私と兄の逃亡計画5
※とある竜人視点
15年くらい前だったか…。エルフの美姫と竜王国の公爵様が大恋愛の末に結婚した。結婚パレードの警護に参加したのもあるが、あの冷徹銀竜と美姫の笑顔は多分誰が見ても忘れられないだろう。とても美しい光景で今でも思い出すことが出来る。
高位の竜人が持つ銀髪に紫水晶の様な美しい瞳
エルフの特徴である金髪に深い森のような美しい瞳と長く細い耳
2人とも美形の種族の中でも格別に美しい顏をしていた。居るだけで、天界かと見間違うほど空間に変わる。
その2人に彼女はよく似ていた
俺は彼らの事を知っている。多分彼らを知らない人なんて居ないだろう。
彼らの悲劇の大恋愛を
彼らの結婚式は国中、いや世界中が湧いた。
どれだけ世界中の王族や有権者どもが求めても決して首を縦に降らなかったエルフの美姫が、唯一求めた相手。
国を支える一柱、銀竜一族の当主。あまりの美しさと態度から冷徹と恐れられた銀竜が唯一求めた相手。
数多くの人を泣かせてきた2人が結婚した時は、それはそれは大きな話題となった。だがそれだけじゃなかったんだ。
結婚して少したった頃。エルフの美姫ラシェル様は姉の出産を祝うため里帰りをなさった。公爵はその時、王国の結界の異変に対応するため同行しなかった。
そして悲劇は起きた。
ラシェル様が誘拐されたのだ。帰国する途中に泊まった宿で、護衛は何人かやられ、誰にも見られずその姿を消した。元々多すぎる魔力によって身体が弱く、ご懐妊された事もあって魔力が不安定だったそうだ。自衛が出来ず攫われてしまったと見られる。
俺も捜索隊に加わったから事情はよく知ってる。まぁ今回の作戦は聞かされてないけどな。
公爵の荒ぶりようは凄かった。
あの方を止めるために何人の騎士がボコボコにされたことか…。公爵は未だにラシェル様を諦めておらず、エルフの国も愛する姫の失踪とあって、血眼で探している。
そして今。俺の目の前にあの御二方によく似た少女が居る。
ちょっとまって。いやちょっとまって。あるお方の奪還ってこの子の事を言ってるわけじゃないよね?俺普通に剣向けちゃったんだけど、てか傷つけちゃったよ??
ねぇ隊長なんで上層部だけに情報留めちゃってんの?そういう重要なことは皆で共有しよ?
報告、連絡、相談ってよく俺の事殴ってんじゃん!自分が守ってねぇじゃん!!
いや……このめっちゃ強い子がそんなお姫様なんて事はないはずだ。いくら…銀竜の特徴と……エルフと特徴を持つハーフでも…。
いや現実見ろ俺!どう見てもあのお二人足して2で割った様にしか見えねぇよ!
百面相してるのは俺だけじゃなくて、一緒にこの子の相手をしていた仲間もだった。だよなそんな顔になっちゃうよな。
驚きすぎて出来た隙をこの子は見逃してはくれなかった。くっそぉやっぱり悪魔だこいつ。ここで大魔法出してくるとか鬼畜か!
「【炎鳥】」
悪魔が出した魔法陣から、大きな美しい炎の鳥が出てきて俺らに向かって来た。
ダメだ逃げられねぇ。【防御】は意味が無い。【竜化】は間に合わねぇ。多少熱くて焦げるが耐えるか…。
そう覚悟を決めた俺たちの目の前に黒い竜が現れた。