一幕
第一幕 思い描いた理想へ 開幕
人がチラホラ歩く路地に零は立っていた。着物を着た女が突如道の真ん中に
現れたが、誰も気にも留めずに通りすぎる。特に変わった所もない細い道
この場所に出たということは、この近くに助けを求める者がいると言う事。
『依頼者』と言っても依頼したのは、『本人』なのか、または『本人以外の者』なのか
どんな『理由』で呼んだか、そしてどう解決すれば良いのかは全く分からない状態
なんせ閻魔から貰った資料には、地名しか書かれていなかったので情報は0
零の仕事は、助けを求めるその者を『助ける』のではなく、ただ『手助け』をするだけ。
仕事を終わらせるには『依頼者』が『終わり方を決めなければならい』例えそれが
ひどい結末でも、理不尽でも断る、拒否などできない。今、零がしなければならないのは
とにかく『本人または、繋がりのある者』を探す事。何気に零にとって『依頼者』が
『どんな奴』と言うのは意外と重要である。人によっては化け物扱いされたり
またある時は幼子の時もあれば百歳近かったり。正直な所化け物扱いは慣れているし
どうでもいいが、怯えて喋るのに時間がかかったり逃げられたり。そうなると仕事に
時間が掛かるので面倒なのだ。
しばらく回りの様子を見渡す。通常の人間には、特にかわっことはないが
零の耳にはほんの微かに、日常とは違う音が聴こえる。それは零達の存在だけがわかる音。
『依頼者』もしくは、繋がりのある者の『心臓の音』と、依頼者を狙う者の音それらの
音を『気音』と呼ぶ。
ちなみに『何者』かの音は、耳元で蚊が飛ぶような、ガラスや黒板に爪を立てるような
そんな耳障りな音がする。
零は、わずかな音で『依頼人と繋がりがある者』と『何者』かを探すため目を閉じ
耳をすませる。すると遠くの方から、わずかに聴こえる『気音』しかし違和感を感じ
首をかしげる。いつも聴こえてくる音と違う。耳障りな音で『何者』かの数は
それなりに分かったが問題なのは『依頼者』の『心音』
『気音』はかなり便利で、位置だけではなく『どんな者』『数』『性別』『形』なども
分かる。音の感じでは、追っている『者』は人じゃない。妖怪もしくは、悪霊それに
近い者。音が一定の場所ではなく、走る速度で移動しているので、依頼者は今追われ
逃げ回っている事が分かる。そして、問題なのは途切れ途切れに聴こえる
『依頼者の心音』。途切れ途切れに聴こえるという事は、依頼者が死にかけている
もしくは生きる事を諦めかけているという事。
「ちょっとまずいな・・・」
そう言うと零は大きく深呼吸すると、目を開き目の前に合った一番高いビルであろう
場所に一目散に走り出した。
依頼者が、もし殺された場合。天国にも地獄にも行けず、闇の中に囚われ
欲が満たされる事もなく、永久に生き続けなければいけない。
それを阻止するのが、零達の役目と言う仕事である。
先ほどの路地から、かなり距離があったが、ものの数秒でビルの頂上にたどり着き
ビルの上で視覚聴覚を研ぎ澄ませ、先程聴こえていた場所を凝視すると
確かにそこから音が聴こえる。
しかし、下手に動くわけにもいかない確実に『気音』もしくは『姿』どちらかを
確実に確認しなければ、失敗する可能性があるからだ。何せ仕事をし、わずか五分で
依頼者が死んだ時もあれば、資料を見てる最中に資料が燃えて消えた。なんて事もある
失敗したら注意などされるし『同業者達』などには小言を言われるので、受けた以上
失敗はしたくないのが、零の心情だったりする。
『依頼者』を死ぬのを阻止するためにも、獲物を狩る獣の如く息をひそめ五感を集中する。
すると一瞬、心音がハッキリ聴こえた。零は、音が聴こえた場所を見つめていると
ビルの間の小道から前のめりになりながら走り出てきた少女。少女を見つけた瞬間
一瞬で『依頼者』とさとり、ビルから少女の所にとてつもない、スピードで少女の前に
たどり着き立ちふさがると、少女は後ろを気にしていたのか、零に気付かずぶつかり
倒れそうになった少女の腕を零が掴むと少女は
「すみません‼」
そう慌てて謝り、すぐその場から逃げるように走り出そうとしたが、零が腕を離さない為
動く事が出来ない。少女驚き零の腕をこれでもかと、叩きながら零に悲願する。
「お願い!離して!早く!」
しかし離す訳もなく、少女が逃げてきた路地を睨み付け少女に問いかける
「何から逃げてる」
騒いでいた少女は、零の言葉に叩くのをピタリと止め助けを求めた。
「助けて!化け物が!」
少女の言葉と同時に路地から、これでもかと出てきた化け物共。少女は怯え零にしがみつく。
対して零は特に動じることなく、懐から何も書かれていない札を取り出し
化け物に向け、瞬時に術を唱える
「『呪縛・五ノ刃・封』」
唱えると、札に文字が浮き上がり、その札を空に投げつけると、空が一瞬光る。
すると、五本の刀が現れビルや地面に突き刺ささり結界が張られた。化物達は身動きが
できなくなりもがき始める。もがいている化け物を見た少女は、安心したのか気絶してしまった。そんな少女を抱き抱え、いまだにもがく化物を見る事なくその場を立ち去った。
・・・・・・・
気絶していた少女の目がゆっくりと開く。最初は視界がボヤけていたが次第にハッキリ
すると、目の前には星空。慌てて起き上がり周りを見渡すとどこかの神社。
そして自分の下に敷かれた着物と頭の方には、丸められた枕代わりの手拭い。
敷かれた着物の柄を見ると、先ほど助けてくれた者の着物と解り、辺りを見渡し
捜していると、頭上から声が聞こえた。
「綺麗だね星……気分はいかが?」
零は星を見た後、少女に今の気分を伺うと、少女は少し緊張しながら答える
「なんとか…あの!ありがとございます。助けてもらって」
『助けてもらって』の言葉に少し眉を潜める零
「あれは一時的、ちゃんとではない・・・また来るよ」
零の言葉に唖然とし、青ざめる少女の元に飛び降り自己紹介をする
「私は零と申します。あなた様を手助けに参りました。」
「手助け?助けに来てくれんじゃないの⁉」
興奮ぎみに零に食って掛かるが、零は特に気にすることなく冷静に話をする。
「とりあえず質問が2つ。お嬢さんの名前と、後お嬢さんにも問題があるかも
しれない。ということ」
『自分にも問題がある』という言葉に少女は驚き興奮が少し冷めると、零の質問に答える。
「あ、えっと、私は茜といいます。あの、じゃあ『あれ』は、私が?」
戸惑い泣きそうなる茜の背を優しく撫で静かに話しかける。
「『あれ』と『私』が見えると言う事は、まぁそう言う事だし、それに貴女だけしか
追いかけてなかったでしょ?」
逃げるのに必死で、零の言葉で今頃気付いた茜。零は横目でチラリと神社を見て
フーっと、ため息をつき茜に視線を合わせるように座り話し出す。
「一応この神社に神が居るみたいだから、さっきのはここには、来れないだろうけど・・・」
神社や寺など神聖な場所それと地蔵様も同じく、何かしら結界あるので
その辺の雑魚は入れない。先程見た化け物も雑魚と判断し此処に来た。
零はこれからの事を迷っていた。茜を帰すかどうかを。あの時見た、ほとんど原型の
とどめていない四体の化け物、しかも三メートル近いデカさだった。あれなら
先程の術もすでに突破しているはず。もし少女を探し回って居れば家に帰すのは
危険だと思うが、あの程度なら一人で簡単処理はできると思っている零。
星を見上げどうしたものかと考えていると、茜が恐る恐る零に話しかける
「あのもう大丈夫、かと…」
その言葉に零は首を軽くかしげる
「なぜわかる?」
「『あれ』は、⒓時位とか夕方になると、追いかけて来るんです。とくに休日はよく・・・。」
「なんとなくでいい、出てくる時間と場所、詳しく説明してくれる?」
茜の説明を聞き終え整理すると、夜明け午前中そして夜中は、現れることがなく
出没するのは⒓時~夕方にかけて、そして時折夜中まで追ってくる事もり人数もまばら
神出鬼没いつ現れるかは、わからない。
話を聞き終え今は夜、いない確率が高いが一応茜の判断を優先させるため、どうするか聞く
「今は…夜の九時過ぎだけど・・・どうする?家には帰る?」
零の言葉に何故か茜は、自分の体を見たり触りだした。そんな茜にどうしたと
声をかけると、茜が説明をする。
「何故かわからないけど、あいつらが出たり、出てこようとしたりすると、体が熱かったり
痛かったりするの。特に耳なんかは気持ちの悪い音がしたり」
「そう、何かあったら直ぐに言いなさい。それと・・・何で裸足?」
指を差し訪ねと、茜は苦笑いしながら答える
「へ?あぁ、今日は久しぶりに、家の中に入り込んできて、家から飛び足して
逃げたのでアハハ」
零は自分の下駄を脱ぎ茜に渡す
「無いよりましでしょ」
「でも…零さんは?」
「気にしないで……履け」
けど、でも、と遠慮する茜を無視し、無理やり履かせると「ほら帰るよ」と腕を引き神社を出た。
・・・・・・その後
特に危険な事はなく無事に家に到着し中に入ると、奥から女性が小走りで駆け寄り
心配そうに出迎えた。
「遅いじゃない!いきなり飛び出すし連絡しても出ないで!」
出迎えたのは茜の母親。母親にそう言われ、茜は慌てて携帯の履歴を見ると、数十件の
父と母の不在着信。しかし母親は心配はしているが、どことなくしょうがないと
微笑んでいた。そして娘の後ろに居る零に気がつく。
「あら?そちらは?」
そう聞かれ茜はなんと言い訳しようかと考えていると、零が当たり前のように話し出す。
「はじめまして、茜ちゃんの友達の鈴音と言います。実は…両親二人、海外出張してまして
家で一人は寂しいなって・・・その事を話したら、茜ちゃんが、家においでと
言ってくれて、突然のお邪魔すみません。」
零は、平然と嘘をすらすら語る。普通なら信用などしないが、そこは零の『存在』。
零の言葉に茜の母親は、疑うことなく
「そうだったのね、狭いとこだけど、好きにしてちょうだい。お父さんには言っておくから
そうそうご飯は?」
零の言葉に唖然としていた茜は我に帰り返事をする
「あーと大丈夫!部屋に行くよ」
「わかった。お父さんとお母さんは、お風呂入ったから好きに使って、鈴音ちゃん
遠慮しないでくつろいでね」
「はいありがとうございます。」
丁寧にお辞儀し茜と共に部屋に行く。茜の部屋は二階の奥の部屋、それ以外に三つの部屋
部屋に入ると、茜は零を不思議そうに見つ訪ねる。
「すごいね・・・どうなってるの?」
茜の問に部屋を見渡しながら、答える。
「私のような『存在』は『有って当たり前、無くて当たり前』なのよ。まぁ都合がいいと言う事。
現にこの格好でも気にしてなかったでしょ誰も。後、名前は適当」
確かに茜の家に来るまで、数人とすれ違ったが誰一人、零を見る者はいなかった。
部屋を見渡し終えると、懐から札と筆を取り出し札に文字を書くと、部屋の四隅に張り付ける
「それ結界ですか?」
「そう。それと同時に、ここに居ると悟られないようにしているの。あれくらいなら
これで十分でしょ」
零から札の説明を聞いてる最中、茜は疲れや安心で眠そうに目を擦る。
そんな茜に大丈夫と頭を撫でると、ゆっくりと瞳を閉じると直ぐに眠りについた。
眠った茜をベッドに寝かせると、零は窓から外を確認する。近場に化け物の『気音』はない
茜の言う通り夜は居ない。しかし、少し妙な感じがすると外を眺めていると、目の前の電線に
一羽のカラスが止まった。零は窓を開けるとカラスが零の腕に止まり喋り出した。
「よぉ!なんかすごかったなあれ」
零の腕で、毛繕いを始め喋り出したカラス
このカラスも零と似たような存在で、零達に連絡や情報等の仕事をこなしてくれる。
零達の仕事には欠かせない存在。他の者達は、その場所にいるカラス達に頼み事をするのだが
何故かこのカラスは、零が仕事についてからずっと相棒のように居る。特に名前は無い。
たまに鬱陶しく感じる零だが、他のカラスより有能なので、結構便りにしている。
「見てたのか、そんでどう思う?あれ」
「んー、二人が化け物の視界から消えたら、奴等も直ぐ消えた。気配的に神や霊では
なかったな。今のところは」
「そう・・・」
神や霊なら自分達に近い存在なので瞬時に解るはずだが、直ぐに判断出来なかったと言う
事は妖怪か人間の可能性がある。カラスの情報を聞き零は、難しい顔をし考え始めた。
「(・・・人に寄生してる可能性もあるか?それなら瞬時に判断はできないが・・・
いや『あの程度』なら・・・)」
この世界は何でもありで物事に決まりない、特に自分のような存在感があるのだから。
そんな考えがあるせいで零はよく、いろんな可能性を考えてしまう癖がある。
カラスは零と長い付き合いなので、零の考えを見透かし羽をバサバサと羽ばたかせ零を
元気付ける。
「お前も長いこと、この『仕事』てるから、そう深く今は考えるな!朝方持ってくる
情報で深く考えろいいな!。」
そんなカラスに微笑み首を撫でると、カラスは夜の町に消えた。カラスを見届けると
窓を閉めた。妙な感じは気のせいか、と思い静かにカーテンを閉めると、零はやるべき事を
してから眠りについた。
・・・次の日
日の出と共に目が覚め、体を少し伸ばしカーテンを少し開けるとすでに電柱で
繕いで待っていたカラス。まだ起きていない茜を起こさぬように、静かに窓を開け
報告を聞くとカラスは首を、かしげなら報告する。
「できる限りの範囲で見てきたが、姿も気配も無い。おかしいよな?」
その言葉に、零の眉間にシワを作る。
「姿が見えないならまだしも…気配も?まったく?」
頷くカラスに頭を抱えた零。それもそのはず、化け物達の姿が見えないのは
たまにある。しかし気配が全くないのは珍しい。こういう事は一年に一回あるかないか。
こうなると化け物を探すのに苦労する。
簡単に説明すると、姿が『箱』そして気配は『人』と仮定する。
箱の中に隠れたとすると、体の大きさに合わない箱に隠れれば姿が見える。
すっぽり隠れられても、箱の中に人が居れば気配がある。なので完全に隠れるのは
できない。しかし、カラスの言葉は、箱すらないと言ったところ。さらにカラスが話を続ける
「それになんだか言葉も通じない気がする。話はできる、けど同じことしか言わない」
「同じ言葉?」
「知らない、わからない、後は挨拶くらいだ。」
情報が全く得られなかったこと、情報が何一つ得られなかった事にたいし互いに
ため息をする一人と一羽。しかしため息をつく暇はない。カラスは又、情報集めに出かけ
零は今後の事を考えた。しばらくすると、茜が目を覚まし身支度していると、ノックする音
「茜?起きてるか?朝飯できてるぞ」
どうやらノックしたのは茜の父親、二人を起こしにきた。
「起きたよ!今行く!」
「そうか、わかった」
支度を終え朝食を食べようとした時、茜は「先に食べてて」と言うと、キッチンに行き
コップ一杯の水を何処かに持っていくのを見て、茜の両親に尋ねる
「あの水は?」
「神棚にあげてるんだよ。私の母、あの子のおばあちゃんなんだが、ばあちゃんの
遺言を守ってるんだ。『毎日神棚に水を上げなさい、たまにはご飯も』ってね」
「へぇ、いい孫を持ててさぞお喜びでしょうね」
「まったくだ。『自分の役目だから』って毎日欠かさず、それにおばあちゃんに似て
信仰心が強いんだ。・・・もう五年か」
茜の父親の話を聞き、若いのに偉いなぁ、なんて呑気に朝食を食べる零だった。
朝食を食べ終えると、両親が仕事に行くのを見送った後、部屋に戻り今後の事について考える。
今はゴールデンウィークなので学校はない、とりあえず茜から詳しく話を聞き出す事に。
「茜『あれ』が出始めたのは?」
「えーと休みに入る前かな、学校から出たら・・その・・・」
そこまで言うと、よほど怖かったのか思い出し涙ぐむ茜に、零は茜の手を握りる。
「嫌だろうけど、できるだけ鮮明に思い出して、あなたの手助けができない。」
今カラスが手がかりを探していが、あまり期待できないかもしれないと
考えていた零。話をするさいに零は簡単に自分の存在そして、あの化け物をどうできるかは
茜自身にゆだねられていると言う事を話すと、茜は唇を噛みしめ震える声で零に言う
「今は、どうにも・・できないの?」
「今はどうしようもない。なんせ情報が何一つないの『あれ』が存在するのはあなた
自身に『問題』があるのか、それとも『他の者』なのかわからない。『理由』がなければ
解決しようもない」
零の言葉に茜は泣き叫ぶ。
「知らない!私じゃ・・・ない!違う、違う・・・わからないよ・・・・・助けて」
そんな茜にかける言葉なくただそばに寄り添う零、今はそれしかできない。
この『仕事』は、絡まった一本の糸を暗闇の中、手探りで時に助言を聞ながら
絡まった糸を解くようなもの。そして依頼者は、目の前にある真っ白な紙と、いろんな色の
色鉛筆、ボールペン、クレヨン等があるなか、正解の色と書く物で『答えを書け』と
言われているようなもの。しかし何も書かれていない紙に、ただ答えを書けと言われても
何が答えで何が、正解の色と書き物なのか、そんなものわかる訳がない。双方そんな状態で
物事を解決しなければいけない。
しばらくすると、茜は冷静になりしゃっくりを、あげながら泣き止み。落ち着いたのを
見て零は、訪ねたかったことを問う。
「聞きたいんだけど、今兄妹は何処に居るの?」
昨日、茜の家族が寝静まった後、零は家中の部屋や庭など、家の中や外を探索していた。
その時に台所にあった客用とは、違う茶碗が2つ。リビングには、大事そう飾ってあった
茜と両親と後二人写っている家族写真を見つけていた。その事を伝えると
「うん妹とお兄ちゃんなんだけど・・・」
そう言うと茜は苦笑いしながら説明する
「兄は北海道の大学で独り暮らし中で、妹は絶賛家出中」
「そうなの・・・妹さんの名前は?あと何処に居るかわかる?」
「名前は夕、連絡は取ってるんだけど・・・あれ?」
妹の話で、あることに気がつく
「そういや5日も経ってるのに・・・何でお母さん達何も言わないんだろう?」
家族が家出し5日目それなのに、心配している様子もなく妹の話もないと言う。
「連絡は?」
そう言うと茜は、一日に一度はやり取りをしていると言い、スマホを零に差し出す。
確かめると、特に変化のない普通のやり取りを確認する。
「両親は連絡とってる様子は?」
「んー二人ともあんまり使ってる所、見たことないからわからない・・・夕はお父さんと
喧嘩して家出したみたいなんだけど。喧嘩の理由教えてくれないんだよね」
直接妹に話を聞いた方が良いと思い。茜に夕の居場所と、とりあえず兄の居場所も
聞き零が行こうとすると、茜は申し訳なさそうに零に話しかける。
「あの、その、この部屋安全、なんだよね?」
「えぇ・・・眠っててもいいよ」
茜の顔をよく見ると目の下にはクマと、疲労が顔に出ていた。あんなものに
追われればぐっすりと眠るなんて無理な話。体力も精神的にもギリギリな状態を見て
再度安心していい事を説明し茜をベッド座らせ寝かせる前に、零は懐から2つ何かを
取り出し茜に差し出した。
「一応これ渡しとく」
そう言い茜に手渡したのは、手のひらサイズの藁人形と紐が付いた鈴。
渡された藁人形を見て、これは何と言わんばかりに見つめる茜に、零はクスリと
笑いながら説明する。
「もしも、化け物が現れたら、それが身代わりになってくれる。あとその鈴は
携帯代わりと、私が役に立つから首に下げるなり手首に着けるなり、とりあえず体から
離さないこと、いいね」
そう言うと茜は鈴を首にかけ、不安そうにベッドに入ると零は赤子をあやすように
茜を寝かしつけ、眠ったのを確認してから静かに部屋を出てると、茜に教えてもらった
夕の居る場所に急ぎ向かった。
・・・・
屋根の上をヒョイヒョイ飛びはね移動していると、情報収集してきたカラスが
零の元に戻り、移動しながら報告聞く。
「報告の前に俺自身の感想だが、違和感を感じる。こう時間が同じ・・・
いや止まってる気がする」
「多分合ってる。私も昨日から違和感、感じてた。多分そのせいだね」
「時間が止まってる」との言葉に昨晩感じた違和感はこれか、と思った零。
『風景』『天候』『人々』『動物』『植物』など、移動しながらも観察していて
思った事それは、一日経過しているのに『成長』が見られない。『成長していない』
という事は『時間が止まってる』もしくは『無限ループ』かのどちらか、だが『天候』は
変わっているので『ループ』ではない。
「次が報告だ。魂の有る奴と無い奴が居る。観察してたが、魂の無い奴は
全員死んで逝ってる」
「ふーん・・・とりあえず死んだ奴ら上に行って確認してきて」
「あいよ、お前は何処に?」
「妹に会う。兄も居るらしいが、場所が遠いから関係性は低いと思うけど、手応えなければ
そっちに行く」
そういうとカラスは急ぎ天界に行き、零は夕の場所へ向かった。
・・・・・・
茜の言う場所に着くとそこは、三階建て+地下室も有るだろう豪華な家だった。
外から中を探るが誰もいない。それをいいことに、鍵がかかっているドアノブに
手をかけ捻るとまるで、鍵などかかっていなかったかのように、すんなりとドアが開いた。
中に潜入し特に急ぐわけでもなく、夕が使っている部屋を探し中に入り見渡す。
家出なので荷物は少ない、夕の所有物は着替えと化粧品位、実家の方も探ったが
特にこれと言って何もなかった。
零はベッドに座り考えた。喧嘩が原因で家出をしたのはわかる、しかし両親に会って
思ったのは、まるで夕の事は無い者扱のような気がした兄もそう。写真を見るまで
兄弟が居ると解らなかった。そして零の頭の中によぎったものそれは、リビングに
飾ってあったピアノとヴァイオリンの優勝や入賞の物それはすべて茜の物。
「優秀な娘以外は、いらない・・・いや違うか?」
そうポツリと呟いた瞬間、玄関が空き誰かが帰ってきたのに気付き、零は自分自身に
術をかける。しばらくすると女の子の声が2つ、そして零の居る部屋のドアが開き
そこに居たのは妹の夕と友人。何かを話すと、友人は別の部屋に行き夕が部屋に入る。
しばらく監視をしようと思っていたが、その必要がなかった。それは夕がドアを
閉めた瞬間友人に向けた笑みが一瞬で消えたからだ。そして小さな小さな声で呟く夕。
「早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く」
そう言い夕は、ベッドの下から紙を取り出した。取り出したのはこの街の地図。
地図を広げポケットから取り出した黒い石。それを頭上から落とし。夕はニヤリと
笑い言った。
「見つけたぁ」
黒い石が落ちた場所は茜の家。それを見た瞬間、零は急いで家を出て茜に連絡しようと
懐から鈴を取り出した瞬間。悲鳴が聞こえた。
「茜!どうした!」
『ま、窓に・・・あ、れが・・・!』
「(速い・・・変だな)・・・茜よく聞け!」
移動しながら茜に指示し終えると、零はいくつかの疑問を持った。
元凶は夕なのか?化け物が出現するのが速すぎる。結界を貼っているにも関わらず
何故居場所がばれたのか。しかしそれ以上に解らないのは、『夕の存在』考えが頭を駆け巡る中茜に指示した場所に向かった。
少し息を乱し、たどり着いた場所は茜を休ませていた神社。着いた瞬間なにかを
感じとり神社を見つめると、神社の中から叫び声、それと同時に神社が半壊。
飛んできた破片を軽く避け神社の方に目を向けると、化け物の姿。遅かったかと
舌打ちをすると後ろから声が聞こえた。
「見~つけた」
いつの間にか後ろに立っていた夕。零は振り向き夕の姿を目視した瞬間、地面から
植物が生え夕を羽交い締めにした。しかし夕は抗うわけでもなく、ケラケラ笑い動かせる指で
茜を指差して言った。
「死んじゃったね?」
化物に咥えられ血を流し息絶えた茜の姿。しかし零は動揺などせず夕を見つめ一言
「あぁそうだな」
すると狂ったように喜び叫びだした夕に零は静かに近づき、夕の頭に手を置き
術を唱えると、ピタッと叫ぶのを止めゆっくりと眠りについた。
それを見届けた後、目にも止まらぬ勢いで刀を抜き化け物を一振で断ち切り
静かに刀を納めると、化け物が消え咥えられた茜が地面に落ちると、藁人形に変わった。
咥えられていたのは、茜ではなく身代わりの藁人形。先ほど茜と、連絡を取る際
こんなやり取りをしていた。
『茜よく聞け!藁人形にあの神社に行くよう指示しなさい!後は藁人形が勝手に動く』
『…わかっ…た』
とりあえず一仕事を終え溜め息をつくと、カラスが肩に降りてきて先ほどの事を
見ていたのか、呑気に話し出す。
「イヤー見事な先読みだ!と言うか何故ここに『あれ』いる?」
茜をこの場所に連れてきたさい、すでに罠を仕掛けていた零。そしてカラスの言う
『あれ』とは化け物の事。その事にたいし何も答えずカラスに、頼んだ報告をさせる。
何時もの事なのか、カラスは大袈裟に溜め息をつき報告をする。
「間違いなく今日死んだ奴は『すでに死んでいる』時間が止まってるのは確定だ」
「そう・・・それが解れば、明日で終わらせられるね」
神社の石段に座り話を終えると零は、深く溜め息をつき茜に連絡する。
「聞こえる?」
問いかけると、怯えたように小声で答える茜
『聞こえる、どうなったの?』
「化け物は切った。あと妹さんだけど……」
『え?妹って夕がどうしたの?』
「詳しい事は明日話すけど・・・まぁ簡単に説明すると関係あるっぽいから事件が
解決するまで夕は神社で眠らせる。家出先の家族は私がどうにかするから
とりあえず安心して。しなきゃいけない事色々あるから帰るの遅い…一度鈴を
鳴らしてくれる?」
そう言われ茜は鈴を鳴らす。鈴の音の反響や鳴り方で、回りの状況も判るのだ。
特に問題ないので安心して家に居るよう伝える
「・・・うん問題ない。少しの間一人だけど平気?」
『うん、頑張る』
「良い子ね、出来る限り早く終わらせて帰るから」
茜との連絡を終わり零は半壊した神社と、眠っている夕を交互に見た。
確かに居場所を突き止めたし、茜が死んで笑っていたが、夕を元凶と
判断するのはまだ早いと感じ、改めて気を引き締め、カラスに『ある事』を命令し何処かに
向かわせると零は、神社の方へ歩きだした。
・・・・・次の日
茜は眠れなかったのか四時頃に目が覚めた。深くため息をつき、隣を見ると床で
丸くなって寝ている零の姿。本当は直ぐに起こして昨日の話を聞きたいが
静かに布団を掛けまたベッドに潜り込み目を閉じた。
しばらくして、また茜が目を覚めると時間は6時過ぎ、零はまだ夢の中。
さすがに起こしても大丈夫かと思い、零を優しく起こす。
「(ユサユサ)零さん起きて。朝だよ」
「んー・・・朝?あーごめんちょっと疲れて寝過ぎたわ。んーと、説明の前に・・・
朝食食べてからでも良い?」
「うん」
そんな話をしていると、良いタイミングで父親が起こしにきた。
昨日と同じく家族と朝食を食べていると、零が口を開く。
「そうだ、今日両親が帰って来るんです」
「あら、そうなの?よかったわねぇ」
「それで今日、茜ちゃんを私の家に泊まらせてもいいでしょうか?」
「えぇもちろん、反対する理由なんてないし良いわよ」
「よし!じゃあ茜ちゃん食べたら直ぐに準備して行こうね」
「へ?あぁ、そ、そうだね」
突然の零の話になんとか話を合わせた茜。その後、両親を仕事に出掛けたのを
見送ると急いで部屋に戻り、昨日の出来事を詳しく説明すると、茜は口に手を当て
ポロポロと泣き出した。そんな中零は、一つの提案をする。それは、茜一人で外に
向かわせる事、もちろん自分も後ろに着いて行くと伝えると、茜はすがるように零に
掴みかかり叫ぶように話し出した。
「そんな!嫌だよ!私嫌だ、怖い!」
確かに、また化け物に追いかけられるなんて誰でも嫌だろう。茜は必死に目で訴えるが零は
「夕は確かに関係あるけど元凶じゃない。自分だけ動いても情報が得られないの。
もちろん安全は保障する・・・ね」
零は少し焦っていた。今日中もしくは明日のお昼頃には解決しなければ茜は・・・
確実に死んでしまうからだ。
説得してる最中、玄関が開く音がした。
「もう、どこかしら?」
どうやら忘れ物をしたらしく、母親が帰ってきたようだ。
「(母親か)お願い茜、怖い思いをするけど・・・」
数分後、なんとか茜を説得し、外の安全を確認してから札を剥がしていく。
ドアに取り付けた最後の札を外そうとした瞬間、『ギシッ』と、音がなったのに
気が付き零は動きを止めた。音の正体は階段が軋んだ音、下の階に居るのは、母親だが
零は少し身構えた。何故なら、母親が2階に来る理由がないからだ。
二階に親の部屋はないし物置もない用が有るなら茜と自分だが、足音はゆっくりと
確実に茜の部屋にきて、ドアの前で止まった。しかし何も言わない、ドアノブに
手をかけない。
「(母親じゃない・・・けど気配は・・・間違いない!)」
そう思った瞬間、母親の気配が一瞬で変わったが、気がついた時には一瞬遅かった。
零はドアごと吹き飛ばされ突然だったので術を口に出来なかったが、何とか受け身を
とった。しかし思いのほかの力だったのか、壁に激突し痛みに顔を歪め倒れた零。
しかし倒れながらも術を唱えた。
「『異ノ者ニ、風ノ泣キ叫ビ・・・聞カセヨ!』」
すると、部屋の中に風が巻き上がると、化け物は耳を押さえ叫び動きが止まったのを見て
零は素早く立ち上がると、茜を持ち上げ窓ガラスを割り家から脱出した。
飛び出す瞬間、横目に見えた者は母親の影も形もない化け物だった。ドアが壊れ家から
脱出するまでの時間、わずか二、三秒の出来事。何が起こったのか解らない茜だが
それでもわかった事は二つ、激しい音と今ヤバイ状況と言う事だけ。
とにかく逃げ回りながら零は考えた。確かに二階に上がってきたのは母親
姿は見ていないが気配は間違ない。部屋の前で立ち止まると同時に気配が変化し
それを察知し術強化と同時に攻撃を仕掛けようとしたが、頭で考え口にする前に
ドアをぶち破り吹っ飛ばされた。ドアを壊すのは想定内だが、吹き飛ばされるほどの
力だったのは想定外。色々と考えていると、茜が後ろを見て叫んだ
「零さん!後ろ!」
そう言われ後ろを見ると、先程の化け物が追ってきていた。
「(やはり場所がわかったか・・・作戦実行)カラス!」
逃げつつカラスを呼ぶとすぐに現れ、零達の元に来ると零はすかさずカラスに茜を託す。
「頼む」
「おう!任せんさい!」
カラスがそう言うと、一人乗せられる大きさに体を変化し腕に抱えていた茜を受け取ると
零とは違う道を飛んでいく。零は少し走り後ろを振り向くと、『化物』は迷わず
カラス達の方へ奇声を上げながら追いかけて行った。零は何故か追いかけもせず
かといって何処も行かず何故かそのまま立ち止まって、カラス達が逃げた方向を見つめていた。
・・・・そして数分後
カラスが逃げてきたのは、そう広くはない公園、器用に遊具などの間を飛び回り
化け物の一瞬の隙をつき術を唱えた。
『六ノ結ノ中ニ降り注グハ神ノ一手!』
その瞬間、空が一瞬光ると目では追いきれない速さで、化け物の頭上に一本の弓矢が突き
刺さると動きが止まり、後ろにゆっくりと倒れ動かなくなった。公園の遊具の中を
飛びながら、六個の遊具に術を仕掛けつつ飛び回っていたのだ。
今さらだがカラスも零同様、それなりに術を使える。倒れ動かなくなったのを
見てカラスは思った。
「(なんて姿だ・・・『思い』が強いのか、もう時間がないのか・・・)」
カラスは茜をベンチに座らせると術を唱え始めた。
『迷える魂に神のご加護…授けよ』
すると、茜の回りに光の結界が貼られるとカラスは
「とりあえずな、今は大丈(ガシッ!)グガッ⁉」
カラスが喋っている途中、茜の目の前からカラスが消えた。
カラスが消えたその先に見えたのは化け物の下半身、茜は目を見開き
ゆっくりと目線を上げ悲鳴を上げた。先程倒れ死んだと思っていた化け物が
目の前に、しかもカラスを握りしめ殺そうとしていた。
「グァお前、いつ、、か、、」
何とか手から抜け出そうともがくが、力が強く抜け出せない、首を集中的に
力を入れられているため、まともに術を口に出せない。化け物は黙ったまま
ゆっくりと時間を掛けカラスを握り締める、羽が折れ、肉がきしむ。
目の前でカラスが死んでしまう、自分を守ってくれた
カラスが、しかし自分では何もできない、ただの人間だからどうする事もできない。
「嫌だ・・・助けて!零お願い助けてーーー!」
「お呼びかい?」
叫んだ直後、後ろから声が聞こえ驚き振り向くと、いつの間にか真後ろに
立っていた零。驚く茜だが、直ぐにカラスを助けてとお願いするが、零から出た
言葉はあまりにも残酷で信じられない言葉だった。
「あぁもう『要らない』」
「え・・・何言って」
零は茜の目を見つめはっきりと伝える
「『要らない、あんな役にも、金にもならない奴』」
その言葉を聞いた直後、頭上で何かが弾けた音と、自分の頭に何かがついた。
茜はその音と頭に付いた物が、見なくとも分かり耳を塞ぎ震えながら泣き出す。
そしてまた、零が言う
「・・・『こんなところで生きたくない』そう思っ「やめてーーーーーーーー!」・・・」
茜は叫んだ。何故か零に言われた言葉が怖かった。聞きたくなかった。知りたくなかった。
それが何故か、わからなくて恐怖を抱き、カラスが死んでしまったことに涙する。
零はそんな茜を見て話しかける
「・・・心配せんでもカラスは生きてる、と言うかここは『あなたが作った街』
じゃなくて『私が作った街』だからね」
零の言葉を聞きバッと見上げると、そこには零と死んだと思ったカラスの姿があった。
しかし自分と零達の以外の街が何処にも無い、見える景色は言葉で説明は難しいが
例えるなら、すべての絵の具を中途半端にかき混ぜたような、そんな色の風景が
広がっていた。口をパクパクさせ回りを見渡す茜に、零は言い放つ
「貴女がそうしてるんだよ、『化け物』もこの『街』も『お前が作った』。」
零の言葉に、訳がわからないと、零を見つめる茜に零は話を続ける。
「ここの正式な名前は無いが、私は『生き霊の遊び場』もしくは『理想郷』と呼んでいる」
「生き・・・霊?」
「まぁなんだ。簡単に言えば、『自分で作った理想、都合のいい居場所』
って言えばいいかなこういった場所は、一人だけの世界で誰も入れないからさぁ
仕事の書類にも詳しく書かれて無い事が多くてね、大変なんだわ」
零の言葉に茜の頭の中に一つの言葉が浮かび上がるが、その言葉を押さえ込むように
頭を抱え込んだ。そんな姿など気にせず零は、話を続けるそれは昨日の晩の事に遡る。
・・・・・
カラスが行ったのを見届けた後、先程カラスの言った言葉を思い出した。
「『これ』がいるんだ?』か・・・」
『これ』とは化け物の事、たいして強くもない者が簡単に神社に入るのはおかしな事。
ここに最初に来た時、神の気配と結界が確かに有ったが、先程何かを感じ取ったのは
化け物の気配ではなく、結界と神が無い事を感じ取っていた。
世の中には、結界やご利益の一つもしない神も居るが、それにしたって何も
感じなさすぎるまるで空き家のような。あまり気乗りしない零は、中に入るため
一応挨拶をして屋根が無くなった神社に入り、崩れたものを取り除きながら
ある物を探した。
探しているのは神が宿っている御神体。言葉通り『神が宿ってる物』それは
札や水晶、掛け軸、時には筆や着物など様々な物に宿っている。
倒れた柱や屋根の破片を取り除きながら探していると、神体と思われる木札を見つけた。
伏せられている木札を裏返すと、文字が掘られていた。間違いなく御神体
しかし文字が読めない、まるで子供の落書き。それを見た零は昨晩、家を探索した時
立派な神棚の事を思い出した。普通の家より一回りはあった神棚、しかし大きさは関係ない
関係あるのは茜の方。祖母の遺言を守り。神棚に供え物など欠かさずして、信仰があると
両親が言っていた。確かに茜は、今時の高校生にしては、信仰が深かかったのか
『神は存在する』と言う強い思いが有ったため茜の影響で『ここに神が居る』と
零にまで影響してしまったのだ。そして影響を受けていない今が『真実』そう考え
空を見上げポツリと呟く
「…やはり、『理想郷』か」
悲しげに見つめた先の空に浮かぶ、欠けた月とその回りに散らばる星達を見た。
『神がいない』『昨日と変わらぬ欠けた月』『異常な数の星達』『成長が見られない』
『時間が止まっている』つまり此処は『この世』でも『あの世』でもない
ここは間違いなく『茜が作り出した理想郷』
本来であれば、神社や寺など使わせてもらうため挨拶などの礼儀があるが
零はある事情で神を嫌っていたので、挨拶などしていなかった。この行動をしていれば
直ぐに終わらせる事が出来たはず。完全に零の失態と見逃し、自分自身に腹を立て
ギリギリ木札を握り締め破壊すると、ふらふらと神社の階段に座り込み頭を抱え
溜め息をついた。しばらくそのままでいると、カラスが戻り零に話しかける。
「どうした?」
「反省中・・・報告して」
頭を抱えたままカラスの報告を聞き、零も先程の事を話し終え整理する。
朝方頼んだ『死んだ人間に魂がない』これについては、すでに死んでいる。
『存在はしていた』つまり、『此処は『ある時』から時間が止まり一日ループしている』
カラスは調べ終わってから、また街に観察しに行ったのだが、やはり死んだ人間が『居て』
『同じ死に方』をしていた。それと『死んだ人間は全て報道されていた』
次は『化け物』気配と姿が無かったのは、茜自身が『形を作り』そして
『化け物の姿に変えた』なので、いつでもどこでも、現れ茜の居場所がわかる。
結界を貼っていたにもかかわらず、茜の居場所に瞬時に現れたのは、そのため。
気配については、『現れる時間が決まっている』と言う事は、『茜が入院していて
面会時間の時、母親等が側に居た』と考えれば、化け物がいる間は面会している時
いない時は面会をしていないそう考えると説明がつく。
先程カラスを行かせたのは夕の家出の場所、そこで家出先の家族の様子を確かめて
もらっていた。家出先の家族は夕が居ない事に何一つ疑問を持ってない
そして騒ぎもなかったとの報告。先程茜に『夕の事を話した』のはこのため。
今、茜の中では『夕は捕らえられ零がどうにかするから、家出先には居ない』そう
考えているから、騒ぎ一つ無いのだろう。今ある情報を推測して整理し終えると
改めて此処が『理想郷』と再確認した。零はどう解決しようか、考えているとカラスは
一つ提案をするそれは、自分達の『身代わり』と『この世を作り替える』事。
「いい案じゃないか?後は俺たちが演技すればいいだろ」
「・・・そうだね。それがいいか」
少々骨のいる作業に深くため息を付くが、茜のためカラスの提案に同意すると
零は自分とカラスの身代わりを作り上げ、茜の家に行かせ、『作り替える』作業に
移ろうとするとカラスに言われる。
「お前さんの『神嫌い』仇となったな」
「・・・それは認める私の失態」
痛い所を付かれ零は不機嫌そうに答えた。
・・・・・
黙って聞いていた茜の瞳から、段々と光が無くなるのを見て話しかける
「とまぁ途中だけど質問は?聞くよ」
「・・・ここは、どこ」
「そうだな、あの世でもなければ、この世でもない。死んでいないし、生きてもいない
でも貴女は『此処がどんな場所か解り理想を作りあげて』ご覧の通り」
茜は『理想』の言葉に反応し零に噛みつくように喋りだす。
「理想?これが⁈どこが理想なの!悪夢だわこんなの!化物に追いかけられて!
どんなに苦しかったか!どんなに怖かったか!なにが・・・・なにが理想だ!」
そんな茜に、零は冷たく言い放つ。
「ここは貴方の心と頭で考えて作り上げた理想郷。だからでしょ?怖いし
恐ろしかった現実が」
その言葉に口をつぐむ茜の瞳は、完全に光が消え涙がこぼれ、崩れ落ちた。
そんな茜に問いかける零
「貴方の理想郷は他とは違う、本来なら『居心地のいい理想郷』だけど此処は
『居心地の悪い理想郷』なぜだと思う?」
「・・・・」
「最初は、理想的だったでしょ?でも日に日にそれは崩れた。『此処がどこか分かり』
『認めた』からよ。・・・わかるでしょ、わからない訳ないでしょ?貴女が
『認めて』いれば『完璧な理想郷』になったのに・・・そうすれば苦しむ事も無かった。
なぜ『認めない』何故『理想郷』に来てしまったの?」
うなだれ座りこみ黙ったままの茜は、弱々しく小さな声で話し出した。
「・・・私の兄妹は、天才で、お利口さんで何でもできた・・・それに比べて私は
なにもできない。お人形さんなの。兄は、とても優秀で来年には海外の大学へ妹は音楽の
才能が・・あって、なのに、なのに私は、なにもできなくて・・・出来損ないで、家族
は誰も私を見ない、見ていない。いつも、いつも兄と夕ばかりで・私の話なんてなかった
居場所もかった…だから……いなくていいやって・・・・・思って・・思って、思って、思って、思って思って・・・お、も、っ、て・・・そ、っか、私、私・・・・・・飛び降りちゃった。
私・・・・・そうか自殺したんだ。」
自分のした事を思いだし、声をあげ泣き出した茜に零は、背中を撫で話す。
「さっき私の言葉に胸を痛めたでしょうけど、あれはあなたが作り出した言葉よ。
親の言葉じゃない。それに、貴方を思っている人がいる」
零は先程の話の続きを聞かせる。
・・・・・
不機嫌になりつつ零はカラスに質問をする
「ねぇ、あの子どう思う?私には幽体離脱的に見えるけど」
あの子とは、捕らえられ眠っている夕の事、不思議なことに彼女は驚くことに
正真正銘本人。母親たちとは違い、完全に茜の作り出した理想郷に存在しているのだ。
零の問いかけにカラスは
「んー生き霊だな、半分こっちに来とる」
「生き霊か、じゃ無意識?」
「たぶんな、現実世界では眠って夢の中、ってとこじゃないか?」
「へぇ聞いた事はあるけど見たのは、初めて」
この世界を作り上げた本人以外に、生きている人間がいるのは、とても珍しい。
とりあえず解放し、起きるのを待つことにした。
空が明るくなり始めた頃、夕が目を覚ましぼんやりとした目で、零を見つめこう言った。
「・・・お姉ちゃんを、助けてください」
か細い声だが、しっかりと聞こえた夕の言葉に零は、質問する。
「此処が何処か解る?」
「夢の中・・・多分お姉ちゃんの」
「そうね、まぁ合ってるかな。何故ここに?」
「体がゆうことを・・・聞かなくて、何故かお姉ちゃんを、殺そうと・助けたいのに・・・
どうして?」
「此処は茜の『世界』あの子の考え通りに動いただけ、貴方に非はない」
此処は茜の思いで作られた『理想郷』体が言うことを聞かないは当たり前。
夕は話し出した。
「お姉ちゃんは勘違いをしてるの誰も邪魔だなんて思ってない・・・お姉ちゃんは
夜中に家から出て、それを見たのに・・・私があの時、出て行くのを止めてれば
こんなことには、な、ら、な、か、っ、た。」
夕は太陽が出てくると同時に言葉が出てこなくなっていく。現実世界の夕が目を
覚ますのだろうと、考え立ち上がり日の出を見つめながら夕に話す。
「貴方の気持ちはわかった。だけど決めるのは本人、私は助けるのが仕事だけど
少し違うあまり期待は(ギュ)⁈」
突然夕は、零の裾を力一杯掴み涙を流し声を絞り出す。
「つ、た、え、て、『・・・・・』」
そう言うと、ゆっくりと目を閉じ眠りについた。
「えぇちゃんと伝える」
夕を抱え木の根本に寝かせると、零は大きく深呼吸しその場を立ち去った。
・・・・
話を聞いていた茜は、信じられないといった顔をし零に訪ねる。
「あの子は、此処に?」
「えぇ、ほんとビックリしたよ、生き霊は生半可な思いで成るものではない。
それと夕も信仰が強いから、多分こちらに来れたんだと思うけど
それだけじゃなくて、貴女が大好きで大切だから来れたのよ此処に…それと伝言
『・・・・・』」
「⁈」
夕の伝言にまた泣き出した茜。そんな茜に零は目線を合わせ話す。
「もう貴方の体が限界よ。かなり簡単に『作り替えられた』のは、弱ってる証拠。
このまま死ぬのか、それとも生きるか、あなたが決めなさい」
茜は震えながら自分の手を見つめる。心の奥底では解っていた。誰も見ていない
邪魔な存在だと自分で思い込んでいた事を。兄妹に嫉妬し羨ましかった。
そして二人の邪魔になりたくなかった。だから消えようとした。
他人が聞けば『ただ、それだけの理由』だけど、彼女にとっては『ちゃんとした理由』
茜は泣きながらも生きるか死ぬか考えた。迷う茜に零は
「自分を殺める行為は、最大級の罪になる。この世の苦しみから解放はされるが
また苦しむだけ・・・それと一つ聞きたい」
そう言うと零は、ある物を取り出し茜の手のひらにそっと置く。茜は渡された物を見ると
それは夕が持っていたお守り。そのお守りは、茜が夕の為に作った手作りのお守りだった。
「その中に黒い石入れたでしょ?何か解ってた?」
そう言うと、茜は静かに答える。
「それ、はお祖母ちゃんに。貰って・・それを夕に渡すのに、ボロボロだったから、
縫ったの『その石は、人を護ってくれる。お祖母ちゃん、茜ちゃんを想って入れといた
からね』って」
「そう・・・その黒石は『護り石』と言われる物の一部。誰かを想えば、その人を
護ることが出来る。夕は貴女を助けたかった。だけど貴女が思い違いをしていたから
夕は身体も考えもコントロールが出来なくて、結果ああなってしまった。」
「うぅ・・・ごめんね。ごめんね夕」
茜はギュッとお守りを握り締め、妹に何て事をさせてしまったんだと、後悔し涙する。
零は立ち上がり茜に最後の問いかけをする
「火野茜あなた様に最後に問います。『あの世の地獄』と『この世の地獄』どちらにいきますか」
茜は涙を拭くと、ゆっくりと顔を上げ零の目を見つめ答えた。
「私は・・・・『・・・・』」
「承知いたしました。」
・・・・その後
茜の願いを聞き入れ仕事を終えた零は、最初に上ったビルの屋上にいた。寝そべり空を
見ていると、カラスが飛んできて零の胸に止まり喋り出す。
「よぉ終わったぞ」
「お疲れ・・・あと今私が言いたいことわかる、わかるよね?」
そう言う零の顔の後ろに般若を見たカラスは、無言で胸から降りる。カラスが降りたと
同時に立ち上がり、屋上の端に立つと下を見下ろした。カラスは零の横に並ぶと
零の横顔を見て一つ質問をする。
「昔から思ったが、いつも嫌そうだが、しっかり仕事をこなすのは何故だ?」
「なに今さらそんな事を?」
「確かに今さらだが、気になったんだ。・・・お前は嫌いだろ『人』と『神』が
『殺してしまいたいほど』」
「・・・そうね。でもねカラス、私は『同じ人間』にはなりたくない、神にたいしては・・・
まぁどうしようもないし、あらがえない、ただそれだけよ」
零の返答に、カラスはそうかと言いった後、思い出したように話す。
「そうそうまた、仕事持ってきた。」
その言葉にイラッと、眉間にシワを寄せ不機嫌になる零に苦笑いするカラス
「もしかして、また同じ?」
「ご名答、鋭いな」
「はぁ・・・たまには、他の仕事寄越してほしいんだけど、言っといて」
「俺に言われてもなぁ」
そんな話をして、カラスは先に帰ると言い飛び立ったのを見て、零も帰るため術を口に
すると後ろに歪んだ渦が現た。そこに入る前に一度、後ろを振り向きフッと笑笑うと
渦の中に入り次の仕事に向かった。
この物語はここで終わり・・・ん?あの子は、どうなったかって?
フフ『地獄』にいったよ。
どっちの地獄かって?さぁどちらでしょう?
あなたの人生に、この子の人生は関係ないのだから、知らなくていいでしょ?
むしろ知ってどうするのさ?参考にでもするつもり?
まぁ『絶対いくな』とは言わない。だって逝くも逝かないも、貴方自身の問題。
・・・少しあなたが羨ましい、私も『理想郷』は持ってるけど・・・
『そこには一生逝けない』からね。
無駄話しすぎたかな?そろそろ仕事にいかなきゃ。
さて次は・・・どんな『物語』を話せるかな?
第一幕 思い絵がいた理想へ 閉幕