008.村に降りたらおかわりよ
「ごちそうさまでしたっ」
「はい……お役に立てたこと、うれしゅうございます」
ファルンとよく似た服を着た彼女は、俺の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。
ここはナーリアの村、そこにあるマール教の教会だ。と言っても外見上は普通の木造の小屋で、玄関先にマール教のシンボルだっていうくさびのような紋章が飾られているくらいだけど。なお、その紋章がないと他の家とそんなに変わらない。
ファルンの案内で、俺たちはここまでやってきた。あ、俺は靴がないんでカーライルに抱っこされてだけど。ほんとはシーラのほうが良かったんだけど、彼女は剣士だから何かあったときのために手を空けておかないといけなかったんで。ちっ。
「やっぱり、相手によって味違うのな」
「そうなのですか?」
「うん」
そこにたどり着いたとき、ファルンの同僚である僧侶ブランナがちょうど出迎えてくれた。
ちなみに、禁足地に入り込んだ邪神の信者はシーラがずんばらりんしたことになっている。俺とカーライルは、生贄としてさらわれてきたかわいそうな民という設定だった。大雑把だけど、まあこんなもんでいいだろ。
でまあ、隙を見ていただきます、とやったわけだ。小さい女の子だと、ほんと警戒心薄れるよなあ。
ちなみにブランナの精気はちょっとねっとりとした感触で、あっさりした甘さだった。白あんみたいな感じ。お茶ほしいかも。
「まあいいや。ブランナ、普段はいつものように生活を続けてくれ。ただし、くれぐれも俺たちのことを口外しないように」
「はい。全ては、コータ様の仰せのとおりにいたしますわ」
ひとまず、俺の存在がバレないように指示を出す。それにブランナは、穏やかに答えてくれた。
あ、僧侶なのに何かエロい。いや、僧侶だからエロいのか? そこらはよく分からんがまあ、エロい僧侶という結論でいいか。
「それと、俺たちの衣服や旅用の荷物を準備したい。資金が必要となりそうなんだけど」
「お召し物はこちらにあるものをご用意いたしますので、ご安心くださいまし。資金も用立ていたしますわ」
「うん、ありがとう。怪しまれないように、最低限でいいよ」
よしよし。
しかし俺、邪神生活馴染んでるなあ。まあ、もとに戻ったっていうカーライルの話が本当なら、そら故郷に帰ったわけだから当然なんだろうけれど。
上から命令とかされない立場ってのも、あるかもしれないな。寝たいときに寝れるし腹減ったら飯食えるし。シーラやファルンから。
「マール教の衣服ですか?」
あ、カーライルが複雑な顔してる。敵対宗派の服着たくない、ってのは分からんでもないけどさ。
「その方が、世では歩きやすうございますわね。ですが、普通の民がまとうお召し物もございますからご安心を」
「殿方用もありますから、カーライル殿もご心配なくー」
「ああ、それはよかった」
私服もあるんだな。こういうところって、僧侶は僧侶スタイル着たきり雀だとか思ってたけど。
というか、俺みたいなひとが転がり込んできたときとかのために置いてあるのかね。
カーライルの上着がなきゃ、俺ここまですっぱだかだったのかなあ……あ。
「カーライルにも、いいものを着せてやってくれ、俺にとっては恩人なんだしさ」
「お、恩人!? 私が、コータ様の!?」
シーラ、ファルン、同時にむっとするなよな。そもそもお前ら、俺というかカーライル殺りに来てたんだろうが。
それに対してカーライルは俺を呼びに来たわけで、あと昔のこととか教えてくれたし。
「いやだって、お前さんのおかげで俺、いろんなこと知ることできたしな」
「な、なんというありがたいお言葉をっ」
「承知いたしました。くれぐれもマール教に怪しまれぬ、よい衣を見繕いましょう」
深々と頭を下げるカーライルの横で、ブランナがやっぱりちょいエロめの笑顔で答えてくれた。
「ははは……」
よし、あとでもう一回吸ったろ。
さっきは不意打ちで吸って吐いて、だったからせっかくの柔らかい感触を堪能できなかったしな!
……過去の俺、これを男相手にやってたのかよ。まだイマイチ理解できないなあ、うん。




