香が、起きるまで屋上で待つことにしたのだが、途中カイラがまた笛の音に気が付き
零に知らせる
「きゅきゅ!」
「もしや・・・あそこか?」
昨日御守が有った場所に行くと、やはりそこに御守。そして、手すりに
すり抜けて見える精霊。間違いなく精霊の姿カイラは急いでその精霊の元に
駆け寄ると、二人に気づいたコロポックルは安心したのか力尽き
落ちそうになる所を零が素早くキャッチした。
「あぶな!」
「きゅ~!」
「お守りの中か・・・屋上に行くよ」
「きゅ!」
お守りを屋上に持ち出し中を確認すると、芽吹き始めている弱った種が
入っていた。心配そうに見上げるカイラに、大丈夫と頷くと、種を手の中に
収め息を吹きかけると、見る見るうちに芽が元気になり双葉になった。
そして零の手の中に一人の精霊が眠っていた。
「ギリだったかな・・・さてこの子に間違いないね」
「きゅきゅ」
カイラは何処からか持ってきた葉っぱを精霊に被せてあげた。コロポックルが起きるまで二人は待った。
お昼になる頃、精霊が起きたのに気が付き、挨拶をすると
「・・・き・・・・き⁉」
眠そうに欠伸をしたのだが、二人に気が付き焦りながら喋り出した。
「き!き~ききき!きき~き~き~!」
「きゅきゅ!」
「き~!」
「きゅっきゅっ!」
「・・・・き~~~~(泣き)」
「(申し訳ないが、可愛い)にして、大変だったね。よく頑張った」
「き!」
訳すとこう
「智香の記憶があいまいで、頼るに智香では頼れなく。自分が代わりに
依頼をしたのはいいが、ほぼ生まれたばかりなので存在するのが難しく
一度、他の者が来たのだが一日で帰ってしまい。絶望していたのだが
また来たのが解り懸命に笛を吹き続けていた。気づいてくれてありがとう。」
とのこと。カイラが「俺たちに任せろ」と言ったら泣き出し所
「・・・私、以外も来たの?」
「き」
「(一言も聞いてないぞ・・・一日で帰るってこれだから)まぁ安心してって
言いたいけど、貴方は『代わりの者』だからね。智香、本人の口から願いを
聞かねばならない。貴方の名は?」
「きき」
「カミラね。なんか似てるね名前も姿も」
「き?」
「きゅ?」
端からみれば違いが判らない程そっくりな容姿
しかし今はそれどころじゃない次の問題は智香。珍しく難しい顔をした
零は言葉を発した。
「これ以上待っててもな・・・あまりやりたくないが」
「きゅ~・・・」
零の苦しそうな表情にカイラとカミラが心配し頬を撫でる。そんな二人を
抱き寄せ言う
「時間ギリギリまで粘る・・・それでも駄目なら、やるしかない」
本来、零の仕事は長くて一日速くて、一時間で終わらせるのが普通しかし
そのやり方は依頼者などに、苦痛やかなり無茶をさせる行為をしているからだ。そして今、零は依頼者である智香に無理やり想いを聞き出す方法をしようと
しているが、それは出来る限り避けたいのだ。本人の意思を尊重したい
だから今まで無理やり解決する方法は出来る限り避けてきていた零。
だが今の状況は、切羽詰まってる状態いつ智香が思い出すか、『願い』を
口に出すかわからない。零は懐中時計を開き時間を見た。面会時間は
後五時間程この間に何も変わらなければ、これ以上何も変わらないと判断し
術をやるしかない。智香が起きたろうと思い部屋に行くと、やはり記憶はなく
また初めからやり直した。
「こんにちは」
「あら?私の・・・知り合いですか?」
「えぇセナといいます。こっちはカイラとカミラです」
「きゅきゅ」
「き」
「あらあら、私には。かわいい知り合いがいたのね」
朝方、東間から貰ったおかずを食べながら話をした。
「これ智香さんの物ですよね」
お守りを渡すと、智香は嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。また何処かに置き忘れちゃったのね私。探していたの」
それから懸命に智香と話をしたり聞いたりしていくが、何一つ神社関係
そしての東間の事も話さないまま時間が過ぎていく。カイラとカミラも
懸命に智香の周りをうろついたり、服を引っ張ったりするが、変わらない・・・そして時間はもう残り僅か、零は諦めかけていた。もう無理かもしれないと
未だに嬉しそうに話す智香に、耳を傾けただ頷いていると零の様子に
気が付き智香が話しかける。
「そしてね?・・・あら、どうしたの?具合が悪いの?」
「え、いや、大丈夫ですよ。お気になさらず・・・で、それから?」
いつの間にか顔に出ていたのか、なんでもないふりをして、安心させるように
笑顔を作る
「そう?・・・・」
何故か零の顔をじっと見つめる智香に零は首を傾げ尋ねる
「どうかなさい「同じ、あの方と、同じ顔」・・・それは一体『誰』ですか?」
零の眼を見つめ喋る智香に零は問いかけると智香は答えそして零が東間から
貰ってきた炒め物を見つめ思いだす様に話し出した。
「わからない・・・でもたまに夢で見るの忘れたころに見る夢、そこには
たまに来る男性と、小さな子供たちと一緒に『これ』を食べているの。
でもそこには『もう一人』いるのよ誰かは解らいけれど、居るの確かに誰かが
こちらを見ている、いえ『見守ってる』の・・・」
「どんな人かわかりますか」
そう尋ねると智香は、目を閉じ何かを考えてから目を開けそして外に
指をさし微笑み話し出す。
「そうね・・・そう、あの『夕日のようにやさしい瞳』をしている誰かが
見守ってるの』
その言葉に、零は驚き夕日を見た。男性は東間の事だろう、そして子供たちは
カイラたちの事
『夕日のように温かい瞳』は焔の事。零は問いかけてみる
「私は、人ではありませんでも神でもない。私はただ、あなたの願いを
聞き入れに来ました。」
そう言い、膝まつき智香の手を取り願いながら目を見つめ問いかける
「あなた様の願い・・・それはなんですか」
「願い・・・幸せかしら?私ではなく、見守ってくれた人の・・・最近の夢では
その人さっきの貴方のような、苦しそうな目をしていたの、だから」
「それが願いですか?」
「おかしいでしょ?わからないのに。でもね私には、ここに来てくれる男性が
いる。知らない人なのに、なぜか来てくれると嬉しいの、でも姿の見えない
人には、誰もいない、そんな気がするの」
記憶がなくとも、想いがあった。智香の想いを聞き立ち上がりさよならを告げる
「わかりました。それでは私はこれにて失礼いたします」
立ち去る零を智香は呼び止めた。
「待って!また会いに来てくださる?」
「・・・えぇそのうちまた会えますよ」
「そう、ねぇこれを」
零の言葉に何かを察したのかはわからないが、カミラの入っていた
御守りを零に渡した。
「いいんんですか?大切なものでは?」
「いいのよ。あなたに持って行ってもらいたいの、その方が良い気がする」
「ありがたく頂戴いたします」
御守を受け取ると、カミラは智香に近づき頭を撫でると零の元に来た。
「(いいのね、それで)」
そう尋ねると、カミラは涙をこらえ力強くうなずく。そして智香の願いを
聞き入れる為にお辞儀をし焔の元へ向かった。
・・・・その後
急ぎ焔の元へたどり着くと、焔は笑顔で迎えた。
「おかえり。どうだった?」
そんな焔に問いかける零
「何故・・・私にはわからない、どうして・・・どうして焔?
『二人の記憶を消さなかった』」
そう言うと、しばらく沈黙が続いた。
零に言われ焔は、一瞬悲しそうな眼をした。
「あの二人の記憶を消せば、『神忘れ』は回避できるのに。解ってるの?
何故消さない!答えろ焔!」
そう、焔は二人だけの記憶を消していなかった。二人がこの世から消えれば
焔は死ぬ。生れ変わる事も、神にも戻れない。魂は消滅する神としての役目を
全うできなかったとして。零には解らなかった。何故『神忘れ』し軽い
罰を受け生き残らないのか、焔のしようとしている事は、自分を殺す。すなわち自殺行為。零は自分を落ち着かせ聴き直した。
「御聞かせ下さいませぬか・・・焔様。貴方様の考えを想いを口に出しては
いただけませんか」
そう言い零は焔の前で膝まつき頭を下げる。そんな零を見て焔は
「堅苦しいのは嫌いだ・・・そこの階段に座ろう隣で聞いてくれるか私の想いを」
「・・・わかった」
・・・・・
階段で隣同士に座ると、焔は自分の考えと想いを話し出した。
「風が心地いな」
「うん・・・で話は」
「感動のない奴だ。まぁ何て言うか・・・簡単に言えば忘れてほしくなかった
最後まで」
「それが理由で、『神忘れ』を選んだの?」
なんとなくわかっていた事だが、直接聞くと何とも言えない心情になる零
しかし、そこまでの理由は何かと尋ねると、焔は簡単に答えた。
「好きなんだ二人が、大切なんだ。・・・ただそれだけ?と思うだろうが」
「理由に簡単もくそもない、立派な理由だよ・・・あの二人もそうだろうね
きっと」
零は二人が神社の話やカイラの話をしている時本当にうれしそうで
雰囲気が優しくなったのを感じていた。
「本当は回避しようとした。・・・けどできなかった。したくなかった。
二人が・・・大好きなんだ俺は」
そう言い焔は涙を流し話を続ける
「忘れられないんだ。二人が来てくれていたことを、二人の思い出を消したく
ないし忘れたくもないんだ・・・だから辛くなるくらいなら・・・」
「あなたと同じくらいあの二人も貴方達の事を思ってる・・智花の願いは
貴方の幸せ。どうする?この場合、貴方の願いを聞くのがこの仕事だが」
焔は涙を拭い零を見つめた。そして
「あの子の願いが幸せなら・・・私の幸せは、あの二人の幸せと自分の幸せ
・・・『神忘れ』受け入れよう」
迷いのない夕日のような優しい瞳に零は目をそらし話し出す。
「あなたは神、人の思いを断る権限がある・・・何ゆえ受け止める、お聞き
願いたいあなた様の思い」
「神か、人の思いで生きるのが神だ。だからだよ。わかるだろ、私を
必要としているのは、もうあの老夫婦だけ、最後まで世話になった。
私は、あの二人に命を授けても構わないんだよ。お前も、誰かにその心
授けても構わないと思った時があったろう?」
「はい」
「私は、この世の役目を終える記憶はなくなり生れ変わる・・・
そして東間と智香、二人が来世でまた結ばれ。また私の所に来てくれ事
これが私の幸せだ」
「・・・わかりました、これ以上なにも言いません。よろしいですね?」
そう言うと、焔はゆっくりとうなづき零に微笑んだ。その姿は
これ以上無いくらい美しかった。
「(なんて・・・美しい今この瞬間この時間だけは、日ノ本一と言えよう
永遠に見ていたいと思うほどに・・・)」
零は、事情を圧し殺し焔を元の世に返すため、言葉を贈る
『神の生まれは、闇の中。瞳を開けば神々しく光は、母の眼差し
この世の役目果たさんと、人に呼ばれこの世に幸与え、時流れ、
日が回り、忘れられ。最後の人の一つの願い最後の願い聞き入れ
この世で命綺麗に散ります。散って流れ着くは、母の手の中また
闇の中。『九尾焔』母の主とに帰ることを、見届けさせていただきます。』
頭を地につけ焔を見送る。そんな零の耳に届いた最後の焔の言葉
『「偽りの名の娘」今度会えたら本当の名を呼ばせてくれ。
ありがとう』
零はゆっくりと顔を上げると、そこには、何一つなかった。
立ち上がるとフーと一息をつき空を見上げた
「知ってたか・・・さすがは狐だ騙すのはできんか」
「きゅ」
「んで、君らはどうする?」
「きゅきゅきゅ~」
「いいのそれで?」
「き」
「まぁ長が決めて他が認めたならば仕方ないな」
先ほど焔と話をしている間いつの間にか、カイラたちはカイラたちで、話を
していたらしく。どうやらカイラとカミラは零に付いていくことに。他の者は
カイラの次の長を決め旅をすることにしたらしい
「きゅきゅ?」
「かまわない。むしろありがたいよ・・・みんな元気で」
「「「きゅ~きき」」」
旅立つコロポックル達を見送ると零は後ろを振り向き神社を見た。
「き?」
「あぁすまんすまんさぁ私の元においで、蓮の花が咲く池がある遊び場に
なるか?」
そう言うと嬉しそうに、零の肩でピョンピョン飛びはね喜ぶカイラとカミラ
その様子にふふっと笑い振り向くことなくこの場を立ち去った。
勝手に作り勝手に壊す。
これが人の有り様されど、これがこの世の有り様
『それ』はどう見える?どう感じる?まぁ神など精霊など
見えぬなら『それ』はただの道具だろう
だが忘れるな、この世に同じものなど無いのだから
神も人も何も変わらぬこの世・・・
来世なんて信じてないがいつか・・・
いつの日か同じ日が訪れることを願おう
第二幕 思いは儚く美しい 閉幕