ゾウ
風が彩り豊かな花の香りを讃えて、あちらこちらには、光のどんぐりが宙に散らばっている、大きな国があありました。その大きな国には、とあるゾウがいました。このゾウは、とても素直なゾウでした。大好きなエレファントグラスを食べるときでも、いつも自然に感謝し、神様に感謝して食べるのでした。エンデは長い鼻を上にあげながら、歌を歌うのが好きでした。
このゾウの親は、神様でした。
ゾウの名前は、エンデ。
エンデがいる国では、領地を拡大する為に、戦争が絶えませんでした。その為、多くの人々の命が、無残にも亡くなっていきました。
この国の王様は言いました。
「となりの国も、わが国である。わが国に不可能などはない。わが国の為に、皆死んで、皆生きろ」
そんな野心家の王様が、領地拡大に旗を振るった、ある時のことです。
エンデは、いつものように、その国の東にある草原にいました。すると、驚いたことに、多くの人々が、この草原にヒドイ顔色で、逃げてきたのでした。
この国内で人々が逃げてくることは、初めてのことでした。なぜならば、野心家の王様は、自国の領地での戦争だけは、行わなかったからです。
では、どうして逃げてきたのでしょうか。
とある国民は言いました。
「もう勘弁しておくれ…。出せる年貢はありやしないんだよ」
この国の王宮側の人々が、国民に、多くの年貢を納めさせようとしていたのです。
野心家の王様からの命令だったのです。
もしも王様からの命令に、背いたときには、命の保証は、ありませんでした。
王宮側の兵隊達は、言いました。
「早くしろ、早くしろ!王様からの命令だぞ!」
それから兵隊達は、国民にムチを振るい続けて、心も身体も追いつめていきました。
そうして、家にも、居場所がなくなり、多くの国民が命からがら、このエンデがいる草原に、逃げてきたのです。
やつれはて、身を震わしている国民達をエンデは、目の当たりにし、心を痛めました。
人々の心のなかにある野心や手段を選ばない狡猾さ、それはまた一人一人の恐れや不安からくるものだと、感じて、深く憐れんだのでした。
そして、エンデは逃げてきた国民達に言いました。
「あなた達に、祝福がありますように」
それからしばらくすると、あとから、追いかけてきた兵隊達が、とうとうこの東の草原にたどり着いたのです。
兵隊達は、言いました。
「隠れても無駄だぞ!王様の命令は絶対だ!地の果てまで追いかけてやる!」
エンデは、これを聞いて、国民の中をかき分けて、進んで兵隊の前に出ていきました。
兵隊達は、エンデに向かって言いました。
「なんだこのゾウは?ゾウ一匹ごときで、何が出来るというのだ!笑わせるなっ!!はっはっは」
それから、兵隊はエンデに向かって、ムチを振るいました。
そして、エンデに向かってムチを振るった兵隊が言いました。
「あれ!?おかしいぞ」
もう一度エンデに向かってムチを振るおうとしましたが、それをすることが出来ませんでした。
何故なら、ムチは、エンデに当たるまえに、きれいなハーブに変わってしまったからです。
他の兵隊達も不思議に思って、エンデにムチを振るいましたが、今度は、ムチが、七色の琴になりました。さらに、ムチはバイオリンになり、ムチは、フルートになり、ギターになり、ムチはピアノになり、ムチは、シンバルになりました。
兵隊達はそれを見てあまりにも不思議に思い、なかには、腰を抜かしてしまう兵隊達もいました。
そして、兵隊長が言いました。
「よし。この珍しい楽器を国王に持っていこう!」
そして、兵隊達は、力を合わせ、エンデの前にある楽器を王宮に運ぶことにしました。
また、兵隊長が言いました。
「ゾウよ。是非、王様のところに来てくれないか?」
するとエンデは、長い鼻を一度天に高く伸ばしてから、地にぶらんと遊ばせてから、言いました。
「良いでしょう。神様の御心のままになりますように」
兵隊達は、楽器とエンデを連れて、王様の元へ、向かいました。
途中、玄関が開けぱっなしで、高そうなものが、ひっぱり出されている家々などを通りすぎていくと、エンデは、心を痛めました。
そして、とうとう大きなお城の門をくぐり、入城して、王様の玉座の前に、たどり着きました。
王様は、エンデが入ってくるのを事前に、兵隊達によって聞かされていましたが、それでも、エンデの神秘的な雰囲気に、驚きを隠せませんでした。
王様がエンデに言いました。
「おもてをあげよ。おぬしの名前は?」
「私は、エンデと申します。」
王様がおもむろに立ち上がり、エンデに向かって、突然、剣を投げました。
すると、その剣は、黄金のマイクに変わりました。
王様は、大変驚きました。
驚きを隠せない王様に、向かって、エンデは耳をパタパタさせたあとに、言いました。
「王様。王様は、武力によって、この国の領土を広げようとしています。そのままでは、やがて、さらに大きな武力によって滅ぼされることになるでしょう」
王様は、言いました。
「では、どうしたら良いんだ?」
「はい。武力ではなく、ここにある楽器を使って、音楽の力によって、この国を広げればいいのです」
それを聞いた王様は、首を横に振り、笑いながら言いました。
「ハッハッハ!エンデよ。それでは、国は大きくならないではないか」
エンデは、王様に真心を込めて、言いました。
「いいえ。王様。必ず、音楽の力によって、この国は、大きくなります。やがて、この国が奏でた音楽は、世界を一周するほどに響き渡ることでしょう。音楽は、風を伝い、人の心に伝い、国境を越えて伝い、神様に伝わります」
エンデの純真な瞳に、感動し、王様は、エンデの言ったことに納得をしました。
それからというもの、国内にあった武器は、エンデの不可思議な力によって、あれよあれよという間に、楽器に変わっていきました。
それから、この国では、エンデ音楽隊が出来上がり、王様は、国をあげて、音楽に、全てを注ぎ込みました。
そして、エンデ音楽隊は、先ずは、となりの国まで足を運び、演奏会を開催しました。
すると、エンデの不可思議な力によって、産声をあげた楽器の音色には、神通力があり、多くの人々を魅了していきました。
それから、王様の国と、となりの国は、仲良くなり、物心共に、交流するようになりました。
この調子で、だんだんと、となりの国のとなりの国にも、エンデ音楽隊は、足を進めていき、拍手喝采を受けて、魅了していきました。
そして、ついには、世界を一周するほどになりました。
エンデが王様に、話した通りになり、王様の国は、世界を一周するほど豊かになり、栄えて、大きくなりました。
それからというもの、その世界には、武器が無くなり、ただ、よろこびの歌と音楽が、鳴り響き続けました。