兄と私の逃亡計画2
※クリストファー視点
2年前、母上は亡くなった。幼い僕とロゼを置いて。
僕とロゼは双子の兄妹だ。幼いこともあって、僕達はそっくりだ。
僕達は竜人の父と、エルフの母をもつハーフだ。一般的に、他種族との混血児はどちらかの血が濃い方の種族に分けられる。でも稀に、両方の特徴を持って生まれてきてしまう子どもも居る。
それが僕とロゼだ。
エルフと特徴である長く尖った耳と、エルフではありえない銀髪紫眼。竜人の特徴である、強靭な肉体と【竜化】。
顔立ちは父上の顔は知らないが、母上に似ていると思う。僕もロゼも母上が大好きだからとても嬉しい。それに…もし僕達が父上に似ていたら、母上は父上を思い出して泣いてしまっただろうから。
僕とロゼ、母上は人間が治める国、ハウリーティス帝国の城の塔に囚われている。
詳しい事は教えて貰えなかったが、母上は僕達を身ごもった状態で、この国の騎士に攫われてしまったそうだ。
僕達がお腹にいることで魔力が不安定になり、母上は逃げることが出来なかった。この国の王は美形のエルフの中でも格別に美しかった母上に惚れていたようだ。
城内を精霊の目と耳を借りていた時にたまたま聞いたんだけど、この国の王は何度も母上に結婚を申し込んだが惨敗。世界各国の有権者がこぞって母上を求めたらしいが、体の弱い母上は全て断っていたらしい。
なんで父上の結婚したのかはまたいつか。
そんな訳で、母上を手に入れられなかったこの国の王は、あろう事か里帰りをしていた母上を誘拐。巧妙に隠され僕達は竜人やエルフにも、未だに見つけられていない。
そんな恋焦がれた母上に、この国の王が手を出さないはずがない。
母上は父上以外に体を許すことなどしたくなかった。
だから僕達の成長を早めた。
母上はエルフの中でも特に魔力が多く、その膨大な魔力のせいで、身体が弱かったそうだ。
その膨大な魔力を僕達双子に分け与え、僕達を出産し、王の手を逃れたそうだ。
帝王にとって僕たち双子は、母上を奪った憎き男の子供だ。当然僕達を消そうとしてくる。
しかし僕達を出産して安定した魔力で母上は僕達を常に守ってくれた。
万全の状態の母上を止めることが出来るものなど、そうそう居ない。
それ以降、帝王は母上に手を出そうとしても、塔に近づくことすら出来なくなった。
城の結界や、帝都の結界で転移は出来ないが、いつかここから逃げた時のためにと、母上は僕達に沢山の事を教えてくれた。
毎日が楽しかった。上手く出来れば母上は褒めてくれる。母上の教えてくれる物語は僕とロゼの狭い世界を広げてくれた。
それでも。僕達は無知で幼く、無力だった。
母上の身体はもう限界で、気力でどうにか笑顔を見せていることに…気が付くことが出来なかったのだ。