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岡部涼音 朗読シリーズ 涼音色~言の葉 音の葉~

一番好きな人

作者: 風音沙矢
掲載日:2018/08/24

ごめんね、 ごめんね、 ごめんね。

こうちゃん、

ごめんね。


ごめんね。



5年前、心も体も、ボロボロになって、

泣くこともできなくなっているアタシを、

こうちゃんが、救ってくれた。


外務省入省が決まって、これからのスキルを考えると、

お前じゃないんだよって言われた。

「バカにして、なによ。これからのスキルって。」

あの人に捨てられても、いつかは帰ってくると信じて、

アパートの部屋で待ち続けていたアタシを、

「良いよ。それで。」

と、抱き締めてくれた。

やっと、泣けたんだよね。アタシ。

やっと、眠ることが、出来たんだよね。アタシ。

穏やかな温もりの中にいるような、優しさが、しみてきて、

こうちゃんの手に触れたら、アタシの手を握り返してくれた。


こうちゃん、あなたが、アタシに愛情をくれた。

こうちゃん、あなたが、アタシに笑顔をくれた。

こうちゃん、あなたが、アタシに家族をくれた。

こうちゃん、こうちゃん、

アタシ、幸せだったよ。


こうちゃん、あの人、帰ってきた。

街で見かけた。

アタシに気付いて、

ずいぶん雰囲気が変わったなって、笑ってた。


アタシもにっこり笑って、

そう、今、幸せだからよって言ったわ。

それじゃ、って別れたけど、膝が震えてた。

こうちゃん、アタシ、やっぱりあの人が好き。

どうしよう、幸せをくれたのは、こうちゃんなのに、

アタシ、今でも、どうしようもないほど、あの人が好きみたい。


だめかな、   だめかな、   だめかな。

サクラ、

だめかな。


だめかな。


あいつが家に戻ってきた。

これから海外勤務が長くなりそうだからからって言っていたけど、

本当は、サクラのことが気になっていたんだろ。

「サクラは、今、俺と3歳の息子と幸せに暮らしているんだ。何も、心配しなくていいよ。」

睨むように、言ったら、

ふっと、皮肉っぽい笑いを浮かべて、

「変わらないね。おまえ。」

少し寂しそうな、あいつの横顔。

友人としては、酒でもって言いたいところだけど、今は勘弁してくれ。


サクラ、やっぱり、俺じゃダメか。

裕太と俺じゃ、だめなのか?

俺は、この5年、俺のすべてで、お前を愛してきた。

裕太だって生まれた。

それまでに見たことのない、柔らかい表情で笑うようになったサクラを見て、

ほんとうに幸せだったよ。

サクラの為って思って来たけど、本当は、自分の為だったんだな。

そう、俺が幸せだったんだ。

じゃあ、サクラを開放してやらなきゃダメか?

俺には、裕太がいる。

あいつは、一人だ。

俺が、良いよって言ったら、

サクラ、行ってしまうのか。

サクラ、  サクラ、  サクラ。


こうちゃん、

こうちゃん、

あの人が、行ってしまう。

こうちゃん、ごめんね。

内緒で会いに行ったの。

少し、驚いていたけど、

「サクラ、尋ねてきてくれてうれしいよ。」

って、笑ってた。

「うん。」

アタシ、ちゃんと会えて良かったー!って思った。

気づいたの、なんか、あの人とのことが、終わってる。

戸惑っただけだった。

「よっしー、突然出て行っちゃったから、アタシ、大変だったんだからね。」

「懐かしいな。その呼び方。」

眩しそうに、アタシを見てる。

「ごめん。迷惑かけたな。」

「孝介にも。」

「そうだよ、こうちゃんがいなかったら、アタシどうなっていたのか、わかんないよ。」

本当は、話したいこといっぱいあったように思うけど、

もう、どうでもいいことのように思えた。


「サクラ、幸せそうで良かった。」

って、笑ってた。そしてあの人、遠い眼をして、もう一度

「良かったあ。」

て、言ったの。


「いやー、義久君、立派になったね。」

「外務省、入省からすぐ留学して、戻ってきたと思ったら、今度は、海外勤務だって。」

「忙しいようで、身体が心配なんだって、おふくろさん言ってた。」

「お嫁さんは、一緒に行かれるんでしょ?」

「それが、去年、離婚したんですって。相手も、外務省勤務で、お互い、なかなかうまくいかなかったみたい。」


友達なんだから、挨拶くらいして来いと、

事情を知らない親父が呑気に、俺たちを送り出した。

裕太と3人で、遠巻きに近所の人の話を聞いている。


あいつが、家から出てきて、大げさな見送りに驚いている。

「田舎だからな。義理堅いんだよ。」

車に乗る時、誰かを探すようにあたりを見ていた。

俺と目が合って、笑った。

もしかして、サクラを探していたのか?


あの人が、誰かを探している。

アタシのこと?

こうちゃんがアタシの手をぎゅっと握った。

アタシも、握り返しながら

「大丈夫だよ。こうちゃん。」

そう言って、あの人のほうへ目を向けた。

あの人と目が合った。

これで良いのよね。

それで良いんだよ。

孝介なら、サクラを幸せにしてくれるよ。

一瞬にして、そんな会話をしたような気がした。


走り出したあいつの車が小さくなっていくのを見て、サクラが言った。

「こうちゃん、帰ろ。おなか、すいちゃった。」

「そうだな。裕太、今日、何食べたい」


最後まで、お読みいただきまして ありがとうございました。

よろしければ、「一番好きな人」の朗読をお聞きいただけませんか?

涼音色 ~言ノ葉 音ノ葉~ 第7回 一番好きな人 と検索してください。

声優 岡部涼音が朗読しています。

よろしくお願いします。


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