092.神官選んだおくりもの
「コータちゃん」
ややあって、やっと決めたらしい。カーライルは手に細長い布を持ってやってきた。両側の先端がフリンジになってるそれは明るい朱色で、結構目に鮮やかだな。
「こちらのサッシュなどはいかがでしょうか。腰に巻くベルトです」
「へえ、ベルトなんだ……あ、結構生地がしっかりしてる」
差し出されたそれを、ベルトだということでくるりと腰に巻いてみる。ふむ、厚手の生地にチェックの模様が織り込まれてるのか。軽く結んでみて、悪くはないと思った。
顔をあげると、何となく緊張している感じのカーライルと目が合った。俺の反応を待っているんだろうな。まあ、気に入ったし。
「いいですね。ありがとうございます、これ欲しいです!」
「本当ですか。よかった」
「ふわあ。きれいないろですねえ」
おうおう、残念イケメンの満面の笑顔。俺が元々のアルニムア・マーダだったり男OKだったりするなら、こいつは間違いなくクリティカルヒットする表情だ。ほんと、イケメンなんだよなあ……残念だけど。
ミンミカがサッシュの色に感心しているところに、「ドートンちゃん、お待たせ」と奥さんが出てきた。手にはA5サイズくらいかな、の木箱を持っている。
「こいつを持っていっておくれ。頼んだよ」
「りょー……かいでっす」
さっき怒られたせいか、りょーで止めずにちゃんと言えたのは偉い。これが偉いってのはミンミカレベル、だろうけどさ。
ま、それはさておいて。
「……これなら、全員の分買っても行けそうですね。コータちゃん、色選んでもらえませんか」
「みんなの分ですか?」
「おそろいですね!」
サッシュの話である。どうやらほどほどのお値段なので、俺と俺の配下合計六名分購入してもいけるようだ。
そうか、皆でお揃いか。それもいいな……マーダ教の神と信者、なんて表には出せないけれど、でも何かのシンボルみたいな感じで。
「分かりましたー。ミンミカお姉ちゃん、一緒に選ぼう」
「りょー、かいですー」
おいミンミカ、その言い方はさっきのドートンさんの真似かよ。しっかり聞いてるな……耳垂れてるけど大きいもんな、ウサギだし。
「ほらドートンちゃん、ウサギさんに真似されてるじゃないかい」
「うぐ」
奥さんも分かってるみたいで、しっかりツッコんでる。顔をひきつらせたドートンさん、しっぽがぴーんと硬直してるのが可愛い。むんずと掴みたいが、そこから思い切り引っ張って怒られそうなのでやめておこう。
「あ、何でしたら買い物終わるまで待ってますよ。オレ、親方の工房まで帰るんで」
「え……ああ、お願いできますか」
「お願いされます。お連れさんたち、親方んとこですしね」
「言われてみればそうでしたね。いやあ、失念してました。ありがとうございます」
その尻尾のままで、カーライルと帰りの案内の段取りをする。
そうだ、ガルザスさんの工房にシーラたち行ってるんだもんな。俺たちが連れ帰ってもらったほうが、合流しやすいわ。これはありがたい。
「じゃあコータちゃま、サッシュのおいろえらびましょう」
「そうですね。ファルンお姉ちゃんは、やっぱり青かなあ」
事情を察したミンミカに軽く促されて、俺は店の中でもサッシュが並んでいるエリアに向かった。六人だから、全部色替えられたらいいな、うん。




