093.山の中だと必要らしい
結局。
ファルンには明るい空色、シーラには濃い目の黄色、ミンミカには可愛いピンク。
アムレクには浅葱色、カーライルは自分で黒を選んだ。
「毎度ありがとうございましたー。いっぱい買ってくれてありがとね」
「いえ。連れの分ですから」
ここにいない三人の分をそれぞれ袋に入れてもらい、俺が受け取る。カーライルが代金を払いながら、ひどく嬉しそうに笑った。
……俺とおそろいだから、かね。こいつのことだし。なおここにいる三人は、既に全員サッシュを腰に巻いている。
「お連れさん、いい同行者に恵まれたもんだねえ」
「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちには、いっぱいお世話になってます」
「ミンミカも、いっぱいおせわになってるです!」
「そうかい。そりゃほんと、いいねえ」
俺とミンミカが奥さんの言葉に答えると、奥さんもとっても嬉しそうな顔をする。それからミンミカを見て、うんとひとつ大きく頷いた。
「その耳飾り、似合ってるよ」
「ありがとうですー!」
先に購入した垂れ耳用の耳飾りを、ミンミカは両方の耳に付けている。ちょっと重そうなんだけど、これはこれでバランスが良いらしい。
他にも小物とかちょこちょこ買ってるんだけど、まあちょっとしたもんだからいいやな。
「そんじゃ、行きましょうか」
「はーい」
ずっと待っててくれたドートンさんが、頃合いと見て声をかけてくれた。うん、すっごく待たせてごめん。
もっとも、彼いろんな商品を観察してたから、時間つぶしはできてたと思うけど……もしかしたら、剣作るよりこういう装飾品の方が合ってたりしてな。
「ドートンちゃん、この子たちに何かあったらアンタのせいだからね。しっかり送り届けるんだよ」
「んな無茶苦茶な! ちゃんと送るに決まってんでしょうが!」
ともかく、威勢のいい奥さんの声に叩き出されるように俺たちは、店を出た。
「やかましくてすんません。ウサギの姉ちゃん、うるさくなかったっすか?」
「ちょっとびっくりしただけです。だいじょーぶ」
「そりゃよかったー。オレは慣れてるからいいんすけどね」
みんなで歩きながら、ドートンさんがミンミカに尋ねてる。ウサギ獣人だから、俺たちより耳が良いのは確実だもんな。って、ドートンさんも猫だけど。
「あ、そうそう」とドートンさん、言葉を続けた。話題は違ったけれど。
「旅行中だと多分知らないと思うんで。あの店に限りませんけど……この村で売られてるサッシュね、虫よけ効果あるんすよ」
「虫よけ?」
「むし、ってぶんぶんとんでるやつですか」
「それそれ」
そういえば、地味に飛んでるよなあ。森の中とか街道とか、普通に。つか、スプレーとか蚊取り線香とかなくても虫よけできるんだ。どうやってだろう。
「糸染めてる染料に、虫が嫌がる何かが入ってるらしくて」
染料か。植物から取ったものだろうから、虫が嫌いな匂いとかするやつを使ってるんだろうか。
けど、それで虫が避けてくれるなら、地味に助かるよな。顔の前飛ばれるとうっとうしいし、伝染病とかもありそうだし。
……ん、あれ?
「ここ山ん中っすから、大きな虫が血を吸いに来たりすることもあるんす。それを近づけない効果があるって」
「へえ……カーライルお兄ちゃん。ナーリアには、なかったですよね」
山の中の村で、虫をよけるためのサッシュ。
ドンガタの村ではどうも当たり前のものっぽいけれど、確かナーリアの村にはそういうの、なかったよな。
「そういえば、そうですね。あの村は、虫もあまりいなかったようですし」
「皆さん、ナーリアからおいでで?」
カーライルもあれ、という顔になった。そこへドートンさんが尋ねてきたのは、まあ当然というか。俺たちが出てきたところ、知ってるわけないもんな。
「ミンミカとアムレクおにいちゃんはちがうですけど、コータちゃまとカーライルさんはそうです」
「ファルンお姉ちゃんがナーリアの教会にいて、シーラお姉ちゃんがその護衛さんだったんです」
「あー、それで皆さんで修行の旅に」
中途参加であるミンミカが答えてくれて、俺が名前の出なかった二人の説明。これで通じるからこの世界すごいな、と思う。一人でも教会にいた人がいれば、じゃあ修行の旅ですねで通じるらしい。
そして、ナーリアの村の名前を知ってた、その理由はドートンさんが教えてくれた。
「あそこ、うちの村とはあんまり付き合いないんですよね。昔は鉱石が取れたようなんですが、山奥に禁足地があるとかで取れなくなって。そういや虫が出るって話も聞きませんね」
「あー」
はは。
どうやら俺のせいらしい。ナーリア近くの禁足地って、俺の今のロリっ子ボディが封印されてた場所だもんなあ。




