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098.お風呂上がりにしゅわっと一杯

「とってもごめんなさい!」

「まったく。女湯を覗くなどという失礼なことをして、アレで済んだことを神に感謝しろ」

「もちろんですー!」


 岩風呂を堪能して、自分たちの部屋に戻ってきた俺たちの前に待っていたのは、見事な土下座を披露しているアムレクの姿だった。横で怒ってるカーライル付き。おお、垂れ耳がぴるぴる、ではなくぶるぶる震えている。

 一応貸し切り状態は継続中ということで会話が漏れる心配はあんまりないけれど、カーライルはわざと固有名詞使わずに言ってるようである。俺たちの中で神というと、俺自身のことになるもんなあ。

 それは置いといて……お風呂に入ってさっぱりした武装解除状態のシーラが、アムレクの前に仁王立ちになる。「アムレク」と彼の名を呼んだ瞬間、ウサギ兄の背中がびくううっとはねた。

 恐る恐る顔を上げたアムレクに対して、シーラは一言。


「次はないと思え。いいな」

「はいいいいいっ!」


 あ、土下座体勢に戻った。こっちからだとシーラの顔は見えないから、今どんな顔してあの一言を言ったのかは分からない。

 いや、多分分からない方が良いんだと思う。ただの勘だけど。


「シーラさん、それくらいで」

「そうだな。カーライル殿が散々絞ったようであるし」


 ファルンがのんびりと止めたところで、シーラの背中から何となく殺気が消えた気がする。いや、殺気あったのかと言われるとどうかな、と思うんだが。


「今回は罰として、お風呂の後のサイダーをなしにします。いいですね」

「うわあああん」


 ……何か、ファルンが追い打ちをかけた気がする。アムレク、床に突っ伏して泣いてるし。

 にしても、サイダーか。……あるの?


「サイダー?」

「この近くにある源泉の一つで、炭酸を含んだものがあるんです。それに甘さを加えた飲み物がありまして、ドンガタ村の名物の一つになっていますわ」

「おー」


 ファルン、説明ありがとう。

 そういやあっちでも、どこかの温泉地でサイダーだか何だか売ってたのをテレビで見たことがあるな。ここも温泉地だし、あってもおかしくないのか。


「残念だったな、アムレク」

「……はい……」

「おにーちゃん、わるさしたからですー」


 カーライル、ミンミカ、トドメ刺さなくていいんだぞ。一応反省してるみたいだから、さ。




 サイダーはカーライルが持ってきてくれていた。コルク栓で蓋をした、五百ミリペットボトルくらいのサイズのガラス瓶に入ってるのを数本。コップも一緒に持ってきてくれてたので、アムレク以外の五人で乾杯する。はいそこ、涙目でこっち見ても駄目だからな。


「いただきまーす……うぷっ」


 一気に飲もうとして、炭酸がきつめだったんでごふっとなりかけた。おうやばいやばい、あんまり冷えてないし。でも、悪くはないんだよな。


「大丈夫ですか? コータ様」

「ちょ、ちょっときついかも……でも、甘くて美味しいよ」

「それは良かった。ゆっくりお飲みください、おかわりもありますから」


 ファルンとカーライルが、心配そうに覗き込んでくる。いやほんと、大丈夫だから。

 しっかし、温泉地でサイダーのんびり飲むとか、向こうの世界じゃとてもじゃないけどできなかったよなあ。仕事仕事仕事寝て仕事、だったし。

 うあー、帰る気もともとなかったけど、さらになくなるよなあ。


「ミンミカ、おかわりほしいな」

「はあい。コータちゃま、いっぱいのんでくださいねえ」


 おう。アムレクの分まで飲みきらないといけないからな。炭酸はほっとくと抜けるし。

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