091.良いもの探して店ぐるり
それはともかく、とドートンさんはひげをひくひく震わせながら俺たちの方を振り返った。
「お客さん案内してきたっすよ。それと、親方が鞘飾り頼んでたって」
「ありがとね。お客さん、いいのあるからしっかり見ていっておくれ」
「はい、ありがとうございます」
カーライルが代表して礼を言う。奥さんとドートンさんがうんと頷いてくれて、それから二人の会話に入った。
「鞘飾り、ちょい待ちな。出してくるから」
「りょー」
「ちゃんと了解って言いな」
「りょ、了解っすー」
「よし」
ああ、あの「りょー」って「了解」ってことだったのかよ。そんなの省略するなよなあ、と思いつつ俺たちは商品を見て回ろうか。な、ミンミカ。
「コータちゃん、ミンミカ、売り物ですから丁寧に扱ってくださいね」
『はーい』
すっかり保護者なカーライルに言われて、返事がハモった。それから、そんなに広くはない店の中をのんびり見ていく。
剣の鞘にベルト、どうやら盾に付け替えるらしい取っ手や金具。籠手やそれ以外のプロテクターもあるな。
女性用装飾品はブローチ、バレッタ、ペンダントやかんざし、ピアスにイヤリング、ブレスレット……結構、種類があるんだな。ただし基本大人用だ。俺はロリっ子ボディだから、あんまり合いそうなのがない。
「お」
その中で見つけたのは、針金細工みたいな感じで厚みのあるペンダントトップだった。逆三角形で、なんとなく角生えた牛の正面顔にも見える。俺の手のひらくらいだから、首から下げるにはちょい大きめなのかね。
あれだ、心臓狙われて撃たれたり刺されたりしてもこいつが食い止めてギリギリセーフ、ができそうなやつ。いや、俺死んだらアルニムア・マーダが全盛期仕様で復活するんだっけ。……でも死にたくはないなあ、うん。
「コータちゃま、いいのあったですか?」
ミンミカが覗き込んできた。真上から来るとさすがにびっくりするぞ、おい。
まあいいか、と思いながらペンダントトップを見せてみた。
「これ、何か良いなと思って」
「かっこいいですー。コータちゃま、にあうですよ」
「ありがと」
こいつの場合、何見せても似合うですよ、と言いそうなんだけどな。頭から否定されるよりはよっぽどマシだけどさ。
というか、似合うと言われて素直に嬉しく思えるのはいいな。こっちに来てから、周囲が俺の信者ばっかりになったこともあるけれどあまり悪く言われることはないから。
……ガチのマール教上層部と本気で対決することになったときが、ものすごく怖いな。あちらにとってみれば、俺はまごうことなき邪神なんだから。
そういうことを考えるのは、そういうときになってからにしよう。そう思い直して、ミンミカに尋ねてみる。
「ミンミカお姉ちゃんは何かあった?」
「ミンミカようのみみかざり、みつけたです」
「あるんだ?」
ミンミカの方も、良さげなものを見つけたらしい。それにしても、ミンミカ用の耳飾りって何だ。
ウサギ用の耳飾り……は、あってもおかしくないよな。ウサギ獣人がいる世界なんだから、当然。
「うさぎだけじゃなく、いぬじゅうじんさんとかでもたれみみはいるです」
「あ、垂れ耳用?」
「はいです」
そう言って彼女が見せてくれたのは、耳の外側に付けるイヤカバーみたいな感じの飾りだった。なるほど、垂れ耳だとそういう飾り方ができるわけか。髪飾りにも近いけど、耳たぶにつけるわけだからもうちょっと重くても落ちない、ぽい。
ふむ、これはこれでいいか。で、あと一人こっちに来てるのは、と。
「カーライルお兄ちゃんは……」
「こちらの方がお肌の色には合っているが、しかし重いし……」
何悩んでるんだお前は。しっかり女性用装飾品ガン見中だけど。
「たぶん、コータちゃまにプレゼントですよ」
「自分の買えよ……」
ミンミカが耳打ちしてくれたので、そういうことかと納得する。あいつ、最初っから俺の忠実な信者だもんなあ。
カーライルの信じてる神と俺じゃだいぶ違うだろうに、それでもついてきてくれてさ。
……問題なのは、何も知らない傍から見るとただのロリコン野郎に見える点だな!




