090.それなら弟子が案内しよう
ガイザスさんは俺やミンミカを見て、「ふむ」と目を細めた。まるで孫を眺めるお祖父さんみたいな……いや、いくらなんでもそこまで行ってる年齢じゃなさそうだけど。
「ちっこいお嬢ちゃんは、さすがに退屈じゃろ。うちの嫁が装飾品作っておってな、そっちの工房見に行ったらええ」
「わっかりましたー」
「ありがとうございます。そちら行ってみます」
すっかり保護者モードになったカーライルが、頭を下げる。確かに、ミンミカはすぐに退屈しそうだし俺も……そうだよな、外見考えると剣作るとことか興味なさそう、と考えるのが自然だ。うん。
「いやいや。ドートン、案内しちゃれ」
「うぃーす」
おや。獣人は今の自分もそうだから慣れたけど、顔がしっかり猫の獣人は初めて見た気がする。それも、どうやらガイザスさんの知り合い……というかこりゃお弟子さんとかだな。へえ。
「ついでに預かるもんとかありますか?」
「鞘飾りを頼んどるんじゃ。あと、さっきの輩のような阿呆が来ていないかチェックも頼むぞ」
「りょー。つーわけで、案内しまっさ」
ドートンだっけ、えらく軽いなこのトラ猫兄ちゃん。ぱったんぱったんと長い尻尾を揺らしながら、こちらに挨拶してくれた。まあ、悪い人じゃなさそうだ。悪い人ならミンミカがまず反応しそうだし。
「おねがいしまーす」
「コータちゃんをよろしく頼む」
「おまかせっす。姐さん、師匠の剣は少々値が張りますが、いいやつですよう」
俺が答えると、シーラが努めて冷静に声をかけた。あっさり答えてる上にしっかり営業、大変だなあ。師匠ってことはやっぱり弟子か。
で、俺たちを連れて歩きながらドートンさんは、何というか楽しそうに独り言である。何でだよ。
「あっちからもこっちからも頼まれて、頼りがいあるなあオレー」
「自分で言うんですか?」
「自分で言って、自分の自信にするんす。オレはまだぺーぺーの弟子で、剣どころか原料もほとんど触らせてもらえてませんから」
何でだよ、と思ったので尋ねてみたら、そんな答えが返ってくる。そうか、下っ端さんなのか。それでお使いとか、俺たちの案内とかやらされてるわけだ。もっとも、本人楽しそうだからまだいいけどな。
「なるほど……大変なんですな」
「ま、一人前になるまでずいぶんかかるのは覚悟の上っすしね。オレも、わかってて師匠の弟子になりましたんで」
カーライルとは話が合うのか、さっきの独り言より楽しそうに話をする。年齢近いのかな? 猫獣人の年齢なんて分からんけどさ。
「いちにんまえ、じかんかかるですか?」
「大人になる一人前と、剣を作れるようになる一人前とは違うからなあ」
「はあ~」
ミンミカは、そこら辺をごっちゃにしてたようだ。ま、職人やってたわけでもないようだし、近くに地人族はいたはずだけどそういうのは分からないかもな。鉱石掘りに来てたんなら、ある程度ちゃんと仕事ができないと危ないだろうし。
そんな会話をしてるうちに、どうやら到着したようである。普通の家ではあるけれど、入り口は広く開かれている。そりゃ、装飾品売ってる工房というかお店、になるわけだしな。
ブローチや髪飾りなどのアクセサリー、ドアノブや蝶番なんてものが並んでいる棚の間を入って、ドートンさんが声をかけた。
「おかみさーん」
「はい、いらっしゃーい。おや、ドートンちゃん」
ガイザスさんの奥さんだろうね、地人族の女性が出てきた。こちらは青っぽいグレーのロングヘアを首元でまとめてて、いかにも肝っ玉母ちゃんタイプである。
ベタなキャラだけど、こういったタイプの方が生活しやすいとかかな。山奥だから、食料とか大変だろうし。
「あのう、人前でちゃん付けは勘弁してくれませんかね。前から言ってるんすけど」
「旦那の弟子になったんだから、うちの子も同然だろ。うちの子にちゃん付けして何が悪い」
ドートンさんが困ったように頼んでるけど、奥さんはピシャリと返してのけた。ドートンさんの長いしっぽがゆらん、ゆらんと揺れてるのは……多分、困ってるけど悪い気はしない、って感じかな。うちの子同然、って言ってもらってるんだし。




