兄と私の逃亡計画3
※クリストファー視点
今でも夢に見る。母上の最後の顔。隣で泣きじゃくるロゼ。そして……視界に広がる赤色。
僕とロゼは母上の【加護】のお陰で帝王に殺されない。でも殺されるより恐ろしい事は沢山ある。
僕とロゼは帝王にとって憎悪の対象ではあるが、同時に母上とそっくりである。特にロゼは…性別も同じだ。帝王が放っておくはずがない。
だから僕とロゼは5歳の時から成長が止まっている。
母上は僕達に自衛の力と知識、加護まで与え亡くなった。
「クリストファー、ロゼリア…」
母上は亡くなる直前、僕達にある事を伝えた。
「竜王国に…逃げな…さい。今はまだその力は…ないけれど、いつかここから…出て、貴方達のお父様にあって……欲しいの。
多分彼の心はボロボロ…だから、貴方達が癒して…あげて。そして私と居れない分、彼から…沢山愛情を貰いなさい。愛してる…貴方達に会えて…私は本当…に…幸せな時間を……」
そう言って母上は僕達を残して逝ってしまった。
僕達は逃げる計画を立てた。
でも帝王はそんな事を見逃すような事はしない。
僕達は気がついた時には沢山のローブを来た大人たちに囲まれていた。
「今からお前達は結界の要になってもらう」
そう帝王が言い、魔法陣が僕とロゼを囲んだ。
胸が苦しい。呼吸が浅い。
薄れる意識の中でロゼが泣き叫ぶ声を聞いた。
目が覚めるといつもの塔の部屋だ。隣にはロゼが寝ている。
「ロゼ、ロゼ!!」
「ん…んぅ……くりす?」
良かった生きてた…。もう家族を失いたくない。ロゼを抱きしめていると、自分が震えているのがわかる。
「クリス、顔真っ白だよ!?体調悪いの!?」
よく見るとロゼもいつもより顔色が悪い。
僕は気づいてしまった。
【竜眼】でロゼと僕の魔力の流がおかしい事を。
僕は見てしまった。
僕とロゼの魂に絡みつく鎖を。
僕は理解した。
あの男が【結界の要】と言った意味を。僕の魂を核に、ロゼの魂を縛って魔力供給源にしている事を。
僕達はこの塔に縛られてしまった。
僕は身体が弱くない物理的にここから出られない。
ロゼは魔力を吸い取る鎖に自由を制限されている。
僕達の逃亡計画は厳しいものになった。いや絶望的だ。
ある日、帝国は領土拡大のため他国に戦争を仕掛けた。ロゼは兵器として戦争に駆り出された。
僕は部屋を出ていくロゼの背中を見つめる事しか、ロゼの無事を祈ることしか出来ない。ロゼは竜人でもある。でもそれでも人間はどんな恐ろしい手段を使うか分からない。
ロゼが帰ってきたら沢山あまやかすようにしている
元々ロゼは母上にべったりで甘えん坊だった。母上が亡くなり僕達2人だけになった。この鎖のせいで僕は体が弱く、ロゼはいつも気を張って強くあろうとする。
だから僕がロゼを休ませてあげないと…。
ベットの上でも魔法が使えれば出来ることはある。
精霊術で精霊体を借りてあらゆる情報を集めた。
竜王国もエルフの国も僕達を見つけられていないが、秘密裏に探し続けていること。
帝王がロゼを狙っていること。
帝国の政治の腐敗により、民は傷つき貧しい生活を送っていること。
その為に周辺諸国に戦争を仕掛け領土拡大を目論んでいること。
そして僕は考えた。ロゼが大きな戦果をあげ、注目を浴びれば…竜王国とエルフの国が僕達を見つけられるのではと。
その作戦でロゼは帝国に多くの勝利と戦果をもたらした。そしてロゼの容姿や幼さもあって、世界中にロゼが知られた。
帝国はロゼに顔を隠させていたが、【竜眼】や感の鋭い者ならロゼが人ではない事が分かってしまう。
そして僕達は帝国と竜王国、エルフの国が戦争をするように仕向けた。
ロゼは今日も沢山人を殺した。
ロゼの顔には笑顔はない。
完璧な仮面を被り今日も戦場を駆け回る。
全ては自由のため。
そう……分かっていても……。
僕は今日もベットの上で逃亡計画のピースを集める。
一刻も早く、あの笑顔を取り戻すために。